「申し上げにくいのですが……久我さんに残された時間は、このままだともうあまり多くありません」 「え……?」 真っ白な診察室で、私は医師の言葉を聞き返すことしかできなかった。 久我千景(くが ちかげ)。 それが、私の名前だ。 数年前の事故で負った怪我の経過を見るため、いつものように病院へ来ただけだった。 今日も、形式ばかりの説明を受けて終わる。 そう思っていた。 けれど、医師の口から告げられたのは、あまりにも予想外の言葉だった。 「先日の血液検査と追加検査の結果、久我さんは血液を作る骨髄そのものが壊れていく病気だと分かりました」 「血液を作る骨髄が壊れる病気……?」 自分の口からこぼれた声が、ひどく遠くに聞こえた。 「はい、簡単に言えば白血病に進行する危険のある血液の病気です」 頭の中が、真っ白になった。 医師はその後も何かを話していた。 治療方針。入院。今後の生活。痛みを和らげるための処置。 けれど、そのどれもが水の中で聞く声のようにぼやけて、意味を持たなかった。 なぜ、私が。 何か悪いことをしたのだろうか。 少なくとも、こんな目に遭わなければならないほどのことをした覚えはない。 悲しみも、恐怖も、怒りも、全部が一度に押し寄せてくる。 息の仕方さえ分からなくなった。 「久我さん。聞こえていますか?」 肩を軽く叩かれ、はっと顔を上げる。 医師が心配そうにこちらを覗き込んでいた。 「あ……はい」 「入院して、今後の治療方針を相談していくことをお勧めします。ご家族の方には、こちらからも説明を……」 ご家族。 その言葉に、私は自嘲気味に笑うことしかできなかった。 「……相談してみます」 それだけ告げて、私は病院を後にした。 外の空気は、いつもと変わらなかった。 行き交う人の声も、車の音も、空の色さえも。 世界は何ひとつ変わっていない。 変わったのは、私の人生だけだった。 震える手でスマートフォンを取り出す。 夫の久我玲司(くがれいじ)に連絡しようとした、その時だった。 通知音が鳴った。 画面に表示されていたのは、インスタグラムの通知。 普段、SNSなどほとんど投稿しないはずの玲司が、写真を更新していた。 嫌な予感がした。 見て
Zuletzt aktualisiert : 2026-06-02 Mehr lesen