澪はそちらへ視線を向けた。紗耶は資料をめくりながら、顔も上げずにそう言った。ごく自然で、まるでそれが当然であるかのような口調だった。奥の席にいる芹奈が慌てて立ち上がる。「私がやります」すると紗耶はやわらかな笑みを浮かべて彼女を見た。「澪さんのすぐ近くにありますし。皆さんは議論に夢中になってるでしょう?澪さんはずっと話についてこれていないみたいだったので、少しでも皆さんの役に立てたらと思っただけです」澪は一瞬、きょとんとした。自分が?話についていけていない?どうして紗耶がそんな結論に至ったのか、まるで分からない。ふと後ろを見ると、いつの間にかすぐ手の届く場所に、ほうじ茶のティーバッグが何袋か置かれていた。その場にいる全員の視線が澪へ集まった。紗耶が自分を顎で使おうとしていることくらい、澪にも当然分かっている。だが厄介なことに、これは紗耶一人のためではない。これだけ大勢の人がいる場で意地を張って断れば、自分が空気を読めない人間だと思われるだけだ。人との接し方に関しては、紗耶は本当に上手い。知之が振り返った。「みんな、ご自由にどうぞ」澪はためらわずに立ち上がった。「続けてください。ちょうど体を動かしたいと思っていたところだから」会議で議論されている内容は、彼女がもうとっくに研究済みの内容で、難しくはなかった。何より優先すべきなのは、プロジェクトを推進し、一日でも早く成果につなげることだ。芹奈たちは感謝の目を向けた。「ありがとうございます、澪さん」澪は微笑み、飲み物に視線を落とした。朝からほうじ茶?眠気覚ましのコーヒーだと思っていたのに。まさか――澪は思わず眉をひそめ、伏し目がちに企画書を読んでいる征司の方を訝しげにちらりと見た。K大の人たちは澪からお茶を受け取ると、紗耶と征司のほうを見て言った。「先輩のおかげです。でも、どうしてお茶なんですか?」紗耶はそこで初めてふっと笑った。「私、昨日から軽い風邪気味なんです。征司が冷たいものは駄目だって言うから、コーヒーは頼まなかったの。このほうが体にもいいですし、皆さんもよかったら飲んでみてください」「森宮社長って、本当にお優しいんですね」あちこちから羨ましそうなため息が漏れた。澪は少しも意外に思わなかった。
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