朝。 ひかるは、静かな部屋でコーヒーを淹れていた。 仕事がある日も、ない日も、朝の過ごし方は変えない。 生活のリズムを崩すと、心まで引きずられることを、彼女はよく知っていた。 スマホの通知が震える。 業界ニュースの速報だった。 《Kurosaki Creative Works 内部混乱か 関係者の大量退社》 一瞬、指が止まる。 だが、画面を閉じるのも早かった。 ——関係ない。 そう、自分に言い聞かせる。 俊哉の会社のことは、もう自分の人生とは交わらない。 そう決めたはずだった。 それでも、胸の奥がわずかにざわつく。 俊哉に対する同情ではない。 まして、未練でもない。 Kurosaki Creative Worksでは、少なくとも二年、事務員として二年は働いていた。ひかるは、そこで過ごした二年間を思い返していた。 肩書きは事務員。電話を取り、資料をまとめ、請求書を作る――それが表向きの仕事だった。 けれど、デスクの向こう側では、いつも別の世界が動いていた。 企画会議室では、プランナーたちが深夜までホワイトボードを埋め尽くし、 営業担当はクライアントからの無理な要望を抱えて、疲れた顔で戻ってくる。 制作進行のスタッフは、納期に追われながら外注先と電話をつなぎ、 デザイナーは無言でモニターに向かい、コピーライターは原稿用紙を睨みつけていた。 当時は、部署と呼べるほどきっちり分かれてはいなかった。 皆が同じフロアで、曖昧な役割のまま、がむしゃらに仕事を回していた。 ――今なら、きっと違う。 ひかるが会社を辞めてから、業務は拡張したはずだ。 企画専門のチームができ、営業部が独立し、制作進行やWeb、SNS運用の部署も生まれているだろう。 経理や総務も専任が置かれ、あの頃は一人で抱えていた雑務も、分業されているに違いない。 自分は、たった二年、事務員としていただけだ。 それでも―― あの場所で、働く人たちの背中を見ていたことだけは、確かだった。 大量退社ということは、あそこに居た人たちが、皆、退職してしまったということだろう。ひかるは一瞬だけ寂しそうな顔をしたが、 「戻れない場所を、思い出しただけ」 ひかるは、小さく呟いた。 俊哉の家で、彼の帰りを待ちながら、床を磨き、洗濯をし、 自分の仕事は「邪魔
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