Todos los capítulos de 「君は俺の花だ」妹に婚約者を奪われた私を、冷徹華道家が溺愛して離してくれません: Capítulo 61 - Capítulo 70

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第61話 心の花

翌週、澪はスケッチブックを抱えてアトリエを訪れた。 ページを開けば、一番最初に書かれている言葉は変わらない。――安心。 何度見ても、その文字が目に飛び込んでくる。「テーマは、これでいきます」 綾人へ向き直ると、少しだけ緊張した声でそう言った。「ああ」 綾人は静かに頷く。「じゃあ次だ」「次……ですか?」「その『安心』を花でどう表現するのか」 澪は固まった。「……」 テーマが決まれば、生けられると思っていた。 けれど違った。 安心って、どんな花なのだろう。 どんな形なら伝わるのだろう。「難しい……」 思わず本音が漏れる。「当たり前だ」 綾人はあっさりと言った。「簡単にできるなら、今頃、世界中華道家だらけだ」     ◇ 作業台には様々な花が並んでいた。 白百合。 トルコキキョウ。 カスミソウ。 デルフィニウム。 枝葉。 澪は一本ずつ手に取っていく。「安心……」 呟いてみる。 でも分からない。 白だから、自分は安心したのだろうか。 丸い花だから安心なのか。 優しい色だから安心なのか。 どれも違う気がした。 気付けば、何本もの花を手にしたまま立ち尽くしていた。     ◇「迷ってるな」 綾人が静かに近付いてくる。「はい……」 澪は苦笑した。「花言葉を調べたら答えがあるのかなって思ったんですけど……」「ない」 綾人はぱすんと澪の言葉を切り捨てる。 澪は「ですよね」と肩を落とした。「花言葉は参考にはなる」 綾人は一輪の桔梗を手に取り、見つめた。「でも、お前が表現したい安心は、辞書には載ってない。俺にも、他の誰にも分からない。分かるのは、澪、お前だけだ」 その言葉に、澪は静かに息を呑んだ。「お前が安心した瞬間を思い出せ」「安心した瞬間……」「そこに答えがある」     ◇ 澪はゆっくり目を閉じた。 最初に浮かんだのは、花屋。 店長や後輩たちの笑顔。 違う。 次に浮かぶのは、学生時代のこと。 それも違う。 そして、ふと、一つの景色が浮かんだ。 雨の夜。 冷え切った身体。 震える手。『君は俺の花だ』 低くて静かな声。 そう言って、私を抱きしめてくれた体温。不思議なくらい安心した。「……」 澪はゆっくりと目を開けた。「なにか分かったか」 綾人
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第62話 より近くへ

 アトリエへ差し込む朝の光が、作業台に並ぶ花々を優しく照らしていた。 澪は深く息を吸い込み、ゆっくりと花へ手を伸ばす。 テーマは決まっている。――安心。 それだけを胸に、一輪目を手に取った。     ◇ 前回からより鮮明にテーマに近付けていく。 白い小花を中央へ。 その隣へ柔らかな緑を添える。 花を増やし過ぎない。 詰め込み過ぎない。 花が呼吸できるように。 綾人から教わった言葉を、一つひとつ思い出しながら花を生けていく。 途中、何度も手が止まった。「……ううん」 一本抜く。 また一本加える。 少しだけ高さを変える。 角度を変える。 昨日までなら、そのまま完成にしていた。 けれど今日は違う。 何度も離れて作品を見る。 近付く。 また離れる。 その繰り返しだった。     ◇「迷ってるな」 少し離れた場所で書類を見ていた綾人が静かに口を開く。 澪は苦笑しながら振り向いた。「伝えたいものは決まっているのに……」 作品へ目を向ける。「ちゃんと伝わる形になっているのか、自信がなくて」 綾人は作品の前まで歩いてくる。しかし、花には触れなかった。「澪」「はい」「この作品を見て、お前はどう感じる」 澪は改めて自分の作品を見つめる。 静か。 優しい。 柔らかい。 でも――。「少し……遠い気がします」「遠い?」「はい」 言葉を探す。「綺麗なんですけど……」 一輪一輪は美しい。 でも、自分が感じた、肌と心を温めてくれるような『安心』とは少し違う。「なんだか、近寄りたくなる感じがありません」 綾人は静かに頷いた。 ただ、それだけ。 けれど、その頷きだけで、自分の違和感は間違っていなかったのだと分かった。     ◇ 澪は作品へ近付き、一輪の花を抜いた。 代わりに、小さな白い花を一本だけ前へ出す。 ほんの少し。 本当に少しだけ。 それだけだった。「あ……」 空気が変わる。 さっきまで少し遠く感じていた作品が、不思議と優しく笑い掛けてくるように見えた。「これ……」 澪は目を丸くする。「近くなった気がします」「そうだな」 綾人が初めて作品へ近付く。ゆっくりと全体を眺めてから、小さく頷いた。「人は、安心できる場所へ自然と近付く」 その言葉に、澪は静かに息を呑んだ
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第63話 空間

 数日後、アトリエの一角に、澪が完成させた作品が静かに置かれていた。 華道展へ提出する作品を想定した試作。 今日はいよいよ、その最終確認の日だった。 澪は少し離れた場所から作品を見つめる。 胸の奥が少しだけ高鳴る。 前回よりも、ちゃんと「安心」が表現できた。 そんな手応えがあった。「綾人さん」「なんだ」「どうでしょうか」 綾人は静かに作品へ歩み寄る。 正面から見る。 少し横へ移動する。 さらに数歩離れる。 作品には触れない。 ただ黙って眺め続けていた。 長い沈黙。 やがて綾人は、小さく口を開く。「悪くない」 澪の表情が少しだけ緩む。 けれど次の一言で、その笑顔は止まった。「ここじゃなければな」「え?」 澪は目を瞬かせる。「どういうことですか?」 綾人は作品から視線を離さない。「相良」「はい」 相良はすぐに作品の台車を静かに押し始めた。「えっ?」 澪は慌てて後を追う。 作品はアトリエの入口近くまで運ばれた。 大きな窓から光が差し込む場所。 人が出入りする場所。 空気の流れも少し違う。「……」 澪は作品を見て、小さく息を呑んだ。「これは……」 さっきまでとは、まるで別の作品だった。 白い花が光に埋もれている。 奥行きも感じにくい。 安心どころか、少しぼんやりして見えた。「そんな……」 さっきまで綺麗だったのに。 何も変えていない。 変わったのは場所だけ。 それなのに、作品の印象はまるで違う。「作品は、花だけじゃ完成しない」 綾人が静かに言う。「光」 一拍置く。「空間」 さらに続ける。「見る人の立つ位置」 澪は作品を見つめたまま動けなかった。「全部含めて作品だ」 その言葉が胸へ落ちる。 ホテル装花で、少しだけ学んだこと。 でも今、その意味を初めて本当に理解した気がした。「じゃあ……」 澪はゆっくり作品へ近付く。 光の向きを見る。 入口から歩いて来る人の目線を想像する。 一歩離れる。 二歩、横に動く。「……ここかな」 白百合をほんの少しだけ傾ける。 枝葉を少しだけ後ろへ。 小さな白い花を右へ寄せる。 それだけだった。「あっ……」 作品が光を受け始める。 さっきまで埋もれていた白が浮かび上がる。 見る人を自然と奥へ誘うような流れが
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第64話 秘密のテーマ

 アトリエには、穏やかな真昼の光が差し込んでいた。 華道展まで、あと二週間。 澪は今日も自分の作品と向き合っていた。 テーマは『安心』。 花を一本抜いて、少しだけ角度を変える。 離れて見る。 また近付く。 少し前までなら分からなかった違和感が、今は少しずつ見えるようになってきていた。「……よし」 小さく頷いた、その時だった。「澪さま」 相良がアトリエへ入ってくるなり、澪を呼んだ。「こちらへ少し」「はい。すぐに行きます」 澪が近付くと、相良は数枚の資料をテーブルへ広げた。「華道展の配置図です」「わぁ……」 展示会場の見取り図。 初心者部門。 一般部門。 特別展示。 作品番号まで細かく書かれている。 澪は興味深そうに眺めていた。 その時だった。「あれ……?」 一つの名前が目に止まる。『神宮寺綾人』「綾人さんも……出展されるんですか?」 澪が驚いて顔を上げる。 綾人は書類から目を離さず、小さく頷いた。「ああ」「知りませんでした」「聞かれなかったからな」「そういう問題じゃない気がします……」 思わず苦笑すると、相良もくすりと笑った。「綾人さまは毎年出展されていますよ」「毎年……」 改めて思う。 この人は、やっぱり自分とは住む世界が違う。 ホテル装花も。 華道展も。 名前を見れば誰もが知っている華道家。 その人と並んで作品を出す。 急に現実味を帯びてきて、澪は少しだけ緊張した。「綾人さん」「なんだ」「今回のテーマって……何なんですか?」 何気なく聞いただけだった。 綾人なら、きっと壮大なテーマなのだろう。 そんな軽い気持ちだった。 綾人は少しだけ動きを止めた。 珍しい沈黙。「……秘密だ」「えっ?」 澪は思わず目を丸くする。「秘密……ですか?」「ああ」「教えてくれないんですか?」「当日までな」 淡々とした返事。けれど、どこかいつもより柔らかい。「気になります」「そうか」「そうか、じゃなくて……」 少しだけ頬を膨らませる澪を見て、綾人はほんのわずかに口元を緩めた。「お前は自分の作品だけ考えてろ」「な……っ」 澪は納得できないまま、作品へ視線を戻す。 その様子を見ながら、相良は静かに笑っていた。     ◇ 遅めの昼休憩。 澪がスタッフたちと
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第65話 見る人の心

 華道展まで、あと一週間。 澪は朝から、完成に近付いた作品を前に静かに立っていた。 テーマは『安心』。 何度も手を加え、何度もやり直した作品。 今の自分が表現できるものは、全部詰め込んだつもりだった。「できました」 小さく息を吐いて振り返る。 綾人は作品を一瞥すると、静かに頷いた。「ああ」 その返事に、澪の肩から少しだけ力が抜ける。「じゃあ、始めるか」「……え?」 澪は、動きを止めて首を傾げた。「始めるって……何をですか?」 綾人は相良へ視線を向ける。「頼む」「承知しました」 相良はすぐに数人のスタッフへ声を掛け始めた。「皆さん、お集まりください」 アトリエにいたスタッフたちが作業の手を止め、ゆっくりと集まってくる。 ひとり、またひとり。 気付けば十人近くが作品の周囲へ集まっていた。「えっ……?」 澪は状況が分からず目を瞬かせる。「綾人さん……?」「今日は展示の練習だ」 短く答える。「展示の練習……」「作品は完成して終わりじゃない」 綾人は静かに作品の横へ立った。「人に見てもらって、初めて完成する」「皆さん」 相良が穏やかな声で説明する。「今日は華道展を想定した確認を行います。どうぞ、お客様になったつもりで会場へ入ってきてください。そして、第一印象を、そのまま教えてください」 スタッフたちは頷き、一度アトリエの外へ出ていく。 澪は思わず綾人を見る。「こんなことまで……するんですか?」「ああ」「実際の会場では、見る人は遠慮してくれない。好きも嫌いも、立ち止まるか、通り過ぎるかも、全部、お前の作品次第だ」 その言葉に澪は小さく息を呑んだ。「では、失礼します」 入口の扉が開く。 スタッフたちが自然な足取りで入ってくる。 誰も作品を見ない。 普通に歩く。 作品の前を通る。 一人が立ち止まる。「……あ」 ぽつりと声を漏らした。「優しい作品ですね」 続いて別のスタッフ。「私は白い花が最初に目へ入りました。安心っていうより……落ち着く感じかな」 また別のスタッフ。「私は、この緑が好きです。風が吹いてるみたい」 澪は必死にメモを取っていた。 どれも嬉しい感想ばかりだ。 でも、全部、澪が考えたテーマとは違う。 落ち着く。 優しい。 風。 感じ方が、人によって違う。
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第66話 華道展がはじまる

 華道展当日の朝。まだ空気の冷たい早朝、澪は少し早めに目を覚ました。 いつもより静かな神宮寺家。 胸の奥だけが、落ち着かない。 今日は、自分が初めて作品を出展する日。 何度も練習した。 何度もやり直した。 それでも、不安は消えなかった。「……大丈夫」 自分へ言い聞かせるように小さく呟き、澪は胸元のお守りへそっと触れた。     ◇「おはようございます、澪さま!」 ダイニングへ入ると、ひまわりが勢いよく駆け寄って来た。「今日は華道展ですね!」「お、おはようございます」 澪はその迫力に圧されながら席へ着く。「緊張していらっしゃいますか?」 佐伯が温かなスープを置きながら穏やかに微笑んだ。「……少しだけ」 佐伯の温かくて柔らかい手が、澪の肩を撫でた。「緊張するのは、それだけ真剣だからですよ」 その優しい言葉に、澪は少し肩の力が抜けた。     ◇ 食事を終え、しばらくすると綾人が静かに立ち上がり、澪を見た。「行くぞ、澪」「は、はい」 澪も慌てて立ち上がる。 その返事に、綾人はほんの少しだけ目を細めた。「そんなに力まなくていい」「で、でも……」「作品は昨日で完成してる」 一拍置く。「今日は、お前が信じてやれ」 その言葉に、澪は静かに息を呑んだ。 そうだ。 ここまで積み重ねてきた。 今さら自分が疑ったら、花がかわいそうだ。「……はい」 今度は、少しだけ自然に笑えたような気がした。     ◇ 会場に到着すると、大きな展示ホールにはすでに多くの華道家
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第67話 ここに来たら会える

 午前十時。 華道展の開場時間を迎えると、静かだった展示ホールへ少しずつ来場者が足を運び始めた。 夫婦で訪れる人。 友人同士で作品を見比べる人。 華道家らしき人が真剣な表情で作品を眺める姿もある。 それぞれが自由な足取りで会場を巡り、思い思いの作品の前で立ち止まっていた。「……」 澪は少し離れた場所から、自分の作品を静かに見つめていた。 初心者部門。 作品番号の横には、自分の名前。『白石 澪』 それを見るだけで、胸が少しだけ熱くなる。 自分の作品を見てもらう日が、本当に来た。 そう実感するたび、緊張と嬉しさが入り混じった不思議な気持ちになる。 すると、一人の女性が作品の前で立ち止まった。「……素敵」 ぽつりと零れた声。 女性は少し身を乗り出すように作品を眺め、穏やかに微笑んだ。「なんだか、落ち着くわね」 隣にいた男性も小さく頷く。「うん。派手じゃないけど……ずっと見ていたくなる」 その言葉に、澪は思わず胸の前で手を握った。 伝わっている。 全部じゃなくてもいい。 誰かの心へ届いている。 それだけで十分だった。 その様子を綾人は、壁際から静かに見守っていた。「綾人さま」 隣へ立った相良が、小さく微笑む。「澪さまの作品をご覧になって、足を止める方が多いですね」「ああ」 綾人は短く頷いた。 視線は一度も澪から離れない。 来場者が作品の前で立ち止まるたび、澪の表情が少しずつ柔らかくなっていく。 その変化を、綾人は静かに見つめていた。     ◇ その頃、展示会の受付に並ぶ列の中――。「ねぇ、拓真さん」
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第68話 忍び寄る

 華道展の会場は、時間が経つにつれどんどんと賑わいを増していく。 初心者部門にも、次々と人が足を止めていた。「こちらの作品、優しいですね」「なんだか見ていると安心するわ」「作者は……白石さん?」 そんな声が聞こえるたび、少し離れた場所に立つ澪は照れくさそうに俯いた。 自分の作品について話してくれている。 それだけで胸がいっぱいになる。 嬉しい。 けれど同時に、まだ少しだけ信じられない気持ちもあった。「澪」 後ろから静かな声がして振り返ると、綾人がいた。「はい」「もう離れていい」「え?」「他の作品も見てこい」 澪は少し驚いた。「でも、私の作品……」「もう十分見てもらっている」 綾人は作品へ一度だけ視線を向ける。「作者がずっと立っていると、落ち着いて見られない人もいる」「あ……たしかに、そうですよね」 その言葉に澪は思わず納得した。確かに、自分が見ている前では感想を言いにくい人もいるだろう。「他の作品も見て、勉強するといい」「はい」 澪は小さく笑って頷いた。そして、二人はゆっくりと会場を歩き始める。     ◇「すごい……」 一般部門へ足を踏み入れた瞬間、澪は思わず息を呑んだ。 一つひとつの作品から伝わってくる熱量が違う。 大胆な構成。 繊細な空間。 静かな作品もあれば、見る者を圧倒する作品もある。「同じ花なのに、本当に全然違う」 こんなにも表現が違う。澪は夢中になって作品を見つめていた。 自分が華道に触れるようになって、より一層その違いをはっきりと感じるようになった。「綾人さん」
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第69話 返してあげる

 綾人が関係者に挨拶に行くと言うから、澪は途中で綾人と別れた。すれ違う来場者へ軽く頭を下げながら、初心者部門のスペースへと戻ろうとしていた、その時だった。 「お姉ちゃん」  聞き覚えのある声が、背後から聞こえた。 澪の足が止まる。どくりと心臓が大きく鳴った。そういう風に自分を呼ぶ人は、この世にひとりしかいない。 澪はゆっくりと振り返る。 「……美羽」  喉に引っかかるように、澪は美羽の名前を零した。 振り返った先に立っていたのは、今日も可愛らしい笑顔を浮かべる妹の美羽だった。 そして、その隣には――。 「拓真……」  懐かしい顔。 拓真に会うのは、何か月ぶりだろう。 澪は一瞬だけ息を止めた。拓真も澪を見つめたまま動けないようだった。 以前より少し、拓真は痩せたようにも見える。 澪はそっと、拓真から視線を逸らした。 「久しぶり、お姉ちゃん!」  そんな空気など気にも留めず、美羽が嬉しそうに笑う。 「元気そうでよかったぁ」「……どうしてここに?」  澪が戸惑いながら尋ねると、美羽は当然のように答えた。 「お姉ちゃんの作品を見に来たの!」「……私の?」「うん!」  美羽は澪の作品へ歩み寄る。どうしてこの展示会に出展することを、美羽は知っていたのだろうか。彼女は、花に興味なんてあっただろうか。 動揺する手は、微かに震える。澪はそれを隠すように胸元のお守りを握り込んだ。
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第70話 絶対、ダメ

「綾人さんに、ちゃんと私のこと紹介してくれるよね? お姉ちゃん」 美羽は無邪気に笑った。「だって綾人さん、いっつも素っ気ないしぃ。美羽に冷たいの寂しい~」 澪は返事ができなかった。 紹介。 その言葉の意味が分からないわけじゃない。 けれど、どう返せばいいのか分からない。「美羽……」 ようやく声を絞り出そうとした、その時だった。「澪」 静かな声が、澪の背中にぶつかった。「あ、綾人さん……」 振り返れば、関係者への挨拶を終えた綾人が、こちらへ歩いて来るところだった。 そんな綾人の姿を見た瞬間、「あっ!」 美羽の表情が露骨に明るくなる。「綾人さん!」 嬉しそうに小走りで駆け寄っていく。「こんにちは! 美羽です、覚えてますか?」 そう言いながら、親しげに綾人の腕へ美羽は手を伸ばした。「この前はちゃんとお話できなかったから――」「……っ!」 それを見た瞬間、澪の身体が勝手に動いた。 頭で考えるより先だった。 美羽と綾人の間へ、一歩踏み出す。 美羽の手が綾人へ届く前に、その間へ自分の身体が入っていた。 澪の背中に綾人の体が微かに触れて、ハッと正気に戻る。 一番驚いているのは、澪自身だった。(私……、どうして……) 自分でも理由が分からない。 どうして身体が動いたのか。 どうして二人の間へ入ってしまったのか。「……お姉ちゃん?」 美羽が不思議そうに首を傾げる。 澪は、ただ綾人を隠すように美羽の前に立ったまま、小さく息を吸った。「綾人さんだけは……」 声が震える。言葉が勝手に口から零れ落ちるようだ。 それでも、止められなかった。「綾人さんだけは、絶対、だめ」 その
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