「それでさ。いま、王宮はたいへんなのよね」すっかりおばさんモードだ。おばさん同士の井戸端会議のノリで、私は相手を前に喋った。「ふむ。王宮がそんな風に混乱しているのですか。私はまるで知りませんでしたよ」相手は目を丸くした。「内輪の話だから、外へ漏れないのかもしれないけどさ。ちょっとしたスキャンダルよ。いま、こうしてあなたに喋るように、いずれ世間にも知れ渡るわ。王宮の世継ぎ争いの醜さが」目の前にいる崙伖は、お茶の器を握ったまま、ようやくそれに口をつけた。ゆっくりと茶を啜った。ここは、以前利用した茶楼である文人崙伖とこの場所で落ち合った。今夜の夕食は抜いてもらった。一人お忍びで、町まで足を伸ばした。「たしかに皇帝の位を狙おうとする人物が複数出てくるのは分かるし、興味深いですね。私の書く白話小説の題材に採り入れてみましょうかね」「そうよ。それ、いいわ。絶対に面白くて売れるわよ。何せ、現実ですら、ときに汚い、ときにあざとい言動が雅な王宮でまかり通るのよ。派閥が三つもあって、互いが牽制し合う。その力学で王宮の未来に黄色のランプが灯ったとかさ」「はて?黄色のランプとは?」崙伖は首を傾げた。「あ……、ああ。言い間違えた。黄色のランプじゃなくて、何て言うの? 危険な状況を味方に知らせる灯りのようなものって」「それを言うなら、天灯でしょうな。夜間に味方へ危機を伝える灯籠です。空へ飛ばす灯籠なので天灯と呼ぶのです」崙伖は文人らしく意味を解説してくれた。「さすが博識ね。その天灯よ。王宮の未来に暗雲が垂れ込め、危機を告げる天灯が夜空に放たれた。そんな場面って、小説に描いたら盛り上がるんじゃない?」「はい。それはもう書きがいがありますよ。次の次くらいに、それを使わせてもらいますよ」崙伖は懐からくしゃくしゃになった雑紙を出し、それを丁寧にテーブルの上に広げた。携帯している袋から出した筆で、言葉をサササッとメモした。こんなに興奮して喋る美女を前にして、文人というのは如才なく会話をかわし、隙あらば自らの仕事にいかそうとする。ある意味で尊敬に値する。「私もね。こう見えて、皇帝のお子を産んだのよ。獅雷皇子と名づけたわ。獅雷皇子はね。竜光皇子や双渦皇子よりも優秀なの。キリリとした眉に可愛らしい口元で、こう言うの。『この名前はなに?』とか、『どうして空は青いの?』
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