All Chapters of こんなに好きなのに、伝わらないのなら――: Chapter 71 - Chapter 80

98 Chapters

兄貴の悦び9

箱崎の視線は僕に向いておらず、目の前にある青空に釘付けだった。避けられている理由を知りたくて、質問をぶつけるべく声をかけた。「箱崎としては僕らの付き合い、どう思う?」 箱崎に視線をロックオンしたまま、単刀直入に訊ねた。どんな返答が返ってくるのか、まったく予想がつかないゆえに、無駄にドキドキする。「どう思うかって聞かれても、黒瀬のプライベートなことを、俺がなにか言ったところで」「箱崎の率直な意見が聞きたい。教えてくれないか?」 言い淀む箱崎にたいして、瞬時に食らいついた。僕がどんな顔をしていたのかまったくわからないが、僕の声を聞いた箱崎が、逸らしていた顔をこちらに向けるくらいの迫力があったことは理解した。「率直な意見って、う~ん……。好き合っている同士が付き合うんだから、別にいいんじゃないかと思うけど」「本当にそれは、おまえの気持ちなのか?」 間髪おかずに質問を続ける。箱崎の心を丸裸にするために、手を抜いたりなんてしないつもりだった。「そうだよ。嘘偽りのない俺の気持ち」 僕の顔をまっすぐ見つめたまま答えた箱崎に、いつもより低い声で問いかける。「だったら、どうしてあのとき嘘をついたんだ?」「あのときって?」 箱崎は何度か瞬きしながら、小さく首を傾げる。あえて僕が言葉を濁したことにより、話に集中してもらえた。「兄貴が付き合ってた彼女の情報を、わざわざ教えてくれたろ。『俺の彼女がさ、黒瀬先輩の彼女についての噂話を、たまにしてるんだよ』って。噂話というのは第三者の思惑やら、いろんなものがついてくる。よく聞く噂話の尾ひれだったりね。僕はそういうのを、ちゃんと確かめたくなるんだよ。真実を見極めるために!」 あからさまに箱崎の顔色が変わった。瞳が意味なく揺らめき、呼吸が浅くなっているのが見てとれる。「箱崎、どうした? 顔色が悪いみたい」「ぁ、そ……そうかな」 ふいっと僕から視線を逸らして、足元を見つめる箱崎。横顔からも動揺の色が窺えた。「僕ね、その日のうちに隣のクラスに行って、箱崎の彼女に声をかけた。「箱崎と同じクラスの黒瀬って言うんだけど、僕の兄貴の彼女が君のクラスにいること知ってる?」ってね」
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兄貴の悦び10

箱崎と同じクラスというワードを聞いた箱崎の彼女は、僕に呼び出されたときに見せた警戒しているような表情を緩めて、首を横に振りながら答えた。「ごめんね、そういう話は疎くて」と。「箱崎、どうして嘘をついたんだ? 僕はそれを知りたくて、今日ここに呼びだした」 核心に迫るべく、ところどころアクセントを置きながら言の葉を告げた。それでも逸らしたままでいる、箱崎の視線が戻らない。伏せたまぶたが影を落として、箱崎の苦悩を色濃くする。「黒瀬はすべてわかっていて、今日まで俺を野放しにしてたってのか。あの時点でわかっていたなんて、驚きしかないよ」「ピアノの裏に盗聴器を仕掛けたのも、箱崎だろう?」「うん。休み時間に黒瀬のスマホの内容が見えて、黒瀬先輩とわざわざ音楽室で逢うっていうのが引っかかったから。ふたりは兄弟なんだし、自宅でも話ができるだろう?」 やけにあっさりとゲロした箱崎に、内心あっけにとられた。「そうだね。自宅でできない話の内容について箱崎が気になって、持っていた盗聴器を仕掛けたのはわかったけれど、おまえはいつでも、そんなものを持ち歩いていたのか?」「……持ち歩いてた。理由は――」「好きな相手の声を盗聴するためだろう? もちろん、彼女の声じゃない」 言いきったセリフで箱崎はやっと顔をあげて、隣にいる僕の顔を見る。まぶたを伏せていたときに見せた翳りが一切ないことで、心の内を明かしてくれることがわかった。「俺ね、声を聞いた瞬間、雷に打たれたみたいに躰が強張ったんだ。俺が理想にしている声を持っているなって」 確かに兄貴の声は耳障りがいい。艶のある低音で愛の告白をされたら躰が意味なく震えるし、卑猥なおねだりをされたら、喜んでやってしまう自分がいるのも事実だ。箱崎の言葉に、なぜだか納得してしまった。「箱崎って、声フェチだったんだ」「盗聴器を買ってしまうとは思いもしなかった。だけどいつでも声を聞いていたいと思ったら、購入する意欲に拍車がかかってしまって」「ふ~ん」「箱崎って呼ばれるだけで最初は幸せだったのに、それだけじゃ足りなくなっていった」 苦しそうに微笑む箱崎の表情につられるように、僕も苦笑を浮かべた。気持ちがわかりすぎるくらいに理解できてしまうせいで。
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兄貴の悦び11

兄弟以上の間柄になれないと、最初は諦めていた。好きになった時点で多くを望めなかったからこそ、諦める気持ちが大きい分だけ、兄貴に手を出そうという気力すら沸かなかった。 それなのに彼女ができたことを知った瞬間から、嫉妬という感情が芽生え、それを意識しないように抑え込もうとしたのに、今まで我慢した感情と嫉妬心が一体化した瞬間、抗えない感情が全身を包み込んだ。それが僕を突き動かす原動力に変わった。 絶対に誰にも渡したくない。兄貴は僕のものって――。「箱崎悪いけど、兄貴を諦めてくれ……」 執着心を含んだ僕の声が、箱崎の耳にどんな感じで届いただろうか。「えっ?」「僕はこのまま兄貴と付き合っていくし、兄貴が心変わりしないように、努力して付き合っていくつもりだから」「ププッ、くくくっ…アハハハ!」 僕なりにちゃんと宣言したというのに、なぜだか箱崎はお腹を抱えながら大笑いする。目には涙を浮かべるくらいに。(おかしな話をしたつもりはないのに、箱崎の爆笑の意味がさっぱりわからない――) 肩透かしを食らってぽかんとする僕の背中を、ゲラゲラ笑う箱崎が何度も叩く。まるで一緒に笑えと強要しているようだった。「黒瀬ってば頭の良さが、悲しいくらいにアダになってるよな。悪い、笑いが止まらない……」「なんなんだよ、もう!」「つまり、こういうことさ」 背中を叩いていた手が僕の首を後ろから鷲掴みするなり、箱崎の顔が一気に近づく。避ける間もなく、唇を奪われてしまった。「は…こざ、き?」 触れるだけのキスはすぐに終わったが、箱崎の顔が間近にあった。近すぎてボヤけるくらいの近距離をなんとかしたいのに、箱崎に掴まれた首がまったく動かせない。これじゃあまた、唇を奪われてしまう恐れがある。 両手で箱崎の上半身を押したが、部活で鍛えている相手にはまったく通用するはずもなく、反発する力を直にてのひらで感じた。(ヤバい、このままじゃ――)
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兄貴の悦び12

「俺は黒瀬先輩よりも、黒瀬が好きだよ。はじめは声だけだった。親しく言葉を交わしてどんどん仲良くしていくうちに、黒瀬の全部がほしくなった。俺の言葉を素直に聞いてくれるその耳や、澄んだ声を出してくれる唇とっ痛っ!」「辰之から手を離してもらおうか、箱崎……」 怒りをおさえた兄貴の震える声に、箱崎は慌てて僕から手を離し、恐るおそる後ろを見やる。「黒瀬先輩……」 箱崎に兄貴は僕のものだということを見せつけてやろうと、ここに来る前にLINEで兄貴に連絡していた。こんなナイスなタイミングで現れてくれるとは、奇跡に近いと言える。「兄貴、来てくれたんだね」(箱崎が好きな相手が僕だったという事実を目の当たりにして、兄貴はどんな気持ちでここに来てくれたんだろうか) 僕から箱崎は手を離したというのに、兄貴は箱崎の手首を掴んだまま、握り潰す勢いで離さない。「辰之おまえは、隙を見せすぎなんだよ。気をつけてくれ」 箱崎に対する怒りが、言葉になって僕にぶつけられた。ムッとした表情の兄貴に、微苦笑を頬に浮かべて返事をする。「兄貴と違って、僕はモテないよ」 機嫌の悪い兄貴を宥めるのに、一苦労するなと考えさせられた。「本人にその自覚がないってところが、壊滅的というか……」 兄貴は呆れながら箱崎に視線を飛ばすと、告げたセリフを肯定するように首を縦に振る。意見が一致したからなのか、兄貴は掴んでいた手を放し、僕にしっかり向き直った。「壊滅的って酷くない? 実際、僕は本当にモテないっていうのに」「箱崎が辰之に特別な感情を抱いてること、最近になって気がついた。同じ気持ちで辰之を見たからこそ、わかったのかもしれないが」「黒瀬先輩にはかないませんね、さすがです」 歪んだ笑顔を見せた箱崎は、しっかりと頭を下げる。「黒瀬、いきなりキスしてごめん! もうあんなことしない、だから」「友達以上にはなれないけど、これからもよろしく」 箱崎の言葉尻を奪って、優しく語りかけた。僕のセリフを聞いた箱崎はすぐさま頭を上げたのだが、その面持ちはアホ面丸出しだった。それを見た兄貴が口元を押さえたが、それでもブッと吹き出す。
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兄貴の悦び13

「黒瀬先輩?」 さっき爆笑した箱崎に負けないくらい、ゲラゲラ笑う兄貴。(屋上にいるのは僕らだけじゃないのに、ちょっとは気を遣ってほしいかも……)「兄貴、いい加減に笑うのやめてくれないかな」「だってさ、辰之のお人好しに呆れ果てて、笑いが止まらないんだ。普通あんなことされたら、友達やめるだろ」「箱崎はちゃんと反省してるし、約束は絶対に守る男なのを知ってるからね。そういう裏表がないところが信用できる」「黒瀬……、ありがと。だけど黒瀬が思うような、ちゃんとした男じゃないだろ俺は」 例の盗聴器を仕掛けたことを言ってるんだとわかったが、兄貴には内緒にしてやろうと思った。「箱崎はちゃんとしてるって。もっと自信を持ちなよ。僕の親友なんだし」 見つめ合う箱崎と僕の間に兄貴が唐突に入り込み、うまい具合に視界を塞いだ。あからさますぎる嫉妬に、頬がつい緩んでしまう。「黒瀬先輩、それじゃあ俺はこれで……」 素早く空気を読んだ箱崎が兄貴の背中に声をかけたと同時に、弁当箱を片手に駆けだした。その俊敏さに、思わず舌を巻いてしまった。「辰之、わざとだろ」「え? なにが?」 間の抜けた返事をする僕を見ながら、ベンチに腰かける兄貴の目の白いこと、この上ない。意味がわからなくて、首を傾げてしまった。「屋上にあるベンチは、恋人同士でイチャイチャするのにもってこいの場所だっていうのを、おまえは知らなかったのか? 箱崎は絶対喜んだに違いない……」「へぇ全然知らなかったよ。それを知っていた兄貴は元カノと一緒に、ランチを楽しんだんだろうね」(事前に知っていたから、兄貴をわざわざここに呼びだしたっていうのもあったけどね! 慌てて来てくれて何よりだったよ)「…………」
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兄貴の悦び14

 図星をさされた兄貴は少しだけ唇を突き出し、面白くなさそうな表情をありありと浮かべて、そっぽを向いてしまった。僕の読みがことごとく当たってしまうことについて、こういうときは駄目だなぁと思わずにはいられない。 兄弟喧嘩と恋人同士のケンカは、そもそも質が違う。しかも喧嘩したときは、決まって先に折れるのは兄貴だった。僕から修復したことがないゆえに、対処に困り果てる。「怒らないでよ、宏斗兄さん」「いつまでもそこに突っ立ってないで、座れば?」 しょんぼりする僕に、兄貴の乾いた声がかけられた。素直にそれに従ったが、ひとり分のスペースを空けて座る。本当はもっとくっつきたかったけど、兄貴から漂う雰囲気を察して行動してみた。(う~っ、もどかしい! こういうときはなにを話せばいいのか、全然わからないや。友達相手だったら適当に笑って誤魔化すとかできるのに、大好きな兄貴が相手じゃ、喋った分だけ自分の首を絞めるような気が激しくする。さっきだって妬いてる発言した兄貴に、思いっきり対抗しちゃったし……) 首をもたげて足元を見ていると、膝に置いた手に兄貴の手が重ねられた。ぎゅっと強く握りしめるなり、横に小さく引っ張る。 兄貴の握力なら、簡単に僕を引っ張って近づけることができるというのに、あえてそれをしないのはどうしてなのか。こっちの想像を超えることばかりする、兄貴の考えがまったく理解できない。 恐るおそる隣を見ても兄貴の顔はそっぽを向いたまま、相変わらず僕を見ていなかった。だけど頬がほんのり赤くなっているだけじゃなく、耳まで赤く染まっていた。 僕は迷わず兄貴の躰にしがみつく。掴まれた手を放り投げるという荒業つきで!「辰之っ!」「機嫌直してほしいな。どうすればいい?」 僕が抱きついたことにより兄貴の長い前髪が乱れたので、手櫛で優しく整えながら問いかけた。こっちを向いた兄貴の面持ちは、最高潮に赤くなってる状態。(きっと僕が潤んだ瞳の上目遣いで、ぐぐっと顔を寄せたことにより、兄貴はパニックになっているのかもしれない。ということにしておこう)「辰之、ちょっと近いって。周りに変に思われる……」「別に良くない? だって僕らは兄弟なんだし」 実際は兄弟を超えた間柄だけどね。こういうときは兄弟っていうのも、便利なものだな。
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兄貴の悦び15

「ブラコンって言われるぞ」「ブラコンじゃなくて、僕はゾッコンだよ兄貴!」 箱崎にされたキスの消毒をしてもらおうと、瞳を閉じて顔を寄せたら、兄貴の大きな手が僕の顔面をキャッチする。(なぜ止める? バレーのアタックをされなかっただけ、まだマシなのかなぁ)「ちょっとは人目を気にしろよ。俺だって我慢してるんだし」「全然我慢してるように見えない~。部室で気を失うくらいに僕を抱き潰した兄貴が、あれ以来手を出さないのは違和感しかないからね!」「シーッ、声がデカい……」 顔面キャッチされたままだったからこそ、大きな声でアピールしたというのに、僕の気持ちは伝わらないらしい。切なすぎる!「だったらこの手を外してよ。声のボリューム落とすからさ」 言い終えた瞬間に兄貴のてのひらにチュッとしたら、その衝撃に驚いたのか慌てて外した。キスされた大きな手を胸元に当てて、微妙な表情を見せた兄貴。瞳が忙しなく右往左往している。「辰之、心臓に悪いことやめてくれ」「ドキドキしてくれたんだ?」「そういうことされ慣れてないし、どうしていいかわからなくなる」(真面目な兄貴らしい返事だな。もっと困らせたいかも)「兄貴が僕を焦らすから、こういうコミュニケーションしかとれないんだよ」 赤く染った兄貴の耳朶をやんわり口に含み、舌先でぺろぺろしてあげた。「うっ! やめろって」 口ではそう言ったくせに、両目をキツくつぶって、されるがままでいてくれる兄貴がすっごく可愛い。ついでに耳裏にも舌を這わせてみた。「くうっ!」「兄貴、声とち〇ぽが大きくなってる」 クスクス笑いながら指摘した途端に、ブレザーの裾で前を押さえる。まぁ僕のも同じような状態だけどね。「うるさいな、おまえ本当にエロすぎる」「エロいよ、兄貴限定で。だからさ、このままヌキに行かない?」「行かない。そんなに時間ないだろ」「大丈夫だよ。兄貴の長くて硬いち〇ぽと僕のを一緒に擦り合わせれば、それなりに時短になるって。濡れぬれの先端を合わせて、上下に扱きなが――」バコンっ!「耳元で卑猥なこと言うなよ! 頭がおかしくなる」
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兄貴の悦び16

兄貴の大きな手が、僕の後頭部目掛けてアタックした。しかも照れが加わっているため、かなりの激痛を伴うものだった。だがこんなことで負けてはいられない。僕だって男なんだ!「当たり前でしょ。兄貴の頭をおかしくして、僕の誘いにのってもらわなきゃだし」「おまえはヤることしか頭にないのか!?」「しょうがないだろ。兄貴のち〇ぽじゃなきゃ奥の奥に届かなくて、オナニーしても気持ちよくないんだよ。そのせいで勉強に集中できない!」「は? 勉強?」「兄貴がバレー部の部室で僕を抱き潰したりするから、あの日のことが頭から離れなくて困ってるんだからね」「ぉ、俺のせいにするなよ……」 不機嫌で尖っていた兄貴の唇が、瞬く間に引っ込む。しかも文句を言ったのにぬるい口調のお蔭で隙ができた。「ここでキスしてくれたら、兄貴のせいにしない」 容赦のない口撃を続ける。押せるときは徹底的に押しまくる主義だからこそ、手段なんて選んでいられない! イチャイチャできるなら、どんな理由をつけてもやってもらうもんね。「なんだよ、それ」 たじたじしまくりの兄貴の様子から、あと少しで落とせると踏んだ。ここは焦らし作戦を展開して、僕の誘いから逃げられないようにしてあげよう。「箱崎がここでできたこと、兄貴はできないん――」 唐突に塞がれる唇の柔らかさと熱に、どうにかなりそうだった。兄貴の広い背中に両腕をまわして、縋り付くのが精一杯。「んうっ…ぁあん」(くそっ、『箱崎がここでできたこと、兄貴はできないんだ。いくじなし!』って言ったあとなら、兄貴のキスはもっともっとエロくなるはずだったのになぁ) ただの触れるだけのキスだというのに、痛いくらいにち〇ぽが反り勃つ。兄貴の口内に舌を侵入させたいのに、きっちり歯を閉じてるところがクソ真面目というべきか――。「兄貴の意地悪……」 先に降参したのは僕。物足りないキスを続けられたせいで、自分から外してしまった。
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兄貴の悦び17

「辰之、これに懲りたら……っ!」 しかめっ面で僕にお説教をはじめた矢先に、兄貴は絶句する。目を見開いたまま固まる姿が、どこかおかしい。兄貴の顔の前で手を振ってみたのに、それすら目に入らないのか、茫然と遠くを見つめる。「兄貴どうしたん…んんんっ!?」 振り返りながら声をかけたが、同じように言葉を飲み込んだ。あちこちに点在している、ベンチの様子を目の当たりにしたせいだったのだが。「辰之、俺たちが場違いなことがわかるだろ?」「そうだね。あんなに騒いでいたのに注目を浴びない理由が、わかりすぎるくらいに分かったよ」 僕らのイチャイチャなんて、兄弟喧嘩レベルと思われる。いやむしろ、そう思われてスルーされていたのかもしれない。 本番までヤっていないが、いい感じに服を乱した女子に男子が手を出していたり、その逆もあったりで、あちこちがくんずほぐれつ状態だった。それを見るために僕ら兄弟はここに現れて、わざと喧嘩をしているように装いながら、覗き見していたように思われたんだろう。「前に来たときは、こんなんじゃなかったハズなんだけど」「やっぱり元カノと来てたんだ」 目立たないように躰を小さくして、出口に向かう兄貴の背中に問いかけた。「今はおまえと来てるんだからいいだろ! とっとと脱出するぞ」 僕の利き手を掴んだ兄貴は、早く来いと言わんばかりに引っ張り、屋上の扉を開けて校舎に戻った。遅れて僕も中に入ると、兄貴の足がピタリと止まる。不思議に思って足元を見てから兄貴の顔を見上げると、いきなり額にキスされた。「辰之が勉強に打ち込めるように、まじないをかけた」「えっ?」「今度のテストでクラスで一番をとることと、学年で五位以内だったら、俺から夜這いをかけてやるよ」「兄貴の夜這いがご褒美のテストなんて、そんなの――」 突然の無茶ぶりに、激しいめまいが僕を襲う。兄貴より優位に立とうとしたら、それを覆すものを用意するあたり、兄貴らしいというべきなのかもしれない。「俺の弟は優秀だからなぁ。絶対に頑張ろだろう?」「頑張るけど、その……。キスしたりちょっとだけ触ったりして、兄貴と仲良くしたいんだけど」「おまえが勉強に集中できるように、我慢するつもり。ああなんて弟思いの兄貴なんだ、俺って!」 カラカラ笑いながら先に階段をおりていく兄貴に、なんて言葉をかけたらいいのやら。勃ち
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特別番外編【Voice】

清楚さを表す絹糸のような柔らかな髪。ピアノの黒鍵のような黒髪は真っ直ぐで、彼の性格を表していた。惹かれる部分はそれだけじゃなく、あどけなさを残した大きい瞳と通った鼻筋。そして耳に残る声を奏でる唇は、今すぐにキスしたくて堪らなくなる。 だが俺たちは友達の関係。好意を必死に隠すために、胸の奥深くに畳む。そのことにまったく気がついていない黒瀬は、今日も俺の名を呼ぶ。はじめて彼の声を聞いたときの甘い衝撃は、忘れたくても忘れられなかった。 バレーの強豪校として名を馳せている高校に無事に入学し、見知らぬクラスメートに囲まれながら、このあとのことをぼんやりと考えていた。 自分の特殊な性癖についてバレたら、間違いなくここでもやっていけない。中学がそうだったから。誰も受験していない遠くの高校に来たのも、そのためだった。(結局アイツに遠距離恋愛は無理だと勝手に別れを告げられ、悲しみに打ちひしがれる間もなく、テストテストの毎日で中学が終わり、なんとかここに来たけど、とりあえずゲイバレしないように彼女を作って、それから――)『箱崎って、高校でもバレーをやるつもりなのかな?』 とても耳障りのいい声が、左から聞こえた。首を動かして声の主を見たら、ホームルームで自己紹介していた、クラスメートの中のひとりなのがすぐにわかった。『唐突にごめん。僕、黒瀬辰之。ひとつ上の義理の兄貴がここのバレー部にいる関係で、箱崎に声をかけたんだけど……』 耳を通り抜けて、胸を震わせるような心地いい澄んだ声に、思わず固まってしまった。黒瀬の長いまつげが何度も上下に動き、俺の顔をじっと見つめる。『箱崎、もしかして怒ってる?』 親しげに顔を寄せられた瞬間、頬に熱を持つのがわかった。無垢な瞳に見つめられるだけで、なにかが煽られる気がして、慌てて立ち上がる。俺の驚きを表す感じで、座っていた椅子が大きな音を立てて倒れた。 そのせいで一斉に集中する視線に慌てふためいたのは俺よりも黒瀬で、小柄な躰をさらに縮こませながら、怯えた表情をありありと浮かべる。「黒瀬、悪い。怒ってないから、全然! ちょっとビックリしただけ。考えごとをしててさ」 俺は周りに聞こえるように大きな声で言い放ち、ちょこんと頭を下げた。和解したかのようなその様子で、クラスメイトの視線から無事に解放される。『そ、そうだったんだ。僕こそいき
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