All Chapters of こんなに好きなのに、伝わらないのなら――: Chapter 31 - Chapter 40

53 Chapters

弟の悦び9

***『辰之に大事な話があるから放課後音楽室に来てくれ』 端的な文章を打ち込み、スマホの電源を落とした。アイツからの返事を絶対に見ないためと、決心が揺らがないようにするために、カバンの奥底にスマホをしまった。 先輩との打ち合わせはもう済んでいるため、まったく支障はない。あとは放課後、音楽室に三人で顔を合わせることができれば、すべてカタがつく――。(こんな酷いことをする俺を、辰之は嫌いになるだろうな……) 両手をぎゅっと握りしめながら音楽室の扉を開けると、すでに先輩が来ていた。窓際に立ったまま、顔だけでこちらに振り返る。「三年の教室から、ダッシュでここに来ちまった。弟の辰之くんはまだみたいだな」「そんなに待たずに来ると思いますよ。若林先輩が楽しみにしてるのはわかりますが、物陰に隠れてください。打ち合わせどおりにお願いします……」「アクシデントがあったほうが、俺としては燃えるのによぉ。しょうがねぇな」 弟が音楽室に入ったときに、俺と二人きりだと思わせたかったこともあり、先輩には隠れてもらう手筈だった。(アクシデントなんてあったら俺は動揺して、計画したことを無駄にしてしまうというのに。もしなにかあったら、若林先輩の柔軟性に助けてもらうことにするか)「兄貴っ、いる?」 掛け声と同時に、弟が音楽室の扉を全開にした。息を切らしながら俺を見るその瞳は、不安を表すように揺らめいていた。「兄貴、大事な話ってなに? わざわざこんなところに呼び出すなんて、おかしいよね?」 弟は警戒しているのか扉を開け放ったまま、歩幅一歩分しか入室しなかった。頭がいいと勘も鋭いらしい。俺との距離を縮めずに、そこに立ちつくす。「こんなところに呼び出した時点で察しろよ。おまえは喘ぎ声が大きいから」「!!」 目の前にある頬が一瞬で朱に染った。「辰之、コレがほしいって強請ったよな?」 弟を確実に入室させるエサくらい、俺にだってわかる。問いかけながらスラックスの上から、なぞるように下半身に触れてみせた。すると動かなかった弟の足が、俺に向かって歩みを進める。ゆっくりと導かれるように――。
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弟の悦び10

弟が俺をまっすぐ見つめたまま、どんどん距離を詰めていく。逃げられないように、最低でも音楽室の中央部分まで引きつけなければならないので、食いつきそうな言葉を考えながら誘い続ける。「家でヤるよりもスリルがあっただろ。それがどうしても忘れられなくてさ」「確かにその気持ちはわかる。だけどここでは、誰かに見られるリスクが高いよね……」「今度は俺が、おまえのをしゃぶってやるよ」「兄貴が俺のを!? 本当に?」 順調に進んでいた足がなぜか止まった。眉根を寄せながら俺を凝視する弟の瞳が、意味深に細められる。(――ヤバい。エサを与えすぎて、不審に思われただろうか?)「兄貴にシてもらうなんて、恐れ多いというか……」「え?」「それに恥ずかしいから、昨日みたいに僕がしてあげる」 嬉しそうに舌なめずりしつつ、一気に近づいた弟からうまく身を翻して、扉に駆け寄った。「兄貴?」「辰之馬鹿だな。開けっ放しでヤるわけないだろ」 当たり前のことを指摘した途端に、弟の表情があからさますぎるくらいに曇った。「……だってもう一人、誰かがいる気配がする。不測の事態に備えて、退路を作ったんだけど――」 言いながら俺に背を向けた弟は、退きながら頭をキョロキョロ動かして、慎重に辺りを伺う。俺は迷うことなく、弟の背中に抱きついた。「辰之逃げるなよ、せっかくの機会なのに」「そうそう。いっそのこと、3Pにチャレンジしてみるのはどうかな?」 大きな楽器の影に隠れていた先輩が、計画どおりに目の前に現れてくれた。「兄貴、誰? 3Pとか、なんでそんなこと……」「黒瀬、ほらこれで辰之くんの腕を縛りあげてくれ。そうだな、ピアノの足に固定すればいいか」「兄貴っ!」 身をよじって縛られないように抵抗する弟を、先輩が前から抱きつき動きを止めてくれた。そのお蔭で簡単に両腕を拘束することができ、そのままピアノの足に括りつける。「若林先輩、制限時間は30分です。俺は音楽室の前で見張りますが、内鍵しっかり閉めてくださいね」「了解! 辰之くんをしっかり可愛がってやるよ♡」「兄貴っ、こんなことして本当に後悔しないの?」「するわけないだろ。好きでもない相手とヤるつらさを思い知れよ!」
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弟の悦び11

 吐き捨てる感じで告げて、音楽室から慌てて飛び出した。ガチャンという重たい音が辺りに響き渡り、完全に隔たれたことを耳で知る。向こう側でおこなわれる行為を頭の中で想像しないように、目の前にある窓に駆け寄り、外を眺める。 雨に濡れた窓ガラスに映る自分の顔は、ひどいものだった。動悸もなかなかおさまらず、呼吸を整えるのに必死になる。「あれ? 黒瀬先輩?」 背後から声をかけられたことにかなり驚き、肩を竦めながら振り返ると、弟と同じクラスの箱崎がジャージ姿で立っていた。「よ、よう……。部活のトレーニングか?」「はい。外は雨なので校内を10周しなくちゃいけなくて。昼休みはあんなに晴れていたのに、校内をただひたすらランニングするのはつまらなくって」「他のヤツらはいないみたいだけど……」「アイツら、1階をグルグル走り回ってます。本当は3階のここまで走らなきゃダメなのに、ズルしてるんですよ。黒瀬先輩から、あとで注意してください!」 箱崎と普段のやり取りができることに、内心安堵した。「黒瀬先輩は、どうしてこんなところにいるんですか?」「あ、その…外で待ち合わせしてたんだけど、この雨だろ。しかも部活を休んでいるから、人目のつかないところで逢おうってことになって」「もしかして、彼女できたんですか?」 含み笑いをした箱崎が肘で突いてくる。首を横に振って、困り顔を決めこむしかない。「いやいや、もうしばらく彼女とかいらない。人間不信じゃないけど、ちょっとな」「あー、確かにそうですよね。でも黒瀬先輩の元カノ、あれから学校に来てないみたいですよ」「へぇ、そうなんだ」 梨々花について興味がなかった俺は、受け流す返事をしたというのに、箱崎は話を続ける。「俺の彼女、黒瀬先輩の元カノと同じクラスだから、動向が自然と耳に入ってきちゃって。黒瀬先輩と別れたあとに、仲のいいグループとも揉めたらしくて、学校に居づらくなったみたいです」「彼女とはもう関係ないから。どうなろうと知らないな」 箱崎から顔を背け、雨で外が歪んで見える窓ガラスを見つめた。俺の心をどんどん冷やすように、雨が降りしきる。梨々花だけじゃなく、弟にまでキツイ仕打ちをする俺は、最低の男だろう。
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弟の悦び12

*** 俺が音楽室を退出してから30分後、時間きっかりに先輩は出てきた。扉を開ける音に反応して振り返ると、スマホを片手になにか操作している姿が目に留まる。「若林先輩、辰之は……」「腰が砕けてるから、すぐには動けないと思う。一応服装は整えておいたから、誰かに見られても大丈夫だ」「腰が砕け――」 先輩の信じられないセリフで俺が驚きの声を飲むと、いきなり親しげに肩を組まれた。近づいたせいでふと香ってくる匂いに動揺を隠せなくて、心臓が痛いくらいにバクバクした。「辰之くんマジでヤバいわ。ありゃ相当の名器だぞ!」「はぁ……」 耳元で嬉しそうに語られても、俺としては同調するには無理な内容だった。黙ったまま、眉をしかめるしかない。 先輩は持っていたスマホにイヤホンを差して、片方を強引に俺の耳に突っ込む。もう片方は自分の耳にセットし、意味ありげなまなざしを注いだ。俺は顎を引いてその視線を受ける。「本当はハメ撮りしたかったんだけど、暴れる相手にそれは無理だったからさ。録音だけにしたんだわ。おまえのミッションをこなした証拠を残すために」「そんなもの必要なかったのに」「俺の仕事の評価を、ぜひとも黒瀬にしてほしくて。まぁ聴いてくれよ」 軽快な指使いでスマホを操作すると、イヤホンから聞き覚えのある声が聞こえてきた。『やめてくださ、そんなことされたらっ、ンンっ!』『本当はお兄さんにしゃぶってほしかったんでしょ? 俺が代わりでも、かなり感じてるよね。ビクビクしてる、ココもナカも』『兄貴じゃなきゃ…いっ、いゃだ』『そう言いつつも、腰が動いてるじゃん。はじめてだろ、口でされるの』 俺はこれ以上聴いていられなくなり、耳からイヤホンを外そうとした。それを察した先輩が、その手を力ずくで止める。「黒瀬、ここからがいいところなんだよ」「もうわかりました。充分です」「いいから聴けって」 目じりを下げた異質な笑みに、口を引き結んで顔を背ける。イヤホンからは相変わらず弟の啼き声が続いた。『兄貴以外を挿れたくないっ、やめて!』『そのお兄さんに俺は頼まれてるの。それにイキたくてたまらないでしょ。ココをこんなに、いやらしく濡らして。さっき舐めて綺麗にしたはずなのに感じまくって、ぐちゃぐちゃになってるじゃないか』
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弟の悦び13

『あ゛あ゛あ゛ぁぁあ…んあっ! ううっ!』 弟の喘ぎ声にまじって、床を蹴るような音も微かに聴こえた。『奥まで挿入した瞬間にイっちゃったね。トコロテンするとか、めちゃくちゃかわいい』『うっ…も、いやだ……。こんなの、僕は兄貴だけなのにっ…ひっ、動かさないで』『ああ、いい締めつけだ。俺をこんなに感じさせる辰之くんを好きになりそうだよ』「あっあっ…はぁあっ、宏斗兄さんっ…んうっ!」『そのお兄さんよりも、君を感じさせてあげる。辰之くんの気持ちいいところはどこかな?』『やだ、奥突いちゃぁっあ! くっ…乳首も、触っちゃいやっ!』 抵抗する声と一緒に、卑猥な水音も延々と聞こえた。そのせいであのときのことを思い出し、下半身が反応しそうになる。投げ捨てるように、慌ててイヤホンを外した。「黒瀬、次回はいつどこでヤる?」「は? 次回?」 先輩からの問いかけに、頭がついていかない。イヤホンを外してるのに弟の啼き声が耳から離れず、不機嫌な声色で反応してしまった。「これ聴いて、黒瀬もヤりたくなったろ。名器を持つ弟を、ふたりでかわいがってやろうぜ。気持ちよさもきっと2倍だ」 強引に組まれた先輩の腕をやんわり退けて、逃げる感じで距離をとる。「黒瀬、3Pしようぜ。それとも辰之くんを独り占めにする気なのか?」「俺はアイツに手を出すつもりはないです。兄弟でそんなこと、しちゃいけない……」 首をしっかり横に振りながら先輩に伝えた。俺の必死な様子を見た途端に、お腹を抱えて笑いだす。「黒瀬は頭が堅いな。別に兄弟だっていいじゃん。俺としてはイケナイコトしてるみたいで、すっげぇ燃えるのによ」 しらけた笑いを皮膚の上に浮かべた先輩はイヤホンを外して、スマホごとポケットに雑にしまい、俺に背中を向けた。「黒瀬にその気がないなら別にいいや。個人的に俺から誘うし」「えっ?」「一回コッキリにしたくない付き合いにしたくてさ。俺が辰之くんもらう」 顔だけで振り返った先輩の目は真剣だった。賛成も反対する言葉すら出せずに、微妙な表情で佇む俺に向かって右手を振り、目の前から大きな背中がゆっくり消えていく。 先の見えない未来に、不安しかわかなかった――。
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弟の悦び14

塾を終えて自宅に帰る。部活をサボったおかげでいつもより早く帰宅できたが、弟がいる家に帰るのは正直気が重かった。「ただいま……」 リビングのドアを開けた瞬間、ソファに座っていた辰之が振り返った。大きな瞳が俺を捉え、じっと見つめてくる。テレビでは弟の好きなバラエティ番組が賑やかに流れていたが、その音が急に遠く感じた。「兄貴、おかえり!」 いつもと全く変わらない明るい声と笑顔に、俺は面食らった。「あ……うん」 「父さん、出張先でトラブルがあって今夜は帰れないって。母さんはそれ聞いた途端に友達とカラオケ行っちゃったよ。ご飯はテーブルの上に用意してあるから、チンして食べてねってさ」 弟は母の伝言をさらっと言い終えると、再びテレビに視線を戻した。さっきまで俺を凝視していた熱い視線が外れた瞬間、ようやく身体の金縛りが解けた気がした。胸を大きく上下させ、平静を装って自室に向かおうと踵を返した。 その瞬間——背後に勢いよく何かがぶつかってきた。細い腕が俺の胴に素早く絡みつき、逃げられないようにがっちりと固定される。ボディソープの甘いフローラルな香りが、ふわりと鼻をくすぐった。「兄貴、あんなことわざわざしてまで……僕に嫌われようとしたんでしょ?」 背後から聞こえる声は、テレビの賑やかな音とは対照的に低く、ねっとりとしていた。怒りでも、悲しみでもない。まるで獲物を前にした獣のような、甘く危険な響きが耳に届く。「……ああ、そうだ。好きでもない相手とヤった気分は、最低だったろ」 俺が忌々しげに吐き捨てると、辰之はくすくすと喉の奥で笑った。「さすが兄貴が選んだ相手だよね。若林先輩……僕の躰、震えちゃうほど感じまくったよ。すごく上手だった」 言いながら、俺の腰に回した腕にさらに力を込めてくる。痛いくらいの強い抱擁に、弟の体温と柔らかい胸板が背中に密着するのがはっきりとわかった。「すごく上手って……」 「だって兄貴は、僕の乳首と尻穴しか刺激しなかったでしょ? 若林先輩はちゃんと僕の感じるところを探してくれて……あちこち丁寧に触って、舐めて、噛んでくれたんだ」 辰之は俺の耳元で甘く囁きながら、俺の胸を指先で軽く撫で下ろした。意図的に俺を煽っているのが丸わかりだった。「俺と比べるなよ」 「比較させるような真似をした兄貴に、そんなこと言われたくないな」 弟の声
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弟の悦び15

してやったりな顔で見上げる弟の瞳に映った俺の顔は、動揺しまくったもので、情けなさを思いきり晒していた。「僕、兄貴に言ったよね『こんなことして本当に後悔しないの?』って。だけどその顔、すっごく後悔してるでしょ」「してないっ! いい加減にしろ!」 ねばっこい視線から逃れるべく顔を前に向けて、弟の腕を振り解こうと両腕に力を入れたときだった。弟の片手が俺の下半身を唐突に掴み、ぎゅっと握りしめる。「なっ!?」 耳裏に弟の吐息がかけられたと感じた刹那、生暖かい舌先が上下にそこを舐めた。「うぅっ!」「ねぇ兄貴、ピアノの裏に盗聴器をしかけたりしなかったよね?」 囁かれた言葉に、目を白黒させながら答える。「なっなんだ、よ…それは」「本当に知らない?」 弟が喋るたびに舐められたところに息がかかって、くすぐったさとは違うなにかのせいで、肌がぶわっと粟立つ。感じたことを悟られないために、口を引き結んでだんまりを決め込んだ。「兄貴がしかけるわけないよねぇ。若林先輩はスマホで録音していたから、わざわざあそこに盗聴器をしかけるのはおかしいし。まぁ音楽室の防音を考えたら、僕ら以外でも使ってる生徒や教師がいても不思議じゃないけどさ」 弟の柔らかい唇が、うなじに押しつけられた。それと同時に握りしめられた下半身がやんわりと動き出し、俺をここぞとばかりに感じさせる。「やめ…ろ。こんなこ、とっ」「兄貴のおっきくなってるのに、どうしてやめなきゃダメなの?」 俺は持っていたカバンを放り出すように床に置き、弟の手を両手で外した。「おまえにこんなふうにされるの、すっごく嫌なんだよ。俺たち兄弟なのに」「兄弟じゃなかったら、兄貴は黙ってされていたのかな」「されないって。男同士だろ!」「僕を穢した兄貴に、拒否権があると思うんだ?」 妙に明るく問いかけた弟は、着ていたシャツのボタンを手際よく外して、はらりとその場に脱ぎ捨てる。目の前に露にされた上半身には、キスマークが点々とつけられていて、音楽室での濃厚な行為をまざまざと見せつけられた気分に陥った。「兄貴が手引きした男に僕は襲われた。それがどういう意味なのかわかってる?」
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弟の悦び16

挑戦的な笑みを浮かべた弟が俺に近づき、上目遣いでじっと見つめる。正しい答えを言わないとどうにかしちゃうぞという気持ちが、注がれるまなざしに表れているせいで、無駄に焦ってしまった。「意味……、いっ、それは」「兄貴は加害者なんだよ。被害者の僕に謝罪する立場なんだ。つまり生涯かけて、尽くさなければならないってこと。僕は傷つけられたんだから当然だよね」「俺が加害者――」「若林先輩をどうやって焚きつけたのかは知らないけど、二人は結託して僕を傷つけた。肉体だけじゃなく精神的にもね」 わざとらしく顔を歪ませ、泣きそうな顔をしてみせる弟の演技に、反吐が出そうだった。精神的に傷ついてるようには、まったく見えない。「……悪かったよ。おまえに好かれることからどうしても逃げたくて、若林先輩を使ったことは認める。だけどもうそれくらい、俺は辰之を嫌ってることを理解してほしい!」「それでも兄貴は僕の家族でしょ。嫌っていても兄として、そして加害者の責任として守ってもらわなきゃ。だってこの先、僕の躰が壊れてしまうかもしれないから」 弟はジャージのポケットからスマホを取り出し、手早く操作して俺に画面を向けた。「なんだよ、それは!?」「若林先輩からの熱いラブメッセージだよ。兄貴も聴いたでしょ、僕が襲われてる声。誰にもバラされたくなければ、LINEのIDを教えろって脅されたんだ」 画面に表示された文面は、かなり卑猥なものだった。『辰之くんの締りのいいケツマ〇コを思い出しただけで、またシたくなってきた。明日の休み時間に顔を出すね』 『今日の録音した声をオカズにしちゃった』 『早く会いたい。電話していい?辰之くんの生の声、聞きたくなった』 10分おきに送信されるメッセージを読んでるだけで、呼吸が乱れて目眩がした。(人選ミスした……。俺のせいで辰之は、若林先輩に蹂躙される運命なんて――)「僕はこれから若林先輩に呼び出された挙句に、組み敷かれて生活しなきゃならないみたいだよ。兄貴のせいでね」「俺がとめる! そんなことはさせない」「僕が好きなのは兄貴だけなんだからね。お願い…」 震える声で懇願した弟は俺に抱きつき、踵をあげてキスをした。「うつっ!」
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弟の悦び17

 抱きつかれたせいで、互いの下半身がぶつかって擦れる。これ以上の刺激を与えないようにすべく腰を曲げると、絡みつく弟の腕がぎゅっと躰を締めつけて、強引に密着させた。「逃がさないよ。僕で感じてる兄貴を、もっと感じさせてあげる」「やめてくれ、これは条件反射なんだ」「条件反射だろうと、僕の手で感じたのは事実でしょ。弟に感じさせられてち〇ぽを大きくしたくせに、下手ないいわけは通用しないから」 弟は目の前に右手を見せて、いやらしく空中を揉みしだく。なにもない空間なのに、いつの間にかそこに自身が映り込み、弟の手の動きに合わせて上下することを妄想してしまい――。「ぃ、いや…いやなのにっ、俺は辰之のこと好きじゃないのに、こんなことするのは間違ってる!」 自分に言い聞かせるように叫ぶしかなかった。「僕だって嫌だったよ。若林先輩に抱かれたこと……」「うっ!」 痛いところをコアに突かれて、反論できない。言い返すあらゆる言葉が、頭の中で右から左へと流れていく。「兄貴には、その責任をとってもらわなきゃ。ここで僕を抱いて」 ふたたび弟の顔が俺に近づいた。(――またキスされる!) 奥歯を噛みしめながら両目を閉じて衝撃に備えたというのに、いつまで経ってもなにも起こらない。恐るおそる目を開けたら、弟は悲しげな表情で俺を見つめ、玻璃のように光る涙が頬を伝った。「辰之……」 ぽろぽろと大きい雨粒のような涙を落とす姿に、抵抗する力やセリフが自然と抜けていく。「わかってるんだ。こんなことをしたら兄貴に好かれるどころか、もっともっと嫌われるんだって。それに、穢れた僕を抱く気になんてなれないよね」 あっけなく弟の両腕が外され、一気に自由になった。触れ合っていたところから伝わっていたぬくもりが消え失せただけで、下半身も落ち着きを取り戻す。「宏斗兄さんが好きなのに……。僕はもう嫌われることしかできそうにないよ」 弟は脱ぎ捨てたシャツを素早く拾いあげ、俺の脇をすり抜けようと駆けだした。迷うことなく、その手を引き止める。「辰之、俺は――」「…………」 振り返った弟の顔は、今まで見たことがないくらいに酷いものだった。それは俺の同情を引くものではなく、人を寄せ付けないような寂しい表情に見えた。「あのさ、若林先輩のことで困ったことがあったら、すぐに知らせてくれ。なんとかするから」
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兄貴の困惑

兄貴を意識したのはいつだったか――。『辰之、大丈夫か? 兄弟なんだから遠慮せずに、俺になんでも相談してくれよな』 そう言って僕に手を差し伸べてくれた兄貴の顔を、穴が開く勢いで見つめた。あのとき、呆けた僕が見た先は唇だった。 優しさを含んだ声を出した兄貴の唇は形がとても綺麗で、思わず見惚れてしまったんだ。触れたいし触れられたいと、切に願ってしまった。『辰之?』 綺麗な形の唇が上下に動いて、僕の名を呼ぶ。それが嬉しくて手を伸ばしかけて、ハッとした。『宏斗兄さん……』 僕らは兄弟で男同士――性的な対象にしてはいけない間柄なのをはっきりと自覚した。だからこそいけないと強く思えば思うほど、兄貴への想いが色濃く浮かび上がり、どんどん僕の躰を蝕んでいった。『あのさ、若林先輩のことで困ったことがあったら、すぐに知らせてくれ。なんとかするから』と声をかけられても、悔しさで反応できなかった。兄として加害者としての責務で、僕を助けようとする兄貴の行動に間違いはない。(これが愛されるという好意で助けてくれるんだったら、どんなに嬉しいと思えるだろうか――) 現在数学の授業中で、黒板に書かれる難しい数式に視線を飛ばしながら、ぼんやりとこれからのことを考える。目の前の数式には答えが必ずあるけれど、僕の恋心の先がどうなるかなんていう答えについて、まったくわかりゃしない。「くそっ。思いどおりにいきすぎて、気持ちが悪い……」 僕の小さな呟きは、数式についてダラダラ説明する教師のセリフによってかき消された。 頑固で頭の堅い兄貴の性格を考えた結果、僕に対する嫌悪をはっきりと示すなにかを企てることを想定して、この計画を立てた。兄貴の友人関係を把握済みだからこそ、若林先輩を使うことはすぐにわかったし、僕の計画に彼を取り込むことなんて造作もなかった。 音楽室を逃げるように出て行った兄貴の背中を見送ると、若林先輩が鍵をかけて僕に近寄る。『辰之くんを助けてくれる人は、誰もいなくなった。ここではどんなに声をあげても無駄だからね』 いやらしさを感じさせる笑みを浮かべた若林先輩が僕のジャケットのボタンを外し、手際よくネクタイをほどいてから、ワイシャツのボタンに手をかける。『ねぇ若林先輩、兄貴のこと嫌いでしょ?』
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