【真帆side】時間を少し遡る。まだ、業界紙にあの記事が出る数日前のことだった。澄川奈緒から二度目の連絡が来たのは、蒸し暑さが増してきた、ある日の午後だった。『考える時間はあげたでしょう。そろそろ、返事が欲しいわ』短いメッセージだった。でも、その短さの中に、苛立ちのようなものが滲んでいた。スマホを持ったまま、あたしはしばらく動けなかった。協力なんて、するつもりはなかった。柚葉を売るような真似は、いくらあたしでも──いや、「いくらあたしでも」なんて言えた義理じゃないことは、自分が一番わかっていた。これまで散々、柚葉を利用してきた。脅して、身代わりにさせて、都合よく使ってきた。今更「協力しない」なんて言う資格が、あたしにあるんだろうか。それでも、これ以上は駄目だと思った。◇数日後、意を決して奈緒に電話をかけた。「協力は、しません」そう言うつもりだった。実際、その言葉を頭の中で何度も準備していた。呼び出し音を聞きながら、深呼吸をした。『あら、真帆さん』奈緒の声は、いつも通り涼やかだった。まるで、あたしが何を言うか、最初から知っているような余裕があった。「単刀直入に言うわ。協力する気は──」『そう』言い終わる前に、奈緒が遮った。『じゃあ、一つだけ教えて。柚葉さんの会社、広告代理店だったかしら。柊さんとの関係、社内で知られているの?』軽い調子だった。まるで世間話のように。でも、その質問の裏に、何か企みがあることくらい、あたしにもわかった。答えちゃ駄目だ。頭の片隅で、そう警告する自分がいた。なのに。「……知られてない、と思う。あの子、仕事だけは、コネなしでやりたい人だから」口が、勝手に動いていた。言ってしまった瞬間、心臓が冷たくなった。しまった、と思った。でも、もう遅かった。『そう。ありがとう、参考になったわ』奈緒の声から、それまでの探
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