優と沙羅が、互いに一歩も引かない臨戦態勢を保つなか。ひかるは一人、鏡の中の自分を見つめていた。病室の洗面台。白く無機質な光が天井から降り注ぎ、鏡に映る顔色をいっそう淡く見せている。頬は少し痩せ、唇の色も薄い。事故に遭う前の自分とは、明らかに違っていた。けれど――瞳の中の輝きだけは、まだ消えていない。女優として、何度も修羅場をくぐり抜けてきた者だけが持つ、強い光。ひかるは、その目をじっと見つめた。「……私……」声にすると、自分でも驚くほど弱かった。こんな顔をする自分を、ひかるは知らない。撮影現場では、何が起きても動じなかった。どれほど難しい演技を求められても、カメラの前に立てば役に入り込めた。カメラが回っている間、世界から余計なものは消える。音も。人の気配も。照明の熱さえも。すべてが役の中に溶けていく―――。それが、久遠ひかるだった。なのに………あのときは違った。視線が揺れた。集中力が途切れた。そして、恐怖が入り込んできた。なぜ?何が、自分をあれほど怯えさせたのか。ひかるは蛇口に手をかけ、水を少しだけ流した。細い水音が、静まり返った室内に広がる。落ち着くための、いつもの癖だった。水の音を聞きながら、ひかるはゆっくりと目を閉じる。焦ってはいけない。思い出そうとすればするほど、頭の中が白くなる。記憶は、追えば逃げる。だから、静かに………。水面をなぞるように、撮影中に目に入った何か……。セット。照明。スタッフの影。違う。もっと鋭い何か。ひかるの眉がわずかに動いた。「金属のこすれるような音……それから……!?」その瞬間だった。目が見開かれ、小さな声が漏れる。耳の奥で、あの音が蘇った。キィ……。硬質なもの同士が触れ合う、不快な音。撮影現場の雑音とは明らかに違う。もっと細く。もっと鋭く。神経を直接引っ掻くような音だった。「……あ……」胸が詰まる。呼吸が浅くなる。そして――。白い光。閃光のような白い光が、目の前に広がった。その瞬間、恐怖が襲ってきた。ひかるは思わず洗面台の縁を掴んだ。指先が冷たい。震えている。「……白……」頭の中に、その色だけが強く残っていた。白。視界を焼き切るような白。逃げ場を失わせるような白。そして――沙羅の白いワンピース。病室
Read more