「それだけお金使ってたら、そりゃ有名になりますよね……」「リリィが有名なのは、それだけじゃない。今もいんのかなー、アイツ。シュウっていうホストがいたんだ。俺がいた時はナンバーワンだった。リリィの担当はシュウだったんだよ」 シュウの名前を口にした途端、成也の表情が一瞬だけ曇り、声のトーンが少しだけ下がった。千夏はこの僅かな変化を見逃さなかった。「口ぶりからして、そのシュウって人はろくでもない人だったんですね」「はははっ、ご名答。シュウは女達をATMとしか思ってないし、売上上げるためならなんだってする。シュウにすっかり入れ込んだリリィは借金地獄に落ちて、闇金にまで手を出したって噂もある。それで、今じゃ高級デリヘルで働いてるってわけ」 夜の街の闇にゾッとし、千夏の表情はますます暗くなる。「やっぱりホストって怖いですね」「遊び方を知らない人が悪いホストに騙されちゃったらね。さてと、話変えるけど、リリィが来る頃になったら、先生はトイレかお風呂場に隠れてて。この部屋に死角があったらよかったんだけど、ないからさ。流石にベッドの下に隠れさせるわけにもいかないしね。リリィが部屋に入って鍵を締めたら合図するから出て」「本当に急に変わりましたね……。分かりました、そうします」 成也の作戦を聞きながら、いよいよかと気を引き締める。相手は一般女性とはいえ、騙し討ちのようなやり方は気が進まない。どうしても緊張するのと同時に、少しの罪悪感を抱いてしまう。「そろそろ隠れたほうがいいですかね」 千夏は腕時計を見ながら言う。時刻は7時50分、リリィこと奈津子が来るまであと10分しかない。「そうだね、隠れてて」 風呂場へ行こうとしたがくもりガラスだったため、トイレに隠れることにした。便器の蓋を閉めてその上に座り、腕時計をじっと見る。 52分になると、ノックの音が聞こえた。続いて成也がドアを開ける音も聞こえてくる。 千夏は意外だと思いながら耳を澄ませた。風俗嬢は時間にルーズなイメージがあったため、こんなにはやく来るとは思わなかった。「リリィです、よろしくね」 甘えるような声は、写真で見た奈津子と一致しない。本当にあの河合奈津子なのか確認したい衝動にかられるが、じっと我慢する。
Last Updated : 2026-06-02 Read more