征司は澪の横顔をゆっくり一瞥し、感情の読めない笑みを浮かべた。「そうか」すると、また沈黙が落ちた。もともと二人には話すことなどない。気まずさを紛らわせるために、無理に話題を探す気もない。車がアカリ製薬のビルの前に着いた。車を降りると、澪は窓越しに征司を見た。「おばあ様には、ちゃんと話をしておいて。このことは本気で考えてほしい。先延ばしにはしないで」澪は遠回しにせず、返事を急かした。征司は澪を見て何か言おうとしたが、そのとき、スマホが鳴った。画面には、紗耶からのビデオ通話が表示されている。征司はためらわずに応答ボタンをタップし、澪の頼みに何も答えないまま、運転手に車を出すよう命じた。マイバッハは澪を残して走り去っていった。朝からビデオ通話をつなぐほど熱々なカップルだこと。七年も人妻をやってきた澪ですら、思わず目を丸くしてしまうほどだ。恋人というのはこういうものなのか。征司の妻として七年過ごしてきたのに、澪は恋人らしいことを何ひとつ知らず、ただ待つだけだった。澪は我に返り、そのままビルに入った。知之も、澪の離婚がそう簡単には進んでいないことを知っている。「離婚届受理証明書があっても、いつひっくり返るか分からない。時限爆弾みたいなものだ。これじゃ君は、何ひとつ主導権を握れない」温厚な知之でさえ怒りで机を指先で叩かずにはいられなかった。名門のやり口とは、かくも容赦がないものか。澪に強い後ろ盾がないのを見越して、好き勝手しているのだ。「いっそ、フェイのことを公表したらどうだ。柴崎先生の最後の弟子で、和漢医学研究センターが特別に中核研究チームへ迎えようとしたほどの人材だってことも。今後順調に賞でも取れれば、国の要職に就く道すら開ける。そうなれば、森宮家の大奥様だって君を今までのようには扱えなくなるはずだ」澪は首を振った。「今、離婚届受理証明書を急いでいるのは玲衣のためよ。フェイであることは、確かに私の誇りよ。でも公にすれば、諸刃の剣にもなる。フェイは注目を集める存在だ。その正体を知られれば、世間は深く詮索してくるに違いない。フェイとして子どもを産んだ事実まで、あのような絶大な権力を持つ一族から隠し通すことなんてありえない」澪は焦っているが、危ない橋を渡るつもりはない。「今は慎
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