CARDINAL(カーディナル) ― 裏切られた前世を返上し、今生は私が主役 ― のすべてのチャプター: チャプター 11 - チャプター 20

69 チャプター

第11話 ダリア、ルピナスを心配する

「ルピナス様」翌日。珍しくダリアの方から声をかけた。ルピナスは驚いた。「どうしたの?」「少しお時間を頂けます?」「もちろん!」ダリアは少し言いづらそうだった。珍しい。いつも堂々としている彼女が言葉を選んでいる。人気のない中庭。二人だけになったところで。ダリアが口を開く。「本当に大丈夫ですの?」ルピナスは首を傾げた。「何が?」「全部ですわ」意味が分からなかった。全部とは何だろう。ダリアはため息をついた。「殿下のことです」ああ。そっちか。ルピナスは納得した。「大丈夫よ」「本当に?」「本当に」「強がりではなく?」「違うわ」ルピナスは笑った。前世なら。強がりだったかもしれない。でも今は違う。「ダリア」「なんですの」「私ね」ルピナスは空を見上げた。青空だった。「昔は誰かに好かれることばかり考えていたの」ダリアは黙って聞く。「嫌われたくなくて」「認められたくて」「必要とされたくて」「ずっと頑張ってた」ルピナスは少し笑う。「でも疲れちゃったの」その言葉に。ダリアの胸が少し痛んだ。ルピナスはいつも笑っている。明るい。元気。能天気。でも。時々だけ。年齢以上に大人びた顔をする。それが少し気になっていた。「だから今は」ルピナスが言う。「自分を大事にしたいの」ダリアは言葉を失った。それは。当たり前のことのはずだった。でも。貴族社会では難しい。特に王妃候補ともなれば。なおさら。「そうですわね」ダリアは小さく頷いた。「それで良いと思いますわ」ルピナスが笑顔になる。「ありがとう!」「近いですわ!」顔が近かった。ダリアは思わず押し返した。その時。後ろから声がした。「何をしている」フジだった。ルピナスは元気よく答える。「友情を深めてるの!」「そうか」フジは頷いた。ダリアは思った。この人達。本当に会話しているのかしら。するとフジが言った。「ルピナス」「なに?」「昼食は食べたか」またそれだった。「まだよ」「そうか」フジは鞄から包みを取り出した。サンドイッチだった。「え?」「厨房に作らせた」「私に?」「ああ」ルピナスは固まった。ダリアも固まった。なぜ作った。なぜ持ってきた。なぜタイミングが完璧なんだ。
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第12話 サンドイッチを作る

ローゼンは焦っていた。非常に。とても。ものすごく。焦っていた。原因は一つ。フジだった。「朝食は食べたか」「昼食は食べたか」「無理するな」「これを食べろ」全部。全部ルピナスに効いていた。ローゼンは頭を抱えた。「なぜだ……」本日一回目。側近がため息をつく。「殿下」「なんだ」「何を悩んでおられるのですか」「フジだ」「フジ様ですか」「フジだ」ローゼンは真剣だった。「ルピナスがフジを見る目が柔らかい」「そうですか」「俺には冷たい」「そうですね」「否定しろ」「事実です」ローゼンは傷ついた。その夜。王宮の厨房。料理長が固まっていた。第一王子がいる。しかも。エプロンを着けている。「殿下」「なんだ」「何をなさっているのでしょう」ローゼンは真剣な顔で答えた。「サンドイッチを作る」料理長は頭を抱えた。まただ。最近みんな頭を抱えている。ローゼンは本気だった。フジが作れるなら。自分も作れる。そう思った。三十分後。何かが完成した。料理長は見た。パン。焦げていた。卵。崩壊していた。レタス。なぜか床に落ちていた。「完成だ」ローゼンは誇らしげだった。料理長は泣きそうだった。翌日。学院。ルピナスは中庭にいた。ダリア。マーガレット。フジ。いつものメンバーである。そこへ。ローゼンが現れた。何かを抱えている。嫌な予感がした。特にダリアが。「ルピナス」「なに?」「受け取ってくれ」ローゼンは包みを差し出した。ルピナスは受け取った。開けた。沈黙。ダリアも見た。沈黙。マーガレットも見た。沈黙。フジも見た。沈黙。誰も感想を言えなかった。ローゼンが聞く。「どうだ」ルピナスは困った。とても困った。人生でトップクラスに困った。そして。正直に答えた。「これは……」「これは?」「芸術作品?」ローゼンが固まった。ダリアが吹き出した。マーガレットも耐えられなかった。フジだけは真顔だった。「ローゼン」「なんだ」「料理は向いていない」即死だった。ローゼンは膝をついた。ルピナスは慌てる。「でも!」「でも?」「気持ちは嬉しいわ!」ローゼンが顔を上げる。「本当か」「本当よ」「そうか」少し元気になった。ちょろかった
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第13話 フジ、無自覚に追い詰める

ローゼンは落ち込んでいた。 非常に。 とても。 ものすごく。 落ち込んでいた。 原因は昨日である。 「料理は向いていない」 フジの一言だった。 思い出すだけで胸が痛い。 「なぜだ……」 本日一回目。 側近はそっと温かいお茶を置いた。 もう何も言わない。 言っても無駄だと学習した。 翌日。 学院。 ルピナスは中庭へ向かっていた。 すると。 「ルピナス」 聞き慣れた声。 フジだった。 「おはよう」 「おはよう」 「朝食は食べたか」 「食べたわ」 「そうか」 フジは満足そうに頷いた。 ルピナスは少し笑った。 最近分かってきた。 この人は挨拶代わりに食事確認をする。 たぶん病気である。 「フジ」 「なんだ」 「それ癖なの?」 「何がだ」 「朝食確認」 フジは真剣に考えた。 数秒後。 「そうかもしれない」 自覚はあったらしい。 その頃。 校舎二階。 ローゼンが見ていた。 見てはいけないものを。 見てしまった。 「おはよう」 「おはよう」 「朝食は食べたか」 「食べたわ」 「そうか」 ローゼンは固まった。 自然だった。 あまりにも自然だった。 婚約者候補だった自分ですら。 そんな会話をしたことがない。 「なぜだ……」 本日二回目。 中庭。 ダリアもやって来た。 「ごきげんよう」 「ダリア!」 「朝から元気ですわね」 「もちろんよ!」 ルピナスは元気だった。 そして。 マーガレットも来た。 「ごきげんよう」 「マーガレット!」 「おはようございます」 最近少しだけ空気が柔らかい。 前世では考えられなかった光景だった。 すると。 フジが四人を見回した。 そして。 当然のように言った。 「昼食は食べたか」 ダリア 「まだ朝ですわ」 マーガレット 「気が早すぎます」 ルピナス 「さすがに笑うわ」 フジは少し考えた。 「そうか」 初めて負けた顔をした。 三人は吹き出した。 校舎二階。 ローゼンはさらに衝撃を受けていた。 笑っている。 ルピ
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第14話 ダリア、ようやく気づく

ダリアは賢い。成績優秀。観察力も高い。人を見る目もある。だからこそ。気付いてしまった。「……まさか」昼休み。中庭。ルピナスが笑っている。フジもいる。いつもの光景。だが。今日は少し違った。ルピナスが焼き菓子を食べている。昨日フジが渡したものだ。「美味しい!」「そうか」「すごく美味しい!」「それは良かった」「また作って!」「分かった」フジは即答した。ダリアは固まった。待ちなさい。今。何かおかしくなかった?「フジ様」「なんだ」「それ」「なんだ」「ご自分で作ったのですの?」「ああ」「……」ダリアは黙った。近衛騎士団の有望株。剣が強い。仕事もできる。顔も良い。そして。菓子まで作る。何なのこの男。すると。ルピナスが言った。「フジは優しいわ」「ああ」「料理もできるし」「ああ」「頼りになるし」「ああ」「良いお嫁さんになれるわ」「ああ」フジが頷いた。三秒後。ダリアが吹き出した。「待ちなさい!!」ルピナスが驚く。「なによ」「なによじゃありませんわ!」「なによ」「気付きなさい!」「何に?」ルピナスは本気だった。本当に分かっていない。ダリアは頭を抱えた。その時。マーガレットがやって来る。「どうしましたの」「聞いてくださいまし」「嫌な予感がしますわ」「私もですわ」マーガレットも察したらしい。ダリアは二人を指差した。ルピナス。フジ。そして。言った。「どう見ても仲が良いですわよね?」マーガレットが固まる。フジを見る。ルピナスを見る。フジを見る。ルピナスを見る。「……仲が良いですわね」「ですわよね!?」「ですわね」二人は意見が一致した。当の本人達だけが分かっていない。「?」「?」ルピナスとフジは首を傾げた。その光景に。ダリアは確信した。これは重症である。しかも。ルピナスの方が。「フジ」「なんだ」「ケーキ食べたい」「分かった」「今?」「ああ」「買いに行くの?」「ああ」「優しい!」「ああ」ダリアは机に突っ伏した。マーガレットも突っ伏した。終わっている。この二人。終わっている。その頃。校舎二階。ローゼンが見ていた。見てしまった。「フジ」「なんだ」「ケーキ食べたい」「分か
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第15話 マーガレット恋愛相談

マーガレットは悩んでいた。非常に。とても。ものすごく。悩んでいた。原因は。ルピナスとフジである。「どう思いますの?」マーガレットが聞く。ダリアは即答した。「好きですわね」「ですわよね?」「ですわね」二人の意見は一致していた。昼休み。学院のカフェテリア。マーガレットとダリアは向かい合って座っている。珍しい組み合わせだった。「でも」マーガレットが首を傾げる。「本人達が全く気付いていませんわ」「そこが問題ですの」ダリアは真顔だった。深刻な問題だった。「ルピナス様は?」「論外ですわ」即答だった。マーガレットも頷く。昨日。ルピナス。「フジは優しいわ」「格好良いわ」「頼りになるわ」「一緒にいると安心するわ」と言った。その後。「親友って素敵ね!」と締めた。二人は頭を抱えた。親友じゃない。どう考えても違う。「フジ様は?」マーガレットが聞く。ダリアは少し考えた。そして。「もっと重症ですわ」と言った。マーガレットは納得した。確かにそうだった。フジは。ルピナスを見ている。ずっと。気付くと見ている。体調を気にする。食事を気にする。帰宅時間を気にする。危ない時は助ける。好きな菓子を覚えている。どう見ても。好きだった。本人以外には分かる。本人だけが分からない。「大変ですわね」「大変ですわ」二人は紅茶を飲んだ。その時。ルピナスがやって来た。「何してるの?」「恋愛相談ですわ」マーガレットが答えた。ルピナスは興味津々になる。「誰の?」「貴女ですわ」「私?」「貴女ですわ」「へえ」ルピナスは椅子に座った。全く理解していない。ダリアは確信した。重症患者である。「ルピナス」「なに?」「フジ様のことをどう思いますの?」「良い人」「それだけ?」「優しい」「それだけ?」「料理が上手」「それだけ?」「面白い」「それだけ?」「親友」ダリアは机に突っ伏した。マーガレットも突っ伏した。終わった。話にならない。その時。「何の話だ」フジが現れた。最悪のタイミングだった。「恋愛相談ですわ」マーガレットが言う。フジは頷いた。「そうか」理解していない。ルピナスも理解していない。二人揃って理解していない。ダリアは空を見上
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第16話 王子の恋愛相談

ローゼンは決意した。もう待てない。恋愛相談と聞いた。ルピナス。フジ。恋愛。嫌な予感しかしない。非常に。とても。ものすごく。嫌だった。「殿下」側近が声をかける。「なんだ」「やめましょう」「なぜだ」「嫌な予感がします」「俺もだ」「なら行かないでください」「それは無理だ」側近は泣きたくなった。数分後。学院中庭。ルピナス。ダリア。マーガレット。フジ。いつもの四人だった。「つまり」ダリアが言う。「ルピナス様は好きな人がいない」「いないわ」「フジ様は?」「いない」即答だった。ダリアとマーガレットは頭を抱えた。嘘である。どう考えても嘘である。その時だった。ガタン!!大きな音がした。全員が振り向く。そこには。ローゼンがいた。「いるぞ」沈黙。「何がですの?」マーガレットが聞く。「好きな人だ」さらに沈黙。ダリアが天を仰いだ。始まった。ルピナスは嫌そうな顔をした。露骨だった。とても露骨だった。ローゼンは傷付いた。少し。いやかなり。「ルピナス」「なに?」「好きな人はいるのか」「いないわ」「本当か」「本当よ」「本当に?」「本当に」ローゼンは考えた。そして。真顔で言った。「俺はいる」全員が固まった。フジ以外。フジは紅茶を飲んでいた。平常運転である。「殿下!?」マーガレットが叫ぶ。「何を突然!」「事実だ」ローゼンは真剣だった。ダリアがルピナスを見る。さらに見る。ルピナス。「へぇ」だけだった。「へぇ?」ダリアが聞き返す。「へぇ」ルピナスは紅茶を飲んだ。以上である。ローゼンは固まった。命懸けの告白だった。それなのに。へぇ。へぇ。だけ。「なぜだ……」本日一回目。その時だった。フジが静かに口を開く。「ルピナス」「なに?」「菓子を買ってきた」「本当!?」ルピナスの目が輝く。ローゼンの心が折れた。完全に。粉々に。見事に。折れた。「フジ様」ダリアが聞く。「なんだ」「今の状況をどう思いますの」フジは少し考えた。そして。真顔で答えた。「菓子が冷める」違う。誰もそれを聞いていない。ルピナスだけが頷いた。「確かに!」同類だった。ダリアは思った。この二人。お似合いかもしれな
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第17話 ルピナス、オシリペンペン宣言をする

ルピナスは怒っていた。 少し。 いや。 かなり。 怒っていた。 理由は簡単だった。 ローゼンである。 昨日の出来事。 思い出すだけで疲れる。 「俺はいる」 突然の告白。 しかも人前。 しかも学院。 しかもお茶会中。 最低だった。 「ルピナス様」 ダリアが声をかける。 「なに?」 「怖い顔をしていますわ」 「してないわ」 していた。 かなり。 していた。 マーガレットも頷く。 「しておりますわ」 「してない」 「しております」 「してない」 「しております」 二対一だった。 ルピナスは負けた。 その時だった。 遠くから。 ローゼンが歩いてきた。 ルピナスは即座に立ち上がる。 「来たわ」 「来ましたわ」 「来ましたわね」 ダリアとマーガレットも警戒態勢だった。 完全に不審者扱いである。 王子なのに。 ローゼンは傷付いた。 少し。 いやかなり。 「ルピナス」 「なに?」 「話がある」 「ないわ」 即答だった。 ローゼンは固まる。 「まだ何も言っていない」 「どうせろくでもない話よ」 「そんなことはない」 「本当?」 「本当だ」 ルピナスは少し考えた。 そして。 言った。 「なら聞くわ」 ローゼンは安心した。 しかし。 次の瞬間。 ルピナスが指を突き付けた。 「ただし!」 ローゼンが身構える。 「今後!」 「今後?」 「勝手に告白禁止!」 「なぜだ」 「人前だからよ!」 「そうか」 「そうよ!」 ローゼンは少し反省した。 少しだけ。 「分かった」 「よろしい」 ルピナスは頷く。 まるで先生だった。 すると。 ダリアが小さく呟く。 「夫婦みたいですわね」 「言いましたわね?」 マーガレットも頷いた。 「言いましたわね」 ルピナスは聞こえていた。 しっかり。 はっきり。 聞こえていた。 「誰が夫婦よ!」 二人は吹き出した。 その時。 フジが現れた。 「何を騒いでいる」 「フジ!」 ルピナスが駆け寄る。 ロ
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第18話 ローゼン、お尻ペンペンを恐れる

ローゼンは悩んでいた。非常に。とても。ものすごく。悩んでいた。原因は一つ。「お尻ペンペンです!!」である。昨日のルピナスの宣言だった。王族として。第一王子として。二十七歳の成人男性として。お尻ペンペンは避けたい。絶対に。何としても。避けたい。「殿下」側近が声をかける。「なんだ」「何を考えておられるのですか」ローゼンは真顔だった。「お尻ペンペンだ」側近は静かに席を立った。帰りたかった。学院。昼休み。ルピナスは今日も元気だった。「ダリアー!」「なんですの」「ケーキ!」「またですの」「食べたい!」「知っていますわ」いつもの光景だった。マーガレットも来る。フジも来る。最近は五人でいることが増えた。そして。少し遅れて。ローゼンも来た。「来たわ」ルピナスが言う。「来ましたわね」ダリアが言う。「来ましたわ」マーガレットも言う。完全に野生動物の扱いだった。ローゼンは傷付いた。少し。いやかなり。「ルピナス」「なに?」「今日は何もしていない」「そうね」「褒めてくれ」「なぜ?」ローゼンは固まった。確かに。なぜだろう。ダリアは吹き出した。マーガレットも肩を震わせている。その時だった。フジが言った。「偉いな」ローゼンが顔を上げる。フジは真顔だった。「迷惑をかけなかった」「そうだ」「良いことだ」「そうか」ローゼンは少し嬉しかった。ちょろかった。とても。ものすごく。ちょろかった。ルピナスは呆れた。「貴方達」「なんだ」「なんだ」なぜ同時に返事をするのか。「仲良しなの?」「違う」「違う」また同時だった。ダリアが吹き出す。マーガレットも吹き出した。ルピナスだけが真剣だった。「息ぴったりじゃない」「違う」「違う」三回目だった。今度は全員笑った。ローゼンは少し恥ずかしくなった。その時。学院の男子生徒数人が通りかかる。そして。小声で話した。「あれ第一王子だよな」「最近ルピナス様追いかけてるらしいぞ」「本当か?」「有名だぞ」ローゼンは固まった。ダリアも固まった。マーガレットも固まった。ルピナスだけが頷いた。「そうなのよ」本人公認だった。ローゼンはさらに傷付いた。「追いかけてない」「追いかけてる
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第19話 ダリア、王子の教育係になる

ダリアは決意した。非常に。とても。ものすごく。決意した。このままでは駄目だ。本当に駄目だ。誰かがやらなければならない。「ダリア様?」マーガレットが首を傾げる。ダリアは立ち上がった。そして。遠くでルピナスを見ているローゼンを指差した。「あれですわ」「どれですの」「あれですわ!」マーガレットも見た。いた。ローゼンが。木の陰に。半分だけ。隠れていた。全然隠れていなかった。「……あれですわね」「ですわよね」二人は頷いた。完全に不審者だった。王子なのに。その時だった。ルピナスが振り返る。「ローゼン!」ローゼンがびくっとする。「なんだ」「何してるの?」「散歩だ」嘘だった。誰がどう見ても嘘だった。「散歩で木の陰に隠れるの?」「たまたまだ」「そう」ルピナスは興味を失った。ローゼンは少し傷付いた。ダリアは思った。重症だ。両方とも。昼休み。ダリアはローゼンを呼び出した。学院の中庭。珍しく二人きりだった。「ダリア」「座ってくださいまし」「分かった」ローゼンは素直だった。意外と素直だった。だからこそ。ここまで来てしまったのかもしれない。「殿下」「なんだ」「まず尾行は禁止です」「うっ」一撃目だった。「物陰も禁止です」「うっ」二撃目だった。「見つめ続けるのも禁止です」「うっ」三撃目だった。ローゼンは真顔だった。だが確実にダメージを受けている。「なぜだ」「怖いからですわ」「そうか」「そうです」ローゼンは考えた。長く。深く。真剣に。そして。「知らなかった」ダリアは少しだけ同情した。本当に知らなかったらしい。「殿下」「なんだ」「好きな女性には」「うむ」「普通に話しかけてください」「普通に」「普通にです」「難しいな」「難しくありませんわ!」ダリアは思わず叫んだ。その頃。ルピナスはフジといた。「フジ」「なんだ」「ダリアとローゼンが話してる」「そうだな」「珍しいわね」「そうだな」「何の話かしら」フジは少し考えた。そして。「教育だろう」と言った。ルピナスは吹き出した。「まさか!」フジは真顔だった。「必要だと思う」「確かに!」二人は同時に頷いた。遠くで。ダリアは頭を抱えた。なぜ分かるのだ
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第20話 王子、普通に話しかける練習をする

ローゼンは悩んでいた。 非常に。 とても。 ものすごく。 悩んでいた。 原因はダリアである。 正確には。 ダリアの助言だった。 『普通に話しかけてください』 簡単そうに聞こえる。 だが。 ローゼンには難しかった。 「殿下」 側近が声をかける。 「なんだ」 「何をなさっているのでしょう」 ローゼンは真顔で答えた。 「練習だ」 「何の」 「普通の会話の」 側近は天を仰いだ。 始まった。 また始まった。 「例えば」 ローゼンが言う。 「おはよう」 「おはようございます」 「今日は良い天気だな」 「そうですね」 「それで?」 「終わりです」 ローゼンは固まった。 終わりだった。 会話が。 終わった。 「難しいな」 「難しくありません」 側近は疲れていた。 非常に。 とても。 ものすごく。 疲れていた。 昼休み。 中庭。 ルピナス達はいつものように集まっていた。 ダリア。 マーガレット。 フジ。 そしてルピナス。 最近はこの時間が楽しみだった。 前世ではありえなかった光景である。 「ケーキ食べたい」 ルピナスが言う。 「またですの」 ダリアが言う。 「太りますわ」 マーガレットが言う。 「食べろ」 フジが言う。 三人が振り向いた。 「なぜですの」 「なぜですの」 「なぜ?」 フジは首を傾げた。 「食べたいのだろう」 正論だった。 誰も反論できなかった。 その時。 ローゼンがやって来た。 ダリアが目を細める。 教育の成果を見る時である。 ローゼンは深呼吸した。 一回。 二回。 三回。 そして。 ルピナスの前に立った。 「おはよう」 沈黙。 ダリアが固まる。 マーガレットが固まる。 ルピナスが固まる。 フジだけが平然としていた。 「おはよう?」 ルピナスが聞き返す。 「おはよう」 「今は昼よ?」 ローゼンは固まった。 終わった。 練習の成果が。 開始三秒で。 終わった。 ダリアは顔を覆った。 マーガレットは空を見上
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