入社式と部署別オリエンテーションという怒涛の一日を終え、りとはどっと疲れて会社を出た。 今日は珍しくルージュ・ラパンの出勤を入れていない。定時退社で、夜は久しぶりにゆっくりできる日だ。 にもかかわらず、りとの足取りはどこか落ち着かなかった。『今日、帰ったら挨拶しに行ってもよか?』 昼休みに聞いた依千の言葉が、頭の中で何度もリフレインしている。 まさか、九州の幼なじみが自分を追いかけて同じ会社に入社し、しかも同じアパートの隣、303号室に住んでいるなんて。 一日経っても、まだ現実味が湧いてこない。 会社からアパートへと歩いて戻る途中、りとはふと足を止め、近くのスーパーに入った。 最初は自分の夕飯の買い出しだけのつもりだったが、カゴを持ちながら、無意識に依千のことを思い浮かべていた。「……いっちゃん、ごはんどうするんだろ」 引っ越してきたばかりで、今日が入社初日。きっと部屋のキッチンも、まだ片付いていないはずだ。 子どもの頃、依千の両親は共働きで忙しく、夕方まで家にいないことが多かった。そんな時、近所に住んでいたりとが、少しお姉ちゃんぶって簡単なごはんを作ってあげることがあった。 特によく作っていたのは、ケチャップをたっぷり使ったナポリタンだ。「いっちゃん、ナポリタン好きだったよね」 そう呟いて、りとは自然とカゴに食材を入れていった。 スパゲッティ、玉ねぎ、ピーマン、ウインナー、マッシュルーム、ケチャップ、粉チーズ。ついでにサラダ用のレタスとミニトマト、スープ用のベーコンとコンソメも放り込む。「入社祝いってことで」 買い物を終え、メゾン・ド・ルミエールへ帰宅する。 お洒落なエントランスに足を踏み入れ、バッグから鍵を取り出し、センサーにかざして自動ドアを抜けた。 エレベーターで三階へ上がると、隣の303号室の前には、まだ開けられていない段ボールが少し残っていた。「ほんとに隣なんだ……」 りとは改めて妙な気持ちになりながら、302号室へ入り、買ってきた食材を冷蔵庫にしまった。 部屋を軽く片付け、エプロンを出して準備をしていると、やがてインターホンの電子音が鳴り響いた。 モニターを見ると、そこには新品のビジネスバッグを持った依千が、少し緊張した面持ちで立っている。『……りっちゃん。入ってもよか?』 りとはふふっと笑い、玄関
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