「落ち着きたまえ。座って話そうではないか」 そう言って幸男は、テーブルセットを指さした。「すいません……。お茶、淹れてきますね」 気まずさを覚えた千夏は、給湯室に逃げ込む。インスタント珈琲や茶葉が入った戸棚を開けると、千夏は思わず固まった。 成也が来る前は、千夏がお茶出しをしていた。その時はインスタント珈琲、安いメーカーの緑茶と紅茶しかなかったのだが、ドリップ珈琲にココア、紅茶は何種類も置いてある。緑茶は袋に入ったまま使っていたのだが、茶筒に入っている。 お菓子が入った引き出しを開けてみると、和菓子も洋菓子も様々な種類が取り揃えてあった。 こちらも千夏が買い出ししていた頃は、安いチョコやクッキーの詰め合わせやせんべいだけだった。 思い返せば、成也はその時の気分に合わせた飲み物とお茶菓子を用意してくれていた。寒い外から帰ってくれば温かいお茶を、集中したい時はいつもより少し苦い珈琲を、ひと息つきたい時にはココアか紅茶に甘いお菓子を添えてくれた。 いい加減な人に見えて、誰よりも人のことを見ていた。「絶対に助けますからね」 色とりどりのお菓子に触れながら、千夏は決意を口にする。 レパートリー豊富な飲料もお菓子も、成也が笹塚法律事務所を大切にしていた証拠だ。少なくとも、千夏にはそう思えた。 緑茶を淹れ、ひと口サイズの最中や饅頭を持っていき、幸男の向かいに座る。「ありがとう。それで、何があったのかね?」「末安さんは、特別室のベッドに拘束されていました。助けようとしたんですけど、東堂先生は思い通りにするためなら平気で人を殺すから逃げろと言われて……」 自分の無力さを呪い、うつむいて拳を握る。力が入りすぎて、爪が手のひらに食い込んだ。「あの時、私は……」「本条さん、自分を責めてはいけない。末安さんの言うとおり、逃げなければ危なかったのかもしれないのだからね。場所を突き止めただけでも上出来なのだよ。しかし、何故特別室だと分かったのかね?」「分かったわけじゃありません。知り合いの刑事が教えてくれたんです」 千夏はそう前置きをすると、美咲の入院理由を伏せて、弘泰のことと妹の美咲が入院していること、不穏な噂が流れていることを話した。
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