七月第二週の月曜日。 この日、株式会社ウィルクエスの社内は、朝からどこか浮き足立った空気に包まれていた。夏のボーナスが支給されたからだ。 いつもなら、ボーナスの明細を見た瞬間に、りとはスマホを開いて〝メロウルーム〟の予約サイトにアクセスし、即座にレイの指名を入れているところだった。 けれど今日ばかりは、サイトを開くことすらできなかった。 最近あった色々な出来事が、りとの心を重く引き止めている。 依千との一線を超えてしまった罪悪感と混乱。そして何より、鷲尾との曖昧すぎる関係だ。 今日の鷲尾は、朝のミーティングからいつも通り冷徹な鬼上司として振る舞い、部下たちに容赦ない指示を飛ばしていた。 その隙のない横顔を盗み見ながら、りとは唇を噛む。(だって、恋人でもないのに、廊下の死角でキスしてきたり、オフィスでえっちだってしてくれたんだもん) 特定の相手は作らないという彼の方針はわかっている。 けれど、もしこのまま自分がレイの予約を入れず、一人の〝客〟としての繋がりを絶ってしまったら、課長はどう出るのだろうか。(これで私に何もしてこなくなったら……やっぱりあのキスもえっちも、私を繋ぎ止めるための〝営業〟だったということだよね) 試すような真似はしたくないけれど、今の曖昧な関係に白黒つけたいという思いが勝っていた。 そんな考え事にどっぷりと浸かりながら資料室へ向かう廊下を歩いていたせいか、りとは自分の足首に逆のつま先を引っ掛けてしまった。「あっ……!」 見事にバランスを崩し、前のめりに倒れそうになる。 しかし、床に顔を打ちつける直前、力強い腕がぐいとりとの身体を引き上げた。「そろそろだと思ったぞ」 頭上から降ってきた低い声に、りとはビクッと肩を跳ねさせた。 見上げると、呆れたようにため息をつく鷲尾の顔があった。「か、課長……」 「君は歩きながら別の世界に飛ぶ癖があるな。視界が三歩先までしか見えていない。平坦な廊下でつまずくなど、営業として周りの状況が見えていない証拠だ。怪我でもして業務に支障が出たらどうするつもりだ」 息もつかせぬいつもの冷たい小言に、りとは「すみません……」と小さく縮こまる。 しかし、引き寄せてくれた彼の手が腕に触れているだけで、またしても心臓がトクンと大きく跳ねてしまった。 こんなに冷たく
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