3人でリビングに行くと、秋明が紫苑を見上げる。「紫苑、あれを百合に渡してやれ」「はい、秋明」 紫苑は持っていたカバンから封筒を出し、百合の前に置いた。封筒は品の良いゴールドと白を基調にした上品なデザインで、臙脂色のシーリングスタンプが押されている。「これは?」「招待状だ」「招待状?」「来月、高級ブランドの新作や、財閥の新ブランドをお披露目する商業パーティーがある。お前は同席し、俺の良き妻を演じろ」「いよいよね……」 緊張で招待状を握る手に力が入る。これまで何度が良き妻を演じたことはあるが、どれも1時間以下の短い時間だ。パーティーとなると、数時間も彼の妻を演じなくてはならない。何より、そういった格式高い場所での振る舞い方を知らない。「今から緊張してどうする」「秋明様、奥様はそういった場には、きっと慣れていないでしょう。それに、秋明様との外出も。おふたりで小規模のパーティーに参加して、場慣れさせてはいかがでしょう」「それもそうだな。百合、お前はこういったパーティーの経験は?」「ホテルの会場で行われるようなパーティーになら、3、4回くらいかしら。ちょうど、秋明さんと会ったような感じのものね」「一応あるにはあるのか。だが、心もとないな。それに紫苑の言う通り、俺との外出にも慣れておいた方が良いだろう。紫苑、再来週にでも、エトワールの人間を集めてパーティーをする。労いの意を込めたものだと言えば、参加するだろう。そこで百合を社員達に紹介すれば、手間も省ける」「私としては、秋明さんの関係者だって知られずに働きたいんだけど」 エトワールで働くことは確定しているが、特別視されることは避けたかった。「ダメだ」 遠慮がちに提案するも、ばっさり断られ、肩を落とす。「どうして?」「お前は俺のコネ入社だ。エトワールは今、特に求人を出していない。そんなところに経験がある新人なんて、怪しいだろう。それに、俺の妻だと分かれば、誰もお前に嫌がらせなどくだらんことをしないだろう」
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