All Chapters of その番犬、狂暴につきまして。: Chapter 71 - Chapter 80

85 Chapters

episode71

その日のうちに全校集会が行われ、里倉の紹介がされた。里倉は物腰の柔らかい話し方で自己紹介をしていく。そんな姿を見ていると、どこか懐かしいものを感じてしまった。幼い記憶の中の母と面影が重なったのだ。そんなオレに気がついた叶弥が小声で「大丈夫か?」と聞いてきた。オレは思わずどもりながら「あ、あぁ」と返事をした。しかし、オレの内心は全くと言っていい程穏やかではない。里倉が話す度、動く度に母の姿がチラつくのだ。そんな事を考えているうちに集会が終わり、生徒達は教室へと戻っていく。「京。無理してないか?」「......え?してないしてない!オレなら大丈夫だから。な?」「......なら良いけどよ。それにしてもオレには甥が。京には叔父がって立て続けてだな」「あぁ......。」そうだ。今は剛の事も考えてやらなきゃいけない。オレには守らなきゃいけない存在が今では沢山あるんだ。オレはバカだ。母の面影を感じたからと言って心を揺さぶられてはいけない。どちらにせよ、凛太朗さんにはきちんと話しをしなければいけないな。と考えていたその時だった。背後から「京司!」と呼ばれた。呼んできたのは言わずもがな里倉であった。「......里倉先生。ここは学校です。名字で呼んでもらえませんか?」「あぁ!すまないね。京司の姿が見えたからつい......。考えたんだ。もし良ければ今日ウチに夕飯を食べに来ないかい?」「夕飯......ですか?」「あぁ!もし良ければ五十嵐君も」「オレも?」里倉は断られる事はない。了承してくれるはずだ。と謎の自信が感じられた。しかし、家では剛が今か今かとオレ達の帰りを待っている。「すみませんが里倉先生。オレは夕メシを作らなきゃいけない立場なんです。それに、オレを待っている子供もいます。だから......」「「子供?!」」子供発言に食いついたのは里倉だけではなく、クラスメイトもであった。「た、田河......お前とうとう産んだんか?!」「田河君......。おめでとう?」「違う違う!産んでないから!叶弥の甥っ子!5才!」「なんだぁ。驚かせやがって」「チェッ。つまんねぇの」「良かったぁ。高校生で子持ちは大変だからね」オレと叶弥がクラスメイト達から囲まれている様子を少し離れて見ていた里倉だったが、「うん」と頷くと、オレの元に近付いて来た。「今日
Read more

episode72

「叶弥、今日は何食いたい?」オレと叶弥は帰宅途中に夕飯の買い出しのためにスーパーへと来ていた。「あー......中華かなぁ。エビチリとチンジャオロース」「良いかもな。あ、剛ピーマン大丈夫かな?」「ピーマン食えないとかガキだろ」「......剛はまだ5才だからな?好き嫌いは多いだろ」それに叶弥もたしか子供の頃ピーマン食えなかった気がする......。だが、それを言うと面倒なので言わないでおいた。「留守番のご褒美にお菓子でも買ってってやるか」「あんまり甘やかすなよ?」「幼稚園に入るまでなんだし、毎日じゃないんだからいいだろう?」「寂しい思いさせてるんだから。」と言うと、叶弥も「しゃーねーな」と言い、一緒に剛のお菓子を選んでくれている。まだ来たばかりだから好みが分からないけれど、とりあえずポテチとチョコをチョイスした。そうして会計を済ませてレジ袋を持とうとすると、重たい方の袋を叶弥が率先して持ってくれた。精神年齢が低い割に、こういう所は大人で紳士的だ。そこに気づいてしまうと、思わず「ふふっ」と笑みが零れてしまう。すると叶弥は怪訝そうな顔でオレを見てくる。「......なんだよ?」「いや?ふふっ。お前って紳士だなぁって思って」「紳士ぃ?」「気づいてないのか?てことは無意識かよ。怖い怖い」「だからなんの事だって?」「別にィ?オレが知ってればいいの。ほら、早く帰るぞ。皆腹減らせて待ってる」オレはそう言うと、荷物の持っていない方の手で叶弥の手を引いて歩き始めた。叶弥はまさかオレの方から手を握ってくるとは思っていなかったようで、ビックリした顔をしていた。そして、そのまま顔を赤く染めた。「叶弥、顔赤くなってるぞ?」「ハァ?!なってねぇよ!気のせいだろ!......あ、あれだ!夕日のせいだ!」「......まだ夕日出てませんケド?」「あーもー!なんでもいいだろ!ホラ、帰るんだろ!」「ハイハイ」とオレは返事をすると、いつの間にか逆に手を引かれる形になっていた。まったく...かっこいいんだか、可愛いんだか。紳士になったり、子供になったり。叶弥といれば退屈しないな、と思うのだった。「夕メシ食って風呂入ったら一緒にするか?宿題」「ゲ......。忘れてたのに思い出させるなよ」「......逆に忘れるなよ......」まぁ、いいか。と思いなが
Read more

episode73

「ただいまー」「ただいま帰りました」玄関をガラガラと開けると、廊下の奥からドタバタと忙しない足音が聞こえてきた。「けーじ!きょーや!おかえりなさい!」「ただいま剛。いい子にしてたか?」「うん!してた!今日な、隠れんぼしたんだ!」「お、楽しそうだな。そうだ、今日留守番してたご褒美」オレがそう言って、買い物袋からポテチとチョコを取り出すと、剛はキラキラした目で見つめてきた。「ヤッター!ポテチとチョコ!オレ大好き!ありがとう、けーじ!」「これから夕メシになるから、食べるなら夕メシ食ってからな?」「ハーイ!」剛は手渡されたポテチとチョコを大事そうに抱きかかえながらキッチンへと向かうオレ達の後をついて来た。「けーじ!今日の夕メシなーに?」「エビチリとチンジャオロースだぞ。剛、ピーマン食べれるか?」「ピ......ピーマン?!」「ホラ、やっぱりガキだった。ガキはピーマン嫌いだもんな?」「べ、べつに食えるし!けーじのメシうまいから絶対残さねーもん!」剛は叶弥と一緒で、オレにとって嬉しい言葉をくれる。こんな子供の言葉に励まされるとは...。今日一日の憂鬱が一気に消え去った。やはり今日の、里倉の事は凛太朗さんの耳に入れておくべきだろう。オレはそう決心した。「剛。材料を冷蔵庫に入れるの手伝ってくれるか?」「おう!オレに任せろ!」「オレが冷蔵庫に入れるから、剛は袋から出してくれ。」と言うと、剛は抱えていたポテチとチョコを叶弥に渡して、「オレのだからな!きょーや食うなよ!」と念押ししていた。「ホラホラ。急がねぇと食っちまうぞー?」「?!だ、ダメだ!けーじ、早く早く!」「...叶弥。大人気ない事するなよ」「そーだそーだ!大人気ないぞ!」そんなやり取りをしていると、夕メシ当番の若衆達がキッチンへと入ってきた。「若、京司さんおかえりなさい」「まるで親子みたいなやり取りッスね(笑)」「京司さーん、いつの間に産んだんスか(笑)」「......お前ら夕メシ抜きにされたいのか?」オレが夕飯を人質に取ると、ヤツらは土下座で「スンマセンでした!」と謝罪してきたのであった。どうしてこうも家でも学校でも叶弥と夫婦にされるのやら...。オレはため息をつくと、「まぁ、いいか。」と言ってエプロンをつける。「叶弥、剛。オレはこれから料理し始めるから広間にで
Read more

episode74

夕メシと風呂を済ませると、オレと叶弥はオレの部屋で今日出た宿題をしていた。オレは20分程で終了したのだが、叶弥はなかなか手こずっているようであった。そろそろ助け舟を出すか。と思った時、部屋のドアが"バーン"と開かれた。「けーじ!遊びにきたぞ!」「剛......シー。今宿題中」「しゅくだいちゅー?」「そうだ。それが終わったら凛太朗さん...おじさんの所に行かなきゃ行けないから遊んでやれないんだ。ごめんな?」剛はションボリとしたが、これは今日中に話さなきゃいけない問題だ。剛には悪いが、今日は若衆と寝てもらおう。「ッシャー!終わったァ!」「思ったより早かったな」「答えと解説見た」「......お前なぁ」「ヨッシ!オヤジの所行くか。剛、お前も行くか?」「叶弥?!流石に剛に聞かせるのは......」「オレも行くー!」叶弥が剛に問うと、元気よく"行く"と返事をした。「隠しててもいつかはバレる。ガキは聡いからな」「だから一緒に聞かせておいた方が良いだろう」と叶弥が言ったのには一理あると思った。そういう事なら、と3人で凛太朗さんの部屋へと向かった。「オヤジ。オレと京、ついでに剛だ。入っていいか?」「ついでってなんだ!」「おう。どうした?」凛太朗の部屋へと入ると、剛はダッと駆け出して凛太朗さんの膝の上へと座った。一般的には強面と言われる凛太朗さんだが、剛はすっかり凛太朗さんに懐いているようだった。「実は凛太朗さんの耳に入れなくちゃいけない事があって......」「...深刻そうな顔だな。いいぞ。言ってみな?」オレは凛太朗さんに里倉の事を全て話した。オレが話している間、凛太朗さんは静かに目を瞑り、黙って話しを聞いていた。オレの話しが終わると、凛太朗さんは瞑った目を開きオレに向き合うと、真剣な眼差しを向けてきた。「なる程なぁ......。京司の叔父か。いつか来るとは思っていたが、こんなに早く...。京司。お前はどうしたい?」「え?どうしたい、とは?」「このまま五十嵐の家で暮らしていくと言う事は将来はコッチの道に入る事になるんだぞ?それなら血の繋がりのある里倉ってぇのの所に行った方が平穏な日々を送れる」「?!オイ、オヤジ!何言ってやがる!!」「叶弥。落ち着け。ちゃんと最後まで話しを聞け」凛太朗さんは頭に血の昇った叶弥を咎めると、オレ
Read more

episode75

「剛。今日はオヤジと一緒に寝てやってくんねぇか?」「?おじさんと?」「あぁ。オレは京と話しがしたいから。な、いいだろオヤジ」「構わねぇぞ?ホラ、剛。今日はおじさんと寝ような」「......ハーイ」剛はオレの方をチラリと見て残念そうに返事をした。オレは剛の頭を撫でると「ごめんな?今日だけだから」と言った。しかし、その発言を聞き逃さなかった叶弥が、「今日だけじゃねーよ!」と大声を出した。「オイオイ、叶弥ァ。大人気ねぇぞ?一緒に寝るくらい許してやれよ。なァ、剛?」「......いや、オレ大人だからきょーやにゆずってあげる。でも、たまには3人で寝たい。......ダメ?」ここにいる大人全員、剛の発言に悶え転がりたい気分を押し殺すのに必死であった。いち早く我を戻したオレが剛に「いいに決まってるだろう?」と言って聞かせると、剛は"パァッ"と顔を明るくしてオレに抱きついてきた。そして「ありがとう!けーじ大好き!」と言われたオレは昇天しかけた。そうして、「それじゃあ、これで」とオレと叶弥はオレの部屋へと向かった。叶弥の部屋ではないのはただ単純に片付いていないからなのと、普段からオレの部屋に入り浸ることが多いからだ。部屋に入ると、叶弥はオレを背後から抱きしめて首筋をガジガジと噛んできた。「おーい。叶弥。歯でも疼くのか?」「......」「?叶弥?」「......嬉しかったんだ。お前がオヤジに"五十嵐の人間でいたい"って言ってくれたのが。......なんかオレばっかり貰ってばっかりだな」「そんな事ねぇよ?叶弥もオレの欲しい言葉をくれたりしてるから。ただ、オレを離さないでくれてありがとう」オレがそう言うと、叶弥はオレのあたまを掴み、自分に向けさせると、噛み付くような深い口づけをしてきた。「んン......フッ......ハァ......ンァ」「京...京司。好きだ。愛してる」「も......!バカぁ!」「痛ぇ......」「調子に乗るなよ......?って、言ってるそばから......」オレが話していると言うのに、叶弥は手を服の中に滑り込ませてきた。「安心しろ。一線は超えない。正式に"若頭"と"若頭補佐"になったら。そしたらその暁には......な?」「オレは別に構わねぇけど......。お前我慢出来んのか?」「......触ったりするくら
Read more

episode76

翌日、オレと叶弥はいつもより少し早く学校へと行った。里倉と話しをするためだ。教室に荷物を置いて、教務室へと行くと、里倉が他の教師と親しげに話しをしていた。しかし、教務室の入り口にいるオレの姿をみつけると、里倉の顔はパァッと明るくなり、先程まで話しをしていた教師に会釈すると小走りでオレ達の元へとやって来た。「おはようございます。けい、田河君。五十嵐君」「おはようございます。あの、話しがあってきたんですけど......」「!そうですか!それで早く来てくれたんですか?」「はい」「せっかく早く来てくれたのに申し訳ないのですが.......これから朝礼があって......放課後でもいいですか?」「構いません。あまり聞かれたくないので、出来れば人気の少ない所で話したいのですが......」「それでは中庭で話しましょう。いいですか?」この学校の中庭は休み時間や放課後でも人気が少ないので、密会などをするにはもってこいと有名であった。それを知ってか知らずか、里倉はその中庭を指定してきたので、それでいいかと思い了承する事にした。「放課後に中庭、ですね。分かりました」「もしかして、五十嵐君も一緒に?」「当たり前だろ。京を一人で行かせるわけあるか」「......。そうですか。私としては甥と二人きりで話したかったのですが......。残念です」里倉はそう言うと肩を竦めた。そうこうしているうちに続々と生徒達が登校してきた。「分かりました。それで結構です。それでは朝礼が始まるので、また放課後に」「はい。よろしくお願いします」そう言うとオレと叶弥は教務室を後にしようとした。しかし、何故か叶弥は後ろに目をやったまま動こうとしなかった。オレはそれを不思議に思い後ろに目をやると、冷たい目をした里倉が叶弥を見ていた。しかし、オレが見ている事に気がつくと、里倉は顔をパッと笑顔に切り替え手を振ってきた。「?なんだ、一体?」「京、いいか?絶対ヤツと二人きりになるんじゃねぇぞ?」「え?オレにとっては叔父で、しかも教師なんだし下手な事はしないだろ?」「......胡散臭い匂いがプンプンするんだよ」「頼むから。な?」と言われ頭をポンと撫でられると、オレは拒否する事が出来なかった。こういう時の叶弥の勘は大概当たる。「分かった。でもやむを得ないときは一人で行くからな?」「そ
Read more

episode77

学校生活とは早いもので。午前の授業が終わり、昼メシを食ったかと思えば、すぐに午後の授業が始まる。その午後の授業も昼メシを食ったことによって、程よい眠気がやってきて、大半の生徒は眠りの世界へとダイブしている。オレはこっそり叶弥へと目をやると、机に突っ伏して居眠りをしている。まったく。居眠りをするからテスト前、オレが勉強を見る羽目になるんだろうが。オレは小さくため息をつきながら黒板に目を向け、マジメに授業を聞くことにした。そして、ある程度時間が経つとチャイムが鳴り、授業の終わりを告げる。午後の授業はあと一時間。放課後まであと少し。オレは憂鬱な気分が抜けない。そう思っていると本日最後の授業の始業のチャイムが鳴り、教師が教務室へと入ってきて授業を始めた。「ーーで、あるからして、xとyは......」もう数学の数式が呪文にしか聞こえないくらい、オレも眠気と戦っていた。眠気と格闘しているうちに終業のチャイムが鳴り、生徒達は嬉々として帰り支度をし始めた。「京、中庭いくだろ?」「あぁ......。気乗りはしないが行かない訳にはいかないからな」オレ達は荷物を持ちながら中庭へと向かおうとした。が、その時、「五十嵐ー!ちょっと来い。話しがある」と叶弥は大森に呼ばれてしまった。叶弥はどうしたものかと戸惑っていたので、オレは「一人で大丈夫だから。行ってこい。」と叶弥の背を押した。そしてオレは一人で中庭へと向かうと、ベンチに座り本を読みながらオレの到着を待っている里倉の姿が見えた。ジャリ、と言う音を立てて里倉へと近づくと、里倉はオレの姿を目にとめ、オレが一人なのを見るとそれはもう嬉しそうに近づいてきた。「京司。待っていましたよ。ちゃんと来てくれたんですね?」「......里倉先生。だから学校では......」「まぁ、いいじゃないですか。今ここには私達しかいないんですから、ね?」「それで......考えてくれましたか?」と里倉は答えを迫ってきた。オレは姿勢を正し、里倉へと向き合うと口を開いた。「里倉先生。オレは五十嵐の家を出るつもりはありません。これからもオレは"五十嵐の人間"として生きていきます」「これは五十嵐の家長も承知の上です」というと、里倉は顔を暗くし、ワナワナと震えるとオレとの距離を縮めてきた。そして、おれの肩を掴むと荒い息で迫ってきた。「京司!どうして私の言
Read more

episode78

「田河?!お前里倉先生に何して......」「正当防衛です。この男、犯罪者予備軍ですよ」「?どういう事だ?」大森の疑問にオレはつい先程の里倉の様子を話した。すると大森の顔がみるみるうちに青くなっていった。だってそうだ。まだ来たばかりなのに、生徒受けも教師受けも良かった人間だ。それが叔父と甥という関係だからと言って一人の生徒に迫る、という行為に出たのだ。顔も青くなるだろう。そしてそんな中、里倉は叶弥の姿を見ると、「お前がァ......!!」と大声を上げた。「お前が、五十嵐が余所者の癖に出しゃばるから、私は京司を手に入れられなかった......!!ふざけるな、ふざけるなぁ!!」オレは頑張って我慢してきた方であったと思う。あまりにもうるさく喚き、暴れたのでオレは里倉のみぞおちに蹴りを入れた。すると「ぐあっ!」と声を上げて気を失ったのだった。「お、おい田河......流石にやり過ぎじゃないか?」「一発なんで。見なかったことにして下さい」オレは制服のポケットからスマホを取りだし、叶弥と大森に差し出して、録音していた音声を再生した。するとスマホからはオレと里倉の会話が流れ始め、叶弥と大森はそれを聞いて信じられないものを見る目で気を失った里倉を見た。「......さっきの様子といいこの録音といい...これが里倉先生の本性ってことか......」「実の姉に......。それが叶わなかったからって、今度は甥の京司に目を付けたってことか......」オレはスマホをしまうと、大森に里倉の身柄を引き渡した。「田河。まだお前にも聞かなきゃいけない事があるから、そうだな......また後日、よろしく頼む」「......分かりました」「今日はもう帰れ。五十嵐、ちゃんとついててやれよ?」「当たり前だっての。それより、なるべく早くそいつを処分してくれよ?......金輪際、京司に近づかないように。な?」叶弥はそう言い捨てると、オレの肩を抱き歩き始めた。「それにしても、よく咄嗟に録音出来たな?」「教務室で叶弥を冷たい目で見てたから何かあると思ってな」「録音して正解だったな」と笑みを浮かべた。「それにしても貧弱で助かったよ。まさかあれだけの事で気を失うとはね」「カタギさんに手を出すのは許されねぇけど、今回ばかりは......オレも見なかったことにする」「ハハ
Read more

episode79

オレ達は帰り道、しばらく無言で歩いていた。その無言にお互い耐えきれなくなって、同時に「「あのさ」」と声を上げた。それがおかしくって、オレ達は顔を見合せながら笑った。「お先にどうぞ?」「いや、京からいけよ。仕方ないから譲ってやるよ」「なんだそれ。それじゃあ遠慮なく。......里倉さ、どうやら母さんに対して姉弟以上の感情を抱いていたらしくってさ」「......それって恋愛的な意味で?」「そ。だから母さんに似ているオレを自分の物だって。......オレってそんなに母さんに似てるのかな?」オレはそう言うと自分の顔に手を当てた。叶弥はふっと笑うと、オレの頬にかかった髪を耳にかけ、「オレは写真でしか見てないが」と言葉を発した。「纏ってる雰囲気が特に似てるな。あと、顔は完全に母親似」「親父さんの面影どこだよ」と笑いながら言った。「それにしてもお前相手に手ぶらで挑むとか考え無しにも程があるな」「赤子の手をひねる程も無かったわ」「ハハッ。でもみぞおちに蹴りを入れた時はやり過ぎないか心配になったぞ?」「オレは叶弥に危害が加えられないよう番犬としての仕事をしたまで。それに叶弥の手を汚すことなんてさせるつもりはないからな?」オレの言葉に叶弥は「流石オレの可愛いわんちゃん」だな?と頭を撫でてきた。「おい、"わんちゃん"はやめろ。"番犬"に訂正しろ」「どっちも変わんねぇよ」「変わる!威厳さが全然違う!......それはそうと、お前は何を言いかけたんだ?」「京の話しとさほど変わりねぇよ。あのお邪魔虫がいなくなったことで、これで晴れて"五十嵐組の人間"になってくれたんだなぁって思ってさ」「喜ばしい限りだ」と叶弥はそう言うと先程まで優しく撫で優しく撫でていた手を思い切りわしゃわしゃと動かしてきた。「ちょ、痛ぇ!やめろよ叶弥!」口では拒否していたが、どうもオレは叶弥に頭を撫でられるのが嫌ではないらしい。甘んじてその手を受け入れていた。「さて、と。今日の夕飯は何かなぁ?」「今日は剛のリクエストでハンバーグ」「......剛のリクエストばっかり聞きすぎじゃね?」「昨日はお前のリクエストだったろ?交互に聞いているつもり。」「気づいてなかったか?」と問うと、「オレはガキと同じ扱いか......」と叶弥は肩を落とした。
Read more

episode80

それから日々は過ぎ、月曜日。つまり剛の幼稚園入園の日がやってきた。剛は朝からソワソワと落ち着かない様子だ。その証拠に朝メシがなかなか進んでいなかった。「剛、早く食わないと幼稚園に遅れるぞ?」「!だ、大丈夫だ!今食う!」「お前でも一丁前に緊張するんだな」「き、緊張じゃねーし!」剛は叶弥に発破をかけられ一気にメシをかき込んだ。そう言えばここに来る前は幼稚園などには通っていなかったのだろうか?ふと疑問に思ってしまい、オレはつい剛に問いかけてしまった。「剛、もしかして幼稚園初めてか?」「!」「?だってコイツの親働いてただろ?幼稚園行かせないでどうするんだ?」「......ない」「え?」「......お母さん、働いてない。せーかつほご?ってやつもらってた」オレはしくじった、と思った。どうやら触れてはいけないところに触れてしまったらしい。何故なら剛の顔が曇ったからだ。オレはなんて声をかけたらいいか分からないでいた。しかし、それも一瞬で、剛はニパッと笑うと「緊張はするけど楽しみなんだ!」と言ってのけた。「......男前だな、おまえは」「!おう!オレは強いからな!」「"つよし"だけにってか?」「......叶弥、寒い。」「さむーい!」「んだと、コラ」そうしていつも通りの朝メシの光景に戻るとオレは安心した。オレ達が朝メシを食い終えた頃、前園がオレ達の元へとやって来た。「若、京司さん。もし良ければ剛坊ちゃんの送迎をお願い出来ませんか?」「別にいいけど......何かあったのか?」「いえ......何かあったと言う訳では無いのですが......その、私達が行くとカタギの皆さんを驚かせてしまって、剛坊ちゃんの友達作りに支障が出てしまうのではないかと......」「なる程な。分かった。剛の事はオレ達に任せてくれ」そう言うと前園は安心したようで「よろしくお願いします」と言って剛をオレ達に託すと仕事へと向かっていった。「それじゃ、オレ達も行くか。剛、準備は出来てるか?」「おう!完ぺきだぜ!」オレは剛の手を取り玄関から出る。すると、剛と繋いでいない方の手を叶弥が握ってきた。「......オイ、叶弥。何してるんだ?」「何って。手ェ繋いでる」「子供じゃないんだから離せ。剛に笑われるぞ?」「京と手を繋ぎたいと思うのは男として当たり前の事だ
Read more
PREV
1
...
456789
SCAN CODE TO READ ON APP
DMCA.com Protection Status