数日後—— エリカ・パートナーズの社長室に、小刻みに震える足取りで桐島典子が足を踏み入れた。 彼女の手には使い古されたボストンバッグが一つ、大事そうに抱えられている。その中には、先祖代々の故郷の山林を悪徳ブローカーに買い叩かせて得た数十万円と、親戚中を騙して、かき集めた数百万円——彼女の人生に残された正真正銘の全財産が詰め込まれていた。「絵里香……約束通り、お金を持ってきたわよ。これで私も、また本物のセレブに戻れるのね?」 典子はすがりつくような目で、デスクの奥に座る娘を見つめた。 雨の夜に裏路地へ放り出された恨みなど既になかった。目の前にある「億万長者」という幻想のチケットを掴むためなら、彼女はすべてのプライドを捨てる覚悟だった。「ご苦労様、お母さん。さすがね」 絵里香はソファから立ち上がり、優雅な足取りで典子に近づくと、その手からボストンバッグをあっさりと受け取った。「ちょうど良かったわ。明日の調印式のパーティ代と、私が着るオートクチュールのドレス代として、今日どうしても動かせる現金が必要だったの」「ええ、ええ! あの一条隼人が私たちに土下座する日も近いわね! 明日のパーティ、私も最高の服を着ていくわ!」 典子は狂喜の笑みを浮かべ、歓喜の涙を流した。自分が娘の巨大なビジネスパートナーとして認められたのだという、至上の喜び。 しかし、絵里香はバッグの中身を確認すると、氷のように冷ややかな目で母親を見下ろした。「……何言ってるの? お母さんは来ちゃ駄目よ」「え……?」 典子の顔に張り付いていた笑顔が凍りついた。「言ったでしょ。私のブランドに前科者の母親が関わるなんて、イメージに傷がつくのよ。明日、私がサインさえすれば、白鷺銀行から何十億って本融資が振り込まれるんだから。そうしたら、このお金は百倍にして返してあげるわ。だから、それまでは今まで通り、その辺の安アパートで大人しく待ってて」 絵里香にとって、これは騙し取ったわけではない。「明日になれば何十倍にもして返せるのだから、今日だけ都合よく使わせてもらう」という、底なしの勘違いと傲慢な自己正当化だった。「そ、そんな……! 話が違うじゃない! 私を一人にしないで!」 典子は血相を変えて絵里香にすがりつこうとしたが、背後に控えていた屈強な警備員たちに両腕を掴まれ、強引に社長室のドア
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