Semua Bab 「君は俺の花だ」妹に婚約者を奪われた私を、冷徹華道家が溺愛して離してくれません: Bab 141 - Bab 149

149 Bab

第141話 もうひとつの私の居場所

 数日後の朝。 澪は鏡の前で髪を後ろでひとつにくくり、身だしなみを整えていた。服にヨレや乱れがないかをチェックして、「よし」と一声発すると、芹香がそっとバッグを差し出した。「今日はアンジェリケの日ですね」 芹香が優しく微笑む。「はい」 澪も自然と笑顔になって頷いた。 最近はキアーロとの仕事や神宮寺家の仕事も増えたため、以前と同じような出勤ではなくなっていた。店長ともしっかりと話し合いをした結果、『無理のない範囲でいいから、いつでも戻っておいで』 そう言ってくれて、アンジェリケにも澪の居場所を残してくれている。 温かく紡がれたその言葉が、澪はとても嬉しかった。出勤できる日は少なくなってしまったけれど、それでもアンジェリケは澪にとっても大切な場所であることは変わりない。 だからこそ、出勤できる日は全力で頑張ろうと思っている。澪は、もう一度小さく気合を入れ直すと、芹香からバッグを受け取った。     ◇「行ってきます」 玄関で靴を履き、見送りをしてくれる使用人たちを振り返ると、仕事へ向かう仕度を終えた綾人も玄関先へと現れた。「今日はアンジェリケか」「はい。がんばってきます」 綾人は小さく頷いた。「帰りは迎えに行く」「えっ?」 澪が目を丸くする。「でも、綾人くんのお仕事は……」「終わる」 短くきっぱりと吐かれた言葉に、澪は思わず苦笑した。「終わる」ではなく、「絶対に何がなんでも終わらせる」という顔をしているから。「じゃあ……待ってますね……?」 ダメだと言っても来るのは分かっているし、そんな綾人に甘い自覚が澪にもあった。「ああ」 綾人は澪の頭をぽんと軽く撫でると、相良と共に玄関を出て行った。「澪さまも。いってらっしゃいませ」 佐伯の言葉とともに、使用人たちの頭が一斉に下がる。澪は少しだけ背筋を伸ばすと、「はい。いってきます」 一度、深く息を吸い込んでから、にっこりと笑い屋敷を後にした。     ◇「おはようございます!」 アンジェリケの扉を開けると、店いっぱいに広がる花の香り。 そして、いつもの優しい空気。 胸がときめくと同時に、帰って来たと肩の力が抜ける。「澪ちゃん!」 店長が満面の笑みで迎えてくれた。「おかえり!」「ただいま戻りました」「発表会見たよ!」 同僚のスタッフの一人も駆け寄って
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第142話 綾人くんのお迎え

 夕暮れの陽射しが、アンジェリケの店内を窓ガラス越しに優しく照らしていた。 店内には花の香りが漂い、閉店時間が近づくにつれ、お客様の姿も少しずつ少なくなっていく。「ありがとうございました」 澪は最後のお客様を見送り、店の入口に「CLOSE」の札を掛けた。「ふぅ……」 エプロンの紐をほどき、小さく息をつく。「今日もあっという間だったなぁ」 花日和をきっかけに来店してくれるお客様は今日も多かった。 花を一本だけ抱えて嬉しそうに帰っていく姿を見るたび、心が温かくなる。「澪ちゃん、そろそろじゃない?」 店長が時計をちらりと見て笑った。「え?」 澪が首を傾げた、そのときだった。 店の外に、一台のボルドーカラーの車がゆっくりと停まる。 澪が綾人の車だと気付くのと同時に、窓際で花を片付けていたスタッフが外を見て、小さく笑った。「あ、神宮寺先生だ」「今日もぴったりですね」「本当に時間が正確」 誰も驚かない。いつの間にか綾人の車のことをみんなが覚えている。むしろ、どこか微笑ましそうだった。 澪はちょっとだけからかうようなスタッフたちの声に頬を染めた。「澪ちゃん、お迎えだよ」 店長がくすりと笑う。「今日は残業禁止ね」「え、でも、まだ……」 少しだけやり残している業務があり、澪は戸惑う。「彼を待たせたらかわいそうでしょう?」 周りのスタッフも一斉に頷いた。「そうですよ」「今日の片付けは、私たちがやります!」「ゆっくり神宮寺先生と帰ってください」「み、みんな……」バックヤードのほうへ背中を押されて、澪は困ったように笑った。「ありがとうございます」 バックヤードでエプロンを外し、自分のロッカーからバッグを取り出して肩に掛ける。 そして表に戻ると、店長と他のスタッフたちに深く頭を下げた。「お疲れさまでした」「はい、お疲れさま。気をつけて帰ってね」 優しい声に見送られながら、澪は店をあとにした。     ◇ 自動ドアを抜けると、秋の夕風が頬を撫でた。 車のそばには綾人が立っている。 澪の姿を見つけると、静かに歩み寄ってきた。「お疲れ様」「はい。綾人くんも、お疲れさまです」 澪は柔らかく微笑む。 綾人は自然な動作で澪の肩からバッグを受け取った。「ありがとう」「気にするな」 それだけの短いやり取り。けれ
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第143話 綾人の家族って?

 朝食を終えた澪は、窓辺に飾られた花へ新しい水を注ぎながら、小さく微笑んだ。 穏やかな朝に、ほっと心がほどけていく。「澪さま、ご報告がございます」 そのとき、相良が一通の封筒を手に、静かにリビングへと入ってきた。 澪は水差しを両手で抱えながら、ゆっくりと相良へ向き直る。「白石家の件でございます」 その言葉だけで、澪は内容を察した。少しだけ息を整え、小さく頷く。「はい、教えてください」 相良は静かに封筒を開き、落ち着いた声で続けた。「ホテルでの件につきましては、防犯カメラの映像も含め、事実関係が確認されました」 澪は静かに耳を傾ける。「神宮寺家の顧問弁護士を通じ、白石家には今後、澪さまへの直接の接触を一切お断りする旨を正式に通知しております」 相良は一度言葉を区切った。「また、今後は白石家から何らかの接触があった場合も、すべて弁護士を通して対応いたします」 もう澪が一人で向き合う必要はない。 そういう意味だった。 澪はしばらく黙っていたが、やがて小さく息を吐く。「……終わったんですね」「ああ」 同じ部屋でソファに座り、新聞を読んでいた綾人が、短く答えた。 弁護士については綾人が決めたことなのだろう。特に大きな驚きもない様子だった。 澪は窓の外へ目を向ける。すっかりと冬の色を濃くした空は、どこまでも高く澄んでいる。 胸の奥へ残っていた最後の重苦しさが、その青空へ溶けていくようだった。「行くぞ」 不意に綾人が立ち上がった。「え? どこに?」「花を替える」 綾人のその言葉に、首を傾げていた澪はすぐに表情を和らげた。「はい」 そう頷いて、綾人の後ろをついていく。     ◇ 離れにある華道室には、すでに今日使う花材が並べられていた。 椿に、
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第144話 両親

 玄関へ飾られた冬の花を眺めながら、綾人は静かに息を吐いた。 しばらく黙っていたが、やがて口を開く。「親父は、厳しい人だった」 澪は黙って耳を傾ける。「朝から晩まで稽古だった」 姿勢。 礼儀。 花。 書。 茶。 神宮寺の跡取りとして必要なことは、幼い頃からすべて叩き込まれた。「遊んだ記憶は、ほとんどない」 綾人は小さく笑う。その笑みには、どこか懐かしさが混じっていた。「昔、一度だけ屋敷を抜け出したことがある」「えっ?」 澪が思わず目を丸くする。「そんなこと、綾人くんが?」「ああ」 短く頷く。「公園へ行った」 ベンチに座って。 花の本を開いて。 でも、一文字も読めなかった。「……つまらなかったからな」 その一言で、澪は自分の記憶の引きだしを開け、幼い綾人の姿を思い浮かべた。 誰にも甘えられず。 誰にも弱音を吐けず。 小さな背中で、一人抱えていた男の子。 あのときの綾人は、そんな風に生きていたのかと、胸が締め付けられた。「お母さまは……?」「優しい人だ」 綾人は即答した。「だが、親父には逆らえなかった。だから母も、『お父さんの言う通りにしなさい』ってそう言うしかなかった」 綾人は静かに続ける。「今なら分かる。二人とも、神宮寺を守ることに必死だった」 跡取りを育てる責任。 伝統を守る責任。 その重さを背負っていた。「だから、恨んではいない」 澪は静かに綾人を見る。 責めるでもなく。 美化するでもなく。 ただ事実として受け止めている横顔だった。
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第145話 緊張するけれど……。

 澪は、真っ赤な顔のまま綾人を見つめていた。「そ、そのうち会うことになるって……」 ようやく絞り出した声は、澪自身も驚くほど小さかった。 綾人は完成した作品へもう一度だけ視線を向け、椿の向きをほんの少しだけ整える。「ああ」 あまりにも落ち着いた返事。まるで「今日は少し冷えますね」と言われてそれに返事をするかのような軽さだった。「そんなに驚くことか」「驚きます!」 澪は思わず声を上げた。「ご、ご両親ですよ!? 緊張します!」 綾人はようやく澪へ目を向ける。「そうか」「そうです!」 澪は何度もこくこくと頷いてみせる。「だって……あ、綾人くんは、ご両親にどうやって私のことをお話されたんですか?」 聞きたいことは山ほどあるけれど、まずはそれからだと澪は綾人に問いかける。 その言葉に、綾人は少しだけ考えるように軽く首を傾げて、顎に手をやった。「そのままだが」「そのまま?」「ああ」 綾人は頷く。「好きな人ができた、と」 その返事に澪の頬が一瞬で赤く染まる。「一緒に暮らしている、と」「……っ」「ああ、あと、花屋で働いている、とも言ったか」 ついに澪は両手で顔を覆った。「そ、それだけですか……?」「それだけ? 十分だろう」「十分、なんですかね?」 職業は良いとして、と澪は小さく息を吐く。まさか綾人が、自分の知らぬところで両親に「好きな人ができて、一緒に暮らしている」なんて話しているとは思わなかった。恥ずかしさで今にもその場へしゃがみ込みたくなる。綾人はそんな澪を見て、小さく口元を緩めた。「ご両親は……何と?」 恐る恐る澪が尋ねると、綾人
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第146話 帰国の報せ

 休日の昼下がり。 澪はソファへ座りながら、新しく届いた『花日和』の売上報告書へ目を通している。「……すごい」 思わず小さく声が漏れた。 販売数は先月を大きく上回っている。 アンジェリケにも「花日和」をきっかけに訪れるお客様は増え続けていた。 花が少しずつ誰かの日常へ溶け込んでいる。 その実感が嬉しかった。 そのとき、テーブルの上に置かれていた綾人のスマートフォンが静かに震えた。 綾人は画面を見ると、小さくその目を細めた。「……親父だ」 澪が顔を上げる。 綾人はそのまま電話に出た。「俺だ」 綾人は相槌を打つばかりで、相手が話す時間のほうが長い。薄っすらと声が漏れ聞こえてきてはいるけれど、どんな内容が話されているかは澪には聞き取れなかった。 綾人は最後に数回だけ頷き、「ああ、分かった」 と答えると電話を切った。 綾人はスマートフォンの画面をしばらく眺めたあと、「澪」 と、澪のほうを見た。澪は軽く首を傾げながら「はい」と返事をする。「親父たちが来週帰国するそうだ」 その言葉を聞いた瞬間、澪の思考が止まった。ぽかんとした顔で綾人を見てしまう。「……え? ら、来週……?」「ああ」 綾人は平然と頷く。「ら、来週ですか!?」 澪は思わず立ち上がった。「そ、そんな急に!?」 綾人の両親の話を聞いたのはほんの数日前だ。「急か?」「急ですよ! だって、綾人くん、半月後くらいになるだろうって」 綾人は顎に手をやりしばし考える。「たしかに、言ったな」「言ってました!」「仕事が思っていたよりもスムーズに進んだらしい」 澪はその場をうろうろと動き始めた。綾人はその姿を目で追っている。傍に控えていた佐伯たちも静かにその様子を見守っていた。「ど、どうしましょう…。ご挨拶ということですよね?」「そうだな」「服装は? どんな格好なら失礼がないでしょうか」「好きなものでいい」「好きなものでいいわけありません!」 綾人はソファに腰をかけると、静かにお茶を飲む。「じゃ、じゃあ、手土産は?」「何でも喜ぶだろう」「そうなんですか!?」 その様子を見ていたひまわりが、とうとう吹き出した。「澪さまが大変です!」 桜も思わず口元を押さえる。「す、すごく慌ててます……」 芹香は穏やかに微笑んだ。「では、お洋服は私が
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第147話 緊張

 綾人の両親が帰国する当日。 玄関には先日、綾人と澪が生けた冬の花。 磨き上げられた床には陽の光が柔らかく差し込み、屋敷全体が静かな緊張感に包まれている。「玄関の最終確認、終わりました」「客間も整っております」「お食事の準備も予定通りです」 佐伯を中心に、使用人たちが落ち着いた声で確認し合う。 誰も慌ててはいない。 けれど、それぞれがいつも以上に丁寧に仕事をしていた。     ◇ その一方で――。「……お、落ち着かないわ……」 リビングを行ったり来たりしている人物が一人。 時計を見ては、窓の外を見て、そしてまた時計を見る。「澪さま」 その様子を見ていた芹香が微笑み、優しく声をかける。「一度、お座りになりませんか?」「は、はい」 返事だけはちゃんとしたものの、ソファへ腰を下ろしても数秒後には立ち上がってしまう。「……あっ」 今度は澪の視線が窓辺の花へ目が留まる。「少し向きを直したほうが……」 花瓶へ手を伸ばそうとすると、「そのままで大丈夫ですよ」 今度は佐伯が穏やかに声を掛けた。「昨日、綾人さまと澪さまで仕上げられたものでございますから。完璧です」「そうですよね……」 澪は慌てて手を引っ込める。「でも、もしお義父さまとお義母さまが……」 言いかけて、自分で真っ赤になる。「お、お義父さまとお義母さまって……! 私ったら、まだ結婚もしていないのに……!」 自分で口にしてしまい、両手で顔を覆った。 テーブルまわりを綺麗にしていたひまわりが思わず吹き出す。「澪さま、かわいいです!」「ひ、ひまわりさん! からかわないでください……!」「からかってなんていません。もうその呼び方でいいじゃないですか!」「よくないです!」 澪はぶんぶんと首を振った。その姿に、桜も小さく肩を揺らして笑った。「き、緊張していらっしゃいますね」「だって当然でしょう?」 澪は困ったように笑う。「綾人くんのご両親ですよ? 失礼なことがあってはいけないから……」 澪は、「あっ!」と思いついたように手を叩いた。「何かお手伝いします! お茶の準備を……」「そちらはもうすでに整っておりますよ」 佐伯が微笑む「それなら、お掃除を!」「終わっております」 芹香が穏やかに頭を下げる。「じゃあ、お料理を!」「こちらも大丈夫で
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第148話 歓迎

 黒塗りの車が、ゆっくりと玄関前で停車した。 冬の澄んだ空気が静かに流れる。 運転手が後部座席へ回り、恭しくドアを開いた。 最初に姿を現したのは、一人の男性だった。 長身で背筋は真っすぐ。白髪が少し混じった髪は丁寧に整えられ、落ち着いた和装姿がよく似合っている。 年齢を重ねてもなお、堂々とした佇まいだった。 澪は思わず息を呑む。 そのあとに降りてきたのは、淡い藤色の着物を纏った女性だった。 柔らかな笑みを浮かべ、その所作一つひとつが上品で美しい。「親父。母さん」 綾人が静かに声を掛ける。 二人は穏やかに頷いた。「久しぶりだな、綾人」「元気そうで安心したわ」 そのやり取りを見て、澪も慌てて一歩前へ出る。「は、初めまして!」 そして深く頭を下げた。「白石澪と申します。本日は、お会いできる機会をいただき、ありがとうございます」 少しだけ声が震えた。 ゆっくりと顔を上げると――。 綾人の父親が、じっと澪を見つめていた。 鋭く、見定めるような視線に澪には見えた。 澪の胸がどくりと鳴る。 緊張で背筋が固くなった、そのときだった。「綾人、澪さん。ずいぶん待たせたな」 澪はその言葉の意味が分からず、思わず瞬きを繰り返した。 すると隣で綾人の母親が小さく肩を揺らして笑った。「あなた、その言い方じゃ澪さんが困ってしまうでしょう?」 そして、優しく澪へ向き直る。「ごめんなさいね。この人、あなたに会うのをずっと楽しみにしていたの」「……私に……?」 澪はぽかんと口を開けた。父親は照れ隠しをするように一つ咳払いをする。「綾人から、何度も話を聞いていたものでね」「親父」 綾人が静かに制止する。しかし父親は気にした様子もなく、話を続ける。「電話のたびに澪さんの話ばかりでな」 澪は思わず綾人を見る。綾人はほんの少しだけ気まずそうに視線を逸らした。「今日は澪が新しい花を生けただの、今日は澪が仕事で褒められただの、今日は澪が笑っただの」「親父」「今日は澪が花屋で――」「もういいだろう」 綾人が珍しく少しだけ困ったような表情を見せる。 その様子を見て、母親がくすくすと笑った。「本当に毎回なのよ? 『澪が』『澪が』って。私たち、まだお会いしてもいないのに、すっかり澪さんのことを知ってしまって」 澪は耳まで真っ赤になる
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第149話 家族団らん

 神宮寺家の客間には、午後の柔らかな陽射しが差し込んでいた。 磨き上げられた床には庭の木々の影が揺れ、湯気の立つ煎茶の香りが部屋いっぱいに広がっている。 澪は少しだけ背筋を伸ばしながら、綾人の隣へ静かに腰を下ろした。 向かいには綾人の父と母。 そして少し離れた場所には、佐伯たち使用人が控えている。「改めて……長旅、お疲れさまでした」 澪が頭を下げると、母親は嬉しそうに微笑んだ。「ありがとう。こうして帰って来られる場所があるっていいものね」 その言葉に、佐伯たちもどこか嬉しそうに表情を和らげる。「海外はいかがでしたか?」 澪が尋ねると、母親は楽しそうに目を細めた。「今回はフランスとイタリアを中心に回っていたのよ」「向こうでも展示会を?」「ああ」 父親が静かに頷き返す。「神宮寺流を紹介する催しだ。思っていた以上に反応は良かった」「海外でも華道って人気なんですね」「花は国が違っても、心を動かすものだからな」 澪は小さく頷いた。その考え方が、どこか綾人によく似ている。「あ、そうだ。綾人から聞いたわ」 母親が思い出したように両手を叩いて、澪を見る。「『花日和』という活動をしているのでしょう?」「は、はい。キアーロという会社にお誘いいただいて、花をもっと身近に感じてもらえたらと思って……」 澪は少し照れながら答える。「記事も読ませてもらったのよ」「えっ?」「一輪だけ飾るところから始める花との暮らし、とても素敵ね」 澪は驚いて目を丸くした。「海外へいても、綾人が色々送ってくるものだから、すっかり澪ちゃんの活動に詳しくなっちゃって」「母さん」 綾人が静かに止める。しかし母親は楽しそうに続けた。「新聞の記事に、雑誌に、テレビ……。今、こんな活動を頑張っているんだって、色々とね」 指を折りながら話す母親に、綾人は唇を閉じる。 その様子がおかしくて、澪は思わず吹き出してしまった。「そんなに報告していたんですか?」「ああ」 父親もその口元に小さな笑みを浮かべながら頷く。「一日に三回送られてきたこともある」「親父」 客間に小さな笑い声が広がる。綾人は静かにため息をついた。「二人とも話しすぎだ」「でも、事実でしょう?」 母親は悪びれずに笑い、少しだけ綾人のほうに身を乗り出した。「澪ちゃんの話をするあなた、本
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