その親権に関する協議書を目にした瞬間、澪は心臓が止まりそうになった。頭の中が真っ白になり、しばらく何も考えられなかった。征司もゆっくりと目を伏せ、その書類を見つめたまま、指先でカップの縁をなぞった。「これはいらない」そう言って、征司は澪に目を向けた。「俺たち、子どもはいない。親権の争いもない」それを聞いて、高瀬は事情を察したようで言った。「そういうことでしたか。ご結婚されて七年と伺っていたので、お子さんもいらっしゃるものと思い、念のためこちらも用意しておいたのですが……それなら話が早いですね」あらゆる可能性を考慮しておくのが、弁護士の習性というものだ。通常、離婚する夫婦が揉めるといえば、財産分与と親権争いに尽きる。だが、目の前の二人は少し変わっている。一方は、離婚だというのに泣き喚くことも取り乱すこともなく淡々としている。もう一方は、七年間子供に恵まれなかった妻に対して、現金から不動産、株式に至るまで、驚くほど気前よく譲ろうとしている。何とも不思議な夫婦だろう。澪は顔にこそ出さないものの、しばらくの間、心臓が激しく打ち続けていた。だが、征司の「子どもはいない」という言葉を聞いて、ようやく落ち着きを取り戻した。玲衣のことを森宮家に隠してきたことを、改めてよかったと思った。知られていたら、こんなにすんなり離婚できるはずがない。ただでは済まなかっただろう。「離婚するなら、何のしがらみも残さず、きっぱり終わらせたい。だから、こうした条件は受け入れられない」澪もはっきりと自分の意思を伝えた。先ほど提示された条件では、紗耶が征司の不倫相手だという事実を伏せたうえで、離婚後も森宮家の世間体を守るために協力しなければならない。澪には、こうした条件を受け入れるつもりはない。征司がこちらに視線を向け、澪も逃げずにその視線を受け止めた。彼にも澪の目に宿る強い決意は伝わったはずだ。離婚するという決意も、これ以上征司や森宮家と関わりたくないという決意も、彼は確かに読み取ったはずだ。征司の瞳がわずかに動いた。その表情からは、喜んでいるのか怒っているのか、一切感情が読み取れない。澪も一歩も引くつもりはない。互いに譲らず、重苦しい沈黙が流れたその時、突然ドアが開けられた。「澪と離婚するつもり
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