All Chapters of 愛人を孕ませた婚約者に捨てられましたが、初恋の寡夫公爵に溺愛され始めたら元婚約者が狂いました: Chapter 21 - Chapter 30

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第20話 ~ドミニクSide~ 戸惑いと動揺 

 私やチェザーレ達の心配をよそに、幼かった少女は一生懸命に淑女教育に励み始めた。 蛹が蝶になっていくみたいに美しく成長していく……ティナが13歳くらいの時に、ある日突然私への呼び方を変えたいと提案してきたのだ。  「小さい頃のようにおじ様って呼び続けるのも失礼な気がして……ドミニク様って呼んでもいい?」 「え?あ、ああ…………ティナがそう呼びたいなら全然良いんだけど……なんだか照れるな」 「こっちの方がお外でも呼びやすくていいの!」  そういうものなのか……と思いつつ、突然名前で呼ばれるとドキッとするものだな。 おじ様って呼ばれると親戚のような感じがして、私としては距離が近くて嬉しかったんだけど。 しかし呼び方は変わっても、ヴァッセル家に顔を出すと相変わらずの微笑みで迎えてくれる。  彼女の笑顔を守りたかった……そんなある日、ヤヌシュが心無い言葉でティナを傷つけているのを見てしまう。  「君がお子ちゃまだから、つまらないんだよ。会ってもだんまりだし、見た目も子供くさくて……僕が他に楽しみを求めるのは当然だろう?それに公爵家の跡取りとして、こういう経験もしておかないとね」   公爵の思惑はともかく、もしヤヌシュとティナが将来的に上手くやっていけるようなら見守る事も考えていいのではと思っていたが……結局ヤヌシュは、ティナと婚約出来た幸運にも気付かずに彼女を蔑ろにし始めたのだ。 しかも自身は女遊びをしている事を匂わせながら。 仮面をつけて男女が入り乱れるような夜会にヤヌシュが参加している事は、もはや社交界で知らぬ者はいないほど広がっている。   その夜会への招待状を誰が出しているのかも知らずに。      全て私の計画通り。  しかし全て順調に見えた計画にも1つだけ落とし穴がある事に私は気付かず、とても戸惑う事になる。 それは私のティナへの気持ちの変化に他ならない。      それは突然訪れる。彼女が16歳の時、私の名前入りの刺繍が施されたハンカチを私の誕生日に贈ってくれたのだ。 ハンカチは愛の贈り物。 淑女教育を真面目に受けていた彼女が意味を知らないとは思えない。 私の名入りのハンカチという事にも面を食らってしまい、さすがに受け取ってはいけないと頭で警鐘が鳴っている。 しかし彼女が心を込めて
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第21話 ~ドミニクSide~ 愛の形・久しぶりの兄弟と胸騒ぎ 

 散々走り回って裏庭にあるガゼボで、やっと愛しい人の姿を見つける。 しかしその顔は悲しみで染まり、ガゼボで俯きながらハラハラと涙を流していた……あんな男の為に泣く必要なんてないのに。 しかし不謹慎にも私の胸の中は、喜びで溢れていた。 彼女が無事に婚約破棄を了承したからだ。 これでティナはフェンデルバーグ家から解放され、あの男の思惑を挫く事になる。 ようやくティナに相手がいなくなった喜びを噛みしめながら、とめどなく涙を流す彼女を慰めた。 その日から数日後、ヤヌシュとの婚約解消は承認されたという連絡が伯爵家から届いたが、その連絡には続きがあって、ティナが修道院に行くべきか迷っていると書いてあったのだ。  「どうしてそんな事を……?せっかく婚約解消したのに、ティナが私から去ろうとしてしまうなんて……絶対に回避しなくては」  君を貶めて不躾な言葉を投げつけてきた不誠実な男に、ティナが思いつめる必要などないのに。 修道院に逃げ込まれるくらいなら、今すぐにでも私のものにする。 決意を胸に、急いでヴァッセル伯爵家に飛んで行くと、ちょうどエントランスホールにはティナがシュミーズドレスを着て歩いていたので面を食らってしまう。 恐らく部屋着なのだろう……薄くて柔らかいシュミーズドレスから覗く肌はピンク色に色づき、サラサラのホワイトブロンドの髪の毛は艶がありながらもゆったりと揺らめいて、これが屋敷で過ごす彼女の普段の姿なのだと思うと、心臓が高鳴って止まらない。 すっかり固まっていた私は、ハッと我に返り、ティナに駆け寄った。   「ティナ、チェザーレから聞いた。修道院に行きたいって言っているって」 「え、お父様から?あの、その話は」  やはり動揺している。 なぜ私が知っているのかと思ったのだろうな……チェザーレの話は本当なのか。   「早まってはいけないよ。君が修道院に行く必要なんてない」 「ドミニク様、私は……」  彼女が何かを言おうとしていたけど、修道院に入りたいなどという最悪の言葉を絶対に聞きたくなくて、遮るように伝えた。   「もしどうしても修道院に行きたいと言うなら……私の妻になればいい」 「え?」  そしてそこへチェザーレや夫人もやってきて、二人とも固まっている。 私はどうやら順番を間違えたらしい……まずはチェ
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第22話 ※~ドミニクSide~ 初デートの熱は衝撃の事実によって溶けて 

 フェンデルバーグ公爵やヤヌシュがヴァッセル家を訪れてから、彼らがまた来たという知らせはチェザーレから届いていない。 今のところ大人しくしているようで安心だが、連絡も入れずにのうのうと訪れるような者たちだ、またいつやってくるか分からない。 早めに結婚をしてティナを私の邸に住まわせた方がいい気がしていた。 単純に私が彼女とずっと一緒に過ごしたいだけかもしれないが。    しかしその前に恋人としての時間もほしかった私は、彼女を観劇に誘い、快い返事をもらったのだった。      婚約者としての初デート……こんなに胸が高鳴るものなのか。   彼女との初めては全て素晴らしいものにしたい。 そう思っていた私に兄上が素晴らしい席を用意してくださったので、使わない手はないだろう。 元王族としての力を存分に発揮する事にした。 高鳴る胸を抑えながらティナを迎えにヴァッセル家へ行くと、その時の彼女の反応も可愛くて可愛くて……親友の屋敷でなければその場で抱きしめ、観劇に行くのを止めて部屋に閉じ込めてしまっていたかもしれない。 劇場に着いてからも美しい建物に目をキラキラと輝かせて感動している姿に、何度も兄上に感謝の気持ちが湧いてきたのだった。    席に座って飲み物を頼むと、お酒が得意ではないティナが私のワインに興味がありそうだったので、ワイングラスを渡してみる。   「少し飲んでみるかい?」 「あ、はい。うーん……あまり美味しいとは言い難いかも」  物凄い渋い顔をして美味しくないと言う顔が可愛すぎて、大笑いしてしまう。 こんなに正直な令嬢もなかなかいない。 それ故に、真っすぐで純粋な彼女が乱れていると、とても興奮してしまうのだ。 この日も観劇を一緒に楽しもうと思っていたけれど、私が口をつけたワイングラスに彼女の唇が触れる瞬間に釘付けになり、あの唇に早く触れたくなってしまう。   とれたての果物のようなの瑞々しい唇。   観劇もそっちのけで、彼女の唇に釘付けになる……そんな私の視線に気付いたティナが、顔を赤らめた。 私の視線に照れてはにかむ彼女が愛おしい。 いよいよ堪らなくなって、ティナを引き寄せて口づけをする。  この瑞々しい唇は私のもの……私だけのものだ。  個室に来る前、彼女の元婚約者であるヤヌシ
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第23話 ~ヤヌシュSide~ 奪われる人生から救ってくれた真実の愛 

 フェンデルバーグ公爵家の跡取り息子として生を受けた僕は、ヤヌシュと名付けられ、何不自由なく育った。 母親がいない事を除いては。 生まれてすぐに母上が病死し、姉上が母親代わりで僕にたっぷり愛情を注いでくれたので、母がいなくて特に寂しいという感情はなかった。 しかしその最愛の姉は、僕が4歳くらいの時にオーレンブルク公爵に嫁いで公爵家からいなくなってしまう。 嫁ぐ時も行かないでと散々ぐずって大泣きし、とても悲しかった事だけはよく覚えていた。   そしてその姉は、結婚生活2年で帰らぬ人となる。   父上から告げられた時は、父上が何を言っているのか理解出来なかった。死ぬ?死ぬってどういう事?父上に繰り返しそう聞いていたらしい。 あまりにうるさく聞いてくる僕に対して、もう二度と会う事は出来ないという事だとだけ説明され、絶望したのを覚えている。 当時6歳くらいだったので、正直人が死ぬという事への理解が追い付いていなかった部分もある。 でも二度と会えないと言われれば、それがどれほど悲しいかくらいは理解出来た。    父上が姉上の葬儀の時、オーレンブルク公爵に嫁いだから早死にしたと嘆いていて……嫁がせなければよかったと言っていたのを聞いて「公爵が悪いの?」と聞いた僕に父上は「そうだ」と吐き捨てた。 姉上はあんなに素晴らしい人だったのに。 どうして守ってくれなかったのか。  僕は、彼に対して沸々と怒りがこみ上げてくる。  この時から僕にとって、オーレンブルク公爵は大切な人を奪った人間という認識になった。    でもその時の僕は小さくて何をどうする事も出来ないし、ひとまず自分で整理し切れない気持ちは考えないのが一番だと思い、極力考えないように自分の気持ちに蓋をする。 しかしその仄暗い気持ちは僕の中で消える事はなく、密かに留まりながら着実に根付いていく事となる。  ~・~・~・~・~      10歳になる頃に僕にも可愛らしい婚約者が出来た。 彼女の名前はクリスティーナ・ヴァッセル。 ヴァッセル伯爵家の一人娘で、美しいホワイトブロンドをなびかせて、頬を赤く染め、僕の心を一瞬でとらえた。 僕の初恋だ。 二人でお喋りしている時間もかくれんぼしている時間も、一緒に本を読んでいる時間も全て楽しくて、僕は彼女に夢中にな
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第24話 ~ヤヌシュSide~ 父上の誤算と魔女の子孫 

 王家主催の夜会でクリスに会って婚約破棄を言い渡すと、思いの外すんなりと了承を得る事ができ、僕とナタリアはとても喜び勇んで公爵家へと帰っていった。 まずは父上に報告をしなければいけない。   「お義父様は喜んでくださるかしら……不安だわ」   馬車の中では隣同士に座り、僕の胸に顔を埋めて不安な気持ちを抑えるかのような彼女の姿が愛おしく感じ、少しでも安心させようと肩を抱いた。  「大丈夫だよ、父上も僕の子供がお腹にいると分かれば必ず認めてくれるだろう。なんと言っても公爵家の血を引く子供なんだから」 「そうですわね、ヤヌシュ様のお子ですもの。孫ができたと喜んでくれますわね」 「うん」  ナタリアは僕の言葉に穏やかな表情になり、馬車の中は穏やかな空気に包まれた。 しかし邸に着き、父上の前にナタリアを連れて行くと、父上が見た事もないほどに顔を歪める。  「なんだと?ヴァッセル家の娘と婚約を破棄してきた?しかもその女のお腹にはお前の子供がいる、だと……それは、本当の事なのか?」 「は、はい」   てっきり喜んでもらえると思っていた僕はナタリアと顔を見合わせると、彼女の瞳が不安そうに揺れているのでこのままではいけないと考え、父上に彼女との結婚を直談判した。  「父上、僕の為に幼い頃にクリスティーナとの婚約を結んでくださったのは感謝しておりますが、僕はナタリアという本当に愛し合える人を見つけたので……」 「この大馬鹿者がっ!!!」  僕が言い終わらない内に父上の怒声が邸中に響き渡る。 こんなに声を荒げた父上を見たのは人生で初めてで、あまりの剣幕に僕もナタリアも硬直して立ち尽くしてしまった。 父上は普段は威圧感があるものの、声を荒げたりすることは滅多にない。 ここまで荒ぶる姿を見るのは姉上が亡くなった時以来かもしれない。  「何を勘違いしておる……お前のためだと?結婚というのは家の為であろう!この婚約がどれほどの意味を持っているか、お前は何も分かっていなかったという事か!!」  僕には父上の言葉の意味がまるで分からなかった。 この婚約の意味?父上が激高するほど重要な意味があったというのか? ヴァッセル伯爵家は莫大な財を築いているので、その家との繋がりを持てば僕が当主となる時も安泰……理由はそんなものだろうとぼんやり
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第25話 ※~ヤヌシュSide~ 焦りと劣情 

 「クリス、僕は君を諦めないよ。また前のように仲良くなれるように頑張るからっ!」  オーレンブルク公爵が伯爵邸に乗り込んできて僕からクリスを奪い、分が悪くなったクリスに自分の想いを告げ、伯爵邸を後にした。 そしてその足ですぐにナタリアの元へ向かう事にしたのだった。 父上に告げられた事を彼女にも伝えなければならない。 もし駄々をこねるようだったら別れるしかないのかな……いや、まだ利用価値はあるかもしれない。 彼女が住んでいる子爵邸は王都から少し離れてはいたが、こじんまりとした質素な邸だった。 何度か訪れた事があるけれど全て夜だったので、あまりまじまじと見た事はなかったが、我が公爵邸に比べると相当見劣りしてしまうのは否めない。 夜会の度に美しいドレスを身に纏っていたのに、どこにそんな資金があったのかと思えるほど、見るからに貧乏な貴族といった感じの邸だったのだ。 公爵家の財産目当てだとは思いたくない……でも様々な可能性を考えながらナタリアと対面する。  「ヤ、ヤヌシュ様!どうしてこんなところに?!連絡をいただければこちらから行きましたのに……」   ナタリアはいかにも邸に来られて気まずい顔をしている。 自宅にはあまり来てほしくなかったようだな。  「……ごめんね、急いで伝えなきゃいけない事があって」  そうして僕は父上に言われた事を端的にナタリアに告げる。 伝えている最中からみるみる彼女の顔色が変わっていくのが手に取るように分かった。  「……だからナタリアを正式な婚約者として迎える事はまだ出来ないんだ、ごめん」 「そ、そんな……私の子供は連れて行かれてしまうのですか?」 「…………たとえ男でも嫡男として育てる事は出来ない。君の家は身分が低いし。だからと言って黙って生ませる事も出来ないんだ」  公爵家として災いの種になりそうな芽を野放しにしておく事は危険だと、父上には釘を刺された。 そこまで考えていなかった僕は衝撃を受ける。 子供はこちらで引き取るかあるいは…………僕の心を読んだかのようにナタリアは激昂し、僕に食ってかかってきた。  「では私は何の為に子供を生むのです?!公爵家に迎えられる事もなく、子供は奪われ、何も得るものはないのでは、あんまりです!!」   ”得るもの”やっぱりそういう話になるのか。 お金や地位目当
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第26話 王宮舞踏会

 ――――コンコン―――― 「お嬢様、オーレンブルク公爵閣下が到着なさいました」 「ありがとう、リジー。すぐに行くわ」 今夜は王宮で舞踏会が行われる日なので、ドミニク様の婚約者として一緒に出席する為に、一生懸命支度をしているところだった。  今日のドレスはハイウェストのエンパイアラインのスカート……オフショルダーから覗くイリュージョンレースのロングスリーブが腕をスラリと見せてくれている。 ドミニク様と並んで歩くので、少しでも大人なデザインにしたくて、ピンクなどは使わずにベージュから水色のグラデーションの布地にしたり、ジュエリーにもドミニク様の髪色を使って落ち着いた色味にしたりと頑張ってみたのだった。 今日こそは私がドミニク様を出迎えようとエントランスホールに行くと、すでに待っていて、私を見つけて階段に駆け寄ってくれる姿に喜びを隠しきれない自分がいた。 「ドミニク様、お待たせして申し訳ございません」 「ティナ……今日もとびきり美しい君をエスコート出来て、この上ない喜びだよ。私のプリンセスだ」 「プリンセスだなんて、大げさですわ。でもありがとうございます、ドミニク様もとっても素敵……」  私は、いつもの調子でスマートな褒め言葉を贈ってくれるドミニク様に、舞い上がってしまいそうになる自分を窘める事に精一杯だった。 私のプリンセスだなんて変に期待してしまう気持ちが湧いてきて、ちょっぴり苦しい。 でも少しくらい愛されてるって思うくらい、いいわよね――――心の中でそんな葛藤をしながら、彼に導かれるまま王宮へと出発したのだった。 ~・~・~・~・~ 王宮に着くと、すでに沢山の貴族の方々が集まっていて、舞踏会が始まっている様子だった。 会場に私達が現れると、ホール中の貴族がザワザワし始める……やっぱり私達の婚約は噂の
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第27話 自分のなすべき事

 「ヤヌシュ……!来ていたのね」 「王宮で行われる舞踏会だからね、公爵家の者が来ないわけにはいかないよ。そう言えばこんなところに君を一人で残しているとは、公爵閣下は愛しの婚約者を放ってどこにいるの?」 愛しの婚約者だなんて、私の心を抉るような言葉を言われ、胸が苦しくなってしまう。 もちろんヤヌシュは、ドミニク様が今も奥様を想っている事や私たちが愛し合って婚約したわけではない事を知らないのだろうから、普通に言っただけなのだろうけど。 私にはとてつもないダメージを与える言葉になっていた。  「……ドミニク様はご友人方に挨拶に回っているわ。私はたくさん踊って暑かったから涼みたくて自分からバルコニーに来たの。決して彼が私を放っているわけでは……」 「ふん、あんなに大切そうにしておきながら、この体たらく……僕だったらずっとそばにいてあげるのに」 私はヤヌシュの言葉に驚き、固まってしまう。 ヤヌシュと婚約している時、あなたが私の隣りにずっといてくれた事などなかったじゃない。 それとも私が魔女の血を受け継ぐ者だと分かったから、今度こそ離れないとでも言いたいの?  隣でずっとヤヌシュにしな垂れかかっているナタリア嬢は、私たちのやり取りを見ながらクスクスと笑い、こちらに嫌な笑みを向けていた。 どうしてこの状況で笑っていられるのだろう……自分の愛する人が他の女性に話しかけている場面なのに。 私はナタリア嬢には同情の気持ちすら持っていた。 観劇の時もヤヌシュはナタリア嬢にとても失礼な態度だったし、私が婚約者の立場だったらいたたまれなくて帰っていたかもしれない。 でも彼女はあの時も今もまったく意に介している感じがないのだ。  二人の様子に酷い違和感を感じていると、ヤヌシュが畳みかけるように衝撃の言葉を伝えてきたのだった。
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第28話 ※オーレンブルク公爵邸へ

  「……ごめんなさい」 「ティナが謝る事はないよ。君を長い時間一人にしてしまった私の責任だ」 責任。 ドミニク様は責任感が強いお方だものね。子供のような私の事もお守りのようなものだったのかもしれない。 今はどうしても頭の中が整理しきれなくて、悪い方向へと考えてしまう。 一旦ドミニク様と距離を置いて、冷静になった方がいいかもしれない。 「私、飲み物を取ってきますわね。ドミニク様はこちらで待っていてください」 なんとか笑顔を張り付けて下手な理由を探し、この場を離れようとした。 でも―――― 「ティナ」 私の手をつかみ、こちらに訴えかけるような真剣な眼差しを向けてくる。 さっきの話を聞いた後なので嫌な予感しかしない。 婚約破棄をされた後、私が修道院に行くだなんて言わなければ、ドミニク様が私と婚約しようなんて言う必要はなかったのよね。 あの時の自分の軽はずみな発言に、今さらながら後悔の念がやってくる。 ヤヌシュの言葉が呪いのように頭を駆け巡っていく。 『君はきっと後悔する事になる』 ドミニク様をおじさんだなんて思った事は一度もないけれど、彼との年の差がこんな形で重くのしかかってくるとは。 あのご友人の仰る事はとても正しいわ。 親友夫婦の大切な娘だもの、責任感の強いドミニク様は放っておけないに決まってるわよね。 それに私は前の奥様と全く違うタイプだったとは……もうそれだけで私を一番に愛してくれる可能性なんてないに等しい。 考えれば考えるほど、自分の存在は彼にとって足枷になっているような気がして涙が溢れて止まらない。 「……ティナ、どうしたんだい?何かあったのかい?」 これ以上心配させて同情させては
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第29話 ※長い夜の始まり

 「うそ……だって、ドミニク様の中にはずっと、ずっと奥様が」 「君には、いや誰にもこの話はした事がないから、皆が今でも亡くなった妻を求めていると思っているのだろう。君と婚約するまではその方が都合が良かったからそのままにしておいたけれど、やっぱり夜会ともなると周りが色々言ってくるものだなと今日実感した。先に君へ伝えておけば良かったと後悔したよ」  私はドミニク様の口から告げられる事実に頭が追い付いていかなかった。 あれほど奥様を失ってショックを受けていた彼を知っているからなおさら……旅行に行くのも奥様の影響ではないの? 「私とテレージアは幼馴染で、政略結婚だったんだ。君とヤヌシュ君のようにね……私は誰にも恋愛感情を持てずにいたのに、周りが身をかためろとうるさくてね。王位継承権も持ったままだから、我が娘をとすすめてくる諸侯が後を絶たなかった。そんな時、幼馴染で家柄としてもちょうどいいフェンデルバーグ公爵の娘であるテレージアとの縁談話を公爵が持ちかけてきたんだ」 「フェンデルバーグ公爵が……本当に私とヤヌシュの時みたい」 ドミニク様は私が知らない事実を次々と告げてくる。 テレージア様に身分違いの恋人がいた事。お互いに結婚していると都合が良かった事。親友のような関係で女性として見た事は一度もなかった事。  「私は自分の家族やテレージアを見て、人を愛する事は怖い事だなと感じ、愛する人が欲しいとは思っていなかった。それなのに――――君は私の中にいとも簡単に入り込んでくる」 「ドミニク様?」 私の顔をジッと見つめた後、髪にキスをしてくる。 顔を上げたドミニク様の瞳は穏やかだけれど、切なさと熱が入り混じっているように見えて、私は目が離せない。 そのままベッドにポスッと押し倒される。 彼の行動に驚き、瞬きをしながら彼の言葉を待つしかなかった。  「ティナ、まだ分から
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