スタジオの奥で、シャッター音が止んだ。 張り詰めていた空気が、ふっと緩む。「今日は、ここまででいい」 カメラマンの一言で、スタッフが静かに動き出す。 相沢玲奈は何も言わず、肩にかけていたタオルを取り、鏡の前に立った。 モニターに映る、自分の姿。 ライトを浴び、完璧に作り込まれているはずなのに、どこか鈍く見えた。「……正直さ」 背後から、カメラマンの声が落ちる。「彼氏と、やりすぎなんじゃないか?」 玲奈の指が、わずかに止まった。「体のライン、前と違う。崩れてきてるぞ」 責める調子ではなかった。 仕事としての、冷静な指摘。 それが、かえって胸を抉る。(……俊哉のせいだ) そう思った瞬間、腹の奥が熱くなる。「……気をつけます」 絞り出した声は、自分でも分かるほど硬かった。 スタジオを出ると、外の空気がやけに重い。 携帯を取り出すまでもなく、誰からの連絡もないことは分かっていた。「……最悪」 吐き捨てるように呟いた、そのとき。「玲奈!」 聞き慣れた声。 だが、今日は異様に荒れている。 振り返ると、黒崎俊哉がスタジオの入口に立っていた。 息が上がり、目だけが落ち着きなく動いている。(……また、何の用よ) 玲奈の胸に、苛立ちが一気に込み上げた。「何しに来たの」 吐き捨てるように言う。 俊哉は、一瞬だけ躊躇したように視線を彷徨わせ、それから言った。「話がある。どうしてもだ」 その視線が、玲奈ではなく、スタジオの奥を探していることに、彼女はすぐ気づいた。(……あの女に?) 答えは、分かりきっている。「今じゃなくてもいいでしょ」「今じゃなきゃダメなんだ!」 声が荒れ、スタジオの壁に反響する。「また、あの女の金の話?」 玲奈の声には、怒りが滲んでいた。 今日、体のラインが崩れたと言われたのも、 仕事がうまくいかなくなっているのも、すべてこの男のせいだと思えてならない。「そうだよ!」 俊哉は一歩踏み出し、叫んだ。「どうしても、ひかると、金の話をしたいんだ!」 その声は、抑えきれず、通りへと漏れ出した。 ちょうどその頃―― 撮影を終えた藤崎 優は、スタッフと別れ、スタジオの外に出たところだった。「……今の、何だ?」 足を止める。 男の叫びと、聞き覚えのある名前。(ひかる……?) 同
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