ローレンスが別の封書を開いて机へ置いた。 そこには見慣れた、角の丸い女文字が並んでいた。継母の筆跡だ。香油の薄い匂いまで、紙の端へまだ残っている気がした。 ――娘はまだ侯爵家の機嫌を損ねてはおりません。ですが、妙な正義感で寄進の帳面などを覗くことが増え、婦人会の方々にも余計な問いを投げております。 ――刺激せず、騒がせず、自然に静かになるのが一番かと。 ――少なくとも、婚姻の体面が崩れるような事態だけは避けたく存じます。 自然に静かになる。 その婉曲さに、リリアーナは逆に寒気を覚えた。 殺してくれ、とは書かない。 消してくれ、とも書かない。 ただ、“自然に静かに”とだけ書く。 その曖昧な言葉の先で、誰かがどう解釈するかなど、初めから分かっていたくせに。「前世の君は、都合が悪くなった」 セドリックの声が、ひどく低くなる。「実家にとっても」 「……」 「母にとっても」 「……」 「そして商会にとっても」 リリアーナは目を閉じた。 自分の死が、一人の明確な悪意だけであれば、どれほどまだ分かりやすかっただろう。 だが違う。 父の打算。 継母の保身。 義母の流用。 商会の利害。 そのどれもが“自分だけは汚れたくない”顔をしたまま、少しずつ噛み合ってしまった。 だからこそ、止める者がいなかったのだ。「君はその頃、何度か父へ金の流れを尋ねている」 「……覚えているわ」 「慈善会計の帳面も見ていた」 「ええ」 「そして、私にも会おうとしていた」 リリアーナは目を開けた。「私が?」 「そうだ」 セドリックはさらに一枚の紙を差し出す。 侯爵邸側の面会記録だった。日付は前世の襲撃の二日前。短く、こう記されている。 ――奥様付き侍女より、旦那様へ私的面談の願い。 ――旦那様ご不在につき保留。再調整の要あり。 リリアーナの呼吸が止まりそうになる。「私……あなたに会おうとしていたの」 「そうだ」 「どうして、知らなかったの」 「記録が止められていた」 「誰に」 「母の側近の手で。私の目に入る前に別箱へ移されていた」 「……」 「君は、実家へ逃げる前に、まず私へ話そうとしていたらしい」 その事実が、今度は違う痛みで胸を刺した。 話そうとしていた。 あの頃の自分は、完
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