All Chapters of こんなに好きなのに、伝わらないのなら――: Chapter 81 - Chapter 90

98 Chapters

特別番外編【Voice2】

♪。.:*・゜♪。.:*・゜♪。.:*・゜ 黒瀬をずっと見ていて、気づくことがあった。それは好きな相手について。 義理の兄を見る目が、ほのかに熱を帯びていること。よく見なければわからないそれは、俺や他の連中を見る目と明らかに違っていた。そして黒瀬と一緒にいて、憧れを超える想いを何度も目撃することになる。お蔭で何度も複雑な心境に陥った。「あれ黒瀬? どうしたんだ?」 バレー部の部室の扉を開け放ちながら、ロッカールームの前にいた黒瀬に声をかけた。黒瀬が立っている場所は、彼の兄が使うロッカーの前だったので、なにかを渡すためにそこにいるのは瞬時に理解した。「は、箱崎ぃっ…これから休憩?」 思いっきり上擦った声を出した黒瀬に、いつもどおりに接することを心がける。俺が不審に思って変な態度をとってしまったら、きっと黒瀬が傷ついてしまうと考えた。「うん。スポドリ出し忘れちゃって。もしかして黒瀬先輩になにか差し入れしようと思って、こっそり来たとか?」 驚きの眼で俺を見るので、そっと助け舟を出してやった。「差し入れじゃなく、新しいタオルを入れておこうと思ってね。毎朝お母さんに注意されてるのに、古いのを出し忘れるんだよ。うちの馬鹿兄貴は」「ということは、黒瀬先輩がさっき使っていたのは、古いタオルってことなんだ?」 黒瀬の持つタオルに、チラリと視線を飛ばす。「箱崎の読みどおり、本当にだらしない兄貴だよ」「休憩中だし、直接渡したらいいんじゃないか?」 俺としては当たり前のことを言ったつもりなのに、なぜだか黒瀬は狼狽えた。「いや、その……ちょっと顔を合わせたくなくて。現在進行形で兄弟喧嘩中でさ」「へぇ珍しい。でも仲がいいほど喧嘩するって言うもんな。俺から渡してやろうか?」「助かる、これお願い……」 黒瀬が手に持っていたタオルじゃなくて、ロッカーの中から出したタオルを、俺に押しつけるように渡された。(持っているタオルに顔を押しつけて、黒瀬はなにをしていたんだろう?) このときは若林先輩をまじえてゴタゴタしていた時期だったらしく、黒瀬先輩も黒瀬と微妙な距離感を保っているのを、バレーの練習のときに垣間見たのだった。
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特別番外編【Voice3】

♪。.:*・゜♪。.:*・゜♪。.:*・゜ バレー部の部室で、自分の兄の使用済みタオルに顔を埋めて呼吸を乱し、瞳を潤ませながら赤面していた黒瀬。 義理の兄がめちゃくちゃ好きなクセに、若林先輩がいつの間にか彼の傍に寄り添っていた。しかも仲睦まじそうに。黒瀬の華奢な首筋にキスマークをつける距離になったのには、正直驚きだった。 クラスメートで友達の俺じゃなく、これまでまったく接点がなかったのに、兄を介していきなり黒瀬と仲良くなった若林先輩。 ゲイバレしないように気を遣ってる俺じゃなく、正々堂々とゲイだと公表している若林先輩。 どうしてあんなヤツと黒瀬が、一瞬でも付き合うことができたのか――。 俺とは真逆のタイプの若林先輩が、大嫌いだった。黒瀬が絡んでから、嫌いという気持ちに拍車がかかるのは必然で、あからさまに避けていた人物でもある。 目に余るほどに熱々の黒瀬兄弟と屋上で別れて、しょんぼりしながら階段をおりていたタイミングで、若林先輩が目の前を横切った。俺としてはそのままやり過ごしてほしかったのに、なぜか立ち止まり、「よぉ」と気安く声をかけられてしまった。 なんて返事をすればいいのかわからなかったゆえに、奥歯をかみ締めながら、小さく頭を下げて若林先輩の脇を通り過ぎた瞬間、ちょっとだけ躰がぶつかってしまった。目の端に映る四角いもの。スマホが真っ白いコードと一緒に、床に向かって落ちていく。 バレーボールを拾うように腰を屈めながら、それをキャッチしようとしたが、親指の付け根に当たってしまった。小さく弾んだスマホの落下地点を予測し、今度はちゃんと捕まえて、ぎゅっと握りしめると、繋がっていた白いコードがひょいと抜けてしまう。『うっ…も、いやだ……。こんなの、僕は兄貴だけなのにっ…ひっ、動かさないで』 聞き覚えのある声が、大きなボリュームで廊下に響き渡ってしまった。「やべっ!」 若林先輩の慌てぶりとは裏腹に俺は至極冷静にスマホの画面をタップし、音声をオフにした。「箱崎っ、俺のスマホ返してくれないか」 ヤバいものを俺に聞かれたせいで、若林先輩の顔色が明らかにいつもと違って見える。先輩風を吹かせるウザい彼に口撃して、これまでのうっぷんを晴らすべく突っ込んでやろうと思った。「どういうことか、説明してくれますよね?」
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特別番外編【Voice4】

スマホを返さないことを示すために、ブレザーの内ポケットにしまう。「別におまえには、関係ないことじゃん。あの兄弟はめでたく、くっついたんだしさ」 黒瀬の卑猥な声を聞くことのできる大事なものを俺にとられた若林先輩は、眉根を寄せながら床を蹴り上げるという、ふてくされるような態度をとった。「関係あるに決まってるだろ! 俺は黒瀬の友達なんだ」 いちいち俺の琴線に触れるそれに、怒りが声になって表れる。「うわぁ、めんどくさいのに絡まれた……」 若林先輩は口元を引き攣らせて、言わなくてもいいひとことを呟いた。そのせいで俺の中にある積もりつもったものに、一瞬で火がついた。自分よりも大柄な若林先輩の襟首をむんずと掴み、誰もいないであろう体育館の物置に向かうべく、引きずりながら歩く。「箱崎離せよ。ちゃんと説明するって!」 受験生の身として問題を起こしたくない若林先輩は、されるがままでついてくる。引っ張る俺の腕に手をかけて、ちまちまと上下に動かすだけだった。「箱崎の複雑な気持ちは、わかってるつもりだからさ」「アンタなんかに、俺の気持ちなんて知ってほしくありませんっ!」「見てりゃわかるだろ。同じ相手のことが好きなんだし」 俺は足を止め、引きずられる若林先輩に振り返った。「箱崎ぃ、怖い目で見つめないでくれよ。それなりのイケメンがそんな顔してるせいで、5割増で怖いことになってるからさ」(さっきから言わなくてもいいことばかり口にするコイツを、これからどうしてやろうか――)「悪かった。おまえの大事な黒瀬に手を出して。このまま体育館倉庫でボコボコにするのは、ちょっと勘弁してほしい……」 迷うことなくまっすぐ突き進む俺の動きを予測したのか、若林先輩は行き先を口にしながら、俺に向かって両手を擦りつけて拝み倒す。「若林先輩を体育館倉庫でボコボコにする」「ヒッ、おまえがそれを言うとか、マジで勘弁してくれって」「若林先輩をボコボコに……」「たっ、確かに、そんな気持ちになるのはわかるぞ。大好きな黒瀬が俺にヤられたことを知って、怒りが頂点に達しちまったんだよな。せめて殴るなら、顔はやめてくれよ。首から下なら許可するし」「……首から下なら、攻めてもいいんですね?」 しばしの間のあとに問いかけた俺に、若林先輩はどこか嬉しそうに食いついた。「おぅよ! 目立たないところなら
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特別番外編【Voice5】

体育館倉庫という名の物置に到着し、電気をつけて誰もいないことをしっかり確認してから、扉を閉じた。あいにく中から鍵をかけられないので、悪事をおこなうには危険な場所なれど、人が来ないことを祈りながら口を開く。「若林先輩、俺に背中を向けてください」「背中? 後ろから殴るっていうのか。怖ぇ!」 キョロキョロして、縛れるものを探してみる。ちょうど縄跳びのロープが目に入ったので、迷うことなくそれを手にし、若林先輩の両腕をグルグル巻きにしてやった。「ゲッ! 拘束すんのかよ!?」「抵抗されたら狙ったところに、ちゃんとパンチが入りませんので」「徹底しすぎだろ、それ……」 減らず口を叩いた若林先輩を、後ろから軽く蹴飛ばした。受け身のとれない躰は前のめりのまま、あっけなくなにかにぶつかり、力なくその場に横たわる。薄汚れた場所のせいで、濃紺のブレザーが可哀想なくらいに汚れた。「辰之くんに手を出した俺が憎いのはわかるが、死なない程度にしてくれ」 諦めた面持ちで俺を見上げる若林先輩のブレザーのボタンを外し、ワイシャツの小さいボタンも次々と外す。「おいおい、直で殴りつけるつもりかよ。内臓破裂させんなよ……」「内臓破裂? そんなことさせません。でも違うところが、大変なことになるかもですけど」 笑いながら若林先輩の大事なところを、ぎゅっと鷲掴みしてやった。「まっ待て! そこ潰されたら死ぬ!!」「ですよねぇ。ヤリチンの若林先輩の大事なところですし」 強弱をつけて上下に扱くと、簡単に完勃ちする。さすがはヤリチン先輩。「箱崎ぃっ、なにを…くうっ!」「大きくなったところをへし折ったら、どれくらいの痛みを感じるんでしょうね?」 いつもより低い声色で告げた途端に、両足をバタつかせながら逃げようとした。こんなこと言われたら、誰だって逃げ出したくなるのは当然。だが俺に股間を掴まれてる時点で、残念ながら逃げられない。「あぁ、いやだ…お願い折らないでくれ」(恐怖を与えているのに、さらに硬くなるのがすごいと思える。もしかしてドMなのか!?)
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特別番外編【Voice6】

顔を真っ青にして躰を震えさせる若林先輩に、まろやかさを含んだ口調で話しかける。「ついさっき、黒瀬の抵抗する声を聞いたけど、同じようにやめてって頼んでましたね。それでも若林先輩はやめなかった」「あれは辰之くんの演技だ。黒瀬を妬かせるために、そういうプレイをしただけなんだよ」「だったら本番なんて行為をわざわざやらずに、声だけ録音すればいいだけのことじゃないですか。好きでもない男に抱かれる黒瀬の気持ちを、アンタは全然考えなかったんでしょうね!」 怒りにまかせてスラックス越しに激しく扱くと、若林先輩は「うっ!」と一瞬呻いてから、躰を数回ビクつかせた。どうやらイッたらしい。「早っ。こんだけ早けりゃ、黒瀬は楽しむ余裕がなかったでしょうね」「早くてもその分、回数をこなせるんだってぇの!」「だったら、その回数とやらをこなしてもらいましょうか」 瞳を細めながらしたり笑いをしてみせたら、若林先輩はしまったという表情を顔面にありありと浮かべた。 問答無用で若林先輩のベルトを外し、スラックスごと下着をおろす。白濁に濡れた下半身が、えも言われぬ情けなさを醸していた。「箱崎……、これ以上なにをする気だ?」 それには答えず、粘り気のある白濁を指先にとって、後孔の入口に荒々しく塗ったくった。「ひいいぃっ、やめてくれ、俺はバリタチなんだぞ」「早漏のバリタチ、カッコイイですね」 心にまったく思っていないことを棒読みで言いながら、ナカに指を挿入して解していく。ちなみに俺の下半身は、まったくもって変化がなかった。大嫌いな相手を組み敷いてる時点でピクリとも反応ないのは予想できたが、若林先輩を責めるときには、どうしても必要な道具になる。「あっあっ…気持ち悪ぃっ、もぉ嫌だ」 しかもここにきて、若林先輩が泣き出してしまった。「ううっ…箱崎ぃっ悪かったって。反省するからやめ、ヒック……お願い、しまふ」 両目から止めどなく涙を流して大号泣する若林先輩の姿に、俺のテンションがだだ下がりしていく。しかし、こんな状況を打破するアイテムを持っていた。 空いた手でブレザーの内ポケットから若林先輩のスマホを取り出して画面をタップし、オフにしていた音声を流した。『ああ、いい締めつけだ。俺をこんなに感じさせる辰之くんを好きになりそうだよ』 今の状況とは逆の立場にいる若林先輩の声。すごく感
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特別番外編【Voice7】

黒瀬の意図を考えながら若林先輩のナカを解していくうちに、音声が別なものに変わった。さきほどまでの嫌がる声ではなく、甘さの中に切なさを含む淫靡な声が物置の中に響き渡る。『あぁん、それ気持ちいぃっ! あっ兄貴が俺のぉっ、俺のをフェラしてくれるなんて…夢、みたいっンンっ』 一緒にじゅぷじゅぷという音もハッキリ聞こえてきて、激しくフェラされているのが明らかだった。『あっあっあ、宏斗兄さんんっ…もっと、もっとシて、俺のち〇ぽ美味しくしゃぶって!』 黒瀬の積極的な声は、俺のモノを確実に変化させた。『んぅっ、んっ、美味い…よ。辰之が感じてるのがわかる。イヤラしい汁がいっぱい出てる』『ひゃぁん♡ それヤバいっ!』 荒い息遣いと聞いたことのない黒瀬のエロい声で、痛いくらいに自身が反り勃つ。それは俺だけじゃなく、目の前にいる人物も同じだった。「箱崎もうやめてくれぇ…これだったら殴られるほうが100倍マシだ」「そんなこと言ってるくせに、しっかり勃起してるんですね」「これはしょうがないだろ、辰之くんの声のせいだし」『ああっ、あ、ああぁあ♡ お尻も触ってほしいっ…バイブを取ったときみたいにぃ、ッ……兄貴の指でごしごしされたい』 鼻にかかるような甘ったるい黒瀬の声で、若林先輩のナカが締まる。「おい、これだけ俺に屈辱的なことをしたんだ。もう許してくれよ」 大声で俺に頼み込む若林先輩の声に被さるように、黒瀬先輩の声がした。『それ、若林先輩にされて気持ちよかったから、俺にされたいだけだろ』 苛立つ黒瀬先輩の気持ちと、俺の気持ちが見事にリンクする。ナカに挿れてる指先に、いやおうなしに力が入った。「箱崎痛いって、マジで勘弁してくれよ」 他にもわーわー喚く若林先輩の声にまじって、黒瀬先輩の焦れた声が続く。『アイツと何度も寝てるんだろ。そのたびに辰之は若林先輩の手で、とことん感じさせられたに違いないって』 嫉妬が滲み出る黒瀬先輩の声を滅多に聞くことができないんゆえに、俺の心に染み渡っていった。『わっ、若林先輩にヤられたのは、音楽室のあのときだけだよ。選ばされたんだ、抱かれるかバイブを入れるかの二択で』 今にも泣き出しそうな黒瀬のセリフで、若林先輩に視線を向けた。冷凍庫なみの冷たさを宿しているであろうそれに、目の前にある顔が恐怖に固まる。「若林先輩、黒瀬にそん
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特別番外編【Voice8】

♪。.:*・゜♪。.:*・゜♪。.:*・゜「う……。あれ?」 背中の痛みで目が覚めてから、下半身の違和感を同時に感じた。情けないくらいに泣いたせいで、まぶたが重くて視界が狭い。 恐るおそる起き上がり、自分の状況を確認してみる。脱がされた下着とスラックスはちゃんともとに戻されているだけじゃなく、床の汚れで所々白くなったブレザーが、きちんと叩いて汚れを落とした形跡があった。「そうだ、スマホ!」 階段からおりてくる箱崎と目が合い、ちょっとだけ面食らったんだ。辰之くんといい仲になってから、箱崎は俺のことを冷たく接してくるせいで、話しかけづらかったから。だけど無視してそのままやり過ごすよりも、軽く挨拶してかわしてやろうと考え、「よぉ」と声をかけた。 俺が現れた時点で気に食わなかったであろう箱崎は、なにも言わずに頭を下げた。立ち止まった俺を最短距離でやり過ごそうとしたせいで、俺の腕と接触した。あっと思ったときには、スマホは手から落下していた。 俺よりも先に箱崎がしゃがみ込み、スマホをキャッチしたのを見た。辰之くんの卑猥な声を聞いていたのを知られたくなかった俺は、箱崎の手からスマホを取りあげたくて、イヤホンを強く引っ張ってしまった。 その結果、イヤホンジャックが抜けてしまい、辰之くんの声が盛大に披露されることになった。箱崎の怒りは頂点に達して、俺は襲われてしまったわけだが。(あんな物騒なモノ持ってるなんて、箱崎ってばすげぇ怖い。しかも俺のこと嫌いなクセに、そのまま放置するんじゃなく、できる限り綺麗にしてくれるなんて……) そこに他意があるわけじゃないのはわかっているのに、確かめずにはいられない。だって、ケツの違和感が半端なかったから。もしや最後までヤったんだろうか――。「バリタチの俺が、ネコになる日がくるなんてよぉ……」 未だに残るケツの違和感に顔を歪ませながら、ポツリと呟いたのだった。
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特別番外編【Voice9】

♪。.:*・゜♪。.:*・゜♪。.:*・゜ 若林先輩といざこざがあった後、表面上は平穏な日々を送ることができた。個人的にめんどくさいのは、話があるとしつこくLINEがあったり、休み時間に奇襲をかけられて辟易していることだった。(今さら、なんの話をしたいんだっていうんだか。若林先輩のことだ、どうせくだらない内容だろうな) 部活が終わり、疲れた躰を引きずるように歩いて、ふと気がついた。「ヤバっ、スポドリのケース!」 着替えの邪魔になるため、ロッカーの奥にぶち込んでそのままにしているのを、下駄箱の前で気づいた。若林先輩と顔を合わせたくなくて、逃げるように帰ったため、とんだ失態をしてしまった。「マジでついてないな、もう!」 苛立ちで疲れが吹っ飛び、軽快な足取りでバレー部の部室に向かう。やれやれと思いながら扉に手をかけて開けた瞬間、中から人の気配を感じた。声を落としながら話し込む様子で取り込み中だったら悪いと考え、隙間を少しだけ開けて部員の状況を窺った。「お願いだよ、兄貴。あとちょっとだったんだ」 耳慣れた黒瀬の声で、中にいるのが黒瀬先輩だとすぐにわかった。「クラスで三位の時点で、俺との約束はなしだよ。次回頑張れ!」(ゲッ! もしや今回の試験のことだろうか。結構難しくて、俺はいつもより順位を落としたというのに、黒瀬はクラスで三番だったんだ。すごいな!)「だけど学年は、条件をクリアしてるんだよ。ちょっとくらい、僕のお願いきいてくれてもいいんじゃない?」「両方クリアしなきゃ駄目」「え~っ、必死で頑張ったのに。兄貴に夜這いしてほしかったから、いつも以上に頑張ったんだよ」 俺は慌てて口元を押さえた。黒瀬の爆弾発言は、マジで心臓に悪すぎる。義理の兄に夜這いしてほしさに試験を頑張るなんて、普通はありえない。というか、そんな条件を出した黒瀬先輩も、正直どうかと思える。(しかし黒瀬が絶対頑張れそうなモノをぶら下げるあたり、黒瀬先輩のしたたかさを感じるな)「辰之、帰るぞ。いつまでも俺にくっついでないで離れろ」「今しかくっつけないじゃん。これから兄貴は塾に行っちゃうし、家に帰ってきても兄弟として接しなきゃいけないし」 黒瀬のワガママの可愛さに、頬が緩んでしまう。黒瀬先輩の立場なら、間違いなく甘やかしてしまいそうだ。
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特別番外編【Voice10】

「辰之、いい加減に離れろって。そこに人がいるんだぞ。甘える姿を誰かに見せたいのか?」 黒瀬先輩にバレてることに驚きながら、頭を低くして扉から顔を出した。「すみません。忘れ物を取りに戻りまして……」「なんだ、箱崎だったのか」 黒瀬は黒瀬先輩から離れかけたのに、なぜだかふたたび抱きつく。タイミングの悪い、お邪魔虫な自分が嫌になってしまった。「辰之、先に帰ってくれないか。箱崎と話があるんだ」「僕がいちゃ駄目な内容なんだ?」 黒瀬先輩から俺に視線を飛ばす黒瀬の目に、ズルいという嫉妬に満ちたものが滲み出ていた。「黒瀬先輩、後日じゃダメですか?」 黒瀬の機嫌をなんとかすべく後日を提案してみたのだが、黒瀬先輩は首を横に振る。「バレー部のことでちょっとな。ほら、辰之早く帰れ!」 問答無用な感じで黒瀬の背中を押して、無理やり部室から追い出す。唇を突き出しながら出て行く姿を見ながら、明日ちゃんとフォローしてあげなければと心に誓った。「箱崎は辰之の前だと、思いっきり猫被ってるのな」 黒瀬がしっかり帰ったことを確認後、扉を閉めて俺に話しかける。「猫なんて被ってませんが……」「バレーの試合で点差があって追い詰められたとき、メンバーが諦めモードになっても、おまえだけは最後までボールに食らいついていくだろ。人ってさ、本性がそういうときに出るよな」 たった一歳の差しかないのに、誤魔化しを見逃さない黒瀬先輩の前では、隠し事ができない気がした。「諦めが悪いって言いたいんですか?」「若林先輩のことだ」 ズバッと投げつけられた直球に、息を飲むのがやっとだった。黒瀬先輩の口から、若林先輩という名が出てくるとは思ってもいなかったため、瞳を瞬かせながら目の前にある顔を見つめる。「辰之絡みで、若林先輩となにかあったのか?」「えっと、その――」(絶対に言えない。カッとなって若林先輩をヤりかけたなんて) 困り果てて言葉を濁した俺を見たからか、優しい口調で語りかけてくれる。「実は若林先輩に頼まれた。箱崎と話がしたいそうだ。LINEは既読スルーされるし、休み時間に顔を出しても逃げられるし、部活では避けられるの三点セットでさ! なんて愚痴られてる」「黒瀬は関係ないんです。ただ単にあの人が苦手でして」 頭を掻きながら弱り顔を決め込む俺に、黒瀬先輩は小さいため息をついた後に
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特別番外編【Voice11】

「普通は偏見の目で見られたくないから隠すことなのに、若林先輩は臆することなく堂々とカミングアウトしてるだろ」「そうですね」 入学後の部活の自己紹介でいきなりカミングアウトされて、面食らったのがつい最近のことのように感じた。「俺の場合は義理とはいえ、相手が弟だから余計に言えない。言ってしまったら、辰之を巻き込むことになるから、なおさら……」「黒瀬先輩と若林先輩の立場が違うんですから、当然じゃないですか。あの人はなにも考えず、傍若無人に振舞ってるだけですよ」 吐き捨てるように告げた俺に、黒瀬先輩は優しく瞳を細めた。「箱崎の目にはそう映るかもだけど、実際問題違うと思うけどな」「違う?」「ああ。若林先輩はゲイと聞いて、自分も同じように見られたくないヤツは、絶対に近づかないだろ。襲われるかもしれないなんて思って」「確かに……」 性的な目で見られることが嫌なヤツは近づくどころか、奇異な目で自分たちを遠くから眺めるだろう。どうして男相手に興奮するんだって。「そんなの関係なしに付き合ってくれるヤツを選別するために、わざとカミングアウトしたんじゃないかと思うんだ」「まぁ有り得そうですけど」「誰かに後ろ指をさされることが平気な人間は、まずいない。あえてその選択をする強さを持つ若林先輩が、俺としては羨ましいなって」 黒瀬先輩に見つめられるのがなぜだかつらくて、まぶたを伏せてしまった。俺が苦手とする若林先輩が羨ましいなんて口にできることのほうが、正直すごいと思われる。「箱崎が若林先輩となにかあったことについて、これ以上詮索するつもりはないし、介入するつもりもない。だけど一応、部活を共にするメンバーだからさ。表面上だけでも取り繕ってもらわないと、他のメンバーも気を遣うだろ?」「はい……」「俺としても本音をぶっちゃけちゃうと、遠慮なくなんでも突進してくる若林先輩が苦手。だけどあれでも、うちの部のムードメーカーだからこそ、大事に扱わなきゃだし」 さきほどよりも声のトーンを落として語る黒瀬先輩に、俺の困惑が移ったのかと考え、ゆっくり視線を戻した。「箱崎……」「黒瀬先輩」「とりあえず若林先輩と話し合いして、おまえの中にあるなにかを解消しろよな。辰之も心配してるんだぞ。ここのところ浮かない顔してるって、アイツの口からも出てるくらいに」「黒瀬がそんなことを―
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