数日後の朝。 澪は鏡の前で髪を後ろでひとつにくくり、身だしなみを整えていた。服にヨレや乱れがないかをチェックして、「よし」と一声発すると、芹香がそっとバッグを差し出した。「今日はアンジェリケの日ですね」 芹香が優しく微笑む。「はい」 澪も自然と笑顔になって頷いた。 最近はキアーロとの仕事や神宮寺家の仕事も増えたため、以前と同じような出勤ではなくなっていた。店長ともしっかりと話し合いをした結果、『無理のない範囲でいいから、いつでも戻っておいで』 そう言ってくれて、アンジェリケにも澪の居場所を残してくれている。 温かく紡がれたその言葉が、澪はとても嬉しかった。出勤できる日は少なくなってしまったけれど、それでもアンジェリケは澪にとっても大切な場所であることは変わりない。 だからこそ、出勤できる日は全力で頑張ろうと思っている。澪は、もう一度小さく気合を入れ直すと、芹香からバッグを受け取った。 ◇「行ってきます」 玄関で靴を履き、見送りをしてくれる使用人たちを振り返ると、仕事へ向かう仕度を終えた綾人も玄関先へと現れた。「今日はアンジェリケか」「はい。がんばってきます」 綾人は小さく頷いた。「帰りは迎えに行く」「えっ?」 澪が目を丸くする。「でも、綾人くんのお仕事は……」「終わる」 短くきっぱりと吐かれた言葉に、澪は思わず苦笑した。「終わる」ではなく、「絶対に何がなんでも終わらせる」という顔をしているから。「じゃあ……待ってますね……?」 ダメだと言っても来るのは分かっているし、そんな綾人に甘い自覚が澪にもあった。「ああ」 綾人は澪の頭をぽんと軽く撫でると、相良と共に玄関を出て行った。「澪さまも。いってらっしゃいませ」 佐伯の言葉とともに、使用人たちの頭が一斉に下がる。澪は少しだけ背筋を伸ばすと、「はい。いってきます」 一度、深く息を吸い込んでから、にっこりと笑い屋敷を後にした。 ◇「おはようございます!」 アンジェリケの扉を開けると、店いっぱいに広がる花の香り。 そして、いつもの優しい空気。 胸がときめくと同時に、帰って来たと肩の力が抜ける。「澪ちゃん!」 店長が満面の笑みで迎えてくれた。「おかえり!」「ただいま戻りました」「発表会見たよ!」 同僚のスタッフの一人も駆け寄って
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