All Chapters of 性悪婚約者に見世物にされた私を連れ去ったのは、黒い噂の財閥会長でした: Chapter 71 - Chapter 80

109 Chapters

71話

「それで、海にはいつから行く?」「明日から行きましょう。せっかく百合が来たんだもの。この街から離れてみるのも面白そうじゃない?」「ふふ、そうね。何日くらいがいい? 私は何日でも構わないけど」「そうねぇ。畑のこともあるから、長くて3日かしら。この時期はそこまでこまめに水やりしなくても大丈夫みたいだけど、あんまり放置したら可哀想でしょ」「じゃあ、3泊4日で。ここから近い海は……」 ふたりでスマホを見て、どこの海に行くかを決める。その周辺のホテルや観光地を一緒に見ていたが……。「母さん、やっぱりスマホ苦手だわ。目がチカチカしてきた……」 藤子は目頭を指先でもみほぐしながら、ため息をつく。「じゃあ、本見てみようか。ついでに、夕飯も外で食べない?」「ふふ、そうしようか」 ふたりは歩いて百合達の家に行くと、百合の運転でショッピングモールに行く。本屋で目的地の観光本を数冊買うと、レストラン街にある洋食屋で食事をしながら、どこに行くかを決めていく。「せっかくだから、海が見える部屋に泊まりたいわ」「オーシャンビューってやつね! 母さん、旅番組を見て、そういうのに憧れてたの」 目を輝かせる藤子を見て、ホテルはなおさら妥協したくないと思い、ホテルや宿が載っているページを開く。「それなら、ここなんてどう?」 まるまる1ページを使って紹介されているホテルを指差す。星付きの高級リゾートホテルで、絶景と料理を売りにしている。載っている部屋は水色を基調とした大人可愛い部屋で、青いソファには、貝やヒトデのクッションがのっている。「可愛いけど、お高いじゃない」「もう、値段は気にしないの」「百合ったら、すっかりセレブの感覚になっちゃって」「そんなんじゃないわ。ただ、お金を使うことを覚えろって、秋明さんに言われてるだけ」「充分セレブじゃない」「旅をするのは今回が初めてだけどね。さ、お金の
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72話

 どことなく固い雰囲気の母を見て、緊張が走る。言われた通り座ると、リングケースを差し出された。「これは?」「父さんの形見の指輪よ」「父さんの?」 百合は父の顔をほとんど覚えていない。物心つく前に、事故で亡くなったと聞かされた。写真で何度か見たことがあるが、思い出にいないからか、しっかり覚えているわけではない。「父さんね、大きくなったらこれを百合にって言ってたの。すっかり忘れてたわ。さっき荷物を整理してたら出てきたの」 この家に引っ越してくる前に、百合が藤子の荷物をまとめていたが、気づかなかった。きっとバッグの奥にもで入っていたのだろう。「受け取って」 リングケースを開けると、金色の指輪が入っていた。石も台座もなく、平べったい。そこには獅子の紋章があった。「シグネットリング?」「父さんの……、宝生家の誇りよ。あなたが持ってて」「そんな大事なものを……。分かったわ」 百合は失くさないように、バッグの奥にリングケースを押し込んだ。「これで思い残すことはないわね」「ちょっと、やめてよ。今から死ぬみたいなセリフ。明日から一緒に遊ぶんだから」「ごめんごめん、言葉選び間違えちゃった」「もう……」 笑いながら謝る藤子に、百合は苦笑した。冗談でもあのような言葉は使ってほしくない。「さ、もう寝ましょう。明日もはやいし」「ふふ、そうね」「さ、こっちよ」 藤子に連れられ、寝室に行く。二組の布団が既に敷かれていた。「予備の布団買っておいてよかった。おやすみ、百合」「えぇ、おやすみなさい、母さん」 布団に入って眠る。契約したばかりの頃に同室で寝たことはあったが、ベッドだった。こうして布団を並べて一緒に眠るのは、アパート暮らしをしてた頃以来だ。(なんだか、懐かしいわね) 横目で母の寝顔を見てから、目
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73話

 母の手料理を食べるのも、アパート以来だろう。藤子は熊谷家で使用人をしていたが、濃い味が好きな矢絃の口には、塩分控えめの藤子の料理は合わなかったようで、1度しか台所に立たなかったと言っていた。 藤子は味噌汁とごはんを持ってくると、百合の向かいに座った。「さ、食べましょう」「いただきます」 手を合わせてから、味噌汁をひと口飲む。数年ぶりに食べる母の味に、自然と頬が緩む。もちろんルリ達の料理も絶品だが、やはり母の味が1番落ち着く。 食事を終えると、車で海に向かう。女性とはおしゃべり好きな生き物で、約2時間の道中も、話題が耐えずに話し続けた。「ついた……!」「綺麗ねぇ」 ふたりは車から降りて伸びをすると、少し先に見える海を見る。途中で買ったテントと飲み物を持って砂浜に行くと、人がまばらにいた。散歩したり、海を泳いだり、貝を集めたりと、皆思い思いに過ごしている。 砂浜の上にテントを広げると、潮風に吹かれながら海を眺める。「家の方は曇ってたけど、こっちは晴れててよかったわね」「えぇ、本当に。潮風が気持ちいい」 運転で疲れた百合は、大きなあくびをする。つられて藤子もあくびをした。「やだ、移っちゃった」「移しちゃった」 どちらからともなく笑う。思えば、親子でゆっくりするのも久しぶりだ。「運転疲れたでしょ? お昼までまだ時間あるし、寝ててもいいわよ」「ありがとう、母さん」 百合はお言葉に甘えて横になる。波の音が子守唄となり、百合を夢の世界にいざなった。 それから3泊4日、海が見える最高級ホテルを拠点にして、ふたりは遊び尽くした。水族館や美術館に行ったり、ご当地グルメを堪能したり。この短い期間だけ、百合は契約のことを忘れられた。 楽しい時間はあっという間に過ぎ、最終日。後部座席には持ってきた荷物の他に、お土産が積んである。「名残惜しい……。けど、楽しかったわ」 藤子は寂しそうに
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74話

 2日後、秋明が帰っているであろう日。家に帰ると秋明がいた。彼も帰ってきたばかりなのか、珍しく疲れた顔をしてソファに座っている。秋明の横には、上着が丸めたまま置いてあった。「出張お疲れ様」「あぁ、帰ったのか。母親は元気だったか?」「えぇ、元気にしてたわ。一緒に旅行してたの」「そうか。そういえば……」 着信音が秋明の言葉を遮る。「あぁ、分かった。今行く」 秋明は電話の相手と2、3やり取りをすると、そんな言葉を口にして、電話を切った。「出てくる。もしかしたら、2、3日帰ってこないかもしれない」「急ね。分かったわ、気を付けて」 秋明は自分の隣に置いてた上着を取ると、さっさと出ていってしまった。「忙しないんだから……。あら?」 ソファの上でなにかが光った。見てみると、それは小さな鍵だ。サイズからして、家や部屋の鍵ではないだろう。「もしかして、引き出し?」 秋明の部屋に入ったことはないが、黒い噂が耐えない人だ。鍵付きの引き出しのひとつやふたつあってもおかしくない。百合は鍵を持って、1階を探索する。 秋明には聞きたいことがたくさんあるが、いつもはぐらかされてしまう。その答えが、この鍵の向こうにあるような気がした。 最初に入ったのは寝室。壁紙こそ白のままだが、ベッドやカーペットなどが黒やネイビーと重く暗い色ばかり。 室内に入って色々見てみたが、サイドテーブルの引き出しは鍵を必要とするものではないし、金庫は番号を入力するものだった。「ここは違うみたいね」 寝室を出て書斎に入ると、本の多さに圧倒される。壁を隠すように置いてある本棚を見ると、ビジネス関連の本をメインに並んでいる。奥にあるデスクを見ると、1番上の引き出しに鍵がついていた。 ドキドキしながら鍵穴に鍵を差し込むと、すんなり入って回った。引き出しの中には、古い写真が入っている。 写真の中ではふたりの若い女性が並んで笑っていた。奈良か京都
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75話

 鍵を置いたのとほぼ同時に、マリが書斎に入ってきた。彼女は百合を見るなり、不思議そうな顔をする。「奥様? どうなさったのですか?」「秋明さんの忘れ物があったから、置きに来たの。ついでに、お部屋の見学をね。入ったこと、なかったから」「そうだったんですね。旦那様のお部屋、シックでホテルの一室みたいで素敵ですよね。奥様のお部屋は、大人っぽさの中に可愛らしさがあって、どちらも好きです」「そ、そう。なんか照れちゃうわね。マリちゃんはお掃除しに来たの?」「はい、そうです」「いつもお疲れ様。そうだ、お土産あるから、よかったら食べて。待機室に置いておくわ」「わぁ、ありがとうございます! ルリと一緒にいただきますね」 お土産という言葉に、マリは目を輝かせる。(これで気を逸らせてたらいいんだけど……) この双子はしっかりしているが、食いしん坊な面がある。お土産で頭いっぱいになって、百合が秋明の書斎に入ったことについて深く詮索したりしないことを祈った。「それじゃ、頑張って」「はい!」 百合は秋明の書斎から出てドアを閉めると、胸を撫で下ろす。危うく見られるところだった。「そうだ、お土産」 百合は荷物の中から双子のために買ったお菓子を取り出し、待機室に置いた。ふたりには水族館の売店に売っていたチョコやクッキーを選んだ。水族館らしい、海の生き物の可愛らしいイラストがプリントされたものだ。 一応秋明にもお菓子を買った。地元で有名な洋菓子店の焼き菓子の詰め合わせだ。それなりの期間を共にしているが、秋明はほとんど間食をしない。だからといって、ペンや置物などもらっても喜ぶとは思えない。考えた結果、見た目がシンプルなお菓子になってしまった。 名産品はしょっぱいものもあったが、大半が生物だったりにおいがキツイものだったので、お菓子にした。もし秋明が食べないのなら、あの双子と分けて食べればいい。 百合は秋明へのお土産を持って、再び書斎に入る。掃除を終えたらしく、マリはいない。デスクの上にお菓
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76話

「えぇ、分かったわ。ごゆっくり」 百合は秋明に笑いかけてから、書斎から出る。 足音が遠ざかるのを聞いた秋明は、書斎の鍵を閉める。「油断した……」 ため息をつき、椅子に座って鍵付きの引き出しを開ける。中には大事な写真と書類が入っている。紫苑さえ知らない最重要物だ。「アレグリア……。まだ時間がかかりそうだが、いつか必ず……!」 封筒の中身をデスクの上に広げる。そこには書類と数枚の写真が入っていた。店の前で微笑み合う宝生夫妻の写真や、まだ赤子の百合の写真。幼稚園に入園した時の写真まである。 秋明はそれらをしばらく眺めた後、封筒にしまって引き出しに戻した。「場所を変えないとな……。まだ、百合に知られるわけにはいかない」 秋明は紫苑にメールをし、会長室に置く金庫を購入しておくように指示した。「さて……」 小さく呟くと、浴室に向かった。 一方百合は、ベッドの中でまだ早鐘を打つ胸をさすっていた。「危なかった……」 以前秋明は、自室や書斎に入っても構わないと言っていたが、他人の部屋に勝手に入るなと教えられてきた百合には、先程の出来事は心臓に悪い。「怒ってないといいけど……。というより、怪しまれてなければいいけど……」 そわそわしていると、秋明が入ってきた。彼はいつも通り百合の隣に座り、髪を撫でる。「なんだ、まだ起きてたのか。疲れて眠ってるのかと思っていたが」「ねぇ、秋明さん……」「なんだ?」「さっきは勝手に部屋に入っちゃってごめんなさい」「なんだ、そんなことを気にしていたのか?」「怒ってない?」 恐る恐る尋ねると、秋明は不思議そうな顔をする。「俺の寝室
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77話

「え? あぁ、なんでもないわ。おはよう」「そうか? 具合が悪いならすぐに医者に行けよ。お前に何かあったら俺が困る」「本当に、なんでもないの。何かを忘れてるような気がするだけだから」「そうか」 秋明は一瞬怪訝そうな顔をするも、特に気にする様子もなく、寝室から出ていった。百合は胸を撫で下ろすが、再び頭を抱えてしまう。「なんだっけ……。カタカナで、5文字か6文字くらいだった気がするんだけど……。それと、見たことのない単語……」 せめて一文字でも思い出せればいいのだが、まったく思い出せない。確認しようにも、鍵はもう秋明に返してしまった。あの秋明が、再び鍵を忘れるとも思えない。あったとしても、契約期間内にある可能性は限りなく低い気がする。「はぁ、私のバカ……」 百合はため息をつくと、のそのそとベッドから出て、自室で着替えてからキッチンに行く。ルリが珈琲を淹れていた。秋明は新聞を広げて読んでいる。「おはようございます、奥様」「おはよう、ルリちゃん」 いつもの席に座ると、珈琲が出される。「奥様、浮かない顔をしていますけど、何かありましたか?」(やだ、私そんなに顔に出てる?) 百合は思わず自分の顔に触れる。触れたところで、鏡がないのだから何も分からないが。「ちょっと、大事なことをド忘れしちゃって」「ありますよね、そういう時。思い出せるといいですね」 ルリは同意するように、何度も頷きながら言う。「そうね」「一応聞くが、仕事関連のことか?」 秋明は新聞を少し下げ、百合を見る。百合は悟られないように、平静を装う。「いいえ、仕事に全く関係のない、個人的なことよ」「そうか。ならいい」 秋明は再び新聞を見る。追求されないことに安堵していると、目の前に朝食が並ぶ。「奥様、今日のお昼はどうなさいますか?」
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78話

 普段ならほとんど使わないが、身の危険を感じてタクシーに乗って家に帰った。玄関を開けると、ルリが出迎えてくれる。「おかえりなさいませ、奥様」「ただいま……」「大丈夫ですか? 顔色が悪いですよ?」「えっと……」 ルリは心配そうに、百合の顔を覗き込んでくる。なんと言ってごまかすか考えていると、足音がこちらに向かってくるのが聞こえる。「何かあったな?」 鋭い目で見られ、言い訳しようという気は失せてしまった。秋明相手に隠し事は難しい。「はやく上がれ。何があったか聞かせろ」「そうね、分かったわ」「ハーブティーをお持ちしましょうか」「えぇ、お願い」 リビングに行って秋明と並んで座っていると、ルリがハーブティーを持ってきてくれた。ひと口飲むと少しだけ恐怖が薄れた。「ルリ、今日はもう帰っていい」「かしこまりました。では、お疲れ様です」 ルリは一礼すると、家から出ていった。玄関が閉まる音がすると、秋明は百合に体を向ける。「それで、何があった?」「誰かに、つけられていた気がするの」「いつからだ?」「気づいたのは、英会話が終わった後ね。飲食店を探すのに歩いてたら、見られてる感じがして……。美術館の中までは来なかったみたいだけど、美術館から出たら、またつけられてる気がしたから、タクシーで帰ってきたのよ」「なるほど、賢明だ。にしても、お前にバレるあたり、相手は素人だろうな。そうだな……。英会話とマナー講座はリモートで。それ以外はしばらく休め。俺が手配しておく。出かける時はあの双子のどっちかを連れて行け」「ありがとう、そうするわ」「外食でもしようと思ったが、そういうことなら家の中の方がいいか。俺が作ろう。お前は風呂にでも入って来い」 秋明の申し出はどれもありがたいものだった。誰かに監視されているのかもしれないのに、外
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79話

 以前矢絃は、百合に警告をした。妻夫木秋明に潰された人間を、何人も見てきたと。だからしばらくは警戒をしていたが、秋明は契約通りに百合と藤子の安全を保証してくれている。 それだけでなく、流産した百合のケアまでしっかりしてくれている。妻夫木秋明は、熊谷矢絃が言っていたような人間なのだろうか?(けど、あのふたりは……) 前の職場で百合に危害を加えたふたりは、最初から存在していなかったかのように扱われた。それは秋明が圧力をかけたからなのではないか? 考えれば考えるほど分からなくなり、疑心暗鬼になる。「はぁ、やめやめ。私が考えたところで、どうにかなる問題じゃないわ」 言葉にして割り切ると、風呂に入った。疑念は残るが、材料がないのにあれこれ考えたって仕方がない。 キッチンに行くと、豪華な食事が用意されている。「すごい……!」「出たか。はやく座れ」 席に座ると、シャンパンが開けられる。秋明はグラスにシャンパンを注ぎ、百合の前に置いた。「ありがとう」「また誰かにつけられているような気がしたら、すぐに俺に連絡しろ。いいな?」「えぇ、次からはそうするわ。……次がないのが1番だけど」「違いない」 食事を終えると、先に寝室に行く。片付けをしようとしたが、秋明に止められてしまった。 ベッドに入って、再び考える。やはり秋明は白な気がする。タイミングがタイミングだから疑ってしまったが、秋明だったら、やっぱりプロを雇って百合に気づかれないようにするだろう。(今はただ、秋明さんじゃないって分かっただけでいいわ) 百合には裏社会のことなどひとつも分からない。分からないものを考えても仕方がない。きっと、秋明が守ってくれる。なら、そこまで不安がる必要もないだろう。安心すると、急に眠くなった。 秋明が来る前に夢の世界に沈んだ。 それから百合は、習い事と仕事の準備に時間を費やした。 外に出る
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80話

 迎えに来たルリに礼を言い、一緒に帰る。家につくと、秋明は既に帰っていた。安物のパーカーではなく、いつも通りブランド品のシャツを着ている。(秋明さん。あなたは路地裏で何を手に入れたの?) 心の中で問うが、もちろん返事などない。「帰ったか。エトワールはどうだ? うまくやれそうか?」「えぇ、皆親切でいい人ばかりだったわ」「そうか。酔って帰ってきたところ悪いが、話がある。座れ」「なにかしら?」 緊張しながら秋明の隣に座ると、ルリがオレンジジュースと水とチョコレートを出す。「チョコもオレンジジュースも、アルコールの分解を助けてくれますので。それと、できるだけたくさん水分を取ってください」「ありがとう、ルリちゃん」「いえ、ごゆっくり。明日の朝は、しじみ汁を出すように、マリに伝えておきますね。それでは、私はこれで」 ルリは一礼し、帰っていく。 百合はチョコレートを1枚頬張り、オレンジジュースを飲むと、秋明を見上げた。「それで、話って?」「この前のパーティーで、俺達が結婚してたことを話しただろ? だから、正式に発表する場を作ろうと思ってな。ついでに、結婚式の希望を聞いておきたい」 アルコールが残っているせいか、言葉をうまく理解できない。「発表する場って?」「結婚を発表するためのパーティーを開く。セレブっていうのは、いちいちパーティーを開きたがるから困る」 秋明は呆れ返ったように言う。なんとなく察していたが、やはり秋明は、パーティーがあまり好きではないようだ。「パーティー開くのはあなたでしょ」「しかたなくだ。個人的には、式さえすればいいだろうと思っているが、この世界にいると、婚約や結婚したことを発表するパーティーも必要になってくる。理由は聞かないでくれ」「式とは別にってこと……? 手間ね」「あぁ、まったくだ。今は仕事が立て込んでいて、結婚式は先になるが、正式発表のパーティーはしておかないといけないんでな
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