一夜明けて、澪は少しだけ緊張しながら朝食の席についていた。 昨日、この屋敷に帰って来てからのことを何度も思い出していた。――明日から少し手伝わせる。 綾人はそう言った。 けれど……実際には何をするのだろう。 華道の知識なんてない。花屋で働いているとはいえ、あくまで販売側だ。 華道の心得も華道家の仕事も想像すらつかなかった。「澪さま」 朝食を食べ終わったお皿が下げられ、佐伯が食後の紅茶を置きながら微笑む。「そんなに緊張なさらなくても大丈夫ですよ」「……顔に出ていましたか?」 澪は小さく溜息を吐きながら自分の頬に手を当てた。「ええ、とても」 佐伯は優しく、少しだけ笑って頷いた。澪は少しだけ恥ずかしくなる。「……綾人さまも、最初から難しいことを任せたりはなさいませんよ」 俯いた澪の肩をほぐすように佐伯がそっと撫でてくれる。 ◇ 朝食後、澪は綾人に連れられて、ある建物の前にいた。「ここが……」 思わず足を止める。想像していたよりずっと大きい。 仕事場に連れていくと綾人が言っていたから、もっと伝統的な建物かと思っていた。 けれど実際は違う。洗練された現代的なオフィスと工房が一体になったような空間だった。スタッフたちが忙しそうに行き交っている。「神宮寺先生、おはようございます」「おはようございます」 綾人が一歩進むたびに、次々と挨拶が飛んでくる。 綾人はそれに短く「ああ」とか「おはよう」と返し、当たり前の顔をして歩いていく。澪はそんな綾人の後ろを、少しだけ身を縮こませてついていく。 先日の華道展よりも何よりも、ここに自分がいることが場違いに思えて仕方がなかった。 ◇「まずは……
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