「1000円?」 腕時計を見ていた会社員が、驚きの声を上げる。「和牛のハンバーグが1000円? さっきタブレットでメニューを見た時は1800円だったぞ。元の値段も高くはないけど、1000円はお得すぎる」「オムライスもパスタも1000円ポッキリなの? すごくお得じゃない!」 母親客が嬉しそうに隣の友人に話しかける。 昨今の物価高を考えれば、都内で手作りの本格的な洋食が1000円で食べられるのは破格の安さだ。 ましてやハルナズ・キッチンの料理のクオリティは、すでに口コミで広く知れ渡っている。「それなら全然待つよ」「1000円札ならちょうどお財布に入ってるし、お会計も楽だね」「よかった、ランチ抜きになるかと思ったよ」 客たちの不満は、一瞬にして驚きと喜びに変わった。 フロアの空気は、ネガティブなものから完全にポジティブなものへと裏返った。 春菜は再び深く頭を下げた。「順番に口頭でご注文をお伺いいたします。お待たせして申し訳ありませんが、今しばらくお待ちください」 春菜が厨房に戻ると、木崎と田中がすでに新しい配置についていた。 メニューを3種類に絞り込んだことで、厨房の作業は極めて単純化される。「佐藤くん、オーダーが入ったら大きな声で読み上げて。私が伝票に書き留めるから。お会計は、入り口のカウンターに空のプラスチックケースを置くわ。1000円札か硬貨でいただいて、お釣りが出ないように協力をお願いしてちょうだい」「はい!」 佐藤がフロアに飛び出し、メモ帳を片手にテーブルを回り始めた。「テーブル2、ハンバーグ2つ!」 佐藤の大きな声が厨房に届く。「ハンバーグ2つ、入ります!」 春菜が伝票に書き込みながら復唱する。「ハンバーグ2つ、了解です!」 木崎が冷蔵庫から肉種を取り出し、手早く空気を抜いてフライパンに並べる。ジュワァッという心地よい音が響いた。「テーブル5、オムライス1つ、パスタ1つ!」
Read more