「続けろ」「ありがとうございます。侯爵家は現時点では婚約に前向きに見えます。ですが、それは我が家がまだ“従順な伯爵家”だからです」「……」「ところが婚姻後、我が家は必ず侯爵家へ便宜を求めます。商会との関係、鉱山権、穀倉担保、その先には恐らく北方の林業権にも手を伸ばすでしょう」「林業権……?」 マリアンヌがぽかんと呟く。リリアーナはそちらを見ない。前世で父は確かにそこまで手を伸ばした。侯爵家の名を使えば、通常より有利な交渉ができると踏んだからだ。そしてセドリックはそれを拒み続け、そのたびに伯爵家からの圧は自分へ向かった。『お前は何のために嫁いだ』『一つくらい役に立ちなさい』『可愛がられていないなら、そのぶん交渉しなさい』 あの文面が、今も脳裏に焼きついている。「それらを拒まれた時、我が家はどうなりますか」「……」「侯爵家との関係は悪化します。わたくしは板挟みになります。実家は不満を募らせ、侯爵家は煩わしさを募らせる。結果として、我が家は侯爵家の庇護も信頼も失う」「憶測だ」 父がようやく言った。だが声音はさきほどほど強くない。「憶測ではございます。けれど、十分にあり得る未来です」「どの婚姻にもあり得ることだ」「いいえ。少なくとも、この婚約では確率が高いはずです。なぜなら我が家には既に資金面で焦りがあり、侯爵家にはそれを救える力があるから」 そこでリリアーナは一度、言葉を切った。紅茶はもう冷えている。喉が渇いていたが、今は飲まない。ここで緩んではならない。「お父様。率直に申し上げます」「何だ」「わたくしは、この婚姻が“娘の幸福”のために整えられたものだとは考えておりません」「当然だ」 父は吐き捨てた。「家の婚姻とはそういうものではない」「ええ。ですから同じ理屈でお返しします。家の婚姻ならば、感情ではなく損得で考えるべきです」「……」「そのうえで、この婚約は危険です」 リリアーナは父の目をまっすぐ見返した。「ヴァレンティア侯爵家は我が家より格が上すぎます。救われる可能性より、切り捨てられる可能性のほうが高い」「切り捨てるだと?」「はい。わたくしがもし向こうで歓迎されず、夫からも距離を置かれたなら、我が家が侯爵家へ要求を重ねるほど、先方は“厄介な妻の実家”として伯爵家そのものを疎みます」「そのようなこと、まだ何
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