薔子は、いかにも困り果てたような顔で澪を見ている。母の結婚を壊し、澪を生まれ育った家から追い出し、長い間放り出したままにした。自分たち母娘は堂々とその家に居座り、何不自由ない暮らしをしてきた。それなのに今度は、澪に自分の夫まで譲れと言うのか。澪は口元だけで笑い、はっきりと言い返した。「征司に頼まれて、紗耶のために私に離婚を迫るつもり?」紗耶は上から目線で言い放った。「征司には当然、自分から言えない言葉がたくさんあるよ。まさかさっさと出ていけなんて言えると思う?」薔子も穏やかな口調で続けた。「これは身内だけで片をつければいい話よ。離婚してしまえば、あなたが七年も結婚してたなんて、誰にも分からないでしょ。男と七年も一緒にいたことさえ伏せておけば、再婚しやすいでしょうし。これ、あなたのためを思って言ってるのよ」さも本心から心配しているかのような薔子の態度に、澪は嫌悪感しか覚えない。 彼女はふと笑みをこぼしたが、その瞳の奥に温度はない。「いいよ。二人そろって土下座して、私に頭を下げなさい。そうしたら、あんなクズ男を紗耶に譲ってあげるか考えてあげてもいいわ」紗耶の顔色が一変した。澪がこれほどまでに過激なことを言うとは、思ってもいなかったのだろう。薔子もさすがに作り笑いを保てなくなった。「澪、あまりにも話が通じないわね!」澪はこれ以上、二人を相手にする気はなかった。まともに相手をすれば、疲れるだけだ。彼女は二人を完全に無視し、きびすを返して立ち去った。伊織は仕事がちょうどひと段落し、澪が戻ってくるのを見ると、機嫌よく言った。「征司が仕事で忙しくて本当に助かったわ。そうじゃなかったら、紗耶の思い通りになるところだった。人前で征司は私のものだって見せつけるつもりだったんでしょ?ふざけないでよ」征司と一緒に生放送に出ようとした時点で、何を狙っているかなんて言うまでもない。澪は眉間を押さえ、静かに言った。「これも、征司が紗耶を甘やかしてるからでしょ。何でも彼女の言うとおりにする。結果的にうまくいかなかったとはいえ、わざわざ付き添うことを承諾した時点で、紗耶が彼にとっての特別な存在なのだと世界中に知らしめたようなものだわ」征司が一度でも紗耶に合わせた以上、これからも同じことは繰り返されるだろう。
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