紫苑医科大学附属病院へ着くと、私は息を整える暇もないまま、病棟の看護師に案内された。 いつもなら最低限の説明をしてくれるはずの看護師が、今日は妙に口数が少ない。足早に廊下を進む横顔は硬く、こちらを気遣う余裕すらないように見えた。「あの、母に何かあったんですか?」 問いかけても、看護師は一瞬だけ私を振り返るだけだった。「まずは病室へお願いします」「でも……」「行けばすぐに分かります」 その言い方に、胸の奥がざわついた。 嫌な予感が、足元から這い上がってくる。 病室に近づくにつれて、廊下の奥から騒がしい声が聞こえてきた。 何かが倒れるような音や看護師たちの切迫した声。「離して! あの子は無事なの!? あの子はどこなの!」 そして――聞き間違えるはずのない、母の叫び声。 その声を聞いた瞬間、息が止まった。「お母さん……?」 私は看護師の制止も聞かず、病室へ駆け込むと室内はひどく荒れていた。 ベッド脇に置かれていた小物は床に散らばり、点滴スタンドは斜めに倒れかけている。シーツは乱れ、母は半身を起こしたまま、二人がかりの看護師に押さえられていた。「離して! あの子のところに行かないと……! あの子を守ってあげないと!」「美玲さん、落ち着いてください!」「危ないです、動かないで!」 母の目は大きく見開かれていた。 つい先日まで、意識すら戻らなかった母が、必死の形相で声を荒げている。 本来なら、目を覚ましてくれたことを喜ぶべきだった。 けれど、その姿はあまりにも痛々しくて、嬉しさよりも先に恐怖が込み上げた。「お母さん……!」 震える声で呼びかけると、母の動きがぴたりと止まった。 大きく見開かれた瞳が、ゆっくりと私を捉える。「……千景?」「うん。私だよ。ここにいる。大丈夫、私は無事だから」 足が震えていた。 それでも私は、母を怖がらせないように、できるだけゆっくり近づいた。 看護師たちが警戒する中、ベッドのそばに膝をつき、母の手をそっと握る。 その瞬間、張り詰めていた母の表情が、くしゃりと崩れた。「ああ……よかった……無事でよかった……」 母は力が抜けたように、私の手に縋りついた。「お母さん、大丈夫。私はここにいるよ」「だって……あんな連絡があったから……気が気じゃなくて……早く、
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