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153 チャプター

141話

「落ち着きたまえ。座って話そうではないか」 そう言って幸男は、テーブルセットを指さした。「すいません……。お茶、淹れてきますね」 気まずさを覚えた千夏は、給湯室に逃げ込む。インスタント珈琲や茶葉が入った戸棚を開けると、千夏は思わず固まった。 成也が来る前は、千夏がお茶出しをしていた。その時はインスタント珈琲、安いメーカーの緑茶と紅茶しかなかったのだが、ドリップ珈琲にココア、紅茶は何種類も置いてある。緑茶は袋に入ったまま使っていたのだが、茶筒に入っている。 お菓子が入った引き出しを開けてみると、和菓子も洋菓子も様々な種類が取り揃えてあった。 こちらも千夏が買い出ししていた頃は、安いチョコやクッキーの詰め合わせやせんべいだけだった。 思い返せば、成也はその時の気分に合わせた飲み物とお茶菓子を用意してくれていた。寒い外から帰ってくれば温かいお茶を、集中したい時はいつもより少し苦い珈琲を、ひと息つきたい時にはココアか紅茶に甘いお菓子を添えてくれた。 いい加減な人に見えて、誰よりも人のことを見ていた。「絶対に助けますからね」 色とりどりのお菓子に触れながら、千夏は決意を口にする。 レパートリー豊富な飲料もお菓子も、成也が笹塚法律事務所を大切にしていた証拠だ。少なくとも、千夏にはそう思えた。 緑茶を淹れ、ひと口サイズの最中や饅頭を持っていき、幸男の向かいに座る。「ありがとう。それで、何があったのかね?」「末安さんは、特別室のベッドに拘束されていました。助けようとしたんですけど、東堂先生は思い通りにするためなら平気で人を殺すから逃げろと言われて……」 自分の無力さを呪い、うつむいて拳を握る。力が入りすぎて、爪が手のひらに食い込んだ。「あの時、私は……」「本条さん、自分を責めてはいけない。末安さんの言うとおり、逃げなければ危なかったのかもしれないのだからね。場所を突き止めただけでも上出来なのだよ。しかし、何故特別室だと分かったのかね?」「分かったわけじゃありません。知り合いの刑事が教えてくれたんです」 千夏はそう前置きをすると、美咲の入院理由を伏せて、弘泰のことと妹の美咲が入院していること、不穏な噂が流れていることを話した。
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142話

「ふむ、そういうことだったのか……。少し待っていたまえ」 幸男はゆっくり立ち上がると、自分の机から1枚の写真を取って戻ってきた。その写真を千夏に手渡す。それは金髪だった頃の成也の、履歴書の写真を拡大したものだった。「きっと本条さんは、末安さんを見つけるまで諦めないと思ってね」「ありがとうございます、助かります。所長、しばらく東堂精神科病院に行ってもいいでしょうか?」「もちろん構わないが、そうだね……。まる1日というのは困るから、午前か午後のどちらかだけならいいだろう」「分かりました、ありがとうございます」 許可をもらえてホッと一安心したところで、千夏のスマホにメールが届く。「今日はもう帰りたまえ。それと、末安さんのことで何か分かったら、すぐに報告するように。いいね?」「はい。ではお言葉に甘えて、お疲れ様です」「お疲れ様」 事務所を出てスマホを見てみると、弘泰からメールが来ていた。”もしひとりで行くことになって美咲との関係性について何か聞かれたら、家庭教師だったとでも言っておけ。偶然街で俺と会って、つい最近入院してることを知ったとか言っとけば納得するだろ” そんな文章と共に、美咲の病室の番号が書かれていた。「心配性だなぁ、そんなこと聞かれないと思うけど」 苦笑しながらも、幸男に許可をもらえたこととお礼のメールをし、帰路を辿った。 マンションに帰って弘泰と電話をした結果、明日の午前に一緒に病院に行くことになった。電話が終わると幸男にそのことをメールで報告した。 千夏なりにノートに成也監禁事件についてまとめると、はやめの夕食や風呂を済ませてベッドに入る。 目を閉じても、結局成也のことが気になってあまり眠れなかった。 翌朝、いつもより少し遅い時間に起きて朝食や身支度を済ませ、病院の前で弘泰を待つ。「そういえば、弘泰は仕事大丈夫なのかな?」 成也のことで頭がいっぱいになって考える余裕がなかったが、警察官である弘泰が、こうも休みを取れるものなのかと疑問に思う。
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143話

 千夏が病院に着いて5分、弘泰が駆け足で来た。「待たせたか?」「ううん、そんなに待ってないよ。ところで弘泰は仕事大丈夫なの?」「あぁ、事情知ってる先輩が融通きかせてくれるって。つっても、完全にではないけどな。けど、できるだけお前と来られるようにはするから。メールでああは言ったけど、ひとりで来させたくないしな」 そう言って忌々しそうに病院を見上げた。「ありがとう、弘泰がいてくれると心強いよ」「別に、利害の一致で行動してるだけだ。ほら、行くぞ」 弘泰は目を逸らし、病院に向かって歩き出す。「待ってよ」 慌てて隣を歩き、弘泰を横目で見ると、ほんのり頬が染まっていた。(変なところで照れ屋さんだな) 微笑ましいと思いながら、千夏は弘泰と一緒に病院に入った。 ナースステーションで受付を済ませ、美咲の病室へ向かう。意識してすれ違う患者を観察すると、やはり美男美女しかいない。年齢層は高校生から20代半ばと、若い患者ばかりだ。 病室に入ると、美咲はベッドに腰掛けてあやとりをしていた。「お兄ちゃん!」 顔を上げて弘泰が来たと知ると、あやとりの紐を置いて弘泰に抱きついた。「お兄ちゃんあのね、あのね!」 美咲は顔を上げ、必死に何かを伝えようとするが、焦っていて、あのねの先がなかなか言えない。「落ち着け、美咲。お兄ちゃんちゃんと聞いてやるから」 弘泰が美咲の目線に合わせてかがむと、美咲は深呼吸をする。「あのね、お兄ちゃんが大変なの、危ないの。お兄ちゃん警察でしょ? お兄ちゃんを助けて!」「待ってくれ、もう少し分かりやすいように言ってくれないか?」 弘泰が頭を抱えると、美咲は頬を膨らませる。「もう、なんで分かんないの!?」「この病院に入院してる”お兄ちゃん”が大変なことになっていて、自分の”お兄ちゃん”に助けを求めてるんじゃない?」「そう! って、お姉さん誰ですか?」 千夏なりに解釈をすると、美咲は満足げに頷き、首を傾げる。どうやら今千夏の存在に気づいたらしい。「はじめまして、美咲ちゃん。あなたのお兄ちゃんの同級生だった本条千夏です。その大変なことになってるお兄ちゃんの名前って分かる?」「へぇ、お兄ちゃんの同級生なんですね。ううん、お兄ちゃんの名前は分かんないです。すごくイケメンで、優しいお兄ちゃんなんです」 美咲の説明を、実兄の弘泰は
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144話

「そのイケメンで優しいお兄ちゃんって、この人かな?」 千夏は幸男から預かった成也の写真を見せた。美咲は目を見開き、千夏を見上げる。「そう、この人! 髪の毛の色違うけど、この人だよ!」 興奮気味の美咲の声に、胸がざわつく。美咲の言っていることが本当なら、成也に危機が迫っているということだ。「美咲ちゃん、このお兄ちゃんのこと、知ってること全部教えてくれる? 私はこの人を助けたいんだ」「ええと、このお兄ちゃんと知り合ったのは結構前なんです。入院して1ヶ月か2ヶ月くらい経った頃かな? もう退院したいのにできなくて、イライラして病院を抜け出したんです」「それ初耳だぞ!?」 驚きのあまり、弘泰は裏返った声で言う。「だって話してないもん。病院を抜け出した後、このお兄ちゃん、えっと、なんて名前なんですか?」「末安成也さんです」「成也お兄ちゃんと会って、『こんなところにいたら見つかっちゃうよ』って、病院のカフェに連れて行ってくれました。案外こういうところの方が見つからないんだって。それから時々、私にお菓子を買ってくれたり、カフェに連れてってくれたりしました」「知らない人についていっちゃダメだろ」 弘泰が咎めるように言うと、美咲は弘泰を睨みつけた。といっても、愛らしい童顔の彼女が睨みつけても迫力はないのだが。それでも弘泰には効果覿面《こうかてきめん》だったらしく、がっくりと肩を落とす。「お説教は後でにして! お話進まない! えっと、どれくらい前だったかな? でも、割と最近、成也お兄ちゃん、『そろそろ自由時間なくなっちゃうかな』って、悲しそうに言ってました。それで、えっと、一昨日かな? 院長先生が、お兄ちゃんを特別室に閉じ込めたんです。院長先生がいない時に行ったら、成也お兄ちゃん、ベッドに縛り付けられてました……」「美咲ちゃん、院長先生が末安さん……、お兄ちゃんを閉じ込めるところ、見たんですか?」 千夏の問いに、美咲は大きく頷いた。「夜にね、院長先生が成也お兄ちゃんの腕掴んで、特別室に行ったんです。お兄ちゃん、すごく辛そうな顔してた……」(この証言があれば、監禁罪を立証できるかもしれない!)「あの、あのね……」 弘泰の裾を掴みながら、美咲は今にも泣きそうな声で言う。
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145話

「どうした?」「私、何もしてないの……」「え?」 美咲の発言に、ふたりは顔を見合わせる。嫌な予感がした。「暴れたりしてないのに、薬で無理やり眠らされるの……。それにね、院長先生は私に……」美咲はそこまで言うと口を噤み、わぁっと泣き出した。「美咲!」 弘泰は美咲を肩を抱き、彼女をベッドに座らせる。美咲は弘泰に抱きつき、幼子のように泣きじゃくる。「ありがとう、美咲ちゃん。辛かったね、怖かったね。美咲ちゃんも助けられるように頑張るから」 千夏が美咲の手を握りながら言うと、彼女は何度も頷いた。「弘泰、ここ任せていい?」「おう」 弘泰の返事を聞くと、千夏は院長室へ向かった。ドアをノックすると、色香のある返事が聞こえてくる。中に入ると長い黒髪をアップにまとめ、ワインレッドのメガネをかけた美女が、デスクに座ってパソコン業務をしていた。右目元にある泣きぼくろが印象的なこの知的美女こそが、東堂精神科病院の院長、東堂紫織だ。「どちら様?」 紫織は千夏を一瞥するとパソコンに目線を戻しながら聞く。「笹塚法律事務所の本条千夏です。単刀直入に言います、末安成也さんを解放してください」 千夏の言葉に、紫織はキーボードを叩く手を止めて千夏をじっと見据える。鋭い目線に顔を背けたくなるが、負けじと見つめ返す。「おかしなことを言う弁護士さんね。まるで私が監禁でもしてるみたいじゃない」「みたい、じゃなくて、実際にしてますよね?」「証拠はあるのかしら?」「あなたが末安さんに危害を加えていると証言してくれる人がいます」「それは誰かしら?」「あなたには言いません。末安さんを解放してください」 千夏がもう一度成也の解放を要求すると、紫織は小さく吹き出した。「何がおかしいんですか?」「解放も何も、彼は重篤患者なの。そろそろ行かなきゃ。大事な会議があるの」 紫織は資料を小脇に抱えると、千夏を押し退けて院長室を出ていった。「あーもう、私ったら何してるの!」 今になって自分の行動が迂闊だったことに気づき、自己嫌悪に陥って頭を抱える。もしかしたら成也が違う部屋に移されるかもしれない。それだけならまだいいが、違う場所に監禁されるか、最悪、彼に危害が加えられるかもしれない。 どんどん悪い方へ考えてしまい、胸が苦しくなる。立っているのも辛くなり、壁に手をついて身体を支え
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146話

 千夏が出ていくのを、ショートカットのナースが不安げに見つめていた。千夏が曲がり角を曲がると、ナースは院長室に侵入する。 パソコンに駆け寄り、震える手で暗証番号を入力すると、”コレクション”というフォルダを開く。そこにはたくさんのポルノ写真や動画があった。美咲や成也のあられもない姿も収められている。「こんなこと、終わらせなきゃいけない」 ナースはUSBメモリを差し込み、コレクションフォルダをコピーする。 床にボストンバッグが置いてあるのに気づいたナースは、恐る恐るチャックを開けた。中にはおびただしい数のアダルトグッズが入っている。悲鳴を上げそうになるのをこらえ、ポケットからスマホを出して写真を数枚取ると、USBメモリを回収して院長室から出ていった。 その晩、紫織はボストンバッグを肩にかけ、美咲の病室に入った。消灯時間はとっくに過ぎていたが、物音に気づいた美咲は起き上がって紫織を睨みつける。「弁護士さんに余計なことを言ったのはあなたね? 言い逃れをしようとしても無駄よ。あの弁護士が出入りしたのは、この病室と特別室だけだっていうのは、監視カメラで分かってるんだから」 紫織が咎めるように言っても、美咲は無言で睨みつけるだけ。「はぁ、困ったわね。こんなに熱心に治療をしてるのに、悪い子ね。そんなに私の治療が嫌い?」「あなたがしてることは治療なんかじゃない。私に酷いことをしていた人達と一緒。ううん、それ以上に最低」 紫織は美しい顔を怒りで歪ませ、美咲の頬を平手打ちする。目を丸くして見上げる美咲を押し倒し、手錠をかけて服を脱がせる。「余計なことを言っただけじゃなくて、そんな反抗までするのなら、キツい治療が必要ね」 氷よりも冷たい紫織の顔と声音に、美咲は悲鳴を上げることすらできない。 紫織はベッドにボストンバッグを開け、電極クリップを出した。「さぁ、治療を始めましょうか」 狂気に満ちた紫織の笑みに、美咲は震えることしかできなかった……。
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147話

 2時間後、紫織はぐったりした美咲の服を丁寧に整える。「明日は薬でずっと眠っててもらうわ。夜になったらあなたは錯乱した末に、飛び降り自殺をするのよ」 紫織は怯える少女に残酷な死刑宣告をすると、ボストンバッグを持って病室から出ていった。「やだよ、死にたくないよ……」 ベッドの上で丸まり、美咲はすすり泣く。 高校を卒業して、友達と卒業旅行がしたい。留年してしまったのでかつての友とは無理でも、今すぐにでも学校に行って新しい友達を作りたい。人並みに恋をして、幸せな家庭を築きたい。SNSで見かけたスイーツだって、まだ1つも食べていない。 18歳の少女には、やり残したことが数え切れないほどある。だというのに、理不尽な死がすぐそこまで迫っている。 千夏に話をしなければよかった? 自分がずっと紫織の陵辱に黙って耐えていればよかった? あの時ひとりで夜道を歩かなければ、男達に暴行されることも、こんな病院に入院することもなかった? 次から次へと後悔の念が押し寄せ、到達してはならないところまで来てしまった。 そもそも私が生まれなければよかった? そう思ってしまった瞬間、負の感情が溢れ、涙腺が決壊する。「なんで、なんで私ばっかこんな目に……」 顔を覆って泣いていると、ドアが開く音とこちらに近づいてくる足音が聞こえてきた。 もういっそ、紫織が短気を起こして今すぐ自分を殺してくれたほうがよっぽどいい。殺されるのに怯えながら過ごすなんてまっぴらごめんだ。 美咲はパニックを起こし、ヤケになっていた。 痛みを覚悟して顔を覆ったままでいると、誰かに抱きしめられた。甘いフローラルな香りとぬくもりが、美咲を徐々に落ち着かせてくれる。「茜ちゃん……?」 美咲がたどたどしく名前を呼ぶと、ショートカットのナースは自分の顔が彼女に見えるよう、少しだけ身体を離した。「大丈夫、あなたは死なせない。私に考えがあるの、よく聞いて」 そう言ってショートカットのナース、荻原茜《おぎわらあかね》は、美咲の耳元に口を寄せた。
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148話

 翌朝、虚ろな目をした美咲の病室に、上機嫌な紫織が来た。「あなたのこと、とても気に入ってたんだけど残念だわ。危険なおしゃべり人形は邪魔だもの」 そう言って紫織は美咲に麻酔を投与した。美咲はそのままゆっくり目を閉じる。 午前10時、千夏と弘泰は病院に来た。ナースステーションに行くと、茜が駆け寄ってくる。「美咲ちゃんのお兄さん、私も今から美咲ちゃんの病室に行くので一緒に行きましょう。そちらの方はお友達ですか?」「あぁ、荻原さん。そう、千夏は友達です。千夏、この人は美咲の担当ナースの荻原さん。いつもよくしてくれるんだ」 弘泰は柔和な笑みを浮かべ、千夏に茜を紹介する。「はじめまして」「はじめまして、美咲ちゃんのお見舞いに来てくれる人が増えてとても嬉しいです。では、行きましょうか」 言葉とは裏腹に、茜の表情はかたい。 彼女が成也のことで何か知っているような気がした千夏は、どう探りを入れようか考えながら一緒に病室へ行った。 病室に入ると、美咲は今にも泣きそうな顔をしてベッドに座っていた。「どうしたんだ? 美咲」「お兄ちゃん……、私、院長先生に殺されちゃう。余計なこと言ったから殺すって……」 美咲は震える両の手で、弘泰の腕を力強く握った。「あの女、お前に何を……」「それについては、私が話します」 重苦しい声でそう言ったのは、茜だ。3人の視線が、茜に集まる。「荻原さん、どういうことだ?」「これを見てください」 茜は手紙用の封筒を弘泰に差し出す。弘泰は封筒を受け取ると、中にある写真を出して見た。千夏も写真を覗き見て、悲鳴を上げそうになるのを、両手で口を覆ってなんとかこらえる。「なんだよ、これ……」 写真に写ってるのは美咲よりも幼い少女で、全裸にされて手枷をつけられ、色白の裸体に真っ赤な蝋を垂らされている写真だ。他の写真も見てみると、性的暴行をされている美男美女が写っていた。「東堂先生は、気に入った患者を長期間この病棟に閉じ込めてこんなことをしてるんです。他にも……」「お前! 今までずっと見て見ぬふりしてたのかよ!? なんのための医者だ、なんのためのナースだ!」 茜の言葉は、弘泰が彼女の胸ぐらを掴んだことによって中断させられた。怒りで顔を真っ赤にした弘泰は、我を忘れて茜を罵る。いつ手を上げてもおかしくない。「弘泰落ち着いて!」「う
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149話

「本当か?」 弘泰が手を離すと、茜は咳こみながら首を縦に振る。「院長があんなことをしてるのに気づいたのは、半年前です。尊敬している先輩がクビになったのがきっかけでした。先輩は院長が患者に性的暴行をしているのに気づいて、それを問い詰めてクビになったんです。それで、私はこの半年、証拠集めをしていました。院長のパソコンの暗証番号を知るのに時間がかかってしまいましたが、証拠はそのパソコンの中にあります」「この写真は、パソコンの中にあった写真ですか?」 千夏の問いに、茜は大きく頷いた。「そうです。昨日院長とあなたが院長室から出ていった後、こっそり忍び込んでUSBメモリにコピーしたんです。今まではいつ戻ってくるのか分からなくて、怖くてこんなことできなかったんですが、弁護士さんと院長の会話で、院長が会議に行くと分かったので実行したんです」「まさか聞かれてたなんて……」 自分の浅はかすぎる詰問を聞かれていたと思うと、恥ずかしくて顔が熱くなる。「荻原さん、末安さんは今どうしてるか分かります?」「末安さんは、まだ特別室に監禁されています。ですが、院長の性格からして、明日には違う場所に連れて行ってしまうと思うんです」「なら、チャンスは今夜だけということですか……」 千夏は集まった情報を整理しながら、成也と美咲を助ける方法を探す。(思い出せ、千夏。今までの事件全てを。きっと末安さんから学んだことだってあるはず。所長だって、色んなことを叩き込んでくれたんだ。どれが役に立つ? どれをどう応用する? 考えろ) 必死で思考を巡らせ、彼らを助ける作戦が組み上がる。(ていっても、ほとんど丸パクリだね、これは) 出来上がった作戦に苦笑すると、3人は怪訝な顔で千夏を見る。「こんな時に何笑ってんだよ」「ごめん、作戦思いついたの。きっとこれでうまく行く」 誰にも聞かれないようにと、4人で小さな円になり、小声で作戦会議を始めた。
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150話

 真夜中、紫織はヒールを鳴らしながら薄暗い廊下を歩く。彼女は今夜、美咲を殺す。(どうやって殺そうかしら? 刺すのはダメね、隠蔽工作に困っちゃう。違う、どうやって自殺したことにしようかしら?) そう考えるだけで自然と笑みが零れ、下半身がじんわりと熱くなる。 幼少の頃から、紫織は親に可愛がられてきた。「紫織は可愛いというより綺麗な子だね。綺麗なもので囲んで、もっと綺麗になろうね」 彼女の両親はそう言って美しいものを紫織に買い与え続けた。そして紫織も、自分を美しくするために美しいものしかそばに置かなかった。 友達もおもちゃも、見た目で選んでいた。 それは大人になった今でも続いており、自分のコレクション用の病棟まで作った。 屈辱と羞恥は、美しい者をより美しくする。そう信じてやまない紫織は美しい患者を入院させ、辱め、彼らが屈辱と羞恥で頬を染め、苦痛に歪むのを見てうっとりしていた。 だが屈辱と羞恥よりも、美しい者をより際立たせるものを、彼女は知ってしまった。 死である。 散る花が美しいように、息絶えていく彼らはとても美しい。そう思ってしまった。 特に自分の手の中でじりじりと命の火を燃やし、息絶える姿は紫織に絶大なエクスタシーを与え、絶頂へ導いてくれる。 恐怖と絶望で潤んだ瞳は、紫織にとって最高の媚薬だ。「考えただけで濡れてきちゃうわ」 息を荒くし、タイトスカートの上から太ももを擦ると、美咲の病室に入った。 美咲はベッドの上で仰向けになり、ぼんやりとした目で天井を見上げている。この美しい少女を今から自分の手で殺せると思うと、喘ぎ混じりの吐息が零れる。(この子でこんなに興奮するなら、成也を殺す時、どうなっちゃうのかしら? 新しい子を見つけて殺すのもアリね) 愛しい美青年のことを考えながら、美咲の頬に触れる。美咲は小さく身体を跳ねさせると、恐怖で瞳を潤ませた。「最期の1日はどうだったかしら? っていっても、ずっと寝てたものね。いい夢は見られた?」 美咲は質問に答える代わりに、静かに涙を流す。紫織はその涙を赤い舌でチロリと舐めとった。
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