Todos los capítulos de 森宮社長、奥様は娘を連れて離婚します: Capítulo 241 - Capítulo 250

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第241話

騒ぎは、結局うやむやなまま幕を閉じた。蓮もさすがに驚いた様子で言った。「榊社長、どうかしてるんじゃないか?あれだけ大きなチームで、経験豊富な研究者も大勢いるのに、いちばん重要なポジションに澪の名前を載せるなんて。澪にそこまでの価値があるのか?」彰人は彼を見やった。「澪にそれだけの実力があるってことじゃないのか?」紗耶は大型スクリーンに映る澪の名前に目を向け、険しい顔をした。その目には、隠しきれない悔しさが浮かんでいる。「あり得ないわ」そう言って、紗耶は深く息を吸った。「この前のこと忘れたの?アカリ製薬は彼女を臨床試験から外したんじゃない?それに、征司がアカリ製薬に巨額の投資をした。澪が当事者だからこそ、アカリ製薬は資金を調達できたんだから、特別扱いされるのは当然よ。どうせ金で買ったものなんだから、真に受けるようなものじゃないわ」そもそも病院での律樹の件で、澪はアカリ製薬から臨床試験の担当を外されかけていた。澪が知之をそそのかして、征司にあの大金を出させたんだろう。だから知之に気に入られて、いちばん目立つところに名前を載せてもらっているだけだ。蓮もそれが最も可能性が高いと考え、首を振りながら言った。「こんなやり方が、いつまで通用するんだろうな。今回たまたま評価されたからって、次も同じようにいくとは限らないだろ」紗耶は声を出さずに笑った。今回、澪はアカリ製薬とK大の多くの人間が積み重ねてきた努力を横取りしたようなものだ。今後、必ずや反感を買って見放されることになるだろう。いつまでも、いい気になっていられるはずがない。「征司……」頭ではそう理解していても、胸の奥では妬けたような焦燥感と不満が渦巻いている。紗耶はすがるような目で征司を振り返った。征司はゆっくりと立ち上がると、何か考え込んでいる彰人へ視線を向けた。「藤堂先生は、澪にずいぶん興味を持ってるようだな」澪の名が出た途端、紗耶は唇をぎゅっと噛み締め、さらに機嫌を損ねた。彰人も眉をひそめた。たしかに、そうかもしれない。祖母があそこまで柔らかな表情を見せる相手など、これまで見たことがなかった。—会場の外で何が起きているかなど、澪にもだいたい想像がついた。会場を出ると、ちょうど千鶴子が車に乗り込もうとしているところだった。澪
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第242話

春の風が頬を撫でて、澪はようやく我に返った。まさか、宇一からの連絡だとは思わなかった。車のドアを開けたまま、澪は驚いて声を上げた。「宇一さん、今、H市にいるのですか?」電話の向こうからは空港のアナウンスが聞こえてくる。どうやら、到着して間もないようだ。「K市にいる」澪はさらに驚いた。穂積家の本家はH市にある。帰国したのなら、まずはH市の本社で今後の段取りを整えるはずではないのか。澪が考えを巡らせるとき、宇一が続けた。「今日はいくつか会議やイベントの予定が入ってて、終わるのは夜の7時頃になりそうなんだが、空いてるかな?玲衣に会いたくてね。明日朝早く、アステラに飛ばないといけないんだ」宇一の声は穏やかで理性的だ。征司のような、無関心な冷たさとは違う。澪は時刻を確認した。宇一が帰国したのも、玲衣のことがあるからだと分かった。そう思って、澪は胸の奥がじんわりと温かくなり、ようやく希望が見えた気がした。「大丈夫です。玲衣は柴崎先生のお宅にいますので、よろしければ今夜、柴崎先生のところで会いましょう?」澪はそう提案した。宇一はすぐに答えた。「分かった。夜に会おう」二人はそれほど親しいわけではないが、玲衣という存在がいるからこそ、少し特別な関係だ。宇一と隆一にも面識がある。玲衣がいたからこそ、ふだんなら縁のなかった人たちまでこうしてつながっている。宇一が海外にいるこの二年、隆一夫婦はずっと玲衣の面倒を見ているのだから、互いに連絡先も知っている。澪はずっと、宇一に感謝している。宇一が玲衣の父親だと名乗ってくれたのも、縁談を断る口実が欲しかったからだと、澪は分かっている。あくまでも、お互いの利害が一致した結果に過ぎないのだ。「どうした?」澪の表情が変わったことに気づいて、知之は車内から身を乗り出した。澪は機嫌よく笑った。「穂積社長が帰ってきたの。今夜、柴崎先生のところに来るって。先輩も来る?」知之は驚いたように目を見開いた。「いつ帰ったんだ?」澪は考えながら言った。「たぶん、さっき着いたばかり。まだ空港にいるみたい」「着いてすぐ、君に電話してきたのか?」知之はふと意味ありげな目を澪に向けた。澪は伊織にメッセージを送りながら、顔も上げずに答えた。「それがどうかした?」
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第243話

蓮が、いっそ割り切ったように言った。「結局、最後は実力がものを言うだろ。今夜、征司と彰人は投資家向けの晩餐会に出るんだ。紗耶もこれからチームを立ち上げるなら、今のうちにこういう場で人脈を作っておくのも悪くないじゃない」その話を聞いて、紗耶はすぐに乗り気になり、やわらかな目で征司を見た。「征司、私も一緒に行っていい?」声をかけられて、征司は顔を上げた。紗耶が自分を利用して人脈を広げることを意に介さず答えた。「構わない」彰人は征司の態度から彼の意図を読み取った。男が女に示す愛は、甘い言葉だけで表せるものではない。金やリソースのほうが、よほど分かりやすい愛情表現になる。大人は甘い言葉だけでは生きていけない。征司は紗耶に対して、確かに一切の出し惜しみをしていない。だからこそ――彰人は、わずかに眉を寄せた。澪は早いうちに、征司への未練を断ち切ったほうがいい。晩餐会は夜七時から始まる。紗耶はドレスに着替え、征司と彰人と一緒に会場に入った。すでに多くの招待客が集まっている。会場に入るなり、彰人は人だかりの中心にいる男に目を留めた。「宇一?」征司もそちらに視線を向けた。人混みの中で、ひときわ目を引く長身の男の姿が見えた。紗耶もこの業界に長く身を置いてきたため、宇一の名くらいは知っている。ただ、本人を目にするのは初めてだ。「穂積社長って、海外事業を広げるために、ずっと国外にいらしたんじゃない?」彰人も不思議そうに言う。「聞いた話では、年末に帰国する予定だったはずだが」家から聞いたところによれば、宇一が海外で大きな事業を動かしている最中だった。征司はそれには答えず、近づいてきた相手に軽くうなずいた。「穂積社長、お久しぶりです」彰人が振り返ると、宇一はすでにこちらに歩いてきていた。以前と変わらず、どこか人を寄せつけない雰囲気をまとっている。宇一は征司に目を向け、足を止めた。「森宮社長」それから彰人にも声をかけた。「藤堂社長もK市にいらしたんですね」紗耶は宇一をさりげなく見定めるように眺めて、笑みを浮かべた。「お二人、前からお知り合いなんですか?」彰人は宇一と握手を交わしてから、「互いの家には縁談の話があってね。いずれ親戚になるかもしれないが」と説明した。それは、
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第244話

澪は、宇一が玲衣には本当に甘いことを知っている。父親としても申し分ない。毎年誕生日には必ず贈り物をしてくれたし、普段から玲衣のことを気にかけていた。海外にいること以外、父親として足りないところは何一つなかった。澪はその返信を玲衣に見せた。玲衣はもう字が読める。宇一からのメッセージの意味もちゃんと分かっているから、いかにも真剣な顔で言った。「ママ、自分で読めるよ。わざわざ教えなくていい」玲衣だってメッセージアプリを使っている。入力できない字があれば、音声メッセージを送っているのだ。もう赤ちゃん扱いされたくないのだろう。玲衣は小さな顔をきりっとさせた。澪は思わず吹き出し、その白くてやわらかな頬を両手で包んでキスをした。「はいはい。じゃあ、お着替えして。ママが送っていくから」玲衣はすぐ足をぱたぱたさせながら、服を選びに行った。ずらりと並んだ子ども服を見て、澪は思わず舌を巻いた。柴崎先生ご夫婦は、玲衣を何不自由なく育てている。まるでデパートの子ども用品売り場を丸ごと家に持ち帰ってきたかのようだ。お二人にとって、暇なときの楽しみは子ども用品店をあちこち回ることだ。このワンピースはかわいい、あの帽子も似合いそう、この髪飾りもいい、このぬいぐるみは手触りがいい――玲衣のクローゼットは、まるでお姫様のためのものだ。柴崎先生の奥さん・柴崎澄江(しばさき すみえ)も近ごろはあちこちを飛び回るのをやめ、K市に滞在している。澪たちが出かけようとしているのを見ると、フライ返しを手にしたまま声をかけた。「帰る前に連絡してね。できたての熱いうちが美味しいんだから」隆一は老眼鏡をかけて論文を読んでいる。「運転、気をつけるんだぞ」と顔を上げずに言った。澪は手を振って、柴崎先生の車のキーをつかみ、玲衣を連れて家を出た。ー晩餐会の会場では、メッセージに返信している宇一を見て、彰人はふと気づいた。宇一が――笑っているように見えた。その笑みはごくわずかで、よく見なければ気づかないほどだ。彰人は思わず神経をとがらせた。宇一には妹との婚約がある。妹はまだ見つかっていないが、宇一は将来その夫になるはずの男だ。兄として目を配っておく必要がある。「穂積社長、お仕事の連絡ですか?」彰人が尋ねると、紗耶も宇
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第245話

もし彰人の妹が帰ってきたら、自分はどうなるのだろう。これからも彼らの中心でいられるだろうか?自分に向けられている好意まで、あの妹に移ってしまうのではないか。そう考えると、紗耶は思わず眉をひそめ、口元の笑みも少しだけこわばった。そういう存在を、彼女が本能的に疎ましく思った。だが、彼女はすぐに気を持ち直した。何しろ何年も音沙汰がないのだから、そう簡単に見つかるはずがない。もしかしたら、もうとっくの昔にどこかで死んで、骨すら朽ちているかもしれない。そう思うと、紗耶はわずかに眉を上げ、気分もすっかり良くなった。征司のそばに歩み寄り、その端正な顔立ちを見つめながら、彼女は胸の奥を少し熱くして言った。「彰人さんは、本当に妹さん思いだね。そういえば征司も、この前会ったあの子のこと、ずいぶん気に入っていたみたい。将来娘が欲しいって考えたことある?」征司には、悠真という弟がいる。しかし彼にとって悠真はただ血のつながった弟というだけだ。紗耶の問いかけを聞いて、征司の脳裏にはある少女の顔が浮かんだ。まだあどけなさの残る顔立ちだったが、将来は誰もが振り返るほどの美人になるだろうと分かるほど整っている。特に、笑ったときに浮かぶあのえくぼが印象的だった。征司はグラスをゆっくり揺らしながら、なぜか口元を緩めて言った。「そうかもな」紗耶は何を想像したのか、急に頬を赤らめた。征司を見る目も熱を帯びている。「征司なら、きっといいお父さんになると思う」征司の言った「そうかもな」は……つまり彼は子どもを持つことに抵抗がないのかもしれないと紗耶は思った。紗耶のめに、かすかな打算の色がよぎった。そんなことを考えていると、向こうで商談をしていた宇一が近寄ってきた。宇一は彰人と征司に目を向け、いつもの淡々とした口調で言った。「今夜は用意があるため、先に失礼します。森宮社長、また改めて」そこで初めて、征司は宇一に目を向けた。「どうぞ、お構いなく」彰人は宇一の様子を鋭く観察していて、宇一がうつむいてメッセージに返信しているのを見て、何気ないふうを装って尋ねた。「帰国されたばかりなのに、もうお帰りになるんですか?何か急ぎのご用が?」征司もどこか興味なさげに宇一を見た。今夜の招待客には、各業界の有力者だ
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第246話

その可能性に思い至り、彰人は思わず怒りを通り越して笑いそうになった。妹はまだ見つからない。それでも、妹と宇一の婚約を取り決めた書面は今もちゃんと残っている。妹が行方不明になったのは藤堂家の責任ではない。だからといって、穂積家がその約束を破ることを、彰人は到底許せない。もちろん、生きているかどうかも分からない妹を、宇一にただ待たせ続けるのは不公平だと彰人にも分かっている。それでも彰人にとって、妹のことが何よりも優先だ。自分勝手だと分かっていても、宇一の立場に立って考えることなどできない。自分が強引だと思われようと構わない。妹にだけは、絶対に嫌な思いをさせたくない。「ちょっと見てくる」彰人はグラスを乱暴にテーブルに置いて、会場を出た。穂積家からは、宇一に娘がいるなど一度も聞かされていない。突然そんな話が出てきた以上、本当かどうか確かめる必要がある。「彰人さん、まずは落ち着いて。何かの誤解かもしれないよ」紗耶が慌てて声をかけた。彰人の様子から見れば、今にも宇一に殴りかかりそうな勢いだったからだ。征司も二人に目を向け、低く落ち着いた声で言った。「穂積家はそこらの家とは違う。宇一もでたらめなことをするような男じゃない」たとえ穂積家が藤堂家の娘をこれ以上待てないと判断しても、裏でこっそり子供を作るようなことはせず、必ず事前に相談してくるはずだ。ただ、宇一がわざわざこの場で娘のことを口にしたのには、何か意図があるはずだ。征司は、宇一が去っていった方へ目をやった。そのことに気づき、彰人も少し冷静になった。彰人も宇一の気性はよく知っている。もし宇一がだらしない男なら、婚約が今日まで続いているはずがない。「それでも、俺は事情を知っておきたい」そう言うと、彼は会場の外に向かって歩き出した。紗耶は、今日はあまりにもいろいろなことが起きたと思いながら、振り返って征司を見た。「私たちも、行ってみようか?」「ああ」征司はグラスを置いた。ー澪が車を駐車場に停めると、玲衣は自分でドアを開け、さっさと車から降りた。この辺りのセキュリティはしっかりしているので、澪はそのまま彼女を好きにさせた。ちょうど研究室から電話がかかってきた。澪はシートベルトを外し、車内に座ったまま電話に出た。玲衣から
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第247話

だが、それが宇一の娘だとは一度も考えたことがなかった。玲衣を見ていると、征司の胸はなぜかざわついた。何に引っかかっているのか、自分でも分からない。彰人もその光景に立ち尽くしていた。先ほどは、何かの誤解かもしれないと思っていたが、実際に宇一が子どもを抱き上げているのを目にすると、頭が真っ白になった。顔色だけがみるみる悪くなっていく。彰人がまだ動けずにいるうちに、征司はすでに宇一たちのほうへ足を踏み出した。車を降りようとしていた澪は征司の姿に気づき、思わず息をのんだ。まさか、征司までここにいるとは思わなかった。澪は慌てて車に戻り、もう一度シートベルトを締め直した。さっき研究室から電話がかかってきて、すぐに車を降りなくてよかった。そうでなければ、こんな夜更けに子どもを連れて宇一を迎えに来たことを、征司に怪しまれたかもしれない。征司の勘の鋭さなら、違和感を覚えるかもしれない。澪は車内で身を低くし、できるだけ気配を消した。それでも、征司が宇一と玲衣のほうへ向かおうとするのを見て、胸の奥が焦りでいっぱいになる。このまま近づかれれば、車内にいる自分にも気づかれるかもしれない。どうすればいいのかと、頭を必死に働かせている。「征司、待って」紗耶は二、三歩進んだところで足をひねり、苦しそうに征司の腕をつかんだ。「足をくじいたみたい。送ってくれる?」征司は振り返って紗耶を見た。その瞬間、下の駐車場でエンジンがかかる音がした。征司がもう一度そちらへ目を向けたときに、宇一はすでに玲衣を連れて車に乗り込んでいた。車はこちらに考える間も与えないままその場を離れていった。ー実は、澪は紗耶が足をくじいたところを見ていた。征司が紗耶に気を取られたから、澪はようやく車を出せたのだ。ここぞというときにか弱いふりをして男の注意を引く——紗耶のあざとい振る舞いが、今回は澪を助けた。彼女がああして征司を引き止めてくれなければ、車を出しそこねていたかもしれない。車は夜の道を走り去っていった。彰人は胸を大きく息を吐き、怒りを押し殺すように笑った。「パパだぞ?他人の娘が宇一をパパなんて呼ぶわけがないだろ」紗耶は足が痛むと言いながら、征司の腕に寄り添ったまま離れなかった。「まだ決めつけるのは早いわ
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第248話

澪は、彰人たちのあいだで何が起きていたのか知る由もない。柴崎先生のベンツを走らせ、渋滞にもかからず家に着いた。車内では、玲衣がずっと楽しそうに宇一と話していた。後部座席に並んで座り、今日あったことや幼稚園での出来事など、子どもらしい話を次々に聞かせている。宇一は辛抱強く耳を傾け、ときおり短く相づちを打った。もともとやさしく寄り添うような性格ではないが、それでも澪には、彼が自分なりに玲衣に合わせているのが分かった。ふとバックミラーを見ると、宇一と目が合った。彼女は少し気まずそうに笑った。「玲衣、けっこう手がかかるでしょう?」十数時間の長旅を終えたばかりで、耳を休める間もないのに。宇一は彼女を見て、「そんなことはない」と答えた。それから、静かな声で続けた。「俺にまで、そんなふうに気を遣わなくていい」澪は「はい」と答えた。しかし心のなかでは、宇一が玲衣の実の父ではないとよく分かっている。だから、彼がここまで気にかけてくれるのを、当たり前だと思うつもりはない。柴崎先生の家に到着し、玄関を入った途端、澪は目を丸くした。リビングには、丁寧に包まれた贈り物の紙袋が山のように積まれていて、足の踏み場もないほどだ。澄江がやわらかく笑った。「宇一さんの秘書がさっきわざわざ届けてくれたの。こんなにいただいてしまって……」隆一も宇一には好感を持っている。彼が落ち着きがあり、信用できる人間だと思っている。「そこまで気を遣わなくていい。玲衣の父親でもあるんだから、もう身内みたいなものだ」宇一は、玲衣の法律上の父親だ。澪が玲衣を守りながらここまで来られたのも、宇一の助けがあったからこそだ。宇一は軽くうなずいた。「ほとんどは健康食品です。澄江さんには最近出たばかりのスカーフとスキンケア用品を。柴崎先生には書道をなさるときに使うと伺った油煙墨を。どれも大したものではありません」隆一はひげを撫でながら笑った。「気にかけてくれてありがどう」こちらの好みまでよく分かって選んでくれた品ばかりで、これ以上遠慮するのもためらわれたと彼は思った。玲衣が顔を上げた。「ママと玲衣の分は?」澪は、娘の抜け目のなさに感心した。宇一は一度澪へ目を向け、わずかに目元を和らげた。「もちろんあるよ。ご飯のあとで、一緒に
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第249話

澄江はそのやり取りを見ながら、何度も笑いをこらえていた。食事は和やかな雰囲気で進んだ。澪は自宅の固定電話から着信が入っていることに気づき、時計を見ると、もうすぐ九時だ。宇一は隆一と話しているため、澪はそっと席を立ち、外へ出て電話に出た。「奥様?まだお仕事ですか?それとも、どこかお出かけですか?」房江の声が聞こえてきた。澪には見張りの電話だと分かっているから、あえて聞き返した。「何か用?」房江は少し言いにくそうに口を開いた。「もう遅いですし、奥様も早めにお戻りになったほうが……」澪は頭がズキズキと痛むのを感じた。離婚は成立したし、離婚届受理証明書も受け取った。それなのに、こんな状況になってしまって、自由に動くことすら許されない。妻という形だけ与えられて、子どもを産むことだけを押しつけられている。自由なんてどこにもない。澪は皮肉を込めながらも、声の調子は変えずに言った。「私が何時に帰ろうと、誰と一緒にいようと、いちいち報告しなきゃいけないの?」房江は一瞬、言葉を失った。そのとき、家の中から出てきた宇一が少し離れたところで澪を呼んだ。「澪?」澪は振り返り、そのまま電話を切った。ー房江が不安そうに振り返り、玄関から入ってきた征司を見た。この数日、二人とも毎晩この家に戻っていた。さっきの電話はスピーカーにしたままで、征司は玄関に入ったとき、ほとんどすべて聞いていたはずだ。「奥様はお忙しいようでした。お友達と出かけたのかもしれません」房江は慎重に言葉を選んだ。電話の向こうから、男の声が聞こえたからだ。征司は視線を固定電話に一度だけ向け、袖口のボタンを外しながら淡々と答えた。「聞こえた」誰かが澪の名前を呼んでいた。電話越しだったため、声は遠く、はっきりとは聞き取れない。房江は征司の様子をうかがった。だが、征司はもともと何を考えているのか読めず、感情を顔に出さない。それほど気にしていないのだろうか。房江は判断がつかず、ただ尋ねるしかない。「奥様のスーツケースが全く片付いていないようなので、今からお洋服をクローゼットに掛けましょうか?」そこで初めて征司は足を止め、房江を横目で見やった。「澪のものは澪に任せておけ。勝手に手を出されるのは嫌いなんだ」
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第250話

その話になると、澪は途端に頭が痛くなった。浮かんでいた笑みも少しだけ薄れる。「受け取りました」宇一はわずかに眉を動かした。「玲衣の戸籍を移すのは、いつにする?」当初、玲衣を自分の戸籍に入れる際、澪を安心させるために、彼女とある契約を交わしていた。実の母親である澪が望めば、いつでも玲衣の戸籍に関する手続きに協力する、と。澪は少し落ち込んだ様子で、申し訳なさそうに答えた。「こちらの書類に少し問題があって、先にそれを片付けないといけなくて……もう少し延びそうです」澪は詳しく説明するつもりはない。宇一にそこまで話す必要もないと思ったからだ。宇一は前を見たまま尋ねた。「面倒なのか?」「……大丈夫です。時間がかかるだけなので」「離婚は確かに成立したのか?」と宇一はさらに聞いた。澪はうなずいた。「はい。そうです」彼女は今、間違いなく離婚している状態だ。宇一はそれ以上踏み込もうとはしなかった。ー澪は宇一に、征司との家の前まで送ってもらうことはせず、家から一キロほど手前で車を停めてもらった。この辺りはすべて私有地で、その先まで宇一を入れられない。「準備ができたら、いつでも連絡してくれ。俺はいつでも協力する」宇一は車を降りなかった。今の二人のあいだには、越えるべきではない線があることを分かっている。澪に余計な負担をかけるつもりもないのだろう。その態度に澪は少し肩の力を抜いて、車の窓越しに笑いかけた。「分かりました。気をつけてくださいね」宇一は数秒だけ澪の顔を見つめた。「分かった」そう言って、後部座席に置いてあった紙袋を一つ取り出し、澪に差し出した。「君の分だ」澪は意外に思った。自分の分まであるとは思わなかった。彼女は一瞬ためらったが、やはり受け取ることにした。家族全員がもらっているのに、自分だけ断るのはかえって嫌味になる。「ありがとうございます」「アステラから戻ったら、改めてゆっくり話そう」と宇一は言った。何について話すのだろうと、澪は尋ねかけたが、宇一のスマホに電話が入った。宇一は電話に出ると、そのまま車を方向転換させた。澪は走り去る車を見送った。振り返ると、不意に足が止まった。少し離れた場所に、黒のスポーツウェアを着た征司の姿が目に飛び込んできた。
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