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捨てられ料理人は諦めない のすべてのチャプター: チャプター 111 - チャプター 120

168 チャプター

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「御堂社長。お待ちしておりました」 春菜がエプロンで手を拭いながらフロアに出ると、礼司は鷹のような目で木崎たちを観察した。 冷たい美貌の持ち主である彼は、目つきを鋭くすると本当に威圧感がある。「君たちが、新しいスタッフか。御堂だ」「は、はい。木崎と申します。以前は一ノ瀬でスーシェフを――」「経歴は聞いている。腕は春菜さんが保証しているのなら問題ないのだろう」 礼司は用意されたテーブル席に腰を下ろした。 木崎たちが一列に並ぶ前で、礼司は腕を組む。「型通りの面接をさせてもらう。君たちがこの店で働く条件はただ2つだ。料理の質を落とさないこと。それから」 礼司の視線が一層鋭さを増し、木崎たちを射抜いた。「彼女を傷つけるような真似は決してするな。過去の職場の因縁をここに持ち込むことも許さない。もし春菜さんに余計な負担をかけるようなことがあれば、即座に辞めてもらう。分かったか」 冷ややかなプレッシャーに、木崎たちは思わず顔を見合わせた。「もちろんです。俺たちは春菜さんの下で料理をするために来ました。前の店での出来事は、俺たちも不満こそあれ蒸し返すつもりはありません。ご迷惑をおかけするようなことは絶対にありません」 木崎が代表して深く頭を下げる。 田中や他のスタッフも慌ててお辞儀をした。(ちょっと、いくらなんでも威圧感が強すぎるんじゃないかしら。みんな怯えちゃってるじゃない) 春菜は苦笑いを浮かべて、助け舟を出すことにした。「社長、彼らは本当に信頼できる仲間です。心配はいりませんよ。それより試食の準備ができています。お持ちしましょうか?」 礼司は腕を解き、小さく咳払いをした。「ああ。頼む」 春菜は厨房に戻り、煮込み上がったラタトゥイユを小ぶりの白いココット皿に盛り付けた。 野菜の角が崩れず、オリーブオイルとトマトの水分がほどよく煮詰められて、とろみのあるソースになっている。 その隣には、メインとなる肉料理を用意した。 表面をカリ
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 礼司は銀色のフォークを手に取り、まずはラタトゥイユを口に運ぶ。 目を細め、ゆっくりと咀嚼した。「……野菜の甘みが際立っている。トマトの酸味が強すぎず、それぞれの野菜の食感がきちんと残っているな。オリーブオイルの香りもいい」「今の季節の野菜は水分が多いので、炒める段階でしっかりと火を入れて旨味を凝縮させました。旬の野菜ならではの味わいですね。こちらは期間限定メニューにする予定です」 次に礼司はナイフで鴨肉を切り分けた。 バルサミコのソースをたっぷりと絡め、口に入れる。 喉仏が動き、料理が胃の腑に落ちていくのが分かった。「皮目は香ばしく、肉はしっとりとしている。酸味のあるソースが、鴨の脂の重さを消している。ラタトゥイユとの相性も計算されているな」 礼司はフォークを置き、口元をナプキンで拭った。 彼の冷たい顔立ちがわずかに緩み、満足げな表情が浮かんでいる。「見事だ。どちらも新作として申し分ない」「ありがとうございます。木崎くんたちにも手伝ってもらって、より効率的に仕込みができるようになりました」 春菜がそう言うと、礼司はちらりと木崎たちを一瞥した。「……そうか。彼らの働きぶりにも期待しよう」 木崎たちは小さく息を吐き出し、安堵の表情を見せた。(なんだかんだ言って、ちゃんと認めてくれるんだから。遠回しな言い方ばかりだけど) 春菜はそろそろ、礼司の冷たい表情の下に隠された素顔に気づき始めている。 彼の優しさは分かりにくい時もあるけれど、いつも彼女を包んでくれるのだ。 春菜は空になった皿を下げる。 礼司は立ち上がり、上着のボタンを留めた。「では、私は会社に戻る。何か問題があれば、すぐに連絡するように」「はい。わざわざお越しいただき、ありがとうございました」 礼司は入り口へ向かって歩き出し、ドアのノブに手をかけたところで一度だけ振り返った。「無理はするなよ」 
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112:悪意の嫌がらせ

『ハルナズ・キッチン』の厨房には、朝から活気に満ちた熱がこもっている。 換気扇が低く連続的な音を立てて、ステンレスの調理台は磨き上げられて銀色の光を反射していた。 春菜は白いコックコートの袖をまくり、玉ねぎのみじん切りを炒めている。 フライパンの中でバターが溶け、甘く香ばしい匂いが厨房の空気に混ざり合った。「田中くん。そっちのポタージュの火加減、少し落として。底が焦げ付かないように木べらでしっかり混ぜてね」「はい、分かりました」 調理補助の田中が手際よく火力を調整した。「木崎くん。お肉の下処理はどこまで進んだ?」「豚ロースの筋切りは終わりました。今はハンバーグ用の合い挽き肉をこねているところです」 木崎は大きなステンレスボウルに向かい、手早く肉の空気を抜いている。 以前の店からの付き合いである彼らが合流して以来、厨房のオペレーションは嘘のようにスムーズになった。 春菜が細かく指示を出さなくても、彼らは次に必要な工程を予測して動いてくれる。 おかげで少し前に、御堂ホールディングスから借りた人材は本社へ戻すことができた。 彼らの本業はあくまでシステムエンジニア。いつまでもホール業をやってもらうわけにはいかない。 もっとも、本社へ戻ると決まった際のスタッフたちは、「もうハルナズ・キッチンのまかないが食べられなくなるのか……」とガッカリしていたが。 と。 春菜が炒め終えた玉ねぎをバットに移そうとしたとき、壁面に設置されたタブレット端末から電子音が鳴った。『新規の予約を受信しました。カレンダー情報を更新します』 AIの合成音声が短く告げる。 春菜は手をタオルで拭き、画面を指先でなぞった。「あら……」「どうしました、春菜さん?」 木崎が手を止めて顔を上げる。「大口の団体予約が入ったのよ。来週の火曜日から3日間連続で、ランチタイムに10名様」「10名様の3連続ですか。オ
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「よし。みんな、来週は少し気合を入れて仕込みをするからね。せっかくの大口のお客様だもの、最高の料理を出さないと」「了解です!」 スタッフたちが元気よく返事をする。 厨房の中は歓迎の空気に包まれ、彼らの顔にはやりがいのある仕事への期待が浮かんでいた。「それにしても3日連続で10人とはすごいね」 木崎と田中が話している。「それだけこの店の評判が高いんでしょう。10人規模となると、お祝いごとかイベントかもしれない」 彼らの話を聞きながら、春菜も内心で頷いた。(こんなに早く団体のお客さんがついてくれるなんて。毎日頑張って料理を作ってきた甲斐があったわ) 春菜は冷房の風を頬に受けながら、ディナー用の仕込みへ思考を切り替えた。 ◇◇  同時刻、レストラン『一ノ瀬』の厨房では、淀んだ空気が漂っていた。 床のタイルには油汚れがこびりつき、シンクには洗い物の皿が山積みにされている。 客席も薄汚れた様子で、人はほとんど入っていなかった。 かつての華やかな高級店の面影は、もはや見る影もない。「おい! このソース、焦げ臭いぞ。ちゃんと火加減を見ていたのか」 翔太が声を荒げる。フライパンを調理台に乱暴に置いた。 ガチャン! 耳触りな音が鳴る。「すみません……。でも、他のオーダーが重なっていて、手が回らなくて」 新人のアルバイトが申し訳なさそうに頭を下げた。「うるさい、言い訳をするな。言われた通りに動けないなら帰れ」「…………」 アルバイトのスタッフは口を閉ざし、逃げるように洗い場へ向かった。 木崎たち熟練のスタッフがごっそりと辞めて以来、一ノ瀬の厨房は崩壊状態にあった。 人手不足を補うために経験の浅いスタッフを急遽雇い入れたが、翔太の求めるスピードには全くついていけない。
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 梨沙は自分のスマートフォンを翔太の顔の前に突き出した。 画面には、写真付きのSNSの投稿が表示されている。『ハルナズ・キッチン、今日も大行列! ハンバーグが絶品すぎる』『何を食べても美味しい。お値段もお手頃だし、絶対にまた行く』『厨房が見えるんだけど、スタッフの連携が完璧。料理長の女性がかっこいい』 写真には、真新しい厨房で指示を出す春菜と、その後ろで働く木崎たちの姿がはっきりと写っていた。「あいつ……!? よりによって、俺の店からスタッフを引き抜いたのか!」 翔太の顔が歪んだ。「やり口が陰湿よね。借金を押し付けられた腹いせに決まってるわ! おかげでこっちは大赤字よ。このままじゃ、店を畳む羽目になるわね」 梨沙は不快そうに舌打ちをした。「ふざけるな。俺がこんなに苦労しているのに、あいつばかりが良い思いをするなんて許せない!」 翔太はスマホの画面を覗き込み、憎悪に目をギラつかせた。「そうね。私も同じ気持ちよ」 梨沙はスマートフォンの画面を見つめたまま、ふと口角を上げた。「ハルナズ・キッチンって、AIを使った完全自動の予約システムを入れているらしいわ。何でも御堂ホールディングス肝いりの事業で、試験店なんだとか。便利みたいだけど、融通が利かない部分もあるんじゃない?」「どういう意味だ?」「相手のシステムに、大量の予約を入れてやるのよ。架空の名前でね」 梨沙の提案に、翔太は目を見開いた。「無断キャンセルを狙うのか。でも、すぐにバレるんじゃないか?」「適当なフリーのメールアドレスと、でたらめな電話番号を使えばいいのよ。AIは予約が入れば、それに合わせて食材を自動で発注するはずだわ」「……なるほど。当日誰も来なければ、仕入れた高い食材が全部ゴミになるわけだ。売上も立たないし、大損害だな」 翔太の顔に暗い笑みが浮かんだ。 2人はスタッフルームのパソコンを立ち上げると、架空のアカウ
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 予約の時間は、すでに過ぎつつあった。もうじき15分になる。 テーブルにはグラスが並べられ、お冷の氷が溶けて水滴を落としていた。(あとはお客様が来店したら、料理を始めるだけなのに……) 春菜がタブレット端末を確認しようとした矢先、無機質な電子音が鳴った。『予約番号1024、10名様の無断キャンセルが確定しました。連絡先との通信はエラーとなります。食材のロスをシステムに計上します』 AIの音声が厨房に響いた。 春菜は手を止めて、画面を見つめた。「無断キャンセル……? 10名様の予約が?」 木崎が隣からタブレットの画面を覗き込んだ。「電話してみましょう。何かの事情で遅れているだけかもしれない」 しかしスマホを耳に当てた彼は、すぐに首を横に振った。「電話は存在しない番号になっています」 ホールから戻った佐藤も口を出した。「確かめましたが、メールアドレスも送信エラーで返ってきていますね」「そんな。じゃあ、最初から来るつもりのない予約だったの?」 田中が信じられないという顔で言った。「外にはあんなにお客様が並んでくれているのに。ひどいですよ」 春菜はタブレットの画面をスクロールさせた。「木崎くん。明日と明後日の団体予約の情報を出してみて」「はい……。あ、春菜さん。これを見てください」 木崎が指差した画面には、水曜日と木曜日の予約情報が表示されていた。「名前は違いますが、メールアドレスの文字列が不自然です。意味のない英数字の羅列になっています」「これは、偶然じゃないわね。明らかに嫌がらせよ」 春菜はエプロンのポケットから手を出し、調理台の縁を掴んだ。指先がわずかに冷たくなるのを感じる。 事前予約システムが裏目に出てしまった。(こんなアナログな方法で、システムの死角を突いてくるなんて)「嫌がらせ
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 春菜は小さく息を吐き、視線を上げた。大型の業務用冷蔵庫を見つめる。 中には、本日の10人分のコース料理のために仕入れた高級食材が眠っている。 美しいサシの入った和牛のブロック肉や、氷の上に並べられたオマール海老。産地直送の新鮮な夏野菜たち。 明日と明後日の分も、すでに業者が配送の準備を進めているはずだ。 システム上はロスとして計上されるが、それはそのまま店の大赤字を意味する。「どうしますか、春菜さん。食材の金額、かなりの額になりますよ。警察に相談しますか?」 木崎が不安そうな声で尋ねる。「警察への相談は後回しでいいわ。相手は使い捨てのアドレスと電話番号よ。今すぐどうにかできる問題じゃない」 春菜は冷蔵庫の取っ手に手をかけた。 冷たい金属の感触が、思考をクリアにしていく。「それよりも、今はこの目の前にある問題に対処する方が先よ」 扉を開けると、冷気が足元に流れ出してきた。 綺麗に下処理された和牛のブロック肉を取り出し、ステンレスの調理台の上に置く。(この子たちを腐らせるわけにはいかない。農家の人たちや漁師さんが、一生懸命育てて獲ってくれた命なんだから) 食材を前にして、春菜の頭の中で計算が高速で回転し始めた。(必ず美味しい料理に変えてあげなければ。そして、店に来てくれたお客様を笑顔にしなければ。それが私の仕事)「木崎くん、田中くん」 春菜は振り返り、スタッフたちに声をかけた。「この10人分の高級食材を使って、特製のテイクアウト弁当を作るわ。お昼の営業が終わったら、すぐに仕込みにかかってちょうだい」「テイクアウトのお弁当ですか? でも、こんな高級食材で弁当を作ったら、価格が……」「価格は下げるわ。原価ギリギリで構わない。目的は利益を出すことじゃなく、食材を無駄にしないことよ」 春菜はタブレット端末を引き寄せて、即席のレシピを書き出し始めた。「和牛は薄切りにして、甘辛いソースでサッと焼き上げる。オマール
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117:余りものの魔法

 ランチ営業の終了を知らせる木札をドアに掛けて、佐藤がフロアから厨房へと戻ってきた。 御堂ホールディングスから派遣されていた補助スタッフたちは、本社での業務のために既に引き上げている。 今店にいるのは、春菜と木崎たち3人のスタッフだけだ。 客のいなくなった静かな店内で、春菜は巨大な業務用冷蔵庫の前に立ち、腕を組んだ。「さて。参ったわね」 重いステンレスの扉を開けると、足元に白い冷気が流れ出してくる。 庫内の棚には、行き場を失った高級食材が所狭しと並べられていた。 美しい網の目のようなサシが入った和牛のブロック肉。クラッシュアイスの上に並べられた、黒光りする硬い殻を持ったオマール海老。産地直送の泥付きの夏野菜たち。 本来であれば、本日のランチタイムに来店するはずだった10名の特別コースに使われる予定のものだった。「明日と明後日の分も、業者がすでに配送車に乗せてしまっていたから、キャンセルの連絡が間に合わなかった。もうじき店に届くそうよ。合計30人分の高級食材が、丸ごと余ってしまった」 木崎がハンカチで額の汗を拭い、険しい顔をした。「10人分ではなく、30人分になってしまいましたか。テイクアウトの弁当で全て捌けるでしょうか……」 田中も言う。「これだけの高級食材です。30人分の原価となると、かなりの痛手です。これを全部ロスとして廃棄したら、オープンしたばかりの店の経営に大きく響きますよ」「ええ。だから、意地でも腐らせるわけにはいかない。食材を無駄にするなんて、料理人としてあってはならないこと。……だから今からこれを全部使って、特製のテイクアウト弁当を作るのよ。狙うのは今日の夕方、会社帰りの人たち」 春菜の言葉に、田中が目を丸くした。「30人分のコース食材を全部弁当に、ですか? ご飯や副菜でボリュームを出せば、50個から60個は作れますね。でも、こんな高級なものを弁当箱に詰めたら、値段が高すぎて売れないんじゃないですか」「赤字にならないギリギリのライン
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「佐藤くん。SNSでの告知文を考えてもらえる? ただし、悪意のある嫌がらせでキャンセルが出たから助けてください、みたいな同情を引く書き方は駄目よ」「えっ、そうなんですか? ネットだと、こういう困り果てた状態を訴えるエピソードの方が拡散されやすい傾向がありますけど」「そうかもしれない。でもお客さんはね、美味しいものを食べて幸せな気持ちになりたいのよ。レストランは楽しい一時を提供するためにある」 春菜はステンレスの調理台に置かれた和牛のブロック肉に視線を落とした。「お店のトラブルやネガティブな感情を押し付けられたら、せっかくの料理の味も落ちてしまうでしょう。ワクワクするような、思わずお店に来たくなるような、ポジティブな内容で書いてくれる?」「ポジティブ、ですか」「そうね。『諸般の事情により、和牛やオマール海老を使った特製スペシャル弁当を、本日夕方よりゲリラ販売します! 数量限定、お値段はポッキリ800円』なんてどうかしら」 800円という値段は原価ギリギリだ。 春菜や木崎らの人件費を本来の額で計算すれば、赤字になってしまうかもしれない。そのくらいの破格さだった。 それでも佐藤の顔がパッと明るくなった。「なるほど。それならプレミアム感が出ますね。お客さんも『ラッキー』と思ってくれそうです」「文章だけじゃ弱いから、食欲をそそる写真を添えましょう。木崎くん、お肉を1枚焼いて」「はい」 指示を受けた木崎が、鉄のフライパンをコンロの火にかける。 フライパンから白い煙がうっすらと上がったところで、厚めにスライスされた和牛が投入された。 ジュワァッ――という激しい音とともに、肉の脂が溶け出す甘い香りが厨房の空気を満たしていく。 春菜は赤ワインと醤油をベースにした自家製ソースを回し入れた。 ソースが熱で焦げて、香ばしい匂いが立ち上る。 春菜は自分のスマートフォンを取り出し、画面越しにフライパンの中を覗き込んだ。 肉の表面でソースが艶やかに光り、煮立つ泡が食欲を刺激する。(今だわ
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 撮影した写真を確認し、春菜は頷いた。「よし。佐藤くん、この画像を添付しましょう。……そうそう、これだけの数のお弁当を作る以上は、ディナーの仕込みは不可能ね。予約のお客様のみの対応にして、それ以外は臨時休業にします」「はい。臨時休業の件も付け足して、送信します」 佐藤の指先が画面を叩く。 ハルナズ・キッチンの公式アカウントから、特製弁当のゲリラ販売の告知がインターネットの海へと放たれた。 すでに人気店として数多くのフォロワーを獲得しているアカウントだ。 投稿直後から、スマートフォンの画面には通知のポップアップが次々と表示され始めた。「すごい勢いで拡散されてます。コメントも『仕事帰りに絶対寄る』『豪華すぎる』『これで800円!?』って」 佐藤が興奮気味に報告する。「反応は上々ね」 ちょうどその時、今日の配送便で追加の食材が届いた。 30人分の高級食材が載せられた調理台は、あふれんばかりの様子だ。 それらの食材の山を前に、春菜は号令をかけた。「さあ、みんな。時間との勝負よ。一気に仕上げましょう!」 春菜の声で、厨房の空気は一段と熱を帯びた。 ここからは怒涛の調理作業になる。「田中くん。ビスクスープの火加減に気をつけて。底が焦げ付かないように、しっかり木べらで混ぜてね」「はい。エビの出汁はしっかり出ています」 深い寸胴鍋からは、オマール海老の殻と香味野菜が溶け合った、芳醇な匂いが立ち上っていた。 春菜はまな板に向かい、ズッキーニ、赤パプリカ、黄パプリカを一口大に切り揃えていく。 包丁の刃がまな板を叩くリズミカルな音が厨房に響いた。 切った夏野菜にオリーブオイルと塩、タイムをまぶし、大型のオーブンに並べていく。 隣の調理台では、木崎が和牛を次々と焼き上げている。「春菜さん。和牛のタレですが、バルサミコ酢を少し足して酸味を効かせますか? お弁当だと冷めてから食べるお客さんも多いので、味がぼやけないよう
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