澪はようやく紗耶の真の狙いに気づいた。通報しないことは、いかにも自分に逃げ道を残したように見せかけて、本当はアカリ製薬から追い出すつもりなのだ。「アカリ製薬が君を辞めさせない限り、K大には戻らないそうだ。作業が遅れたら、それも全部君のせいだって」研究員ごとき一人をクビにするだけで面倒を避けられるんだから、俺にとっても悪い話じゃないだろうってさ。君が抜けたところで、プロジェクトには何の支障もない、とまで言っていた」研究員ごとき一人?澪はフェイであり、WAKANナビの頭脳ともいえる存在だ。今回の共同プロジェクトでも新薬開発の全工程を取り仕切っている。チームメンバーの一人にすぎない紗耶が、プロジェクトの要である澪を追い出そうとしている。征司に甘やかされすぎて、ここまで傲慢になったのか。 ただ、澪はそれほど驚かなかった。互いに相手をプロジェクトから追い出したいという点では、二人の考えは一致している。澪は知之を見た。「もうかなり長いこと作業を遅らせてる。契約上、重大な過失に当たるはずよ。K大側に話を通して、彼女をプロジェクトから外してもらいましょう」自分が不可欠だと思い込んで、ずいぶん強気に出たものだ。それなら、戻ってこなくていい。知之もすぐに澪の意図を察し、少し考え込んだ後、彼はふと面白そうに眉を上げて言った。「柴崎先生はK大でもかなり顔が利く。この前、紗耶の弟が玲衣を怪我させた件で、先生も相当怒ってるしな。先生に頼めばすぐに話はつくだろう」先生に動いてもらえば、征司がスポンサーだからとK大側がごねる余地もなくなる。澪も異論がない。すべては紗耶が自分で招いたことだ。あとで泣きを見ても、澪の知ったことではない。ー紗耶はすぐには退院しなかった。怪我自体は大したことではない。ただアカリ製薬からの返事を待っているのだ。澪がアカリ製薬を辞めれば、紗耶はすぐに現場に戻れる。何しろ臨床試験はすでに始まっており、彼女自身も早くプロジェクトを進めたくて急いでいるからだ。新薬の開発者として確実に名を連ねる——これが今、何よりも重要なことだ。この日は、正毅と薔子が見舞いに来ている。薔子はリンゴの皮をむきながら尋ねた。「アカリ製薬からは何て?」紗耶は眉を上げた。「まだ返事はないけど、まあ間違いない
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