All Chapters of 性悪婚約者に見世物にされた私を連れ去ったのは、黒い噂の財閥会長でした: Chapter 51 - Chapter 60

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51話

 翌朝、百合は目を覚ます。多少寝不足ではあるが、ここで二度寝をしたら、昼過ぎまで寝てしまう気がして、無理やり起きて身支度を整える。 キッチンに行くと、ルリが百合の朝食を並べていた。言いたいことがあったのに、秋明の姿は見当たらない。「おはよう、ルリちゃん」「おはようございます、奥様。旦那様は今日から出張だそうですよ。少なくとも、2日は帰らないとおっしゃっておりました」「そう、ありがとう」 それこそ昨晩言うべきことではないかと思うが、本人がいないのに言っても仕方がない。百合は朝食を食べ終えると、自室でパンフレットを見た。 独立した式場もあれば、ホテルの式場もある。あの秋明が選んだのだから、どこも広々として豪華なのだろう。「ずっと家にいても仕方ないし、見学にでも行こうかしら」 百合は好みの式場をいくつか選ぶと、ネットで予約をした。最後の予約を入れようとしたところで、愛佳からメールが届く。『百合ちゃんどうして来ないの? 具合悪いの? 大丈夫?』 どうやら愛佳達には休んでいる理由は知らされていないようだ。「なんて返信すればいいのかしら……」 悩んだ挙げ句、『家庭の事情でしばらく休むことになったの、ごめんね』と送った。愛佳からは『大変だね。よかったら息抜きに付き合うから、その時は連絡して』とすぐに返信が来る。 百合はお礼のメールを送ると、スマホの電源を落としてからパンフレットに目を向ける。 それから2日、百合はドレスのアイディアが欲しくて式場の見学をしていたが、ピンと来るものがない。秋明のことだから、きっとラグジュアリーな式になるはず。そう思うと緊張してしまい、思い浮かばないのだ。 2日目の昼。式場から出ると聞き馴染みのある声がした。「あれ、百合ちゃん?」 振り返ると愛佳がにこやかに手を振っている。「愛佳ちゃん、どうしたの?」「今日はおやすみなの。百合ちゃんは、こんなところで何してるの?」 愛佳は不思議そうに式場を見上げる。「ちょっと時間ができたから、歩いてたの」 誤魔化そうと咄嗟に嘘をついたが、愛佳の不思議そうな顔はそのまま。「式場から出てきたけど?」 百合は必死に頭を回転させ、次の嘘を見繕う。「実は、知り合いからウエディングドレスとタキシードのデザインを頼まれてたのよ。今日はインスピレーションが欲しくて、式場に来ただけ」
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52話

 近くのファミレスに入ると、百合はパスタとドリンクバーを注文する。今のファミレスはほとんどがタブレット注文で、気楽でいい。「百合ちゃん、私飲み物取ってくる。百合ちゃんは何がいい?」「ありがとう。じゃあ、メロンソーダお願いしていい?」 普段は甘いものはあまり飲まないが、ほどよい甘みと炭酸は、気分転換にちょうどいい。「OK、氷は入れる?」「少しだけ」「分かった」 百合は愛佳がドリンクバーへ向かうのを途中まで見送り、スマホでドレスを画像検索する。大勢のセレブにお披露目するドレスだ、下手なものは作れない。 夢中でスクロールしていると、足音が近づき、グラスを置く音がした。顔を上げると、愛佳が青い液体が入ったグラスを持っている。「ごめーん、今メロンソーダのシロップっていうの? が、ないみたいで、店員さんに補充頼んだから。そのかわりに、はい、これ」 愛佳は百合の前に青い炭酸ドリンクを置く。小洒落た喫茶店ではよく見るが、ファミレスではほとんど見ない色だ。「これは?」「期間限定のブルーソーダだって」「へぇ、夏でもないのに、変わった期間限定ね」 ひと口飲むと、どこかで飲んだような味。炭酸ドリンクなんてそんなものだろうと、気にもとめずに喉を潤す。「そういえば、祐介くんがいきなり会社辞めちゃったんだよね。どうしたんだろ?」 どう切り出そうか悩んでいた話題を、愛佳の方から切り出してくれた。百合はこれ幸いと話に乗る。「そうだったの? そんな素振り、なかったけど」「百合ちゃんが休み始めたのと同じ日に来なくなったから、一部の人はふたりがデキてたんじゃないかなんて言ってたけど、そんなことあるわけないじゃない? 笑っちゃうよね」「えー、そんなことになってたの? ないない」「だよねぇ?」 安直な妄想スキャンダルに、ふたりで笑う。こういったスキャンダルを盲信しないのが、愛佳のいいところだ。 ひとしきり笑ったところで、配膳ロボットが料理を運んできた。それをきっかけに話題が変わる。だが、百合はそれどころではない。(なんでこんなに眠いの……?)「この前すっごい可愛いコスメ見つけちゃって、百合ちゃんもきっと気に入ると思うんだよね。まだ時間ある? よかったら食べ終わった後に見に行かない?」「うん……」「それと、百合ちゃんに似合いそうな服をたくさん置いてるショップ
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53話

「ん……」 目が覚めると百合は、ガーリーな部屋にいた。ゆっくり体を起こすとまだ頭がぼーっとする。どうやらベッドで寝かされていたらしい。 ぼんやりしながら室内を見回すと、ピンクのベッドに、ピンクのクッション。カーテンもカーペットもピンク。壁際のデスクは白とピンク。使われているモチーフはいちごやハートなど、愛らしいものばかりで、どこかむずがゆい。 可愛い部屋だが、壁紙が台無しにしていた。「なによこれ」 壁紙には百合の写真とラフがびっしり貼られている。写真は明らかに盗撮されたもので、百合以外の人物は黒く塗りつぶされていた。 それだけでも充分恐ろしいのに、ラフに描かれた人物は百合に似ている。「何よ、ここ……。私、どうしてこんなところに?」 百合は今日あったことを振り返ってみる。「確か、式場から出て、愛佳ちゃんと会って……」 ファミレスで強烈な眠気に襲われたことを思い出す。前にネットで見た、睡眠薬の知識と同時に。 睡眠薬は悪用を防ぐために、液体に溶けると青くなるように作られていると、ネットの記事やショー度動画で見たことがある。愛佳が持ってきたブルーソーダは、本当はメロンソーダだったのだろう。睡眠薬で変色していただけで。 状況からして、ここは愛佳の部屋だろう。「同性だからって、油断した……」 ひとつの謎は解けたが、新たな謎が発生した。もしこの推測が当たっていたとして、何故愛佳が百合を眠らせ、ここに連れてきたのか。 恨みを買ってしまったのかと思ったが、心当たりはない。愛佳とは喧嘩をしたことがないし、成績だって大きな差があるというわけではない。(もしかして、祐介くんのこと好きだったとか? それとも、秋明さんにキスされてるところ見られたから、嫉妬?) なんとかひねり出してみるが、どれも監禁する理由としては弱い気がする。それに嫉妬なら、自室と思われる場所に連れてくるというのもおかしな話だ。 そして、自室に百合の写真やラフを飾っているのも。「とにかく、ここから出ないと……!」
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54話

「愛佳ちゃん、これは何? どういうこと?」「ファミレスでは、あんまり食べれなかったでしょ? あんなのより、絶対私が作ったパスタの方が美味しいから、食べて?」 愛佳はベッドに座ると、鎖を引っ張る。百合は尻餅をつく形でベッドに座る。「ねぇ、ここはどこなの? どういうつもり? 私、何かした?」 百合が問いかけている間、愛佳は鼻歌を歌いながらパスタをフォークに巻き付けている。「はい、あーん♡」「答えて!」 答える様子のない愛佳に腹を立て、百合が声を荒げると、愛佳はパスタをベッドに置いてため息を付いた。「うるさいんだけど」 今まで聞いたことのない愛佳の冷たい声に、百合は固まる。「私はね、ずーっと前から、百合ちゃんのことが大好きなの。こんなに愛してるのに、百合ちゃんったら、見向きもしないんだから。ホントひどいよね」「何、言ってるの?」 暗い愛情が込められた目に、震えが止まらない。こんな愛佳、見たことがない。(本当に、愛佳ちゃん……?) 百合が知っている愛佳は、天真爛漫でメルヘンチックなところはあるが、仕事には真面目に取り組む愛されキャラだ。だが、今目の前にいる愛佳は、仄暗い愛と狂気を滲ませている。とても同一人物とは思えない。「私、知ってるんだよ? 百合ちゃんが、熊谷って人と婚約してたことも、今は妻夫木秋明って人と婚約してることも」 驚きのあまり、百合は固まる。矢絃と婚約していた頃は、社内では指輪は外していた。秋明との婚約について知っている人間も数える程度な上に、職場の人間には誰にも伝えていない。「熊谷って人とどうして婚約破棄したかは知らないけど……。百合ちゃんってば、清楚な見た目して尻軽ビッチなんだから、ホント困っちゃう。なんで私のところに来てくれないの? お金持ちじゃないから?」「待って、追いつかない……。ずっと見てたって、どういうこと?」 震える声で質問を絞り出すと、愛佳はにっこり笑う。「まだ高校3年生の頃、美大のオープンキャンパスで、百合ちゃんに一目惚れしたの。これ以上ないくらい私が好きな顔と声をしてて、天使様かと思った。他の美大に行っても百合ちゃんがいて、奇跡だって、運命だって思ったの。だから、同じ美大に通おうと思ったの。なのに……!」 うっとり語っていたのに、愛佳は急に鬼の形相になり、百合を睨む。百合は恐怖と緊張で喉が干上が
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55話

「愛を込めたのは、わ・た・し♡ 祐介くんはねぇ、私がけしかけたの。あの男も、百合ちゃんが好きだったみたいだから」 「けしかけた……?」  百合の問いに、愛佳は嬉しそうに笑った。愛らしい笑みなのに、恐ろしくて仕方ない。 「そう。百合ちゃんが他の男に脅されて一緒に暮らすはめになってるって。そしたらきっと、百合ちゃんに迫って、怖い思いさせてくれるかなーって。そしたら男好きのビッチちゃんも、男嫌いになって、私のところに来てくれるって思ったの」   愛佳の言葉を聞いて目を見開く。 「それなのに、まぁだあの妻夫木って人といるんだもん。だから、分かってもらおうと思って」 「分かってもらうって、何を?」 「私がどれだけ百合ちゃんを愛しているのか。それにね、女の子同士の方が気持ちいいんだよ? いいところ、ちゃんと把握してるから」 「やめて!」  愛佳は百合を押し倒し、百合の腕をシーツに縫い止める。百合は体をねじり、足をバタつかせて抵抗するが、馬乗りにされてはその抵抗も虚しく無意味。  パスタが床に落ちる音がしたが、それどころではない。 「もう、抵抗しちゃダメでしょ!」  愛佳はムスッとし、手枷の鎖を引っ張り、南京錠で短くする。バンザイの状態で固定されてしまった。これではどんなに暴れても逃げられない。 「ちょっと! こんなことして何になるの!? 私にそういう趣味はないの! あなたも女の子なら分かるでしょ、無理やりされても嬉しくないって!」  頬が熱くなり、数秒後に熱は痛みに変わる。唐突なことに、平手打ちされたと気づくのに、時間がかかった。 「ごめんねぇ? でも、百合ちゃんが喚き立てるからいけないんだよ。悪い子は、ちゃあんとしつけないとね?」  痛みは恐怖を増幅し、百合を絶望に押しやった。恐怖で何も言えない。  愛佳はベッドから降りると、鼻歌を歌いながらデスクを開けた。ハサミを持って戻って来る。 「な、なにを……!」 「じっとしててねぇ? キレイなお肌に、傷をつけたくないでしょ?」   愛佳は百合の服の端を掴み、ゆっくり切っていく。 「い、いや……!」   ハサミは下から上へ、徐々に百合の顔に近づいてくる。服を裁つ音がいやに響き、緊張と恐怖で喉が干上がっていく。  ハサミはいよいよ喉に近づき、最後の布を切断する。 キャ
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56話

 足音はふたりがいる部屋に近づき、勢いよくドアが開かれ、紫苑が入ってきた。「奥様!」「紫苑!?」 百合は見知った顔を見て、緊張の糸がほどけていくのを感じた。紫苑は安心させるように一瞬百合に笑いかけ、鋭い目つきで愛佳を睨む。 愛佳の顔が驚愕から怒りに変わり、持っていたハサミで紫苑に襲いかかった。「邪魔しないでよぉ!」「邪魔はあなたです!」 紫苑はあっという間に愛佳を取り押さえ、後ろ手で手錠をかける。百合はただ、その様子を呆然と見ることしかできない。「離して! 百合ちゃんは私のなの!」「奥様、これを着て外へ!」 紫苑は愛佳に乗ったまま上着を脱ぎ、百合の方へ投げた。百合は上着を受け取って着ると、急いで外に逃げる。一刻もはやくこの場から立ち去りたい気持ちでいっぱいで、靴もバッグも忘れて飛び出すと、誰かに抱き留められる。(怖い!) 必死に抵抗するが、相手は大柄でビクともしない。「落ち着け」(この声、秋明さん?) 声で秋明だと分かり、安堵する。彼の鼓動がやたら大きい。顔を上げると、秋明は息があがっていて、汗をかいていた。「秋明さん、出張じゃ……!」「話は後だ、乗れ」 秋明は助手席を開けると、百合を押し込む。未だに混乱している百合は、されるがままに座り、シートベルトまで装着してもらう。 秋明が運転席に乗ってしばらく走らせたところで、ようやく喋れるくらいには落ち着いてきた。「紫苑は?」「アイツは後処理をする。帰るぞ」「どうして、私の居場所が分かったの?」「実は、お前のバッグにGPSを仕込んでた」「なんですって!?」 あんなことがあったせいか、怒りよりも驚きと困惑が強い。百合は忘れ物がないようにと、毎日のようにバッグの中身を確認するが、気づかなかった。「いつの間に仕掛けたの……」「同棲を始めてすぐに。なにかあったら困るだろう。例えば、今回みたいなこととか
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57話

「余計なことは考えるな。はやく連絡してやれ」「はい」 紫苑にメールしながら、百合はちらりと秋明を盗み見る。彼は運転しながら、汗を拭っていた。愛佳の家がどのへんにあるのかは知らないが、きっとそれなりの距離を走ってきてくれたのだろう。 それから帰宅するまで無言が続いたが、気まずさは不思議とない。 自宅について車から降りようとしたところで、靴とバッグの存在を思い出した。「靴、忘れちゃった……」「待ってろ」 秋明は運転席から降りると、百合を抱きかかえた。恥ずかしさはあったが、靴も反抗する元気もない。玄関に入った途端、緊張の糸がプツリと切れ、涙がぼろぼろと零れてくる。「う、うああぁ……! わた、私……!」 秋明はそんな百合を、黙って抱きかかえたままリビングに行ってソファに座り、背中をとんとんしてくれた。「怖かった! お、女の子に、あんなことされるって、思ってなくて……!」 百合は泣きじゃくりながら、自分が愛佳にされたことを話す。秋明は無理に話さなくてもいいと言ってくれたが、言語化して整理したかったのか、話さずにはいられなかった。「もう大丈夫だ、お前はもう、安全なところにいる」 そう言って秋明は、百合を抱きしめる手に力をこめた。 落ち着くと、自分が秋明にお姫様抱っこされている形になっていることに気づく。「ご、ごめんなさい! 私ったら」慌てて降りようとするが、秋明は抱きしめる手に力を入れて阻止した。「もう少しこうしてろ。水分は取れそうか?」 秋明は水が入ったグラスを差し出す。百合はグラスを受け取って、口の端から零れるのも気にせずに、一気に飲み干した。「怖かっただろう。少し前まで一般人で、誘拐とは無縁だったんだ。パニックになってもおかしくない」 珍しく優しい秋明に戸惑うが、今は気持ちの余裕がない。百合は秋明の胸板に顔を埋める。(この家に帰ってから泣くなんて、私、ここを自分の家として受け入れ始めてるのね) 秋明の体温
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58話

 着替えを持って浴室に行くと、風呂が沸いていた。きっとルリが沸かしてくれたのだろう。最初は使用人のいる生活なんてと思ったが、あの双子となら悪くないと改めて思う。 髪や体を洗って湯船に浸かり、大きく息を吐く。百合は直近の出来事を振り返った。 嫌われ者の吉田が消えて安堵したと思ったら、今度は祐介からの執着。一段落したと思った矢先に、愛佳の歪んだ愛情故の拉致監禁。 愛佳はキャンパスの見学をしていた時から百合を見ていたと言っていたが、百合はまったく気づかなかった。それどころか、同じ場所で働いていたというのに、祐介と愛佳の気持ちにも気付けなかった。「私、鈍感なのかしら?」 そう呟くのと同時に思い出すのは、学生時代のこと。いじめられていた子を見つけては、助けていた。真実かどうかは不明だが、教師達は「いじめがあったなんて気づかなかった。百合ちゃんありがとう」と言っていた。他にも、細かいところに気づき、礼を言われることがよくあった。それは職場でも。それを考えると、自分が鈍感とは思えない。「もしかして、他人に興味ない?」 言葉にしてみたが、それもしっくり来ない。これ以上いてはのぼせるから、風呂を出る。 水を飲もうとキッチンに行くと、双子が揃っていた。秋明の姿は見当たらない。「あら、マリちゃんも来たのね。秋明さんは?」「旦那様なら、野暮用があると言ってお出かけされましたよ」「すぐ戻るとも言ってました。それと、今日は大変なことがあったから、女の子同士で食べたほうがいいだろうって」「まぁ、あの人、気が利くのね」 秋明の気遣いが嬉しくて、頬が緩む。確かに気分転換をするなら、秋明とよりもこの双子といる方がいいだろう。「それと、映画でも観て来いとおっしゃっていました」「奥様さえ良ければ、食事の後に映画館に行きませんか?」(映画か……) 映画は好きだが、あのようなことがあったのだ、外出するのは少し怖い。「気持ちは嬉しいけど、あまり外に出たくないの。でも、映画はいいわね。サブスクで何か観ましょうか」
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59話

 電気を消して寝ようとするが、なかなか寝付けない。百合はため息をつきながら電気をつけると、作業場の本棚からドレスの写真集を持ち出し、寝室に戻った。 この写真集には様々な時代のドレスが載っている。ウエディングドレスの参考になればと思い、この写真集を選んだ。 ぼんやりしながら写真集を眺めていると、玄関が開く音が聞こえてきた。百合は写真集を見ながら秋明を待つ。 30分もすると、寝室のドアが開いた。入浴をしていたらしく、パジャマ姿だ。「おかえりなさい。どこに行ってたの?」「さてな。それより、双子といて気は紛れたか?」「えぇ、おかげさまで」「そうか」 秋明は百合の隣に座ると、彼女が見ている写真集を覗き込む。「それは?」「ドレスの写真集よ。自分のウエディングドレスの参考にしようと思って。きっとラグジュアリーな場所でするでしょうから、洗練されたデザインにしないとね」「そんなこと気にしなくていい。お前が着たいドレスを考えろ」「けど、多くの人に見られるでしょう?」「お前が望むなら、少人数でも、身内だけでもいい。指輪があれば妻がいると一目で分かるし、外ではちゃんとおしどり夫婦として演じてもらえればいい」「でも、セレブの式って派手なんじゃないの?」 以前、テレビで見たセレブの結婚式を思い返す。ホテルを貸し切り、豪華なウエディングドレスを着た女優が、にこやかにカメラ目線で微笑んでいた。お色直しをする度にランウェイを歩いたり、天井に届きそうなほど高いケーキが出たりと、インパクトのあるものばかりだった。 さすがにお色直しランウェイや、異様に高いケーキはないだろうが、大勢のセレブが来るはずだ。 秋明は百合自身にウエディングドレスとタキシードのデザインを頼んだ。きっと、百合がファッションデザイナーであると紹介するはず。そう考えると、自分の好みだけで考えるわけにはいかない。「派手な式もあるが、今は少人数や身内だけの結婚式を挙げるセレブも増えてきているから、問題ない。慣れもしないのに大勢呼んで、緊張でヘマをされる
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60話

 数日後、百合は正式に退職届を会社に出し、約1ヶ月の有給消化をすることになる。荷物を回収した帰り、百合はひとりでカフェに入り、フラペチーノを飲んでいた。 職場の人達は、祐介と愛佳がどうしているかは知らない。そもそも、ふたりの件はニュースにすらなっていないし、職場でも不自然なくらい話題にならなかった。 祐介の時、秋明は紫苑に警察に連れて行かせたと言っていたが、本当に警察に行ったのだろうか? 事件事態をもみ消したか、警察に連行するも、口止めでもしたのか。なんにせよ、秋明が圧をかけたのではないかと推測している。もちろん、すべての事件・事故がニュースになるわけではないのは、百合にも分かっている。だが、百合が巻き込まれた事件は、どれもマスコミが好きそうなものだ。ひとりの女性が同じ会社の人間ふたりに危害を加えられたなんて、ジャーナリストがほっとかないだろう。「私が考えたって、仕方ないわね」 フラペチーノのクリームをすくって頬張るのと同時に、昔の記憶が蘇る。 まだ百合が小学生の頃、場所などは覚えていないが、アラザンを散りばめた可愛いケーキを見た。当時、そのケーキのホイップ部分を見て、こんなドレスを着てみたいと思った。 その時の願いを叶えてみよう。そう思った。 百合は回収した荷物の中からスケッチブックを引っ張り出し、一心不乱にラフを描いた。シフォンでふんわりしたドレスに、パールを散りばめたドレス。「できた……!」 ラフができてフラペチーノを飲むと、氷が溶け切ってしまって水っぽい。それでも達成感のせいか、美味しく感じられた。 百合は溶け切ったフラペチーノを飲み干すと、もうひとつ注文し、今度は秋明が着るタキシードのラフに取り掛かる。 上品なネイビーのタキシード、胸元の飾りは白やアイスブルーで涼しげに。「うん、いい感じ」 完成したラフを見て満足した百合が帰宅すると、庭に秋明の車と青い軽自動車が並んでいる。紫苑が秋明の車から、秋明が軽自動車から出てくる。「ちょうどいいところに帰ってきたな。これがお前の車だ。スペアは俺が持
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