あれから、あっという間に一ヶ月の月日が流れた。「外回り、行ってきまーす!」 りとは元気よくオフィスに声をかけ、鞄を手に取った。 夜のガールズバー〝ルージュ・ラパン〟での勤務にもすっかり慣れ、昼間の本業である営業の仕事も順調にこなしている。 最初の頃は、十八時に会社を退勤し、そこから急いで店に向かって着替え、深夜までバニーガール風の制服で接客するというハードスケジュールに悲鳴を上げていた。慣れない夜の会話に頭を悩ませることもあった。 しかし、面倒見の良い剛堂店長や、頼りになる先輩のロゼの支えもあり、りとは少しずつ水商売のコツを掴んでいった。 距離感の近い常連客の蓮真も、相変わらず頻繁に店に顔を出しては、りとをからかいつつも優しくフォローしてくれている。 睡眠時間は確実に削られているはずなのに、目標に向かって真っ直ぐに進んでいる充実感のおかげか、不思議と身体は軽く、肌の調子もすこぶる良かった。 今日は二月十四日。バレンタインデーだ。 朝から社内の女性陣はどこかそわそわとしていて、給湯室やロッカールームでは可愛らしい紙袋の受け渡しが秘密裏に行われていた。部署の男性陣も、表向きは平静を装いながらも、どこか期待を含んだ空気を漂わせている。 ご多分に漏れず、りとも朝からずっとそわそわと落ち着かない時間を過ごしていた。 渡したい相手である鷲尾は、朝一番から外回りに出かけており、社内でなかなかすれ違うタイミングがなかったのだ。 営業の仕事をしっかりこなしつつ、隙を見て彼を探していたものの、気づけばお昼をとうに過ぎてしまっていた。 コートを羽織り、午後の外回りのために会社の地下駐車場へと降りた時だった。 自分が乗る予定の営業車に近づこうとした瞬間、タイミング良く一台の車が滑り込んできた。キュッと音を立てて駐車スペースに停まった車から、運転席のドアが開く。 降りてきたのは、見慣れたダークグレーのスリーピーススーツを隙なく着こなした鷲尾だった。「あ……っ、課長!」 りとは小走りで駆け寄った。 鷲尾は車の鍵を回しながら小さく息を吐き、怪訝そうに眉をひそめる。「甘崎か。今から午後の外回りか? 忘れ物はないだろうな」「大丈夫です! あの、それより……!」 りとは周囲をサッと見渡した。薄暗い駐車場には、幸いなことに他の社員の姿は全くない。防犯カメラの
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