All Chapters of あなたのお嫁さんになりたいです!~そのザマァ、本当に必要ですか?~: Chapter 51 - Chapter 60

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第50話 その第二王子、腹心がいたんですか!?

「エル様、お帰りなさいませ」 グロラッハの屋敷から帰宅したエーリックを迎えたのは燃えるような赤髪の少年であった。 「ただいまスレイン」 彼はエーリックの乳兄弟であり、今は腹心となっているスレイン・ウォードである。エーリックを愛称の『エル』と呼ぶのを許された唯一の腹心だ。 「思ったより早かったじゃん」 エーリックのもう一人の側近である黒髪の青年が、気怠そうな茶色の瞳をチラリとエーリックに向けた。 主人相手にも粗雑な物言いをする彼の名はセルラン・セールズ。 「殿下の事だから姫さんとこ行ったら、しばらく帰らねぇと思ってたんだがなぁ」 ソファにだらしなく腰掛け、とても主人に対する態度ではない。が、エーリックもスレインも諦めて咎めはしない。 エーリックがセルランの対面に腰を下すと、スレインが手際良くお茶を用意した。 「それで、妖精の姫さんは何の御用だったんで?」 エーリックが一口お茶を飲んでティーカップをソーサーに戻すのを待って、セルランが話を切り出した。 「それなんだけど……」 エーリックは信頼する腹心達にウェルシェがストーカーに狙われているのだと説明した。 「なるほど、ウェルシェ様にそのような危機が」「すっげえベッピンさんだもんなぁ。そりゃ狙ってる男の一人や二人いるわなぁ」「だが、王妃殿下よりエル様の婚約には不可侵の下知が言い渡されているはずですが……」「ストーカー野郎なんて異常者だから常識は通用しねぇさ」「セルラン、少しは真面目に考えろ」「オレぁいたって
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第51話 その腹心、本当はスパイなんですか?

「殿下はいったいどうしちまったんだ?」 エーリックの私室を後にしたセルランは唖然として呟いた。 「今日は堂々としすぎだし、何より冴えすぎじゃねぇか!?」 いつもぽやっとしてた我が主はどこへ行った? 「言葉を慎めセルラン」 敬愛する主に対する同僚の失言に、ムッとしてスレインが咎めた。 「エル様はもとより優秀なお方だ」「いや、殿下がそれなりにデキるのは俺も知ってるが……」「それに寛大で篤実も付け加えろ」 この夢見がち主従が、とセルランは内心で毒づく。 どうにもエーリックとスレインはぽやぽやしているとセルランは気が気じゃない。普通なら王位継承権第二位の座にいるエーリックはいつ謀略で潰されてもおかしくないのだ。 (この国の王家の内情はあり得ないくらい清廉なんだよなぁ) エーリックもエレオノーラも王位に興味がなく、それを知っているオルメリアは彼らを擁護している。オーウェンにしても正義感が強く謀略など好まない。 そんな王家の絶妙なパワーバランスがエーリックを生かしているとセルランは理解していた。 (だっけど、富と権力を欲する貴族どもがどう動くか分かんねぇ) だが、セギュル夫人の例があるように、貴族達の思惑はそれぞれだ。シキン伯爵家が例外で、王家への忠誠より自分達の利権や保身を優先する者の方が多い。 (だから、王妃殿下は俺をエーリック殿下につけたわけだけど) 実は、セルランはオルメリアによって派遣されたエーリックの腹心兼護衛であった。もっとも、エーリック本人にも知らされていない事
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閑話アイリス① 頼もしき攻略対象

初夏の麦畑のような黄金色に揺れる髪。 「アイリス……」 少年の曇りなき夏空のように鮮やかな青い瞳が、優しく小柄な美しい少女を見つめた。 すらりと細い体躯だが、少年には誰もがひれ伏す威厳がある。それもそのはず、彼はこの国の第一王子オーウェンなのだから。 「君は俺が守る」 しかし、少女へかけた声に威圧感はなく、むしろ慈しむようにとても甘い。微笑むオーウェンは手を伸ばした。その手が触れたのは、麗らかな春の陽射しを浴びたスリズィエの花びらのような薄桃色の髪。 「オーウェン様……」 少女は春の空の如き水色の瞳を潤ませ、オーウェンの胸にしなだれた。 「でも、イーリヤ様をまた怒らせちゃったら私……」「大丈夫だ」 オーウェンは愛しい恋人の腰に腕を回す。 マルトニア学園三大美少女に数えられるスリズィエの色をした少女――アイリスの身体は細く、抱き締めれば簡単に折れるのではないかと思えるほど華奢だ。 「何も心配はいらない」 そんな頼りない身体も、愛らしい顔もオーウェンの庇護欲を誘う。 「俺達がきっとアイリスを守るから」「でもでも、イーリヤ様は王妃様が決めたオーウェン様の婚約者だよ」「あんな奴!……母上は騙されているんだ」 アイリスの憂いにオーウェンは顔をしかめた。 「イーリヤの如き悪辣な女に王妃は務まらん」 オーウェンの語気が荒く
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閑話アイリス② 転生ヒロインの蠢動

「ぜんっぜん上手くいってないじゃないのよぉ!」 一人になると、アイリスは盛大に悪態をついた。 「せっかく好みのイケメンがいっぱいいる『あな嫁』の世界に転生したのに!」 アイリスは転生者である。彼女には日本人だった前世の記憶があった。 前世もそこそこ可愛い容姿だったので、大学時代はオタサーに入って男子にちやほやされていた。だが、調子に乗って色目を使いまくって、男達に貢がせまくっていたのがいけなかった。痴情のもつれで刺し殺されてしまったのである。 まさに自業自得、因果応報、身から出た錆。 アイリスは知らないが、葬式では知人女性達からザマァと舌を出す者は多くいたが、涙を流す者は一人もいなかった。まったくもって一片の同情の余地なし。 ところが何の因果か、前世で遊んでいた乙女ゲーム『あなたのお嫁さんになりたいです』とそっくりな世界に転生したのである。 「前世はちょぉっと失敗しちゃったけどぉ……」 アイリスはクルッと一回転すると、制服のスカートがふわりと飜る。 「こ〜んな可愛いヒロインに転生できたんだからプラマイゼロよね」 大きな瞳の可愛い容姿にスレンダーな身体。アイリスはヒロインと呼ぶに相応しい愛らしさだ。 「神様が私を憐れんで再び与えてくれたこのチャンス、ぜぇったい物にするんだから」 前世でやらかしてもなおめげないアイリスのド腐れ根性は呆れを通り越して感心すらする。 「だけど問題はあの悪役令嬢どもよ」 ヒロイン転生したと知ったアイリスは憧れの制服に身を包み、ウキウキ気分でマルトニア学園の門をくぐった。&nb
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第52話 その攻略対象、えっ!?予選落ちなんですか?

――キンキンッ! 剣と剣がぶつかり合い、乾いた金属音が会場に響き渡る。 「てやーッ!」「ふっ!」 円形の闘技場の上で、二人の男子生徒が剣を振るって戦っていた。仕切り直しと、いったん間合いを取った二人は対峙して睨み合う。 燃えるような赤髪の美丈夫が、身の丈はありそうな大剣を正眼に構える。対する新緑の如き髪の少年は両手にそれぞれ剣を持ち斜に構え、右の剣を前に左の剣を後ろに隠す。 ――わぁぁぁあ!  埋め尽くされた観客席から歓声が沸き起こった。 ――剣武魔闘祭初日。 マルトニア学園で武闘と魔術の祭典が始まった。 学園内の各所で様々な競技が行われており、ここ闘技場でも剣闘の部『剣部門』予選が順調に進行していた。 この対戦は予選第一組の決勝戦。勝者が本戦へと駒を進められる。 「クライン様は相変わらずのようね」 貴賓席で観戦していたウェルシェが呆れた声を漏らす。 「それでも予選決勝まで進出したのは大したものです」 背後に控えていたレーキは、擁護するような事を口にした。だが、それとは裏腹に声は冷え冷えとしたものだった。 「相手の方……双剣とは珍しいわね」「彼は二年のラーズ・ラースです」「強いの?」 いいえとレーキは首を横に振った。 「弱くはありませんが、昨年は同じく予選でクラインと対戦して一蹴されています」「…&he
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第53話 その腹黒、自分の事も分かってないのですか?

クラインが起こした騒動で多少進行が遅れた。だが、その後は順調に予選が消化されていった。 「勝者リハルト・リッチモンド!」 そして、たったいま剣部門予選最終組の決勝戦の判定が主審よりくだされた。それは同時に、対戦相手のエーリックが健闘虚しく予選敗退となったことを意味した。 貴賓席から観戦していたウェルシェは、善戦した婚約者に立ち上がって惜しみない拍手を贈る。 「もう少しでエーリック殿下も本戦出場でしたのに、惜しかったですね」「まあでも、予選決勝まで進出できたなら上出来じゃない?」 ウェルシェとしてはエーリックに武勇を求めてはいない。なぜなら彼は将来グロラッハ家の当主となるのであって、騎士になるわけではないのだから。 「エーリック様は他にも幾つか参加されているしね」「ですが、どれも本戦へと進めてはいないようですが?」「だけど、どれもけっこう良い線はいってたのよ?」 ただ、残念ながらエーリックは出場した全ての競技で予選落ちしていた。 「あなたは魔術部門の競技で本戦出場を果たしているのに、大きな差ができてしまいましたね」 魔術部門にはウェルシェのような令嬢でも参加できるゲーム的な競技が幾つもある。 キャロルが出場している魔術アート部門や、作製したゴーレムを各種種目で競わせるゴーレムコンテストなどなど、多数の部門に分かれている。 その中でウェルシェは花形競技である氷柱融解盤戯と魔弾の射手の二競技で本戦出場が決まっていた。 氷柱融解盤戯は8×4のマスの盤上に互いの色がついた氷柱を交互に並べ、時間内に相手の氷柱を何本溶かせるかを競うもの。
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第54話 その話題、まだ終わってなかったんですか?

「しかし、それでも全ての分野を理解するのは困難かと思われますが?」 ウェルシェは闘技場の出入り口でエーリックを待っていた。レーキはそこで先程の話題を持ち出した。 「それはそうよ。人は全能ではないんだから」「ならば未知の分野に関してはどのように対処すれば良いのでしょう?」 これに対する明確な解答はないとレーキにも分かってはいる。そんなものがあれば為政者は誰も困らない。 「その分野に明るい者を評価者として登用するしかないわね」 レーキの思った通り、ウェルシェといえども解決策はそれくらいしかない。 「ですが、その者が本当に正当な評価ができる人物かを判断するのは困難ですよね?」「当然でしょ。人柄もだけど、癒着する可能性もあるしね。できるのはせいぜい成果に対して正当な褒賞を与え、不正に備えて罰則を作っておくことくらいね」 ああ、成果が出ないのに罰を与えるのはなしよ、とウェルシェは付け加えた。 「それでは現場監督が成果主義に走っちゃうから」 こうなると中間管理職である現場監督は下を締めつけ上に媚びる他なくなってしまう。 「しかし、それでは不正しなくとも怠ける者が出てきませんか?」「それでもよ。もともと任命した者にも責任があるんだから」「成果は部下のもの、失敗は上司のものですか……上に立つ者は大変ですね」 レーキは自分が部下の地位で心底良かったと思う。 「それが国王になる者、領主になる者、組織の頂点に立つ者の心構えよ。そうでないと組織の屋台骨はどんどん歪んでしまうもの」「とはいえ、人は他人を理解できませんから完璧な統治はできないことになります」「完璧なんて無
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第55話 その試合、本当に素晴らしかったですか?

「エーリック様、試合お疲れ様ですわ」 ウェルシェは満面の笑みで出迎えた。だが、エーリックの方は少しばつが悪そうに顔を曇らせた。 「ごめん、せっかくウェルシェが応援してくれたのに負けちゃった」「そんな……とっても素晴らしい試合でしたわ」 気落ちするエーリックをむしろウェルシェは褒め称えた。 「負けたのに?」「エーリック様の勝利を願ってはおりましたが、勝敗は兵家の常ですわ。それともエーリック様は、優勝以外価値がないとお思いなのですか?」「そんなことないけど……やっぱり好きな女の子の前じゃカッコいいところを見せたいじゃないか」「まぁ、エーリック様ったら」 ウェルシェがポッと頬を染めた。 「私のためにそこまで……」「だけど、負けたら格好がつかないよね」 ははっとエーリックは力無く笑ったが、ウェルシェは首を横に振った。 「いいえ、エーリック様はとっても素敵でしたわ」「ホント?」「はい、エーリック様の勝利するお姿を拝見できたら、きっと私はとっても喜んだと思います。ですが、勝ち負けなんて関係なくエーリック様はとってもカッコ良かったですわ」「そ、そうかな?」「ええ、もちろん! いつも一所懸命なエーリック様は私にとって世界で一番輝いていますわ。今日この日のために努力されていたエーリック様はいつだって誰よりも最高にカッコいいのです」「ウェルシェ……ありがとう」 エーリックははにかんで頬をぽりぽりと掻く。 「嬉しいよ……ウェルシェの励ましが何より」「励ましでは
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第56話 そのトロそうな令嬢、運動神経よかったんですか!?

――剣武魔闘祭二日目 広場の中央にウェルシェは一人ポツンと佇んでいた。周囲は草むら、瓦礫、柵、塀などの遮蔽物で囲まれている。 ウェルシェは白いシャツの上に赤いジャケットを羽織り、下は珍しくタイトな黒いズボンを履いていた。 この広場を囲む観客席には人が埋め尽くされていたが、みな固唾を飲んでウェルシェを見守っている。 ――『射撃用特設会場』 今から魔弾の射手本戦の第一試合が始まるのだ。 「スーーーッ、ハァーーー……」 珍しく緊張しているのか、ウェルシェは息を深く吸い込んでゆっくり吐き出して全身の力を抜いている。観客席は満席であったが、ウェルシェの耳には自分の呼吸音だけしか入ってこない。 まるでウェルシェ一人だけの世界のように静寂が支配する―― 『開始10秒前、9……8……7……』 突如、会場にカウントダウンのアナウンスが響いた。 『……4……3……』 カウントが進む中、ウェルシェは両手に持つ指揮棒の形状をした魔杖を僅かに握り直す。 『……1……ピーッ!』ガコンッ! 開始の合図と同時に『敵』と記された人型の標的がウェルシェの右前方にある草むらから迫り出した――瞬間、右の魔杖を素早く振った。 ヒ
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第57話 そのストーカー、本当にまだ動きがないんですか?

「それで、まだケヴィン様に動きはないの?」 控え室へと続く廊下を進むウェルシェは、その途中で気になっていたケヴィンの動向について尋ねた。 「セギュル家を見張っている者からの定時連絡では、ケヴィンはまだ屋敷から出ていないようです」「そう……なの?」 ジョウジの報告にウェルシェは少し考え込む。 「ケヴィン様が昨日の予選を避けたのは予想通りなんだけど……」 初日は校内各所で様々な競技の予選が行われた。そのため、生徒以外にも応援に来ている親族達で多くの者が学園に出入りしていた。 「ええ、人の出入りが激しく潜入にはもってこいなんですが……」「いかんせん人目のつかない場所がありませんでしたから」 だが、数多の予選試合を消化するため学園全域を会場にしていた。だから人気の無い場所が皆無であり、犯行に及ぶのは難しいだろうと読んだのである。 「本戦初日は試合の全てが観客動員数の大きな主会場のみだから、今日こそ仕掛けてくるって思ってたのよね」 ジョウジとレーキの推測に同意しながらも、ウェルシェは今日来るとの予測が外れて肩透かしを食らった気分だ。 「予選が終了した今日以降は、皆が限定された会場に集まりますからね。確かに空き教室など死角となる場所には事欠きません」「ですが、それは明日も同じではありませんか?」 剣魔祭の期間は三日。 初日は前述の通り予選が行われ、二日目から本戦となり、明日は各競技の準決勝や決勝が行われる。 「途中で負けたら私は護衛付きの貴賓席で観客になっているのよ」 
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