あの家に帰って征司と子をつくる?そんなの、絶対に嫌だ。澪は車を降りて、マンションに入った。玄関の前に着いた途端、彼女の顔色がサッと青ざめた。ドアが開いていて、しかも中から人が出入りしている。慌てて中に入ると、部屋の中はほとんど片づけられていた。澪は、作業員用の制服を着た女性を一人つかまえた。「何をしてるんですか?ここは私の家です」女性は驚いたように目を見開いた。「ご存じなかったのですか?私たち、引っ越し業者です。荷物を梱包して、新しい住所へお運びするよう依頼を受けまして。依頼主は、お祖母様だと伺っておりますが」澪は何も言わず、足早に寝室へ向かって引き出しを開けた。引き出しに入れておいた離婚協議書、親権に関する合意書、さらに玲衣を妊娠していたときの検査結果から妊婦健診の書類に至るまで、すべてが跡形もなく消えていた。この瞬間、澪は目の前が真っ暗になるのを感じ、怒りと焦りが一気に押し寄せた。美佐子が強引な人だということは知っている。それでも、引っ越し業者を手配して、澪をあの家に戻そうとするとは思わなかった。澪は一刻も無駄にせず、車を二人で暮らしていた家へ走らせた。久しぶりに帰ってきて、澪はドアの暗証番号すら分からなくなった。昔の番号は征司に変えられてしまっており、人に頼んで開けてもらうしかなかった。リビングへ入ると、業者の梱包用ダンボールが、整然と積み上げられているのが目に入った。ダンボールは種類ごとに分けられ、丁寧にラベルまで貼られている。澪は書類用の箱へとまっすぐ向かった。中をひっくり返して例の書類を見つけ出すと、ようやく呼吸が落ち着いてきた。よかった。今回作業をしたのはプロの業者で、美佐子の身内ではない。私物を勝手に調べるようなこともしなかった。だから、玲衣の秘密は守られた。澪は書類をすべて自分のバッグに入れた。なんとかごまかせると思っていたが美佐子はその先まで読んでいて、いわば「手伝って」やったとばかりに、引っ越しの手配をすべて済ませた。「奥様、お手を煩わせなくて大丈夫です。こちらは、すぐに片づけますから」房江が作業員を連れて二階から下りてきた。澪がいることにも、驚いた様子はない。澪はバッグを抱える手に力を入れた。「征司は、ずっと帰ってないの?」房江は作
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