征司がまだ病院にいることを澪は知っている。仕事をすべてキャンセルして、大したけがもしていない律樹に付き添うためだ。だから、わざわざ征司を探しに行く手間が省けたわけだ。玲衣は点滴を受けながら静かに眠っている。頭の傷の手当はすでに済んでいる。澪は優しく玲衣の布団の端を整えてやった。玲衣の寝顔を見ていると、凍りついている胸の奥が少しずつほどけた。房江が病院に来て、澪はようやく病室を出た。片方の靴をなくしていたため、彼女は裸足のまま歩いている。廊下の角を曲がったところで、征司がふとこちらへ目を向け、彼女の姿を捉えた。澪を上から下まで視線で追った彼は、片方だけ靴を履いていないことに気づくと、彼女が出てきた病室のほうを見た。「警察署の件は片付きました。穂積さんも、これ以上事を荒立てるつもりはないようです」スマートフォン越しに、健太の声が聞こえてくる。征司は片手をポケットに入れたまま、病室のほうを見ている。「誰か、けがをしたのか?」「それが……穂積さんの車には、お子さんも乗っていたようです。だが現場に着いたときには、すでにその子はいませんでした」征司の目がわずかに細くなった。「伊織の子どもか?」「奥様が連れて行かれたそうです。車内で怪我をしており、一刻を争う状態だったため、先に治療を受けたとのことでした」征司はすでに病室の前まで来ており、ドアノブに手をかけた。「分かった」電話を切ると、彼はドアノブを回した。「征司、ちょっといい?」背後から、不意に澪の声がして、征司は動きを止めた。振り返ると、澪が立っている。急いで戻ってきたのだろう。髪は少しほどけ、裸足のつま先には擦ったような小さな傷から血がにじんでいる。赤い血の跡が、かえって彼女の足の甲の白さを際立たせている。澪はできるだけ落ち着いた顔をしていたが、心臓は今にも飛び出しそうなほど激しく脈打ち、背中には冷や汗が流れていた。まさか征司が玲衣の病室に来るとは思わなかった。こんなふうに取り乱した澪を、征司はほとんど見たことがなかった。彼は彼女をじっと見つめ、次の瞬間、ドアをぴったりと閉めた。「何をそんなに慌てている?」澪は閉じたドアを見つめ、黙ったまま手にしていた封筒を持ち上げた。房江がさっき届けてくれたものだ
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