別の耐熱カップには、オレンジ色に輝くオマール海老のビスクスープが注がれる。 湯気とともに立ち昇る香りが、厨房のスタッフたちの胃袋まで刺激した。「よし。これで最後よ」 春菜が弁当箱のふたを閉めて、専用の紙帯を巻き付ける。 その頃になると、時計の針は午後5時を回っていた。 調理台の上には、予定していた数十個の特製弁当が山のように積まれている。「間に合ったわね、お疲れ様。さあ後はこれをしっかり売り切らないと」 春菜は額の汗をタオルで拭い、小さく息を吐き出した。 外からは、すでに人々のざわめきが聞こえていた。 ◇◇ 夏の夕暮れ時は西日がビルの谷間から差し込み、アスファルトに長い影を落としている。 ハルナズ・キッチンの店舗前には、すでに50人近い行列ができていた。 スーツ姿のサラリーマンや、オフィスカジュアルの女性たち。皆、一様に期待に満ちた顔で店舗の入り口を見つめていた。 春菜と佐藤がガラスのドアを開けて、販売用のテーブルを外に持ち出した。「お待たせいたしました! 特製スペシャル弁当の販売を開始します!」 佐藤が声を張り上げると、待っていた客たちから「わあっ!」と歓声のような声が上がった。 先頭に並んでいた、白髪交じりのサラリーマンが進み出る。「SNSの投稿を見て、会社から走ってきたんだ。完売しないかヒヤヒヤしたよ」「ありがとうございます。おいくつにいたしましょうか」「3つ頼む。実は妻と娘が、この店にずっと行きたがっていてね。いつも予約いっぱいで取れなくて、残念がっていた。今日の夕飯にこれを出したら、絶対に喜ぶだろうな」 男性の顔には、家族の笑顔を思い浮かべているような温かい表情が浮かんでいた。 春菜も笑顔を返した。「そう言っていただけて光栄です。お肉のタレがご飯に染みて、冷めても美味しく召し上がれますよ。スープは温め直してどうぞ」「ありがとう。帰るのが楽しみだ」
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