隆一は全く妥協を許さない態度だ。澪は胸の奥が痛んだ。先生がここまで腹を立てているのも、自分をかばってのことだと分かっている。こんな歳になってまで、自分のためにいろいろと気を遣って、その上、自分の面子まで立ててくれようとしている。一方、紗耶は胸を針で刺されたような痛みを覚えた。澪が二人にあることないこと吹き込み、自分を悪い女だと仕立てたに違いない。今の状況では、完全に逃げ道を塞がれている。澪の家庭を壊したのは自分だと認めろというのか?要するに、最初から自分を受け入れる気などないだろう。「柴崎先生、やはりもう一度よくお考えいただきたい。ほかにご要望がおありなら、できる限りお応えします」征司はわずかに目を細め、ゆっくりと立ち上がった。礼儀は崩していないものの、一歩も譲るつもりがないことは明らかだ。紗耶にそんな屈辱を味わわせるつもりなどないのだろう。澪には、それが痛いほど伝わってきた。唇からふっと自嘲気味な笑みがこぼれた。愛とは、大したものだ。あれほど誇り高く、誰もが一目置く征司でさえ、紗耶のためなら自ら頭を下げる。根も葉もない噂を流され、実際に傷つけられているのは自分のほうだというのに、彼は何ひとつ気に留めようとしない。澪は大きく息を吸い、ぎゅっと握りしめていた手をゆっくりと開いた。手のひらには、爪が食い込んだ痛々しい跡がいくつも残っている。隆一は目の前にいる気高く落ち着き払った男を、ほとんど失望に近い眼差しで見つめた。これではっきりした。こんな男に、玲衣の父親になる資格はない。「それなら、話は終わりだ」隆一はそれ以上何も言わず、険しい顔のままドアを開けて出ていった。紗耶は顔をこわばらせた。これほど人前で面目を潰されたのは、生まれて初めてだ。全ては澪のせいだ。彼女が変なことを吹き込まなければ、隆一が自分を拒むはずはない。征司が断られてどう思ったかなど、今の澪には気にする余裕もない。知之に一声かけると、隆一の後を追って部屋を出た。先生はすっかり怒っていて、なだめに行かなければならない。澪が出ていくと、征司は知之へ視線を移した。「今日はお時間をいただきました。榊社長、また今度」礼儀正しい口調ではあるが、どこかよそよそしい。隆一に取りなしてほし
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