All Chapters of アジアンロマンス ~私を平気で裏切ったあなたには、最高の罰で償ってもらいますから~: Chapter 61 - Chapter 63

63 Chapters

第61話 救われた命

意識がブラックアウトした。少したった。周囲が明るくなり、気が付いた。 「あれ?私、生きてるわ」 気づいて、生存を認識した。つまり意識が私の体に戻っていた。 「こんなことって、あるのかしら?ちょっと信じられないわ」 芙楽に刺されたからこそ、意識が肉体から飛び出したのではなかったか? そこに芙楽も、天馬も、槍もなかった。すべてが消えていた。あの走馬灯の主役たちは、何だったのだろう。 私は屋敷の廊下に倒れていた。まだ起き上がれないが、体はわずかに動く。呼吸もできる。手で顔や体を触ってみた。顔。体。健康そのもので傷一つない。 結果的に、私は命拾いをした。代わりに、私を殺そうとした郭貴妃が倒れていた。うつ伏せの状態で倒れていた。彼女の背中には大きな傷があった。その傷から、大量の血が流れていた。一方の竜光皇子は口から血を吐き、ゆっくりと膝をついた。目を見開いていた。郭貴妃に折り重なるようにして、竜光皇子も倒れた。 私は殺されると思っていたけれど、私の代わりに二人の悪い親子が絶命した。 もしや──。幻である透明な芙楽は私を刺さずに貫通し、向きを変えて郭貴妃と竜光皇子を槍で突き刺し、あの世へ送ったのか。そうかもしれない。そうとしか言いようがない。私は凶器を持ってない。私が二人を殺したわけでないのは明白だ。二人は「私の守護神」に殺されたのだ。そんな風に自分を納得させた。 「芙楽様。ヒナを守ってくれて、本当
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第62話 緑の着物

女官ヒナとして、まだ生きていける。私は安堵した。幻の芙楽の助けで、女官として生かされた。その先、芙楽が私の前に現れる機会はなかった。前世で彼を裏切った形なのに、死んだ彼は私を咎めなかった。不思議なもので、「私を平気で裏切ったあなたには、最高の罰で償ってもらいますから」という呪縛の言葉も、二度と頭に浮かばなかった。引き続いて王宮の仕事を続けた。李妃の部屋で着替えを手伝っていたとき、李妃からこんな風に言われた。「ヒナ。いくつになったの?」「私ですか? 十八です」「そう。今が女としていちばんいい頃ね。魅力的よ」「ありがとうございます」「その着物、ヒナに上げるわ」「え?この緑の着物でございますか」「そうよ。それ、もう飽きてしまったわ」「本当によいのですか」「いいわよ。私からの贈り物よ。明日暇を上げるから、町にそれを着て行くといいわ」「承知しました。ありがとうございます」私は李皇貴妃の着替えを手伝いながら、心の中はうれしさで一杯だった。李妃からいただいた緑の着物を大事に畳んで小脇に抱え、仕事の合間に配房で袖を通してみた。青銅鏡を立てかけた。鏡の向こうに映る、着物を着たもう一人の私。とてもきれいだった。すごいわ。これが私のなのね。みすぼらしい普段の着物とは全然話にならない。まるで格が違う。豪華でいて上品な女性に見せてくれる着物。うれしくて涙ぐんだ。親に見せてあげたい。一生ものの衣装だ。「これを着て、明日町を歩くのね。うれしいわ。天に舞い上がりそう」有頂天になり、その場で軽く飛び跳ねた。着物を大事に畳んで配房のタンスの抽斗に丁寧にしまった。とてもうれしくて、気分のいい状態は長く続いた。頼んでおいた自分の洗濯物を取りに、ある部屋へ向かった。その部屋に着いた。部屋で自分の着物を受け取った。部屋を出た。洗濯物を手にして配房に帰る途中だった。廊下を歩いていた。向こうの角に皇帝がいた。年老いた皇帝は背中を丸め、何かを眺めている。庭に舞い降りたのは、先日の鳥だ。「皇帝は長らくペットとして、隼という名の鳥を飼われている。そんな風に聞いていたわ。じゃあ、あの鳥が隼なのね」皇帝は隼を腕に止まらせ、パッと腕を上げた。空に舞い上がった隼は空を一直線に切り裂き、あっという間に高みへ上昇して見えなくなった。私はな
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第63話【最終話】 アジアの長い物語

気づくと私は伸びていた。そこはベランダの手前。床に仰向けになり、白い天井が見えた。床の先の掃き出し窓は開いていて、冷たい風が入り込む。風は乾いてとても冷たい。起き上がって、窓を閉めた。「こ、これって……」そこは前前世の私の家。梅本香里の住む家だった。その当時の記憶が今、つながった。前の晩、夫の浮気が原因で夫とケンカをした。翌朝、互いに無視したままで朝の支度をした。夫がUSBメモリを忘れ、そこでもひと悶着。嫌な夫が出社し、やれやれとラジオをかけ、紅茶を飲んでほっこりした。「そうよ。ラジオと洗濯物」ラジオの音がようやく耳に入った。「今朝、こんなニュースが飛び込んできましたね。一月八日の午前七時半。ついさっきです。都内のビル工事現場で強風が吹きました。強風によって看板が落ち、下を通る歩行者の体に当たりました。リスナーの皆さん、くれぐれも風の強い日は気を付けてくださいね。歩行者はケガをしましたが、警察によると軽傷とのことです。では、ここで音楽のリクエストをかけましょう──」そうよ。このDJの声。このラジオを聴きながらベランダに出た。洗濯物を干そうとして、鳥が額にぶつかった。今、たしかに元の体に戻っている。梅妃や女官ヒナとして生きた記憶も残っている。そして、始まりと終わりのきっかけを作ったのは鳥。鳥が額にぶつかって気絶した経緯もはっきりと覚えている。「どうして、気絶して昔の中国王朝なんかでロマンスを経験したのかしら?」ひとり呟いても、だれにも時空の旅を説明できる人はいないだろう。あちらの経験は膨大な量の事件や思い出に基づいていた。それは心に深く根を張っていた。「ま、いいわ。危ない目に遭ったけど、ちょっと得した気分ね」異世界に転移と転生したのは事実であり、その事実は夫には緒にしておこう。私はほくそ笑んだ。床に落ちている洗濯物を拾い上げ、物干しざおに丁寧にかけた。干しながら、しみじみとあの思い出や出会った人物たちを思い返した。あんな経験、お金を払っても、そうそうできやしない。中世あたりの中国王宮。その第二夫人に転移して、豪奢な暮らしを堪能した。皇帝に抱かれ、純粋なロマンスにうっとりした。悪い召使の計略にはまり、罪を犯した。そして、地下牢に投獄された。救出され、召使のクーデターは失敗。悪い奴らは死んだ。生活
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