一条本社ビル、地下の保護施設。 黒幕の名を口にしかけて凍りついた樹は、あの一言以来、貝のように口を閉ざし続けていた。恐怖に支配された男から無理に言葉を引き出そうとすれば、かえって沈黙を固くするだけだ。俺はひとまず矛先を変えることにした。「絵里香のいる部屋へ行って、樹の取り調べ音声を聞かせてやれ。俺はモニター室から繋ぐ」 俺の指示を聞き、凜が険しい表情のまま頷いた。「兄さん、本当にあの女に聞かせるんですか。あれを聞いて壊れない人間はいないと思いますが」「壊れてもらわなければ困る。樹に守られる価値など、あの女には最初からない——それを自分の耳で理解させてやる」 結衣の誕生日を平気で踏みにじったあの女に、これ以上の温情をかける理由はどこにもない。俺はモニター室へ足を向けた。 隔離房のモニター越しに絵里香の姿が映し出される。壁にもたれ、焦点の合わない目で虚空を見つめていた。かつて祝賀パーティーのステージで人々の視線を独占していた女の面影は、もうどこにもない。「絵里香、お前に聞かせたいものがある」 俺の声に絵里香がのろのろと顔を上げた。「……何よ。今さら私を笑いに来たの」「笑いに来たわけじゃない。お前が今も信じているものを壊しに来ただけだ」 凜がタブレットを操作し、取り調べの録音を再生する。感情の抜け落ちた樹の声が、狭い房に響き渡った。『絵里香? ああ、五人目の駒だよ。金づるが太かったから、少し長く飼っただけだ』「……嘘よ」 絵里香の唇が震えた。「こんなの切り貼りした音声に決まってる。樹くんは私だけを本当に愛してくれてた……!」「それなら、これも切り貼りだと言うのか」 凜がタブレットの画面を切り替える。四人の女性の顔写真が並んだ。アパレル、美容クリニック、飲食チェーン、輸入雑貨——いずれも野心的な女性経営者だ。積み上げてきた経歴、そして成り上がろうとした野心の形が絵里香自身と恐ろしいほど重なり合っている。「過去七年間、樹はまったく同じ手口で、まったく同じ立場の女を渡り歩いてきた。お前はその五人目に過ぎない。特別でもなんでもない、ただの獲物だ」 絵里香の顔から表情が抜け落ちていく。震える指先が写真の一枚——自分と瓜二つの経歴を持つ女の顔に触れた。「私は……特別だって……頂点に立てる女だって、そう言ってくれた……」「あいつが興味を持
Read more