「はぁ、はぁ……っ、ん……」 お互いの吐息が混じり合う、狭くて、どこか安っぽいビジネスホテルの客室。 部屋の明かりは落とされ、枕元のスタンドライトだけが、不気味にオレンジ色の光を放っている。 甘崎りとは、見知らぬ男の身体の下に敷き調えられていた。 男の硬い胸板が押し当てられ、鼻を突くのは、どこのものとも分からない安価な香水と汗が混じったような匂い。りとが望んでいた展開とは、あまりにもかけ離れた現実がそこにはあった。「ねえ、もっと力抜いてよ。そっちから誘ってきたんでしょ?」 男の濁った声が耳元で鼓膜を震わせる。 太い指が、りとのタイトスカートの裾を強引に捲り上げていく。ストッキング越しの太ももを撫で上げる手のひらが酷く不快で、りとの背中に一瞬にして無数の鳥肌が立った。 どうして、こんなことになってしまったのだろう。 りとは長い間、定まった彼氏がいない。決してモテないわけではなく、何度か付き合った人はいたものの、天真爛漫でドジな性格のせいか、いざ交際が始まると相手から「なんか思ってたのと違う」とあっさり振られてしまい、いつも恋愛が長続きしないのだ。 けれど、りとには誰にも言えない秘密がある。 実は、人一倍、〝性欲〟が強いのだ。 夜、ベッドの中でひとりで処理するだけでは、もう限界だった。身体の芯から湧き上がるような、疼くような渇き。誰かに強く抱かれたい、激しく愛されたい、甘やかされながらとろけるような快感を味わいたいという欲求が、風船のようにパンパンに膨れ上がっていた。 その結果、理性を失った彼女が手を出してしまったのが、手軽なマッチングアプリだった。 プロフィール写真がそこそこイケメンで、優しそうなメッセージを送ってきた男。「まずはホテルでゆっくり話そうよ」 その言葉の裏にある意図を分かっていながら、欲求に抗えなかった自分が馬鹿だった。ホテルに入った途端、男は本性を現し、言葉のキャッチボールすらなく強引にりとをベッドに押し倒したのだ。「んっ……、ちょっと、待って……っ!」 男の唇が、りとの首筋に押し当てられる。じっとりと湿った感触。ちゅっ、という生々しい水音が響き、その瞬間、りとの脳内に強烈な警報が鳴り響いた。 違う。私が求めていたのは、こんな、ドロドロとした、ただ男の欲望をぶつけられるだけの行為じゃない。
最終更新日 : 2026-06-12 続きを読む