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弟の悦び15

Auteur: 相沢蒼依
last update Date de publication: 2026-07-18 06:12:19

してやったりな顔で見上げる弟の瞳に映った俺の顔は、動揺しまくったもので、情けなさを思いきり晒していた。

「僕、兄貴に言ったよね『こんなことして本当に後悔しないの?』って。だけどその顔、すっごく後悔してるでしょ」

「してないっ! いい加減にしろ!」

ねばっこい視線から逃れるべく顔を前に向けて、弟の腕を振り解こうと両腕に力を入れたときだった。弟の片手が俺の下半身を唐突に掴み、ぎゅっと握りしめる。

「なっ!?」

耳裏に弟の吐息がかけられたと感じた刹那、生暖かい舌先が上下にそこを舐めた。

「うぅっ!」

「ねぇ兄貴、ピアノの裏に盗聴器をしかけたりしなかったよね?」

囁かれた言葉に、目を白黒させながら答える。

「なっなんだ、よ…それは」

「本当に知らない?」

弟が喋るたびに舐められたところに息がかかって、くすぐったさとは違うなにかのせいで、肌がぶわっと粟立つ。感じたことを悟られないために、口を引き結んでだんまりを決め込んだ。

「兄貴がしかけるわけないよねぇ。若林先輩はスマホで録音していたから、わざわざあそこに盗聴器をしかけるのはおかしいし。まぁ音楽室の防音を考えたら、僕ら以外でも使って
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  • こんなに好きなのに、伝わらないのなら――   弟の悲しみ3

    *** 俺を嫌いと言いきった辰之が、若林先輩と恋人同士になった。それは兄弟よりも深い関係――本人が望んでその関係になった以上、若林先輩が言ったように、兄である俺が文句を言うのはお門違いなのかもしれない。(頭では理解してるのに、胸の中のモヤモヤが晴れない。ふたりが並んでるところを想像しただけで、さらに負の感情が増えていくなんて、わけがわからないな……) 辰之の好きという気持ちから晴れて解放されたというのに、いきなりそっぽを向かれた今、イライラや見えない不安が胸の中をせめぎ合っていた。 他にも気がかりなことは、怒鳴りながら大嫌い宣言をしてから、俺の顔を辰之がまったく見なくなったことだった。 俺の部屋で肉体関係になった次の日、俺から辰之を避けていたが、あからさまに毛嫌いする俺の行動を把握しようと、いつも以上にしっかり見ていた気がする。恋慕を含むまなざしで、逐一監視するように俺を眺めていたというのに――。「辰之の視界に俺が入らないだけで、なんでこんなにも気になってしまうんだろ……」 お昼休み、頬張るように弁当を食べて、辰之がいる3階まで移動した。教室にある2枚の扉のうちの1枚、後ろの座席側にある扉から中の様子をうかがってみる。 箱崎や仲のいいクラスメートと顔を突き合わせて、和やかに弁当を食べる姿がそこにあった。中休みとの違いに、ほっと胸を撫で下ろす。(――よかった。いつもどおりの辰之に戻ってる) あとはここに現れるであろう、若林先輩と話し合いをしなければと、気合いを入れかけたときだった。耳に聞こえる階段をのぼる靴音で、導かれるようにそこに視線を飛ばした。 片手でなにかを放り投げながらフロアに現れた若林先輩とブッキングした瞬間、苛立ちがふたたび躰を支配する。「なんだよ。黒瀬がここで待ち伏せしてるとか、そんなに俺に逢いたかったのか?」 若林先輩が放り投げていた小さな物体についてるスイッチから、カチッと音が鳴った。「おっとっと! 黒瀬の顔を見た衝撃で、思わず押しちまった!」 告げられたセリフの意味がわからず、眉間にしわを寄せながら若林先輩の手元を見つめた。「黒瀬、コレなんかよりも、教室を覗いたほうがいいと思う。辰之くんが今現在どんな状態になっているか、ちゃんと確認すれよ」

  • こんなに好きなのに、伝わらないのなら――   弟の悲しみ2

    (邪魔すんなよって、どうしてこんなことになったんだ? だって辰之は俺が好きなはずなのに――) そう考えついた瞬間、昨日叫ばれた言葉が脳裏を駆け巡った。『兄貴なんて大っ嫌いだ!!』 それまで、見たことのないくらいに怒っていた辰之。目を血走らせて俺を睨みあげ、怒りにまかせて大きな声を出した姿に、俺はひゅっと息を飲んで戦慄くしかなかった。「辰之くん、また逢いに来るからね」 腰を抱き寄せていた手を放した若林先輩が話しかけると、なぜだか辰之はぎゅっと両目を閉じながら、利き手で口元を押さえた。しかも顔が、さっきよりも赤くなっている。「辰之おまえ、体調がよくないんじゃないのか?」「ちがっ…そんなんじゃな、いぃっ!」 あからさまにびくんと躰を震わせた辰之に駆け寄ろうとしたのに、一歩早く若林先輩が慌てて支える。「俺と離れたくなくて、そんな顔してるんだもんな?」「そう、です……。寂しくて」 肩で息をしつつ俯きながら答える辰之は、いつもの様子とは思えなかった。「辰之……」 俺と目を合わせず若林先輩に躰をあずける姿は、まんま恋人同士に見えた。なにか声をかけて二人を引き離したいのに、言葉が宙に舞う。「若林先輩っ、黒瀬を保健室に連れて行ったほうがよくないですか? 顔が赤いのって、熱があるのかもしれないですよね」 横にいた箱崎が、緊張感を含んだ声で説得をはじめる。「辰之くんの顔が赤くなってるのは、大好きな俺の傍にいるせいなんだよ。さっきまでそこで仲良く抱き合っていたし」 若林先輩が辰之の頭を撫でたタイミングで、廊下に予鈴が響き渡った。「その証拠に辰之くんが教室に戻れば、顔色はいつもどおりになるから。名残惜しいけどじゃあね」 わざと俺に体当たりしてから階段を降りていく若林先輩の行動に、自然と苛立ちがつのった。「黒瀬先輩も早く教室に戻らないと……」 箱崎に声をかけられて、やっと我に返る。己の中に渦巻く負の感情を、両手を握りしめながらやり過ごしつつ辰之に視線を送ると、逃げるように教室に行ってしまった。「黒瀬の様子が変だったら、保健室に連れて行きますので安心してください」「箱崎助かる。昼休みにまた顔を出すから」 しっかり者の後輩に頭を下げて、慌てて教室に向かう。だが気持ちは辰之のことが心配で、授業がまったく身に入らなかったのだった。

  • こんなに好きなのに、伝わらないのなら――   弟の悲しみ

    次の日、辰之がいるクラスに急いで向かった。教室の扉を慌てて開けたら箱崎が素早く駆け寄り、しょんぼり顔で声をかけてくれる。「あ、黒瀬先輩。一歩遅かったです」「やっぱりな。授業がなかなか終わらなかったんだ」 中休みの短い時間だが、間違いなく若林先輩が辰之の教室に顔を出すと予想したからこそ急いで出向いたが、無駄足に終わってしまった。 昨夜、辰之とのやり取りのあとに、LINEで若林先輩に連絡した。もうこれ以上辰之に手を出さないでほしいことをお願いしたが、そのメッセージは既読スルーされ、未だに返事もない。「俺も一応、黒瀬を止めたんだけど、おまえには関係ないの一点張りで突破されちゃいました」「辰之はなにもわかってないな。友達として、こんなに心配してくれてるっていうのに……。箱崎、ありがとな」「黒瀬は前回予鈴が鳴ってから、教室に戻って来てます。だからこのフロアのどこかに、若林先輩と一緒なんだと思いますけど探しますか?」 肩を落としながら教室を出た俺に向かって、箱崎から提案された言葉。それに反応して振り返り、返事をしようとした矢先だった。視線の先に顔を赤くした辰之が、教室に戻ってきた。若林先輩はそんな辰之の後ろ姿を、ニヤニヤしながら見送る。 相反するふたりの態度が気になったが、それどころじゃない。「辰之っ!」 足早に歩いて辰之の躰を抱きしめる。なにかされていないか心配で、細い背中を無意味に擦ってしまった。「大丈夫か?」 屈んで顔を見ようとしたら、思いっきりそっぽを向かれた。こんなふうに今まで拒否されたことがなかったゆえに、頭を殴られたようなショックが全身を貫き、抱きしめた腕の力が緩む。それを見越したのか、誰かの手が辰之から俺を引き離した。「辰之くんはお兄ちゃん離れをしたんだ。人目のつくところで、堂々とイチャつくなって」 若林先輩は辰之の腰を抱き寄せながら、自分の顔を辰之の頭に乗せて、仲の良さを見せつける。「辰之、おまえ――」「僕は若林先輩と付き合うことにしました。きっかけはどうあれ、これでよかったんです」「わかっただろ。LINEでぐちゃぐちゃ文句を言われる筋合いはないってことさ。黒瀬、邪魔すんなよ」

  • こんなに好きなのに、伝わらないのなら――   兄貴の困惑11

    恐るおそる大きな背中に両腕を回した。縋りつくようなそれは外されることなく、兄貴は僕の躰をさらにキツく抱きしめる。「辰之お願いだから、自分を大事にしてくれ。頼む……」 これだけ密着度の高い抱擁だからこそ、僕の下半身の変化が伝わっているはずなのに、躰に巻きついた兄貴の両腕の力が緩められることはなかった。それは僕にとってとても嬉しいものなのに、どうして胸がしくしく痛むんだろうか。「兄貴、苦しいよ。それ以上抱かれたりすると、この間みたいに僕から襲っちゃうかもしれない」 兄貴の背中に触れていた手で、服をぐいぐい引っ張った。それを合図に躰から両腕が外される。「兄貴が思いやってくれる気持ちと僕の気持ちは、種類が違うことくらいわかっているでしょ。大好きな兄貴にこんなことされたら、期待するんだって。それによって、僕がどんどん傷ついていくのがわからないかな……」「ごめん。だけど俺のせいでおまえが、嫌なことを若林先輩に強要されているのをわかっていながら、見過ごせるわけがないだろ」「俺に同情しないでよ! 穢れてしまった俺なんて、兄貴に愛される資格がないんだから!」「辰之、おまえ――」「兄貴なんて大っ嫌いだ!!」 目の前に立ち尽くす兄貴に体当たりして、部屋から逃げ出した。いろんな感情がこんがらがって、涙すら出てこない。そのまま自分の部屋に飛び込み、鍵をしっかりかけた。「俺は……いや僕は兄貴が大嫌い、になれば…きっと楽になる、はず」 兄貴の望んだ展開になったことで、互いがしがらみから解かれると思った。このまま兄貴を嫌いになれば、昨日よりも楽になるはずだと信じて、呪文のようにリピートする。『宏斗兄さんなんて大嫌いだ』 目をつぶり心に信じ込ませるように、延々と唱え続けたのだった。

  • こんなに好きなのに、伝わらないのなら――   兄貴の困惑10

    ***「辰之、話がある。ちょっと来い」 若林先輩が僕の首に赤い痕を残したせいで、自宅に帰って来た兄貴が首筋に指を差しながら、ここぞとばかりに僕に向かって突っ込んだ。(あーあ。突っ込んでほしいのは、兄貴のち〇ぽだけだっていうのにな――) 目敏くキスマークを見つけた兄貴は、ムッとしながら僕の腕を引っ張り、強引に自室へと連れ込む。扉が閉まったのを機に、兄貴から口を開いてなにかを言いかけたので、すかさずベッドにあがって四つん這いになってみせた。「辰之、なにしてんだ」「なにって、こういうコトをするために、わざわざ僕をここに呼んだんじゃないの? 兄貴とのバック、すっごく気持ちがよかったしね。二回目とは思えないくらいに、僕のナカで弾けたでしょ。兄貴としては、正常位よりも気持ちよかったのかなって」 笑いながら流暢に説明し終えた途端に、兄貴の頬が真っ赤に染まった。図星をついた発言ができたことに満足しつつ、兄貴の枕に顔を押しつける。大好きな匂いを思いきり嗅いだ。「そんなことよりも俺だけじゃなく、箱崎だって心配してるんだぞ。今日、部活が終わってからアイツに呼び出された」「箱崎がどうして……」「おまえの首のそれ、結構目立つからさ。若林先輩に呼び出されたあとにつけられたのがわかって、どうして黒瀬先輩は若林先輩を紹介したんですかって、箱崎に食ってかかられた」 兄貴のしょんぼりした声を聞いたせいで、仕方なく枕から顔をあげる。第三者が絡むと、余計に面倒くさくなるのは目に見えていた。それゆえに、僕の口からは文句しか出てこない。「ただの友達の箱崎に心配されても、僕にはどうにもならないっていうのにね。全部兄貴のせいなのに!」「そうだ、俺のせいだ。若林先輩に呼び出されたときに、どうして俺に頼らなかったんだよ」 ベッドにうつ伏せに寝転ぶ僕を無理やり起こしたと思ったら、ぎゅっと抱きしめてくれた。「兄貴?」 苦しいくらいの兄貴からの抱擁で僕の頭がバグったのか、目の前がチカチカした。ただ抱きしめられているだけなのに、下半身はカタチが変わってしまう始末。呼吸すら普通にできなくて、口ではぁはぁしなければならないくらいだった。「宏斗、兄さん……」

  • こんなに好きなのに、伝わらないのなら――   兄貴の困惑9

    上目遣いで口を半開きにしたまま、若林先輩の肩に両腕をかけて、いやらしく腰を動かす。 僕の躰は兄貴だけのもの――この人と肉体的な関係を築くより、玩具という道具でプレイしたほうが、まだ穢れずに済むと考え、淫靡に乱れる姿をあえて見せつけてやった。「あっ…ああん! やぁっあっ…んぁっ……」「きーまり! バイブにするわ」 喉仏を動かしながら生唾を飲んだ若林先輩の選択に、思わず笑いだしそうになる。自分なりに甘い喘ぎ声をあげつつ、イキたいのを我慢してますという顔を必死に作り込み、道具を選ぶように誘導したのが功を奏した。「辰之くんがバイブの振動で感じてるところ、すっごく楽しみにしてる」「頼むから、バイブの振動を最強にしないでよ」「あまりの気持ちよさに我慢できなくなって、どこかへ行ったり、俺から逃げようとしたらそうするかも」 若林先輩がセリフを言い終える前に、予鈴が教材室に響き渡った。僕は慌てて、開けているワイシャツのボタンをはめる。「はいはい。若林先輩から最終攻撃をされないように、それなりに頑張りますよ」「そうやって無理して意地はってるところ、俺の好みだけどな。さっきだって、相当感じていただろう?」 名残惜しいと言わんばかりに僕の首筋に顔を寄せて、チリっとした痛みを肌に残した。嫌なそれを右手で拭ってから、教材室をあとにする。あからさまに冷たい態度をとる僕を、若林先輩はどんな気持ちで見つめていたかなんて、知る由もなかった。

  • こんなに好きなのに、伝わらないのなら――   兄貴のほほ笑み2

     内なる苛立ちがバレないように、奥歯をぎゅっと噛みしめながら自室に移動した。素早く鞄を手にして、リビングを背にしたまま声をかける。「行ってきます」 僕のかけ声を合図に義母が椅子から立ち上がり、慌てて追いかけてきた。「辰之、忘れ物はない?」「ないよ。帰りは、いつもどおりになると思う」 しゃがんで靴を履いていたら、いつの間にか兄貴が傍にいた。振り返って目を合わせた瞬間に、後頭部を撫でられる。「寝癖くらい直さないと、彼女できないぞ」 兄貴に指摘されたことが恥ずかしくなり、その手を容赦

  • こんなに好きなのに、伝わらないのなら――   兄貴のほほ笑み

     朝の弱い兄貴が、珍しくご機嫌な様子でご飯を食べていた。隣でそれを不思議に思いながら、味噌汁をすする。「母さん、今日遅くなるから」「部活?」「部活のあとに、テスト対策の勉強することになっててさ。帰ったらちゃんと飯食うから」「来年受験だものね。しっかり勉強教えてもらいなさい」「俺が教えるんだって。酷いなぁ」 ほほえましいとも言える義理の母親と義兄のやり取りを耳にしつつ、目の前にいる実父に視線を飛ばした。たぶんこれから僕に、なにかしら嫌な話題を投げつけるであろう。「辰之、おまえ勉強

  • こんなに好きなのに、伝わらないのなら――   兄貴のほほ笑み6

    *** 部活を終えた兄貴と馬鹿女が向かった先は、市立図書館の自習室だった。 図書館の奥にある自習室が見渡せる本棚の隙間に、うまい具合に体を隠し、ふたりの様子をじっくりと窺う。他にも来館している客がいるので、派手な行動をするとは思えないけれど、相手はあの馬鹿女。油断するわけにはいかない。 兄貴は馬鹿女の横で楽しそうにノートを指さしつつ、ささやき声でなにかを話しかける。僕に向けてくれるのとはあきらかに違う笑みに、胸の奥が軋むように痛んだ。(クソっ、あんな女にそんな笑顔で話しかけるなよ……) どうにも見ていられなくなり、本棚に背中を預けて天井を仰ぎ見た。奥歯をぎゅっと噛みしめながら、持っ

  • こんなに好きなのに、伝わらないのなら――   兄貴のほほ笑み5

    *** 兄貴が部活を終えるまでの時間を使って、この間女子トイレに仕掛けた盗聴器の中身を確認すべく、目立たないであろう図書室の隅の席で聞いていた。(前々回と前回は空振りに終わったけど、今回はどうだろう……) 期待を胸にイヤホンから流れる女子の会話を耳にしつつ、机の上に広げたノートにその内容を端的に書き記した。僕の姿を傍から見る分には、熱心に勉強しているように見えるだろうな。 いろんな女子からもたらされる噂話や愚痴を聞いている最中に、衝撃的とも言える話は突如はじまった。 早口でまくしたてる甲高い声に反応し、相槌する者は僅かだったが、信じられない内容にめまいがしてきた。どうにもメモする気

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