エマと一瞬目が合う。 来ると思った。 いや、本当は来ないほうがおかしいのかもしれない。 父が静養の許しを出した以上、その話は遅かれ早かれ侯爵家へ届く。 そして彼は、近頃ほとんど異様なほど自分の動きに敏い。「通しておいて」 「どちらへ」 「小応接室で」 「かしこまりました」 家令補佐が去る。 部屋に沈黙が落ちた。 エマが、そっと尋ねる。「どうなさいますか」 「会うしかないでしょう」 「お荷物は」 「そのままでいいわ」 言ってから、自分でも少し驚いた。 隠そうという気が起きなかったのだ。 以前なら、旅支度を見られることに抵抗があったかもしれない。 けれど今は違う。 隠せばそれだけ、こちらが後ろめたいみたいではないか。 リリアーナは箱の中身を一度だけ見下ろした。 実用的なドレス。 薬草本。 母のスカーフ。 装身具はごく少ない。 どれも王都の華やかな夜会には似つかわしくないものばかりだ。 それが妙に頼もしく見えた。 * 小応接室へ入った瞬間、セドリックの視線がこちらを捉えた。 前にも同じことを思った。 彼の視線は近頃、以前よりずっと鋭い。 ただ冷たいのではない。 何かを見逃すまいとしている目だ。 それが時に、鋭さを越えて執拗さに近づく。「来てくれてありがとう」 低い声。 いつものように落ち着いている。 けれど目だけが違う。 彼はまず、リリアーナの顔を見て、それからほんの一瞬だけ、その背後の扉の向こうを測るように視線を流した。 部屋に残した旅支度の箱のことを、彼はまだ見ていない。 でも、何かが動いていると気づいている目だった。「何の御用ですか」 「聞いた」 「何を」 「西へ行くと」 まっすぐだった。 遠回しな探りではない。 だがその直截さが、逆に喉の奥を少し硬くする。「ええ」 「本当に行くのか」 「そのつもりです」 「いつ」 「まだ日取りは詰めていません」 「詰める気はあるんだな」 「あります」 そこで初めて、セドリックの顔から温度が引いたように見えた。 冷たくなったというより、内側の何かがきしんでいるのを、表面の静けさで押さえ込んだ時の顔だ。「一月ほどだと聞いた」 「話が早いのね」 「伯爵から聞い
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