高い塔の上から、ブラックローズは静かに庭を見下ろしていた。風が黒い外套を揺らす。月明かりの下、仮面の奥の口元だけが薄く笑っていた。「面白い」低く漏れた声は、夜の闇に溶ける。下では三人がまだ立ち尽くしている。ルピナス。ローゼン。フジ。運命に抗う者たち。本来なら交わらないはずの糸が、今は複雑に絡み合っていた。その歪みこそが、美しかった。「だが、まだ足りない」ブラックローズは指先で古びた懐中時計を弄ぶ。それは止まっていた。前世の処刑の日刻で。ルピナスが死んだ瞬間で。あの時から、世界は止まっている。少なくとも彼にとっては。「お前が死んだことで、世界は完成したはずだった」仮面の奥で目を細める。ルピナスの死。ローゼンの絶望。王国の崩壊。すべてが必要だった。あれはただの復讐ではない。もっと大きな目的のためだった。だが。ルピナスが戻った。時間を巻き戻した。そのせいで全てが狂い始めた。本来壊れるはずだった王子は壊れず。本来孤独なはずの令嬢には仲間ができ。本来傍観者だった騎士が恋を知った。歪み。誤差。異物。許せなかった。「だから正さなければならない」その時だった。闇の中から一人の男が現れる。白い髪。冷たい目。黒い法衣。王国の宮廷魔導師、ヴァルハイトだった。「随分楽しそうだな」ブラックローズは振り返らない。「予定が狂っただけだ」ヴァルハイトは鼻で笑う。「お前の計画はいつも回りくどい」ブラックローズの声が低くなる。「必要なことだ」ヴァルハイトは塔の下を見る。ルピナスの姿を。「記憶は戻り始めている」「知っている」「放置すれば全部思い出すぞ」ブラックローズは懐中時計を握り締めた。金属が軋む。「その前に終わらせる」ヴァルハイトは目を細める。「本当に殺せるのか」その問いに、ブラックローズは沈黙した。一瞬だけ。その一瞬をヴァルハイトは見逃さなかった。「やはりな」冷たく笑う。ブラックローズの手が止まる。「お前はまだ、あの女を」「黙れ」その声には初めて感情が滲んだ。怒りだった。殺気だった。ヴァルハイトは肩をすくめる。「愛か執着か、どちらでもいい」その目が鋭く光る。「だが忘れるな。あの女が生きる限り、世界は壊れない」その言葉に、ブラックローズは再び下を
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