「美羽ちゃん……帰ろう」「……っ」 拓真が美羽の手を会場の外へと引いていく。 美羽は何か言おうとしていたけれど、澪を軽く睨むと拓真についていった。 美羽と拓真が去ったあとも、展示会場には静かなざわめきが流れていた。 けれど澪だけは、その音が遠く聞こえていた。 胸の鼓動が、まだ落ち着かない。「……」 どうして私は、あんなことをしたんだろう。 考えても答えは出ない。 美羽が綾人へ近付いたその瞬間、身体が勝手に動いていた。嫌だと思った。美羽が、綾人さんに触れることが。でも、どうして……?「……綾人さん」 澪は少し申し訳なさそうに振り返った。「さっきは、ごめんなさい」 綾人は静かに澪を見る。「急に間に入ったりして……」 澪は困ったように俯いた。「自分でも、どうしてあんなことをしたのか分からなくて……ご迷惑お掛けしました」 そして小さく続ける。「妹に、ただ紹介してって言われただけなのに……」 しばらく沈黙が流れた。 やがて綾人は、小さく首を横へ振る。「謝る必要はない」「でも……」「俺は助かった」 澪は思わず顔を上げる。「それより、まだ教えていなかったな」 綾人は静かに視線を特別展示のほうへ向けた。「……え?」「俺の作品のテーマだ」 澪は小さく目を瞬かせた。 そういえば、何日も気になっていた。 それなのに、美羽たちのことで、すっかり頭から抜けてしまっていた。「来い」 綾人は短くそう言うと、歩き出した。 澪も慌ててその後を追う。 ◇ 特別展示スペース。 綾人の作品の前には、今日も多くの人が立ち止まっていた。「本当に綺麗ね」「静かな作品なのに、惹き込まれるわ」 そんな、感嘆の溜息が混ざる声が聞こえてくる。 澪も改めて作品を見上げた。 白い花。 柔らかな緑。 優しく包み込むような空間。 見るたびに胸が温かくなる。「綾人さん。この作品のテーマは……?」 澪は作品から目を離さないまま尋ねた。「ああ」 綾人も自分の作品を静かに見つめる。そして、少しだけ目を伏せてから、ゆっくりと口を開いた。「この作品のテーマは――……」 瞬間。喧騒が、ふっと鳴りやむ。「『澪』」 綾人が澪のことを真っ直ぐに見る。「わ、私……?」「ああ」 あまりにも迷いのない返事だった。 澪は言葉を失う
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