月曜日の朝、私はいつもより三十分早く出社した。ライトワークスの企画部フロアは、朝八時半でもすでに何人かが出勤している。早出の常連は大体決まっていて、私もその一人だ。自分のデスクに座って、ノートパソコンを開く。画面に映し出されるのは、先週から抱えているドラッグストアチェーンの販促キャンペーンの企画書だ。クライアントからのオーダーは『夏に向けて、若い女性が毎日使いたくなるスキンケアキャンペーンを』先週提出した第一稿に、クライアントの田端さんから大量の赤字が入って戻ってきた。『ターゲットが曖昧。もっと「この子のための企画」という感じが欲しい』抽象的なフィードバックだ。けれどこういう言葉の奥に、クライアントが言語化できていない何かが必ず潜んでいる。それを掘り起こすのが、私の仕事だ。コーヒーを一口飲んで、もう一度企画書を最初から読み直す。「西園寺、おはよ。もう来てたの」声をかけてきたのは、先輩の村田さんだった。三十二歳、企画部のチーフ。いつも少しだけ眠そうな目をしている。「おはようございます」「田端さんの件、まだ悩んでる?」「……はい」村田さんがデスクの端に腰を下ろして、画面を覗き込んでくる。「なんか、過不足なくまとまりすぎてるんだよな、西園寺の企画って」「……そうですか」「悪い意味じゃないけど。資料としては完璧なんだよ。でも田端さんが欲しいのって、そういうのじゃないと思うんだよね」それだけ言って、村田さんは自分のデスクへ戻っていく。私は画面に向き直った。過不足なく、まとまりすぎている。その言葉は、今までずっと自分がやってきたことそのものだった。姉と比べられないように、隙を見せないように、完璧に振る舞う。仕事の企画書も、きっと同じようにまとめていた。正解を探すことには慣れていた。でも、誰かのために本気で泥臭くなることを、私はいつから忘れていたんだろう。◇
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