夜が明けたあとも、リリアーナの胸の奥には、前夜の涙の熱がそのまま残っていた。 泣いたあとの朝は、いつも少し変だ。まぶたは重く、頬の皮膚は薄く張りつき、喉の奥にはまだ泣き声の擦れが残っている。鏡の中の自分は、腫れをどうにか抑えたつもりでも、よく見れば一目で分かる顔をしていた。誰かに「昨夜は眠れましたか」と尋ねられたら、その瞬間に崩れそうな顔。 けれど、それでも朝は来る。 侯爵邸の朝は、前世と同じように静かだった。 磨かれた廊下。 遠くの食堂からほとんど音を立てずに運ばれる銀器。 暖炉に足される薪のかすかな音。 窓の外で、枝先を揺らす春前の風。 美しく整っているのに、どこか人の体温が薄い。 前世のリリアーナは、その静けさが怖かった。 今のリリアーナは、その静けさの意味を少し知っている。 整えられたものは、時に守りでもあり、時に人を孤独にする檻でもある。 朝一番に運ばれてきたのは、薄いスープと、柔らかく煮た果物、それに蜂蜜を落とした薬湯だった。エマは何も聞かず、ただ主人の手元へそれらを静かに整える。昨夜、どれほど泣いたかも、何を聞いたかも、踏み込まずにいる。その慎重さがありがたく、同時に、余計に涙を誘いそうだった。「少しだけでも」 エマがそう言って、スープの匙を手元へ寄せる。 リリアーナは頷いた。 昨日よりは、食べなければいけない気がした。 体を起こしておかなければ、きっと今日の話を最後まで聞けない。 話。 そうだ。まだ終わっていない。 前夜、セドリックは「最初から愛していた」と告げた。 リリアーナは泣いた。怒った。 知っていたなら生き方が変わっていた、と嗚咽した。 でも、それで全部が尽くされたわけではない。 どうして言わなかったのか。 どうしてあんな十年になったのか。 そこにはまだ、彼が口にしきっていない部分があると分かっていた。 愛していた。 でも黙っていた。 その間に何があったのか。 そこを聞かなければ、きっと前へ進めない。 スープをひと口飲み込む。 温度が喉を通る。 玉ねぎの甘みと少しの塩気。 ちゃんと味が分かる。 それだけで、少しだけ現実へ戻ってこられる気がした。「お嬢様」 エマが静かに言う。「侯爵様より
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