All Chapters of 限界OL、女風のナンバーワン〝レイ〟を指名したら上司の特等席でした: Chapter 61 - Chapter 70

91 Chapters

61.誰かのレイになってしまうのに

 自分の部屋である302号室に逃げ帰ったあとも、りとの心臓はなかなか落ち着かなかった。  震える手で玄関の鍵を閉め、靴を脱ぎ捨て、バッグを床に落としても、胸の奥だけがずっと騒がしいままだった。 唇には、依千にそっと触れられたあの熱い感触が、まだかすかに残っているような気がした。『彼は君に好意がある。ただの幼なじみではなく、一人の男としてだ。君も、少しは真っ直ぐに向き合った方がいい』 ふいに、いつか鷲尾に言われた低い声が頭の中で蘇る。  あの時は、本当に依千が自分のことを好きなのか、どこか信じきれなかった。  幼なじみで、弟みたいで、昔からずっとそばにいた男の子。そんな彼が、自分を一人の女として見ているなんて、うまく想像できなかったのだ。 けれど。「……キス、されちゃった……」 それは、外国の挨拶みたいな軽いキスではなかった。  酔ってふざけた勢いでも、からかうような冗談でもない。  触れるだけの短いものだったのに、そこには確かに、隠しきれない熱と、どうしようもない後悔があった。『……あー……やっと、できたとに』 『こげな形やなんて……最低や』 バスルームへ向かう依千の、あの苦しそうな声が、耳の奥にべったりとこびりついている。「やっと、って……」 りとはふらふらと寝室に入り、ベッドの上に置いてある大きなクマのぬいぐるみをきつく抱きしめた。  そのまま、ぽふっと顔を埋める。「うわー……」 声にならない声が、ぬいぐるみのお腹に吸い込まれていく。 やっと、ということは。  ずっと、そうしたかったということだ。 いつから。  どれくらい前から。 福岡から東京まで追いかけてきて、同じ会社に入って、隣の部屋にまで越してきた。  それが全部、偶然ではなかったのだとしたら。「……ガチじゃん……」 りとはぬいぐるみに顔を埋めたまま、ぽつりと呟いた。  依千は、本当に自分のことが好きなのだ。  弟みたいな幼なじみとしてではなく、一人の男として。  そうはっきりと理解した瞬間、胸の奥がぎゅっと痛んだ。 嬉しくないわけではない。  大切に思われていたことを、嫌だと思ったわけでもない。  けれど、同じ熱量で応えられるかと聞かれたら、答えはもう決まっていた。 私は――。(やっぱり……鷲尾課長が好き) その気持ちだけは、どれ
Read more

62.それぞれの秘密

 ゴールデンウィーク連休の最終日。  りとは制服に着替え、ルージュ・ラパンのフロアへ出た。 この日はロゼもティフィンもシフトに入っており、店内は開店前からいつもより少しだけ賑やかだった。  けれど、りとはどこか上の空だった。  依千に不意打ちでキスされたこと。鷲尾へのどうしようもない気持ち。そして今頃、レイとしてどこかのホテルで、自分ではない誰かを甘く癒やしている彼の姿。 いろいろな感情が頭の中でぐるぐると渦巻いていて、なかなか接客の仕事モードに切り替えられない。  開店準備中、りとはグラスにドリンクを注ぎながらぼんやりしてしまい、うっかり中身をカウンターにこぼしてしまった。「あっ……!」 慌てたりとの横から、すぐにロゼが清潔な布巾を差し出してくれる。「ラム、手止めない。先にグラス下げて。床はアタシやるから」 「す、すみません!」 「いいって。顔に全部出てるよ。今日、なんか考え事してるっしょ」 ロゼは軽く笑いながらも、手際よくカウンターを拭き、こぼれたドリンクの処理を手伝ってくれる。  そこへ、バックヤードから剛堂店長が現れた。「あらぁ、ラムちゃん。今日はドリンク、お客様じゃなくてカウンターに飲ませる日?」 「ち、違います!」 「うふふ。でも怪我がなくてよかったわ。床、滑るから気をつけてね」 剛堂は冗談を言いながらも、りとの足元をさりげなく確認する。ロゼも横からさらっとフォローを入れた。「大丈夫大丈夫。ラムは今日、ちょっと脳内が遠くに旅行中なだけだから」 「旅行してません!」 「じゃあ迷子?」 「それも違います!」 ロゼの明るい軽口に救われ、りとはようやく少しだけ笑うことができた。 その日は連休最終日ということもあり、店には早い時間から客が多く入った。  翌日から仕事が始まる会社員、連休の最後に飲みに来た常連、観光帰りらしい一見客。カウンターもボックス席もほどよく埋まり、キャストたちは忙しく動き回る。 いつも一番乗りの八尾蓮真の姿はない。ロゼいわく、連休中はグアム旅行に行っており、今夜遅くに帰国するらしい。「レンレン、今日いないんですね」 「グアムだって。さっき写真送ってきたよ。綺麗な海を背にして、謎にキメ顔してた」 「ふふ、レンくんらしいですねぇ」 「お土産、ちゃんと買ってこなかったら次来た時いじり倒す」
Read more

63.厄介な男

 ゴールデンウィーク明けの朝。  株式会社ウィルクエスの営業部は、朝からピリピリとした慌ただしい空気に包まれて動き出していた。 休み前に鷲尾が言っていた通り、連休明けの今日、大型案件の役員向け最終提案会議が控えているのだ。  競合相手は、株式会社ヤオノード。 りとは営業四年目として、一課長である鷲尾のサブ担当という形で先方企業へ同行することになった。  連休前から資料作成や比較表の微調整、見積条件の整理、過去の議事録確認などに関わっていたため、現場で補足資料を出す役目として抜擢されたのだ。 本来なら、鷲尾と一緒に重要案件へ同行できることは、若手営業としてとても誇らしいことだ。  けれど今のりとは、それどころではなかった。 株式会社ヤオノード。  八尾蓮真。  ルージュ・ラパンの常連客であり、〝ラム〟としての自分をよく知っている男。 先方の会議室で、彼と鉢合わせる可能性がある。  そう考えただけで、りとの顔色は出勤時からどんどん青白くなっていく。  鷲尾はそんなりとの様子を見て、重要案件を前にプレッシャーで緊張しているのだと思ったようだ。「甘崎」 低い声で呼ばれて、りとはびくりと肩を大きく跳ねさせる。「は、はいっ」 「……顔が死んでいるぞ」 「し、死んでません……たぶん」 「たぶんで営業先に行くな」 いつもの冷たい皮肉だ。けれど、鷲尾は少しだけ声を落とし、周囲に聞こえないトーンで言葉を続けた。「君は連休前から、この案件に誰より関わって資料を作ってきた。資料の中身も、先方が気にしている細かな懸念点も、すべて把握しているはずだ」 「……はい」 「なら、余計なことを考えるな。今日、君が見るべきなのは、自分の手元の資料の束じゃない。相手の表情と反応だけだ」 りと思わず、顔を上げて彼を見た。  怒鳴られるとばかり思っていたのに、その真っ直ぐな言葉は、鷲尾なりの不器用な励ましのようにも聞こえた。「課長……」 あの鉄仮面の鷲尾が、珍しく部下の緊張を解そうとしてくれているのだろうか。  そう思った瞬間、りとの胸が別の意味でざわざわと騒ぎ出す。(今日、槍でも降るのかな……?) りとが別の意味で震えていると、鷲尾はすぐにいつもの冷ややかな目に戻った。「今、何か失礼なことを考えただろ」 「か、考えてません!」 「その顔で嘘
Read more

64.おっぱい重くてすみません

 その夜、りとはルージュ・ラパンに出勤していた。  昼間、先方企業の会議室で八尾蓮真と鉢合わせた衝撃が、まだ全身から抜けきらない。それでも、店に出ればうさ耳をつけて〝ラム〟としてフロアに立たなければならなかった。 この日もロゼとティフィンが出勤しており、店内はいつものように明るい空気に包まれていた。  開店してすぐ、カランとドアベルが鳴り、蓮真がいつも通り一番乗りでやってきた。手には、カラフルな紙袋をいくつか提げている。 りと思わず気まずくて目を逸らしてしまったが、蓮真は何事もなかったかのように人懐っこく笑った。「ラムちゃん、ただいまー。グアムのお土産あるで」 そう言ってカウンターに並べられたのは、りとには定番のマカダミアナッツチョコ、ロゼにはドライマンゴー、そしてティフィンには海外ブランドのコスメだった。  ティフィンが以前「かわいいパッケージの紅茶がいい」とリクエストしていたのを知っているりととロゼは、顔を見合わせて同時に突っ込んだ。「「惜しい!」」 「え、なんや不満か?」 「ティフィンは紅茶が良かったんだよー。レンレン、リサーチ不足っしょ」 蓮真は肩をすくめて苦笑いする。「いや、食いしん坊の二人はすぐわかったんやけどな。ティフィンちゃんはミステリアスすぎて、何が喜ぶか全然読めんかったわ」 「うふふ。でも、とっても嬉しいですぅ。ありがとう、レンくん」 ティフィンがふわふわと笑ってコスメを受け取ると、蓮真も安堵したように笑った。 その後も、蓮真はいつも通り明るく振る舞い、お酒を飲んでいた。けれど、ロゼはカウンター越しに彼を観察しながら、少しだけ違和感を覚えていた。(……なんか今日、変じゃね?) いつもなら、来店するなり「聞いてや!」と仕事の愚痴やライバル会社の悪口を軽くこぼすはずの蓮真が、今日は一切その話題に触れようとしない。  それに、ラムの様子もどこかぎこちない。蓮真と目を合わせる回数が、明らかにいつもより少ないのだ。  二人の間に、昼間何かがあったような、妙に張り詰めた空気が漂っている。 営業が終わり、客が全員帰ったあとのバックルーム。  私服に着替えている最中、ロゼはたまらずりとに尋ねた。「ねえ、ラム。今日、レンレンとなんかあったっしょ?」 「えっ」 「隠しても無駄だからねー。アタシの直感はごまかせないよ。
Read more

65.予約じゃない抱擁

 六月半ば。東京も本格的な梅雨入りを迎えた。 ジメジメとした湿気のせいで、りとのショートカットの髪は朝からまったく言うことを聞いてくれない。「もう、前髪どうなってるの……」 洗面所の鏡の前で、ヘアアイロン片手に湿気と格闘する。リビングでつけっぱなしにしているテレビの天気予報からは、お天気キャスターが「午後からは大気の状態が不安定になり、初夏の嵐になるでしょう」と伝えていた。「やば! もう出なきゃ!」 時計の時刻を確認した途端、りとは慌ててテレビを消し、バッグを掴んで玄関を飛び出した。 株式会社ウィルクエスの営業部では、四年目になったりとにも、少しずつ大きな案件のサポートや下準備が任されるようになっていた。「甘崎さん、最近かなり頼もしくなったね。この資料もよくまとまってるよ」 「本当ですか!? ありがとうございます!」 葛城部長に褒められ、りとはぱっと顔を輝かせた。頑張りが認められるのは、素直に嬉しい。  そこへ、書類を持った依千もやってきて、りとを見て柔らかく笑った。「りっちゃん、すごかね」 会社ではできるだけ同期としての呼び方を意識しているようだが、気を抜くとつい昔の調子が滲んでしまうらしい。 あの連休の夜、不意打ちでキスされてからというもの、二人の間にはしばらく気まずくてぎこちない空気が続いていた。けれど、お互いに仕事の忙しさに救われたこともあり、最近になってようやく、こうして元の幼なじみらしい距離感に戻ることができていたのだ。 依千はぽんぽんと自然な動作で、りとの頭を撫でた。「えへへ、いっちゃんも最近すごいじゃん」 りとは素直に喜んで笑みを返す。  その瞬間、デスクの向こうから氷のように低い声が飛んできた。「甘崎。褒められて浮かれる暇があるなら、次の案件資料を確認しろ」 「はいっ!」 振り返ると、鷲尾が眉間に深い皺を寄せて立っていた。彼は仕事の小言を言いながらも、足早に歩み寄り、さりげなく依千とりとの間にスッと入り込む。  りとはその動きに気づき、内心でこっそりと唇を尖らせた。(いっちゃんとは真っ直ぐ向き合えって、自分から言ったくせに) 以前、彼は冷たい声でそう言った。それなのに、こうして依千との距離が少しでも近くなると、なぜか間を割るような立ち回りをしてくる。  そういう理不尽なところ、本当によくわからない。
Read more

66.雷が照らした欲

 停電した営業部で、りとは鷲尾の腕の中に抱きとめられたまま、身動きひとつ取れずにいた。 外では大粒の雨と激しい雷が窓を叩き続けている。何も見えない真っ暗なフロアには、自分と鷲尾の不規則な呼吸音だけが、やけに大きく響いていた。「……なかなか、復旧しませんね」 自分の心臓のうるさい音を誤魔化すように、りとは震える声で小さくそう言った。 けれど、鷲尾は何も答えない。 不安になってそっと顔を上げた瞬間、窓の外で鋭い稲光が走った。 一瞬だけ青白く照らされた鷲尾の顔を見て、りとはハッと息を呑む。 それは、いつもの冷静で冷酷な上司の顔ではなかった。 ずっと深く抑え込んでいた感情が、この暗闇と密着した距離のせいで不意に剥き出しになってしまったような、ひどく切実で熱を帯びた目をしていた。「……課長……?」 りとが戸惑ってその名前を呼ぶと、背側に回されている鷲尾の腕に、わずかに強い力がこもった。 離すべきだとわかっているのに、どうしても離せない。そんな葛藤と迷いが、熱い手のひら越しに伝わってくる。 りとは、これは自分の勝手な勘違いではないのかもしれないと思う。 セラピストの〝レイ〟として客を甘やかしている時の目でもない。彼が今、鷲尾冴臣という一人の男として、自分を見つめているのではないかと。「……甘崎」 低く、掠れた声で名前を呼ばれ、りとの胸の奥がきゅっと締めつけられる。 どちらからともなく、二人の距離が引き寄せられるように近づいた。 最初は、ただお互いの熱を確かめ合うようなキスだった。 暗闇の中、恐る恐る触れ合った唇は、すぐに離れるはずの小さな接触だった。けれど、一度その柔らかな熱に触れてしまえば、もう二人とも理性を保って止まることなどできなかった。 次の瞬間、鷲尾の大きな手が、りとの背中を強く、強引に引き寄せる。 りとも彼の仕立ての良いジャケットをきつく掴み返し、堰を切ったように、何度も深く唇を重ね合わせた。 薄暗い営業部に、激しい雨音と雷鳴、そして二人の荒い呼吸だけが響く。(課長と……オフィスで、こんな……) 信じられない。けれど、夢ではない。 レイの予約日をずっと心待ちにしていたはずなのに。今、自分をこんなにも強く抱きしめ、息を奪っているのは、夜のセラピストであるレイではなく、昼の鬼上司である鷲尾課長なのだ。 そのどうしようも
Read more

67.あんにゃろ!

 暗闇に包まれた営業部で、りとは無我夢中で鷲尾のものを口に含み続けていた。 ずんぐりとしたカリ首を舌先で執拗に舐め回し、熱い竿を喉の奥まで咥え込んでは、じゅるじゅると卑猥な水音を立ててしゃぶりつくす。「……っ、甘崎……!」 鷲尾の腹筋が硬く強張り、低い喘ぎ声が漏れた。限界を迎えた彼の巨根から、ドクドクと熱い精液がりとの口内へと勢いよく放たれる。 りとは逃げることなく、濃厚な白濁を「んぐっ」と喉を鳴らしてすべて飲み込んだ。 ふう、と息をついたのも束の間。 今度は鷲尾が反撃に出た。彼は荒い息のまま、りとのスカートを乱暴に捲り上げ、ストッキングと下着を太ももまで一気に引きずり下ろした。「えっ、か、課長……ちょっと、待っ……」 鷲尾のあまりに積極的な行動に、りとはさすがに慌てて後ずさろうとする。 しかし、鷲尾は逃さなかった。デスクにりとを寄りかからせると、濡れそぼった秘所の前に跪き、そのまま顔を埋めたのだ。「やっ……! あ、だめぇっ……!」 鷲尾の熱い舌が、愛液で滑る割れ目を割り開き、一番敏感な真珠の粒を直接絡め取った。じゅるり、と舌で抉るように舐め上げられ、りとはビクンと腰を跳ねさせる。「あっ、あぁっ……かちょ、……っ」 的確に弱点を責め立てる舌使いに、りとの膝がガクガクと震え、立っていられなくなる。全身に電流のような快感が走り、一気に絶頂へ登り詰めそうになった、まさにその瞬間だった。 鷲尾が、不意に口を離して立ち上がったのだ。「えっ……」 寸止めを食らい、りとは不満と戸惑いが混ざったような声を漏らした。 暗闇の中、鷲尾は荒い息を吐きながら低く囁く。「……そんな顔をするな」 彼はどこからか取り出したコンドームを、再び猛り狂っている自身のペニスに素早く装着した。 セラピストの〝レイ〟としては、絶対に許されなかった本番の挿入。けれど今は、客とセラピストではなく、鷲尾と甘崎だ。 鷲尾は、りとの両脚を大きく開かせ、硬い先端を濡れた入り口に押し当てた。「い、挿れるんですか……っ?」「……」 鷲尾は答えず、一息に最奥まで太い楔を打ち込んだ。「ああっ……!!」 初めて繋がった圧倒的な充満感と、内壁を擦り上げる強烈な摩擦に、りと思わず甲高い声を上げる。「甘崎……中、熱い……っ」 鷲尾は低い唸り声を上げながら、激しいピストンを開始し
Read more

68.課長と行く、訳あり箱根旅行

 あの停電の夜から数週間が過ぎた、六月下旬。  ついに、りとがずっと心待ちにしていた〝レイ〟の予約日がやってきた。 この日のために、りとは懸命に働き、コツコツとお金を貯め込んでいた。  今回は期間が空いたこともあり、奮発してメロウルームの〝デート&お泊まりプラン〟を申し込んでいたのだ。 行き先は、箱根・強羅。客室に専用の露天風呂がついた、高級感のある温泉旅館である。 特急ロマンスカーに乗り込み、まずは箱根湯本へ。  到着してすぐ、二人は風情ある老舗の蕎麦屋に入り、名物の冷たい蕎麦を堪能した。「ん〜! 課長、お蕎麦すっごく美味しいですね!」 りとが満面の笑みで蕎麦をすすると、向かいに座る鷲尾は静かに頷きつつ、小さくため息をついた。「ああ、コシがあっていいな。……だが、デートプランだと言いながら上司の肩書きで呼ぶのは君くらいだぞ。こんな観光地で親しげに〝課長〟と呼んでみろ。はたから見れば、完全に訳ありの社内不倫旅行じゃないか」 「えー、でももう二人の中じゃ定着しちゃってるじゃないですか。それに私、今日は自分のお金で〝課長〟の時間を買ってるんですから。この背徳感がいいんですよ」 「……君は本当に変な客だな」 呆れたように言うものの、鷲尾の顔に嫌がる素振りはない。  休日の昼間。いつもの窮屈なスーツではなく、仕立ての良いカジュアルな私服姿の彼は、本当にただの洗練された大人の男だ。  そんな上司と、堂々とデートをしている。その優越感と背徳感に、りとの胸は朝からずっと満たされっぱなしだった。 そこからは箱根登山電車に揺られ、強羅方面へと向かう。  途中、彫刻の森美術館で途中下車し、広大な敷地内をのんびりと散策した。「あ、課長、あっちのオブジェも見に行きたいです」 「わかった。……走るな、転ぶぞ」 「じゃあ……手、繋いでくれますか?」 りとが上目遣いで手を差し出すと、鷲尾はまた小さく息を吐きながらも、自然な動作でりとの手を包み込んでくれた。「……今日は甘崎のプラン通りに動く約束だからな」 「えへへ、ありがとうございます。課長の手、大きくてあったかい」 指先が絡み合い、ぴったりと繋がれた温もり。  端から見れば、どこにでもいる幸せな恋人同士にしか見えないだろう。仕事の顔を少し残しながらも、確実に自分だけを甘やかしてくれる彼に、りとは
Read more

69.俺の理性を、残らず奪う気だな

 しとしとと降る雨音だけが響く静寂の部屋で、鷲尾の顔がゆっくりと近づいてきた。 触れるだけの優しいキス。けれど、それはほんの数秒のことだった。 重なった唇が僅かに開くと、鷲尾の熱い舌が迷いなく滑り込んでくる。 りとは弾かれたように小さく喘ぎ、彼の広い肩にしがみついた。舌と舌がねっとりと絡み合い、唾液が混ざり合う生々しい水音が、静かな和室に響き渡る。 何度か角度を変えて深く味わうようにキスをした後、鷲尾の大きな手が、りとの浴衣の襟元にかかった。 結んだ帯はそのままに、合わせ目からゆっくりと肩を露出させるように生地を横へずらしていく。 はらり、と淡いピンクの浴衣がはだけ、りとの豊満な胸が露わになった。 その胸を大切に包み込んでいるのは、繊細な白いレースと小さなリボンがあしらわれた、ひどく可愛らしいランジェリーだ。「……似合っているな。とても可愛い」 鷲尾の低く甘い声が、耳元をくすぐる。男の熱い視線に晒され、りとは羞恥心で頬を染めながらも、ふわりと艶っぽく笑った。「ふふっ。この日のために新調したんですよ」「……そうか。俺の理性を、残らず奪う気だな」 鷲尾の長い指が背中に回り、器用にホックを外す。するりと下着が取り払われると、重力に逆らうように形の良い双眸が弾み出た。 半分だけはだけた浴衣の隙間から覗く、りとの白くしなやかな身体。隠されている部分があるからこそ、むき出しの肌がひどく官能的に映る。「……本当に、綺麗だ」 鷲尾の喉仏がゴクリと上下した。その言葉にお世辞や嘘は一切ないと、痛いほどの熱を持った視線が物語っている。 鷲尾の手が、りとの柔らかな膨らみを下からすくい上げるように揉みしだく。先端の淡い色の突起を親指で弾くと、りとは「あっ、あぁんっ」と甘い声を上げた。 愛撫は驚くほど丁寧で、じっくりと時間をかけてりとの身体を開拓していく。 浴衣はあえて脱がさず、はだけた状態のまま。それが妙に背徳的で、りとの羞恥心と興奮を否応なしに煽った。 やがて、鷲尾の手は浴衣の裾をめくり上げ、りとの熱く濡れそぼった秘所へと滑り込む。「んっ、は、かちょ……そこっ……!」 的確に一番敏感な部分を抉るように指を動かされ、りとの頭はあっという間に真っ白になった。 押し寄せる快感の波に呑まれ、りとは鷲尾の胸に顔を埋めたまま、ビクビクと身体を震わせて一度目
Read more

70.雨上がりの告白

 露天風呂で甘く火照った身体を冷ますように、二人は浴衣をきちんと整え直して居室へと戻った。  ほどなくして仲居が運んできた夕食は、箱根ならではの趣がある豪華な食事だった。 山の幸をふんだんに使った色鮮やかな前菜、丁寧に盛りつけられた新鮮な刺身、出汁の香りがふわりと広がる温かな椀物、そしてふっくらと艶やかな炊きたてのご飯。  小さな陶板の上でじゅうじゅうと美味しそうな音と湯気を立てるお肉に、りとは目をキラキラと輝かせた。「すごい……! 旅館のご飯って、なんでこんなに全部ちょっとずつで、可愛いんですかね」 「味より先に、量と見た目か」 「味もちゃんとみてますよ〜!」 鷲尾は呆れたように言いながらも、熱いものを慌てて口に運ぼうとするりとを「火傷するぞ」と止めたり、りとが少し苦手そうな薬味を、自分の箸で自然に避けてくれたりする。  その何気ない世話焼きに、りとは胸の奥がじんわりと温かくなるのを感じていた。 ゆったりと食事を終える頃には、先ほどまでしとしとと降っていた雨がすっかり上がっていた。  大きなガラス窓の外には、雨に濡れた木々の緑と、旅館の温かなオレンジ色の灯りがしっとりと浮かび上がっている。「……少し、外を歩きませんか?」 お茶を飲みながらりとが提案すると、鷲尾は窓の外を一瞥した。「冷えるぞ」 「浴衣で温泉街を散歩するの、一回やってみたかったんです」 「……本当に、仕方ない客だな」 口ではそう言いながらも、鷲尾は立ち上がり、衣桁に掛けられていた羽織を取って、りとの肩へふわりとかけてくれた。 二人は旅館のロゴが入った貸し傘を念のため手に持ち、夜の強羅へと出た。  雨上がりの急な坂道はしっとりと濡れ、石畳のような道が、立ち並ぶ旅館の灯りを淡く反射してきらきらと光っている。 道端に咲く紫陽花の花には大きな雨粒が残り、夜風に乗って、湯気のような独特の温泉の匂いがかすかに漂ってきた。遠くの方から、ゴトゴトという箱根登山電車の音が微かに聞こえる。 りとは歩幅を合わせながら、鷲尾の腕にそっと自分の手を絡ませた。  鷲尾はそれを振り払わず、静かに受け入れてくれる。その小さな優しさがどうしようもなく嬉しくて、りとは小さく笑い声をこぼした。「私、今すごく幸せです」 ぽつりと零した言葉に、鷲尾が横目でりとを見下ろす。「
Read more
PREV
1
...
5678910
SCAN CODE TO READ ON APP
DMCA.com Protection Status